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倒産実務と労働法の交錯―雇用・労働債権・労働組合・事業譲渡の実務(AI作成)

会社が倒産局面に入ると、雇用の終了、未払賃金の順位、労働組合対応及び事業譲渡後の雇用承継を同時に処理する必要がある。本稿は、破産・民事再生・会社更生の違いを踏まえ、受任から事業譲渡・終結までの確認順序を整理するものである。

第1 倒産処理では労働法を後回しにできない

1 手続開始だけでは雇用契約は終了しない

会社が破産手続開始決定を受けても、それだけで従業員との労働契約が一律に終了するわけではない。事業を直ちに停止するのか、管財人が一定期間継続するのか、スポンサーへの事業譲渡を目指すのかにより、必要な雇用処理は変わる。

破産の場合、民法631条は、使用者が破産手続開始決定を受けたときは、雇用期間の定めの有無にかかわらず、労働者又は破産管財人が民法627条により解約を申し入れられると定める。ただし、管財人による労働契約の終了を検討するときも、労働契約法16条・17条、労働基準法19条・20条その他の強行法規との関係を、雇用形態と事案に応じて確認する必要がある。

民法:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

労働契約法:https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128

労働基準法:https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049

2 最初に固定すべき三つの時点

倒産実務と労働法が交錯する案件では、少なくとも次の三つの時点を固定する必要がある。

① 各賃金・退職手当・解雇予告手当等の発生日及び支払期日
② 破産等の申立日及び手続開始決定日
③ 休業日、解雇日、退職日及び事業譲渡日

同じ「未払賃金」でも、手続開始前の給料か、開始後に事業を継続した期間の給料かにより、手続上の順位が変わる。弁済の可否を検討する際には、債権名だけでなく、発生日、支払期日、労務提供期間、退職日、支払原資を一覧化することが重要である。

第2 破産・民事再生・会社更生で労働債権の扱いは異なる

1 破産手続における給料・退職手当

破産法149条1項は、破産手続開始前3か月間の破産者の使用人の給料請求権を財団債権とする。民事再生手続が廃止等で終了して破産手続に移った場合には、この「破産手続開始前三月間」は、破産手続開始の日前に再生手続開始の決定があるときは「再生手続開始前三月間」と読み替えられる(民事再生法252条5項)ので、再生手続開始日から3か月さかのぼって数える(詳しくは、民事再生の再生計画案が否決されたとき―再生手続廃止の確定前後の破産手続への移行,給料・租税・開始前借入れの扱い及び再度の再生手続開始の申立て(AI作成)で整理している。)。破産法149条2項は、退職手当請求権のうち同項所定の上限額までを財団債権とする。手続開始後、労働契約が終了するまでの間に生じた使用人の請求権は、破産法148条1項8号の財団債権となる。

それ以外の雇用関係に基づく給料等については、民法306条2号及び308条の一般先取特権により、破産法98条の優先的破産債権となる範囲がある。財団債権となる部分、優先的破産債権となる部分、一般破産債権となる部分を一つの残高として扱ってはならない。

破産法:https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000075

2 民事再生手続における労働債権

民事再生では、一般先取特権で保護される雇用関係の請求権は、民事再生法122条の一般優先債権として、再生手続によらず随時弁済される。手続開始後の事業継続に必要な給料等は、同法119条の共益債権に該当し得て、同法121条により再生債権に先立って弁済される。

もっとも、「随時弁済できる」という法的地位と、資金繰り上実際に弁済できることは同じではない。再生計画の前提となる運転資金に給料・社会保険料・税を織り込み、日次の資金繰りで確認する必要がある。

民事再生法:https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000225

3 会社更生手続における労働債権

会社更生法130条は、手続開始前6か月間の給料請求権及び退職手当請求権のうち同条所定の範囲を共益債権とする。手続開始後の事業経営に必要な費用は、同法127条の共益債権となる。

破産法の「開始前3か月」と会社更生法の「開始前6か月」を混同してはならない。退職手当についても条文上の計算方法が異なるため、金額表を手続別に作成する必要がある。

会社更生法:https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000154

4 優先されることと現実に支払えることは別である

財団債権又は共益債権であっても、手続財産が不足すれば全額回収が保証されるわけではない。破産法152条は、財団不足時の弁済順位と按分を定め、同条所定の一部の財団債権を他の財団債権より優先させる。

また、申立前に一部の従業員だけへ弁済すればよいとは限らない。支払期日どおりの給料支払であるか、期限前弁済であるか、支払不能を知っていたか、財団不足を拡大しないか、税その他の優先債権との関係はどうかを確認する必要がある。破産法162条の偏頗行為否認、同法101条の優先的破産債権に係る早期弁済、申立代理人の財産散逸防止義務は、別々の問題である。

通常の給料日、支払不能後及び期限前払の違いは、破産直前の賃金支払は否認されるか――通常の給料日・支払不能後・期限前払の違い(AI作成)で整理している。申立代理人の責任と東京地裁平成26年8月22日判決については、法人破産申立前の労働債権弁済と申立代理人の責任―東京地裁平成26年8月22日判決(AI作成)を参照されたい。

第3 解雇・事業休止をどの時点で行うか

1 倒産は解雇を当然に有効にしない

労働契約法16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇を無効とする。経営不振を理由とする整理解雇では、裁判例上、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、説明・協議を含む手続の妥当性が考慮される。

破産申立てが必要なほど資金繰りが悪化していることは人員削減の必要性を基礎付け得るが、それだけで、対象者の選定、解雇時期、説明方法、事業譲渡による雇用維持の可能性が問われなくなるわけではない。有期労働契約については、労働契約法17条の「やむを得ない事由」も問題となる。

整理解雇で考慮される事項の相互関係は、整理解雇は30日前に予告すれば有効か―人員削減の必要性,解雇回避措置,選定基準及び説明・協議(AI作成)で詳しく説明している。

厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html

2 解雇予告と解雇予告手当を分けて検討する

労働基準法20条は、原則として30日前の予告又は不足日数分の平均賃金の支払を求める。30日前に予告し、又は解雇予告手当を支払えば解雇が当然に有効になるわけではなく、解雇の民事上の有効性は労働契約法16条等により別に判断される。

また、解雇予告手当が破産手続で財団債権となるか、優先的破産債権となるかについては、給料請求権と同じであると即断できず、裁判所の運用も確認する必要がある。この点は、次の記事で詳しく整理している。

会社の破産と解雇予告手当―財団債権か優先的破産債権か,東京地裁・大阪地裁の運用と申立前の支払(AI作成)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/02/hasan-kaiko-yokoku-teate/

3 大量離職の届出等も確認する

一つの事業所で1か月以内に常時雇用する労働者30人以上を離職させる事業規模縮小等を行う場合、再就職援助計画の作成・認定申請が必要となる場合がある。大量雇用変動届の要否、高年齢者・障害者に関する別の届出、雇用保険の離職手続も、破産申立てとは別に確認する。

厚生労働省「再就職援助計画」と「大量離職届・大量離職通知書」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/other36/index.html

第4 未払賃金立替払制度を早期に準備する

1 制度の対象

未払賃金立替払制度は、企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、労働者健康安全機構が未払賃金の一部を立替払する制度である。対象となるのは、原則として、退職日の6か月前の日から立替払請求日の前日までに支払期日が到来した定期賃金及び退職手当である。未払賃金総額が2万円未満の場合は対象外である。

立替払額は未払賃金総額の8割であり、退職時の年齢に応じた上限がある。2026年10月9日時点の上限額は、45歳以上が296万円、30歳以上45歳未満が176万円、30歳未満が88万円である。賞与や解雇予告手当など、定期賃金又は退職手当に当たらないものは原則として対象外である。

労働者健康安全機構「未払賃金の立替払制度の概要」:https://www.johas.go.jp/financial/unpaid-wage-payment/unpaid-wage-overview/

同「未払賃金立替払に関するQ&A」:https://www.johas.go.jp/financial/unpaid-wage-payment/unpaid-wage-faq/

2 破産申立代理人・管財人の実務

制度利用には、法律上の倒産か事実上の倒産かに応じた証明・確認が必要である。賃金台帳、タイムカード、就業規則、退職金規程、給与振込記録、従業員名簿、雇用契約書を散逸させてはならない。

申立代理人は、未払額と対象期間を人別に確定し、解雇予告手当、経費精算、貸付金相殺等を定期賃金と混在させないようにする。管財人へ引き継ぐ一覧表には、各人の退職日、支払期日、未払総額、立替払対象見込額、証拠資料の所在を記載するのが実務的である。

労働者健康安全機構「破産管財人・破産申立代理人の皆様へ」:https://www.johas.go.jp/financial/unpaid-wage-payment/unpaid-wage-trustee-guide/

第5 労働組合と従業員代表への対応

1 法的倒産手続にも通知・意見聴取の場面がある

破産法は、手続開始決定の通知、債権者集会、事業譲渡の許可等に関し、過半数労働組合又は過半数代表者への通知・意見聴取を定める場面を設けている。管財人には、給料又は退職手当の請求権を有する者へ、その権利行使に必要な情報を提供する努力義務もある。

民事再生法及び会社更生法にも、開始前、事業譲渡、債権者集会、再生計画又は更生計画の認可前などに、労働組合等から意見を聴く場面がある。従業員対応は、申立て後に初めて考える周辺業務ではなく、手続法に組み込まれた事項である。

2 団体交渉義務は別に残る

労働組合法7条は、組合員であることを理由とする不利益取扱い、正当な理由のない団体交渉拒否、労働組合への支配介入等を不当労働行為として禁止する。裁判所の意見聴取や従業員説明会を実施したことだけで、適法な団体交渉申入れへの対応が不要になるわけではない。

交渉の対象は、解雇時期、未払賃金、事業継続、スポンサー選定後の雇用条件、労働協約の取扱い等である。秘密保持を理由に情報を一切出さないのではなく、入札・スポンサー交渉の公正や企業価値を害しない範囲で、交渉に必要な情報を段階的に整理する必要がある。

労働協約の成立要件、期間及び効力は、労働協約(AIリライト)で整理している。

労働組合法:https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000174

第6 事業継続・事業譲渡と雇用の処理

1 事業譲渡では個別承諾が原則である

事業譲渡は特定承継である。譲渡会社から譲受会社へ労働契約を移すには、民法625条1項に基づく従業員の個別承諾が必要である。労働条件を変更して承継させる場合は、その変更についても同意を得る必要がある。

2026年5月25日から適用されている厚生労働省の改正後の事業譲渡等指針は、譲渡会社・譲受会社の債務履行見込み、譲受会社の概要、業務内容、就業場所その他の労働条件を十分に説明し、時間的余裕をもって協議することを求める。承継への不同意だけを理由とする解雇や、組合員であることを理由とする承継対象からの排除が当然に許されるものではない。

厚生労働省「企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/saihen/index.html

改正後全文「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」:https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001748345.pdf

2 会社分割・合併とはルールが異なる

会社分割では、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律により、対象労働者への通知、労働組合等との協議、労働契約の承継又は異議申出の手続が定められている。最高裁平成22年7月12日判決は、いわゆる5条協議が全く行われなかった場合又は説明・協議が著しく不十分で法の趣旨に反することが明らかな場合に、労働者が承継の効力を争い得るとした。

これに対し、合併は包括承継であり、労働契約と労働条件も原則として承継される。事業譲渡、会社分割、合併を「M&A」と一括りにせず、採用する法形式から雇用承継のルールを決める必要がある。

会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律:https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000103

3 スポンサー選定と雇用維持を同時に設計する

破産手続で管財人が事業譲渡を行うには、原則として裁判所の許可が必要であり、裁判所は過半数労働組合等の意見を聴かなければならない。民事再生及び会社更生にも、事業譲渡の許可と労働組合等の意見聴取に関する規定がある。

スポンサー候補の提示価格だけでなく、①承継対象となる事業、②雇用予定人数、③選定基準、④労働条件、⑤未払賃金・退職金の負担、⑥労働協約の取扱い、⑦承諾取得の手順を比較する必要がある。雇用維持は企業価値の一部でもあり、従業員への説明が遅れると、退職によるノウハウ流出により譲渡価値自体が低下し得る。

民事再生では、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実に業務遂行権及び財産の管理処分権を行使し、再生手続を追行する義務を負う(民事再生法38条2項)。スポンサー選定で雇用維持を重視するときも、債権者の利益を犠牲にして専ら自己又は第三者の利益を図る選定にならないよう、譲渡価格の差と、雇用・取引の継続による事業価値への寄与とを比べた経過を記録に残す必要がある。この点は、令和7年度司法試験倒産法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)でも扱っている。

なお、2026年5月25日施行の企業価値担保権の実行手続では、事業を解体せず雇用を維持しつつ承継することが原則とされ、管財人には価格だけでなく雇用・取引関係等を考慮した承継先選定が求められる。通常の破産・民事再生・会社更生と制度を混同せず、企業価値担保権の設定の有無を初動で確認する必要がある。

厚生労働省「事業譲渡等指針の一部改正について」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/saihen/68297_00001.html

第7 受任から事業譲渡までの実務チェックリスト

1 申立前

① 従業員名簿、雇用形態、雇用期間、休職者、労災休業者、産前産後休業者を確認する。
② 賃金台帳、勤怠、就業規則、退職金規程、労働協約、労使協定を保全する。
③ 債権を人別・支払期日別にし、給料、残業代、退職手当、解雇予告手当、休業手当、経費精算等を分ける。
④ 給料、源泉税、社会保険料、倒産手続費用を含む日次資金繰りを作成する。
⑤ 事業停止、一定期間の継続、事業譲渡の各シナリオを比較する。
⑥ 労働組合、過半数代表者、団体交渉申入れ、労働委員会事件の有無を確認する。
⑦ 未払賃金立替払制度に必要な資料を保全する。

2 手続開始直後

① 従業員ごとに雇用継続、解雇、退職済みを確定する。
② 開始前後で給料等を区切り、財団債権、優先的破産債権等の区分を仮置きする。
③ 解雇予告、証明書交付、賃金清算、雇用保険、社会保険の手続担当者を決める。
④ 未払賃金立替払の証明に必要な人別表と裏付資料を整える。
⑤ 従業員説明と労働組合対応の窓口、説明事項、更新頻度を定める。
⑥ 事業継続中は、開始後に発生する給料を支払える資金を常時確認する。

3 事業譲渡・終結局面

① 採用する再編手法が事業譲渡、会社分割又は合併のいずれかを明示する。
② 雇用承継対象者と選定基準を文書化する。
③ 譲受会社の情報と承継後の労働条件を説明する。
④ 個別承諾、労働組合等との協議、団体交渉を混同しない。
⑤ 裁判所の許可・意見聴取、契約上の停止条件及びクロージング日をそろえる。
⑥ 承継されない労働債権と承継される労働契約を明確に区別する。
⑦ 退職者へ債権届出、立替払、税・社会保険関係書類の案内を行う。

第8 まとめ

倒産実務における労働問題は、単なる解雇手続ではない。雇用をいつまで維持するか、給料等をどの手続上の順位に分類するか、申立前の弁済をどう判断するか、労働組合とどの時点で協議するか、事業譲渡で誰の雇用をどの条件で承継するかを、一つの工程として設計する必要がある。

最初に「雇用関係」「債権」「資金」「手続」「事業」の五つの表を作り、日付と根拠資料を固定することが、従業員保護と財産散逸防止、円滑な事業承継を両立させる出発点である。

破産・個人再生・私的整理の手続全体に関する実務上の留意点は、倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理(AIリライト)も参照されたい。