第1 弁護人選任届を確認する理由
1 選任関係・手続上の効力・裁判所による確認を分ける
弁護人選任届の不備は,単なる書式上の問題ではない。
委任関係があること,刑事手続上の弁護人選任が有効であること及び申立先の裁判所がその資格を確認できることは,それぞれ別に点検する必要がある。
準抗告,勾留取消請求及び保釈請求の内容に理由があっても,申立人が弁護人としての資格を示せなければ,申立ての適法性が先に問題となる。
緊急時ほど,申立書の内容だけでなく,弁護人選任届の方式,原本の提出先,到達の有無,写しの保存及び選任の審級上の効力を確認すべきである。
2 申立て前に確認する事項
申立て前には,少なくとも次の事項を一つの記録に残すことが有用である。
①事件が公訴提起前,第一審係属中又は控訴申立て後のいずれであるか
②誰が誰を弁護人に選任したか
③選任届に必要な署名及び押印があるか
④原本を誰に,いつ,どの方法で提出したか
⑤提出先への到達を誰が,いつ,どの方法で確認したか
⑥写しを保存し,申立書へ添付できるか
⑦申立先の裁判所が選任の事実を確認できるか
⑧上訴後であれば,控訴申立人,申立日,控訴期間の経過,記録の所在及び控訴審の選任届提出を確認したか
⑨当番接見又は勾留前援助の利用と,私選弁護人としての選任を混同していないか
⑩国選選任へ移る場合,所属弁護士会・法テラス地方事務所・裁判所の現行書式及び連絡経路を確認したか
第2 公訴提起前後で異なる選任届の方式
1 公訴提起前の選任届
刑事訴訟法32条1項は,公訴提起前の弁護人選任が第一審にも効力を有することを定めている。
刑事訴訟規則17条によれば,公訴提起前の選任は,被疑者その他の選任権者と弁護人が連署した書面を,事件を取り扱う検察官又は司法警察員へ差し出して行う。
同規則60条は,公務員以外の者が作成する書類には年月日を記載し,署名押印することを原則としている。
したがって,公訴提起前の弁護人選任届では,選任権者だけでなく弁護人についても署名押印が必要であり,弁護人の氏名を印字しただけの記名又は署名だけでは方式を満たさない。
2 公訴提起後の選任届
刑事訴訟法32条2項は,公訴提起後の弁護人選任を審級ごとにするものと定める。
刑事訴訟規則18条によれば,公訴提起後の選任は,弁護人と連署した書面を裁判所へ差し出して行う。
ただし,同規則60条の2第2項2号により,弁護人又は弁護人となろうとする者が裁判所又は裁判官へ提出する訴訟関係書類については,署名押印に代えて記名押印をすることができる。
このため,公訴提起後の選任届では弁護人欄を記名押印とすることができるが,記名だけで押印を欠く書面まで許容されるわけではない。
3 提出前の形式点検
「連署」という語だけで処理せず,①公訴提起前か後か,②提出先が検察官・司法警察員か裁判所か,③各作成者について署名押印又は記名押印のどちらが許されるかを分けて確認する必要がある。
事務所で様式を共用するときは,起訴前用と起訴後用を明確に分け,弁護人欄の記名だけを残した未完成書面が提出されないようにするのが安全である。
4 当番接見・72時間援助・通常私選を区別する
当番弁護士として接見したこと,勾留前の法律援助を利用したこと,私選弁護人として選任されたこと及び被疑者国選弁護人に選任されたことは,それぞれ別の事柄である。
援助の申込み又は決定だけで,刑事訴訟法上の弁護人選任が当然に生じるわけではない。
地域の運用によっては,勾留前援助中に弁護人選任届を提出せず,所定の通知書等によって同じ弁護士を国選候補者として扱う。
この場面で「念のため」選任届を提出すると通常の私選弁護人になり,国選選任への移行に影響することがあるため,独自の「援助期間限定の選任届」を作るのではなく,現行の地域書式と窓口を確認すべきである。
具体的な確認手順は,72時間援助中の弁護人選任届―当番弁護士から被疑者国選へ移るときの注意点(AI作成)で整理している。
第3 準抗告等で弁護人資格を示す方法
1 原本の提出先と所在を確認する
捜査段階の準抗告等では,選任届原本の提出先と申立先の裁判所が異なることがある。
例えば,選任届原本を捜査機関へ郵送した日に準抗告を申し立てると,申立時点では原本がまだ捜査機関へ到達せず,裁判所へ送られる一件記録にも綴られていないことがある。
この状態では,申立先の裁判所が申立人の弁護人資格を直ちに確認できない。
原本を発送したという事実だけでなく,提出先への到達,記録への編綴及び裁判所が確認できる状態になったかを区別して確認すべきである。
2 写しの保存と添付
弁護人選任届は,提出前に必ず写しを保存することが望ましい。
準抗告等の申立書へ写しを添付すれば,裁判所が選任内容を確認する手掛かりになる。
ただし,写しの添付は,原本を刑事訴訟規則所定の提出先へ差し出すこと自体の代わりになるとは限らない。
原本が未到達である場合は,申立先の裁判所及び本来の提出先へ事情を伝え,何をもって選任の効力及び資格を確認するかを具体的に確認する必要がある。
3 裁判所宛の選任届は実務上の予防策である
実務上の予防策として,選任届の写しを申立書へ添付する方法に加え,原本がまだ捜査機関へ届かず一件記録にも綴られていない場合には,裁判所宛の弁護人選任届を別途取り付けて提出する方法が考えられる。
ただし,これらは法令が一律に要求する方式ではなく,裁判所が資格を確認できない事態を避けるための対応である。
事件の段階,申立ての種類及び裁判所の取扱いにより必要な対応が異なり得るため,全国一律の法定方式として扱わず,個別事件で申立先へ確認した内容を記録に残すべきである。
第4 第一審判決後・控訴後の保釈請求
1 原審弁護人は控訴を申し立てることができる
刑事訴訟法355条により,原審における弁護人は,被告人のため独立して上訴をすることができる。
しかし,原審弁護人が控訴申立てを行えることと,控訴後も当然に控訴審の弁護人として保釈請求その他の訴訟行為を行えることは同じではない。
公訴提起後の選任は審級ごとに必要であるから,控訴後に保釈請求をする予定であれば,控訴審の弁護人選任届を提出した上で行うのが安全である。
第一審判決後直ちに保釈請求をする必要があるときは,誰がいつ控訴を申し立てるかを被告人と事前に打ち合わせ,選任の空白を生じさせないようにする必要がある。
2 東京高裁令和3年10月5日決定
東京高裁令和3年10月5日決定(令和3年(く)第700号,判例秘書L07620591)は,被告人が控訴を申し立て,原審弁護人は控訴を申し立てず,控訴期間も経過した後に原審弁護人がした保釈請求を不適法とした。
この決定は裁判所ウェブサイトに掲載されておらず,判例秘書収録本文で確認したものである。
同決定からは,刑事訴訟法355条の控訴申立権を,控訴後の保釈請求権限へ一般化できないことが分かる。
少なくとも被告人のみが控訴し,原審弁護人の控訴申立権も消滅した事案では,控訴審の選任を得ないまま原審弁護人名義で保釈請求をするべきではない。
3 例外的裁判例を一般化しない
東京高裁平成25年12月12日決定(平成25年(く)第636号,判例秘書L06820881)は,訴訟記録が原裁判所にあり,控訴審弁護人がまだ選任されていないなどの事情の下で,原審弁護人による保釈請求を適法と扱った例である。
同決定も裁判所ウェブサイトには掲載されていない。
また,最高裁平成18年12月19日第一小法廷決定(平成18年(し)第391号及び第393号,判例秘書L06110139)は,原審弁護人の選任効力がいつまで続くかについて多数意見として一般的な判断を示したものではない。
多数意見は,被告人自身の署名指印がある書面を,被告人本人による申立てとして扱えることなどから救済した。
原審弁護人の権限が記録送付前まで続くとする泉徳治裁判官の意見は個別意見であり,多数意見の判旨として引用してはならない。
したがって,例外的事情に依拠して保釈請求を行うより,控訴審の選任届を先に提出することを標準的な対応とすべきである。
第5 事務所内での運用
1 依頼者へ控訴申立ての順序を説明する
第一審判決後に保釈請求を予定している場合,被告人が先に控訴申立書を提出すると,原審弁護人の資格で予定していた保釈請求に問題が生じ得る。
判決前又は判決直後の接見で,①控訴申立書を誰が提出するか,②保釈請求をいつ行うか,③控訴審の私選弁護人選任届をいつ取り付けるかを説明しておくことが重要である。
被告人の控訴権行使を不当に遅らせてはならないため,控訴期間を正確に管理し,保釈請求との順序だけでなく,控訴権を確実に保全する方法を同時に決める必要がある。
2 選任届管理票を作る
事務所内の案件台帳には,選任届の種類,署名押印の確認者,原本提出先,提出方法,発送日,到達確認日時,写しの保存先,対象事件及び対象審級を記録することが有用である。
郵送,窓口提出又は電子的な提出の別にかかわらず,「送った」ことと「法定の提出先へ到達した」ことを分けて記録する。
緊急申立ての直前には,担当弁護士又は事務職員が,選任届の方式,原本の所在,裁判所での資格確認及び対象審級を読み上げて確認する仕組みにすると,形式的な不適法を防ぎやすい。
第6 関連する記事と出典
1 関連する記事
72時間援助中の弁護人選任届―当番弁護士から被疑者国選へ移るときの注意点(AI作成)では,当番接見・勾留前援助・私選・被疑者国選の違いと移行時の確認手順を整理している。
弁護人の選任,国選弁護人及び接見交通権では,私選・国選弁護人の制度全体を整理している。
被告人の保釈では,保釈の要件,手続及び不服申立てを扱っている。
刑事事件の上訴及び不服申立てでは,控訴申立て及び準抗告の一般的な手続を整理している。
2 一次資料と資料上の限界
①刑事訴訟法30条,32条,88条及び355条
②刑事訴訟規則17条,18条,60条及び60条の2第2項2号
③最高裁平成18年12月19日第一小法廷決定(平成18年(し)第391号及び第393号)
④東京高裁平成25年12月12日決定(平成25年(く)第636号,判例秘書L06820881。裁判所ウェブサイト未掲載)
⑤東京高裁令和3年10月5日決定(令和3年(く)第700号,判例秘書L07620591。裁判所ウェブサイト未掲載)