メインコンテンツへスキップ
       

失踪宣告と相続・相続税―死亡とみなされる時点,相続人の変動,申告期限,取消し及び外国が関わる場合(AI作成)

第1 この記事の対象

本記事は,家族が行方不明となって生死が分からない場合に家庭裁判所がする失踪の宣告(民法30条)について,相続と相続税の実務で問題となる点を整理するものである。

失踪の宣告では,死亡したものとみなされる時点が審判の日ではなく過去の時点になる。
そのため,誰が相続人になるか,相続税の申告期限がいつから進むか,財産をいつの価額で評価するかの判断が,通常の死亡の場合と異なる。

行方不明者が外国籍である場合や外国に住んでいた場合には,日本の裁判所が失踪の宣告をすることができる範囲が限られることがあり,外国の裁判所がした失踪の宣告を日本でどう扱うかも問題となる。

条文はe-Gov法令検索の現行条文(令和8年10月時点)で,通達は国税庁ホームページの相続税法基本通達で確認した。

第2 失踪の宣告の要件と死亡とみなされる時点

1 普通失踪と危難失踪

不在者の生死が7年間明らかでないときは,家庭裁判所は,利害関係人の請求により,失踪の宣告をすることができる(民法30条1項)。
戦地に臨んだ者,沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が,戦争が止んだ後,船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも,同様である(同条2項)。

2 死亡とみなされるのは審判の日ではない

普通失踪の宣告を受けた者は7年の期間が満了した時に,危難失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に,死亡したものとみなされる(民法31条)。
審判は申立てから公告等を経てされるため,死亡したものとみなされる日は,審判の日や戸籍に記載される日より前になる。

失踪の宣告の裁判が確定したときは,その裁判を請求した者が,裁判が確定した日から10日以内に,裁判の謄本を添付して届け出なければならない(戸籍法94条,63条1項)。
この届書には,民法31条の規定によって死亡したとみなされる日も記載する(戸籍法94条)。

3 手続の概要

失踪の宣告の審判事件は,不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する(家事事件手続法148条1項)。
家庭裁判所は,申立てがあったこと,不在者は一定の期間までに生存の届出をすべきこと,届出がないときは失踪の宣告がされること,及び不在者の生死を知る者は一定の期間までに届出をすべきことを公告する(同条3項)。
その期間は,普通失踪では3か月,危難失踪では1か月を下ってはならず,期間が経過しなければ失踪の宣告の審判をすることができない(同項)。
失踪の宣告の審判は,不在者に告知することを要しない(同条4項)。

第3 相続への影響

1 相続は死亡とみなされる時点で開始する

相続は,死亡によって開始する(民法882条)。
失踪の宣告を受けた者の相続は,民法31条により死亡したものとみなされる時点で開始し,相続人の範囲や相続分もその時点を基準に判断する。

2 他の相続との先後で相続人が変わる

行方不明者自身が,親などの相続人となるべき立場にある場合には,死亡したものとみなされる時点と,その親の死亡の時点との先後によって結論が変わる。

例えば,子Aが行方不明となってから12年後に親Cが死亡した場合,Aについて普通失踪の宣告がされると,Aは行方不明となってから7年が満了した時に死亡したものとみなされ,Cより先に死亡したことになる。
この場合,AはCの相続人とならず,Aの子がAを代襲してCの相続人となる(民法887条2項)。
Aに子その他の直系卑属がいなければ,Aの系統からはCの相続人が出ないことになる(同条3項参照)。

これに対し,失踪の宣告を求めずに不在者財産管理人を選任する場合は,Aは生存している者として扱われ,A自身がCの相続人となり,管理人が家庭裁判所の許可を得てAに代わり遺産分割に加わる。
どちらの手続を選ぶかによって相続人の顔ぶれと各人の取り分が変わるため,最初に,行方不明となった時期,7年の満了時期及び他の相続の開始時期を時系列に並べて確認する必要がある。
不在者財産管理人の選任から管理の終了までの流れは,「相続人が行方不明の場合の不在者財産管理人―所在調査,申立て,遺産分割,売却,供託及び管理の終わり方」で説明している。

第4 相続税の申告期限と財産の評価

1 申告期限は審判の確定を知った日から数える

相続税の申告書は,その相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に提出しなければならない(相続税法27条1項)。

国税庁の相続税法基本通達27-4は,民法30条及び31条の規定により失踪の宣告を受け死亡したものとみなされた者の相続人又は受遺者について,「相続の開始があったことを知った日」を,これらの者がその失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日として取り扱うとしている(同通達(1))。
また,相続の開始後に,相続人となるべき者について失踪の宣告があり,死亡したものとみなされた日がその相続の開始前であることにより相続人となった者(第3の2の例でいえば,Cの相続についてのAの子)についても,その者が失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日とされている(同通達(2))。

2 財産は相続開始の時の価額で評価する

同通達の注は,これらの場合でも,相続税の課税価格に算入すべき価額は相続開始の時における価額によることに留意するとしている。
失踪の宣告では,死亡したものとみなされる日が審判の確定より何年も前になることがあるので,財産の価額や預金等の残高は,申告の準備をする時点ではなく,死亡したものとみなされる日を基準として調べる必要がある。

3 失踪の宣告・取消しによる相続人の異動と更正の請求

相続税法32条1項は,同項2号の「その他の事由により相続人に異動を生じたこと」等により申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは,その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に限り,更正の請求をすることができるとしている。
相続税法基本通達32-1は,この「その他の事由により相続人に異動が生じたこと」に,相続人に対する失踪の宣告又はその取消し等により相続人に異動を生じた場合が含まれるとしている。

既に申告を済ませた相続について,後から相続人の一人に失踪の宣告がされ,又はその取消しがされて相続人が変わったときは,この4か月の期限に注意する必要がある。
なお,失踪の宣告の取消しにより相続の開始後に相続人となった者の「相続の開始があったことを知った日」は,取消しに関する審判の確定のあったことを知った日とされている(相続税法基本通達27-4(3))。

第5 失踪の宣告の取消し

失踪者が生存すること又は民法31条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは,家庭裁判所は,本人又は利害関係人の請求により,失踪の宣告を取り消さなければならない(民法32条1項前段)。
取消しは,失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない(同項後段)。

失踪の宣告によって財産を得た者は,その取消しによって権利を失うが,現に利益を受けている限度においてのみ,その財産を返還する義務を負う(民法32条2項)。
相続した財産を売却し又は費消した後に失踪者が現れた場合には,取引の相手方の善意と,相続人の手元に残る利益の範囲が問題となるため,生存の可能性がうかがわれる事件では,財産の処分の時期を慎重に判断する必要がある。

失踪の宣告の取消しの裁判が確定したときも,その裁判を請求した者が,確定した日から10日以内に届け出なければならない(戸籍法94条,63条1項)。

第6 外国が関わる場合

1 日本の裁判所が失踪の宣告をすることができる場合

日本の裁判所は,不在者が生存していたと認められる最後の時点において,不在者が日本に住所を有していたとき又は日本の国籍を有していたときは,日本法により,失踪の宣告をすることができる(法の適用に関する通則法6条1項)。

これに当たらないときでも,不在者の財産が日本に在るときはその財産についてのみ,不在者に関する法律関係が日本法によるべきときその他法律関係の性質,当事者の住所又は国籍その他の事情に照らして日本に関係があるときはその法律関係についてのみ,日本法により,失踪の宣告をすることができる(同条2項)。
例えば,外国籍で外国に住んでいた者が行方不明となった場合でも,その者名義の日本所在の不動産や,日本人である親の相続(相続は被相続人の本国法によるため日本法による。同法36条)については,日本で失踪の宣告を受けることができる。
この場合の宣告の効力は,その財産又は法律関係の範囲に限られ,外国に在る財産には当然には及ばない。

令和7年司法試験の論文式試験(国際関係法(私法系)第2問)は,この効力の範囲を,日本所在の財産,外国所在の財産及び日本人の相続財産の別に問うている。
法務省の公表した採点実感は,財産ごとに同条2項を丁寧に当てはめた答案を「優秀」と判断したとしている。
解説は「令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第2問の模範解答と評価項目」で示している。

2 死亡とみなされる時点と相続・婚姻への影響

通則法6条による失踪の宣告は日本法によりするので,死亡したものとみなされる時点も民法31条による。
行方不明者の本国法が異なる期間や時点を定めていても,日本の裁判所がした宣告による死亡の時点はこれによって変わらない。

失踪の宣告が死亡とみなすことの先にある,誰が相続人になるか,婚姻が解消するか等の問題は,相続(被相続人の本国法。同法36条)や婚姻の効力(同法25条)等,それぞれの法律関係の準拠法によって判断する。
婚姻の解消を離婚の問題とみる見解によれば同法27条によることになるが,同条ただし書は,夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは離婚は日本法によるとしている。

3 失踪の宣告の取消しの管轄

失踪の宣告の取消しの審判事件については,日本において失踪の宣告の審判があったとき,失踪者の住所が日本国内にあるとき又は失踪者が日本の国籍を有するとき,及び失踪者が生存していたと認められる最後の時点で日本国内に住所又は日本の国籍を有していたときに,日本の裁判所が管轄権を有する(家事事件手続法3条の3)。
管轄権が認められる場合でも,事案の性質,申立人以外の事件の関係人の負担の程度,証拠の所在地その他の事情を考慮して,日本の裁判所が審理及び裁判をすることが適正かつ迅速な審理の実現を妨げる特別の事情があると認めるときは,申立ての全部又は一部が却下されることがある(同法3条の14)。

4 外国の裁判所がした失踪の宣告

外国裁判所の家事事件についての確定した裁判(これに準ずる公的機関の判断を含む。)については,その性質に反しない限り,民事訴訟法118条の規定が準用される(家事事件手続法79条の2)。
外国でされた失踪の宣告も,118条の要件(外国裁判所の裁判権,公序等)を満たせば,特別の手続を経ずに日本で効力が認められ得る。

令和7年司法試験の出題の趣旨は,118条2号(敗訴の被告への呼出し等の送達)は対審手続における被告の手続的保護を図るもので,利益の対立する相手方のない失踪の宣告の裁判にはその性質に反するとしている。
同条は確定した裁判を対象とするため,外国の失踪の宣告を戸籍の届出等に用いる場合には,裁判書とともに,その裁判が確定したことを示す資料を用意することになる。

なお,相続税法基本通達27-4(1)は,民法30条及び31条の規定による失踪の宣告を対象として書かれており,外国の裁判所がした失踪の宣告の場合の「相続の開始があったことを知った日」については直接定めていない。
外国の失踪の宣告を前提に日本で相続税の申告をする場合には,申告期限の起算点を税務署に確認しておくことが望ましい。

5 不在者財産管理を選ぶ場合

不在者の財産の管理に関する処分の審判事件については,不在者の財産が日本国内にあるときは,日本の裁判所が管轄権を有する(家事事件手続法3条の2)。
国内の管轄は,不在者の従来の住所地又は居所地を管轄する家庭裁判所である(同法145条)。

第7 最初に確認すること

失踪の宣告が問題となる相続事件では,次の事項を最初に確認する。
①行方不明となった時期,場所及び状況(危難に遭遇したか)
②行方不明者の最後の住所と国籍
③他の相続(親・配偶者等)の開始時期と,7年又は1年の満了時期との先後
④行方不明者名義の財産の所在地(日本か外国か)
⑤失踪の宣告と不在者財産管理のどちらが目的に合うか
⑥相続税の申告期限の起算点(審判の確定を知った日)と,財産の評価の基準日(死亡したものとみなされる日)
⑦生存の可能性と,取消しがあった場合の財産の返還・更正の請求

第8 関連記事

①相続人が行方不明の場合の不在者財産管理人―所在調査,申立て,遺産分割,売却,供託及び管理の終わり方(AI作成)
②相続財産清算人,相続財産管理人及び不在者財産管理人の違いと代位による相続登記(AIリライト)
③相続事件に関する実務メモ-期限・手続・財産調査(AIリライト)
④外国籍・国外財産がある相続と遺言―国際裁判管轄・準拠法・反致・遺言方式(AI作成)
⑤令和7年度司法試験国際関係法(私法系)第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した29項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑥弁護士のための死亡診断書の実務―交付義務,死因・死亡時刻の記載,異状死体の届出及び証拠収集(AI作成)

第9 出典

1 法令

①民法(e-Gov法令検索)
②家事事件手続法(e-Gov法令検索)
③戸籍法(e-Gov法令検索)
④法の適用に関する通則法(e-Gov法令検索)
⑤民事訴訟法(e-Gov法令検索)
⑥相続税法(e-Gov法令検索)

2 通達・公的資料

①国税庁「相続税法基本通達」第27条関係・第32条関係
②法務省「令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨」
③法務省「令和7年司法試験の採点実感(選択科目)」