盗品の使用利益,講師契約の解除及び共同保証の求償を,請求ごとの条文連鎖と事実評価から整理する。公式資料由来の評価項目と,採用構成を一貫させた答案を対照して学習できるようにした。
第1 この記事の対象と結論
令和3年司法試験の民事系科目第1問(民法)について,完成答案と,出題の趣旨・採点実感から抽出した86の評価項目を示す。法令・判例の基準時は試験実施日の令和3年5月13日であり,問題文の将来の事実についてもその時点の法令を前提とする。
本問は,盗品の返還と使用利益,講師との役務提供契約の中途解除,連帯保証人の抗弁と求償を問う。以下の答案では,指図による占有移転での即時取得を認めてもCへの盗品回復は認められ,使用利益は善意・悪意で分ける。講師契約は準委任として8月分60万円を認め,解除時期に固有の損害を検討する。Fの時効・相殺に基づく履行拒絶は認めず,Aへの求償は300万円,Gへの求償は50万円とする。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
各評価項目は,答案に何が書かれていれば充足するかを独自に原子化したものである。法務省の公式採点基準・配点ではない。「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」の区分を重みと別に示し,条件のある項目は採用構成に応じて読む。負例は誤りの回避を示す項目であり,許容分岐のすべてを一つの答案へ書く必要はない。
表の頁はPDFの物理頁である。根拠欄は該当箇所を短い語句で示した。「記載なし」は,第1問の関連範囲を全部読んだ上で,その資料に独立した該当記載がないことを示す。条件や構成の違いを無視して,86項目を全答案への累積的な要求にしてはならない。
2 5段階の重み付けの基準
重み5は答案の骨格そのもの,又は採点実感が評価の分かれ目とした事項。重み4は出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な不十分・誤りの指摘を通じて取り上げた事項。重み3は一方が明示する中核の理由付け。重み2は一方が軽く触れる補強又は典型的な誤り。重み1は一方が控えめに触れる事項である。本記事の重み4は,すべてが「高く評価」と明言されているという意味ではない。
第3 本問の概要
設問1では,Aから盗まれた工作機械甲をBがCに使用貸しし,BからDへの代物弁済が指図による占有移転で行われる。AはCに甲の返還(請求1)と使用料相当額(請求2)を求める。Cの㋐及びAの㋑・㋒の位置付けと当否を順に検討する。
設問2では,Aの従業員を指導するEの5か月の講師契約をAが8月末で解除した。Eは8月分の月額報酬60万円(請求3)及び9月・10月に関する損害120万円(代替講師報酬40万円を含む。請求4)を求める。契約の性質・役務の単位から解除,既履行報酬,損害へ一貫した処理を行う。成功報酬の具体的な支払請求の可否は設問の指定対象ではない。
設問3では,主債務者Aの借入金500万円をF・Gが連帯保証する。Fの全額又は100万円の履行拒絶の可否と,Fが300万円を弁済し残額200万円の免除を受けた後のA・Gへの求償を検討する。設問間の配点割合は35:25:40である。
第4 評価項目と重み
1 設問1の評価項目
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Aの所有権に基づくCへの返還請求と特定する。【必須】 | 4 | 4頁・第1問:「所有権に基づく返還請求権」 | 2頁・第1問:「甲の所有権に基づく返還請求権」 |
| 2 | ㋐をDの取得によるAの所有権喪失の抗弁と位置付ける。【必須】 | 4 | 4頁・第1問:「Aが所有権を喪失したとの抗弁」 | 2頁・第1問:「所有権喪失の抗弁」 |
| 3 | 動産について有効な取引行為による取得であることを当てはめる。【必須】 | 5 | 4頁・第1問:「即時取得の要件について」 | 2頁・第1問:「その他の要件についても丁寧に当てはめている」 |
| 4 | 平穏・公然の要件を推定も踏まえて検討する。【必須】 | 4 | 4頁・第1問:「要件の一部については推定が認められていること」 | 2頁・第1問:「その他の要件についても丁寧に当てはめている」 |
| 5 | Dの善意・無過失を説明内容と外観から当てはめる。【必須】 | 5 | 4頁・第1問:「善意無過失の意義」 | 2頁・第1問:「その他の要件についても丁寧に当てはめている」 |
| 6 | 184条の指図による占有移転でDが間接占有を承継したと示す。【必須】 | 4 | 5頁・第1問:「その間接占有を承継取得したこと」 | 2頁・第1問:「指図による占有移転の方法で」 |
| 7 | ㋑が観念的移転では192条の占有開始がないとの反論であると示す。【必須】 | 4 | 5頁・第1問:「観念的な占有の移転」 | 2頁・第1問:「外観上従来の占有状態にどのような」 |
| 8 | 192条の占有開始と178条の引渡しを区別する。【高評価】 | 3 | 5頁・第1問:「同法第178条の「引渡し」」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 9 | 昭和35年判例の一般外観変更の準則を指図移転の事実へ適用する。【必須】 | 5 | 5頁・第1問:「一般外観上従来の占有状態に変更を生ずる」 | 2頁・第1問:「判例準則と離れて独自の基準」 |
| 10 | 指図移転の成否はどちらの結論でも判例準則から理由付ける。【許容分岐】(条件:選択した占有開始の立場) | 4 | 5頁・第1問:「いずれの立場に立つにしても」 | 2頁・第1問:「結論のみを述べるもの」 |
| 11 | 使用借権だけで第三者Aに対抗できるとしない。【負例】 | 4 | 4頁・第1問:「使用借権は第三者対抗力を欠く」 | 2頁・第1問:「使用借権には第三者対抗力がない」 |
| 12 | 占有権原の抗弁を採るならBからDへの貸主の地位移転を説明する。【許容分岐】(条件:占有権原の抗弁を採用又は併用する答案) | 3 | 記載なし(第1問関連範囲実読) | 2頁・第1問:「貸主としての地位が権利者であるDに移転」 |
| 13 | ㋒を193条による盗品回復の再反論と位置付ける。【必須】 | 4 | 5頁・第1問:「同法第193条に基づき」 | 2頁・第1問:「民法第193条による回復請求」 |
| 14 | 甲が盗品であることを193条へ当てはめる。【必須】 | 5 | 5頁・第1問:「甲が盗品であること」 | 2頁・第1問:「民法第192条,第193条」 |
| 15 | Cが直接占有者であることを回復の相手方要件へ当てはめる。【必須】 | 5 | 5頁・第1問:「Cが甲の「占有者」であること」 | 2頁・第1問:「請求の相手方がC」 |
| 16 | 盗難から2年以内の回復請求であると日付を当てはめる。【必須】 | 5 | 5頁・第1問:「盗難の日から2年を経過していないこと」 | 2頁・第1問:「民法第192条,第193条」 |
| 17 | 193条の占有者が192条の即時取得者に限られない理由を示す。【高評価】 | 4 | 5頁・第1問:「同義に解すべき理由がない」 | 2頁・第1問:「「占有を始めた者」の異同」 |
| 18 | Dを回復相手方と捉える別構成ではCが独自地位で拒めないと説明する。【許容分岐】(条件:193条の占有者をDと捉える別構成) | 3 | 5頁・第1問:「Dと別個独自の地位を主張して」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 19 | 即時取得者がDでCではないことだけを理由に回復請求を否定しない。【負例】 | 3 | 記載なし(第1問関連範囲実読) | 2頁・第1問:「占有者が即時取得したDではないため」 |
| 20 | 194条の保護を本件の土木業者・代物弁済に当然に適用しない。【必須】 | 3 | 5頁・第1問:「本問は同条の適用事例ではなく」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 21 | Cが返還を拒絶できないという請求1の終点を示す。【必須】 | 4 | 5頁・第1問:「返還請求を拒絶することができない」 | 2頁・第1問:「結論の妥当性」 |
| 22 | 重要でない代物弁済の要件論へ分量を割かない。【負例】 | 2 | 記載なし(第1問関連範囲実読) | 3頁・第1問:「代物弁済の要件など」 |
| 23 | 請求2をAの所有権を前提とする使用利益の不当利得返還と構成する。【必須】 | 4 | 5頁・第1問:「不当利得返還請求権に基づいて」 | 2頁・第1問:「所有権が帰属するなど」 |
| 24 | 193条の回復までの所有権帰属を理由付きで決める。【必須】 | 5 | 5頁・第1問:「所有権が原権利者と占有者のいずれ」 | 2頁・第1問:「所有権の帰属先と不当利得の成否との関係」 |
| 25 | Aの損失を使用収益権限の帰属と関連付ける。【必須】 | 5 | 5頁・第1問:「Aに甲の所有権が帰属するという前提」 | 2頁・第1問:「Aに使用収益権限がある」 |
| 26 | 原所有者帰属説では189条・190条による占有者の利益調整を行う。【必須】(条件:原所有者帰属説又は遡及的回復) | 4 | 6頁・第1問:「第189条及び第190条の定め」 | 2頁・第1問:「民法第189条,第190条」 |
| 27 | 善意占有者の使用利益も果実取得の保護に含める。【必須】(条件:原所有者帰属説又は遡及的回復) | 4 | 6頁・第1問:「使用利益についても返還」 | 2頁・第1問:「190条について言及した答案は少数」 |
| 28 | 悪意となった後の使用利益返還を善意期間と分ける。【必須】(条件:原所有者帰属説又は遡及的回復) | 4 | 6頁・第1問:「第189条及び第190条の定め」 | 2頁・第1問:「民法第189条,第190条」 |
| 29 | 本権訴敗訴による189条2項の悪意擬制と訴え提起時を示す。【必須】(条件:原所有者帰属説又は遡及的回復) | 3 | 6頁・第1問:「Cは訴え提起時以降」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 30 | Cへの占有規律はB・Dの間接占有の有無で変わらないと示す。【高評価】 | 3 | 6頁・第1問:「上記の結論に影響を及ぼさない」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 31 | 平成12年判例の194条による使用収益権を本件へ直結させない。【高評価】 | 3 | 5頁・第1問:「同条の趣旨に基づき」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 32 | 占有者帰属説では回復の遡及効の有無と使用利益の処理を揃える。【許容分岐】(条件:占有者帰属説を答案で採用する場合) | 3 | 6頁・第1問:「効果が遡及するという立場と将来」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 33 | D取得前の5月1日から15日までを所有権取得後と混同しない。【許容分岐】(条件:占有者帰属説を採用する場合) | 3 | 6頁・第1問:「令和2年5月15日以前」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
2 設問2の評価項目
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 34 | Eが負う授業・専門指導の債務内容を先に確定する。【必須】 | 5 | 6頁・第1問:「Eの債務内容に照らして」 | 4頁・第1問:「処理する事務・仕事の内容について的確」 |
| 35 | 雇用の指揮命令と独立した専門役務を区別する。【必須】 | 4 | 6頁・第1問:「使用者との間の指揮命令関係」 | 4頁・第1問:「指揮命令関係があるとみるのは困難」 |
| 36 | 準委任なら裁量あるAの教育事務の処理という積極的理由を示す。【必須】(条件:準委任構成) | 5 | 6頁・第1問:「裁量ある他人の事務の処理」 | 3頁・第1問:「法律行為以外の他人の事務を裁量をもって」 |
| 37 | 月額と成功報酬の二本立てを債務内容の確定へ用いる。【高評価】 | 4 | 6頁・第1問:「報酬の定め方の捉え方」 | 3頁・第1問:「報酬の決定方法とも関連付けて」 |
| 38 | 請負なら授業実施等の完成すべき仕事を特定する。【許容分岐】(条件:請負構成) | 4 | 6頁・第1問:「何をもって仕事の完成・結果保証」 | 3頁・第1問:「講座の実施そのもの」 |
| 39 | 合格・技能習得そのものの結果保証を根拠なく認定しない。【負例】 | 4 | 6頁・第1問:「仕事の完成という結果の保証」 | 3頁・第1問:「成果の完成が合意されているとみるのは困難」 |
| 40 | 法律行為でないことだけで準委任を除外しない。【負例】 | 2 | 記載なし(第1問関連範囲実読) | 3頁・第1問:「準委任の存在を看過」 |
| 41 | 消去法だけで準委任とすることを避ける。【負例】 | 2 | 記載なし(第1問関連範囲実読) | 3頁・第1問:「請負でも雇用でもないことから準委任」 |
| 42 | 無名契約なら典型契約に該当しない理由を説明する。【許容分岐】(条件:無名契約構成) | 3 | 6頁・第1問:「典型契約の類型に該当しない」 | 3頁・第1問:「更にそれ以外」 |
| 43 | 各月と5か月一体の処理単位を定め後続判断へ持ち越す。【必須】 | 5 | 7頁・第1問:「月々の講義・役務提供が5か月分」 | 3頁・第1問:「各月ごとのものと捉えるか」 |
| 44 | 採用類型に従い任意解除の根拠と要件を示す。【必須】 | 5 | 6頁・第1問:「任意解除権の行使」 | 4頁・第1問:「任意解除権を根拠」 |
| 45 | Eの裁量と抽象的改善要求を踏まえ不履行解除を検討する。【必須】 | 4 | 7頁・第1問:「改善要求が抽象的なもの」 | 4頁・第1問:「債務不履行に基づく解除権の発生を認めるのは困難」 |
| 46 | 請負の任意解除なら完成前という要件を単位に即して当てはめる。【許容分岐】(条件:請負構成) | 4 | 7頁・第1問:「仕事完成前の解除」 | 4頁・第1問:「「完成前」の意味が異なってくる」 |
| 47 | 無名契約ならAのための役務提供という理由から解除規律を構成する。【許容分岐】(条件:無名契約構成) | 3 | 7頁・第1問:「そのルール自体を構築」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 48 | 既履行役務が契約に適合するかを報酬判断の前提とする。【必須】 | 4 | 7頁・第1問:「契約に適合した債務の履行」 | 3頁・第1問:「既履行部分の報酬請求の可否」 |
| 49 | 準委任の月額報酬を648条2項ただし書・624条2項へ結び付ける。【必須】(条件:準委任構成) | 4 | 7頁・第1問:「同法第624条第2項」 | 4頁・第1問:「報酬の根拠規定」 |
| 50 | 請負の完了役務は633条,未完成解除は634条と利益を検討する。【許容分岐】(条件:請負構成) | 4 | 7頁・第1問:「同法第634条」 | 4頁・第1問:「5か月間にわたって講義」 |
| 51 | 5か月一体の未完成請負と8月分完成報酬を無説明に併用しない。【負例】(条件:請負構成) | 2 | 記載なし(第1問関連範囲実読) | 4頁・第1問:「両者の整合性を意識しない」 |
| 52 | 120万円の中に代替講師40万円が含まれると理解する。【必須】 | 3 | 7頁・第1問:「織り込まれる性格の支出」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 53 | 準委任では不利な時期の意味を自由解除との関係から定義する。【必須】(条件:準委任構成) | 5 | 7頁・第1問:「「不利な時期」とは何を指す」 | 4頁・第1問:「何をもって不利な時期と捉えるか」 |
| 54 | 代替講師がいるため通学講座へ復帰しにくい事情を評価する。【必須】(条件:準委任構成) | 4 | 7頁・第1問:「代替要員の手配」 | 4頁・第1問:「通学講座の講師として復帰することは困難」 |
| 55 | 検定が近く別講座の開始が困難という時期の事情を評価する。【高評価】(条件:準委任構成) | 3 | 記載なし(第1問関連範囲実読) | 4頁・第1問:「検定試験の実施が迫った時期」 |
| 56 | 損害範囲を不利な時期に固有の損害に限定し理由を述べる。【必須】(条件:準委任構成) | 5 | 7頁・第1問:「不利な時期に解除したことによる」 | 4頁・第1問:「通常より高額の月額60万円全額」 |
| 57 | 失われた他の収入機会を準備費用と区別して検討する。【必須】(条件:準委任構成) | 3 | 7頁・第1問:「他の収入機会の喪失」 | 4頁・第1問:「損害の内容を丁寧に論じた」 |
| 58 | 免れた費用・得た利益を採用損害構成に応じて控除する。【必須】(条件:準委任構成) | 3 | 7頁・第1問:「債務を免れることによって得た利益」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 59 | 651条2項2号の利益は報酬だけでは足りないと検討する。【高評価】(条件:準委任構成) | 3 | 7頁・第1問:「報酬を得るだけでは該当しない」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 60 | やむを得ない事由のAの反論をEの裁量から評価する。【必須】(条件:準委任構成) | 4 | 8頁・第1問:「やむを得ない事由」 | 4頁・第1問:「やむを得ない事由があるとするのは困難」 |
| 61 | 請負なら641条による履行利益から節約費用・15万円を差し引く。【許容分岐】(条件:請負構成) | 3 | 8頁・第1問:「損益相殺によって差し引く」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 62 | 無名契約の損害範囲を選択した解除規律と揃える。【許容分岐】(条件:無名契約構成) | 3 | 8頁・第1問:「請負と委任のいずれに引き付けて」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
3 設問3の評価項目
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 63 | 書面の諾成消費貸借・交付・書面の連帯保証を請求原因として示す。【必須】 | 3 | 8頁・第1問:「諾成的消費貸借契約」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 64 | Fの保証債務自体の時効と主債務の援用・付従性を分ける。【必須】 | 5 | 8頁・第1問:「民法第145条括弧書」 | 5頁・第1問:「主債務についての援用を主張するか」 |
| 65 | 時効は契約締結からではなく権利行使可能な弁済期から起算する。【必須】 | 4 | 8頁・第1問:「消滅時効を主張することの可能性」 | 5頁・第1問:「契約の締結から起算」 |
| 66 | Aの猶予申入れを152条1項の承認・更新と評価する。【必須】 | 4 | 8頁・第1問:「民法第152条第1項」 | 5頁・第1問:「時効の更新事由があったこと」 |
| 67 | 457条1項により主債務の更新が保証債務にも及ぶと示す。【必須】 | 5 | 8頁・第1問:「更新は保証人に対してもその効力」 | 5頁・第1問:「主債務についての更新が保証人に」 |
| 68 | 更新後から請求まで5年未経過を日付で確認する。【必須】 | 4 | 8頁・第1問:「それから5年は経過していない」 | 3頁・第1問:「一貫した論述」 |
| 69 | F自身の相殺ではなくAの相殺権による457条3項の履行拒絶とする。【必須】 | 4 | 8頁・第1問:「民法第457条第3項」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 70 | 売買代金債権100万円が時効消滅することを弁済期から確認する。【必須】 | 5 | 8頁・第1問:「自働債権が時効消滅」 | 5頁・第1問:「売買代金債権が時効消滅したこと」 |
| 71 | 508条の適用可能性を検討対象として発見する。【必須】 | 5 | 8頁・第1問:「相殺をするためには」 | 5頁・第1問:「民法第508条に言及するものは少数」 |
| 72 | 自働債権の時効完成が受働債権の弁済期より先と日付を比較する。【必須】 | 5 | 8頁・第1問:「受働債権の弁済期が現実に」 | 5頁・第1問:「本件債権の弁済期到来前」 |
| 73 | 平成25年判例の期待保護と現実の期限到来の理由を示す。【必須】 | 4 | 9頁・第1問:「なぜそのような解釈が採られるべきなのか」 | 5頁・第1問:「最判平成25」 |
| 74 | 期限利益放棄の可能性だけで時効完成前の相殺適状と同視しない。【必須】 | 4 | 9頁・第1問:「判例と同じ結論が本問の事例」 | 5頁・第1問:「両債権が相殺適状になかったこと」 |
| 75 | Gの依頼とAの委託を区別してFを無委託保証人と認定する。【必須】 | 4 | 9頁・第1問:「Aの委託を受けない保証人」 | 5頁・第1問:「Fが委託を受けない保証人」 |
| 76 | 462条1項・459条の2第1項の準用連鎖を示す。【必須】 | 4 | 9頁・第1問:「同法第459条の2第1項」 | 5頁・第1問:「正確に条文を適用」 |
| 77 | 求償範囲を弁済当時の利益とし現存利益と混同しない。【必須】 | 5 | 9頁・第1問:「弁済の当時利益を受けた限度」 | 5頁・第1問:「その当時利益を受けた限度」 |
| 78 | 法定利息・費用まで上乗せできないと示す。【必須】 | 3 | 9頁・第1問:「法定利息や費用等までは請求できない」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 79 | Aの当時の受益300万円を主債務の消滅範囲から算定する。【必須】 | 4 | 9頁・第1問:「求償額が300万円」 | 5頁・第1問:「主債務者に対する求償の範囲」 |
| 80 | 事務管理構成なら702条1項の費用償還として根拠を示す。【許容分岐】(条件:事務管理構成を選択した答案) | 3 | 9頁・第1問:「同法第702条第1項」 | 記載なし(第1問関連範囲実読) |
| 81 | Aへの求償と保証人間の求償を区別し人数で頭割りしない。【必須】 | 4 | 9頁・第1問:「主債務者,共同連帯保証人との関係」 | 5頁・第1問:「主債務者に対する求償と共同保証人に対する求償」 |
| 82 | 465条1項の全額又は自己負担超過という入口要件を示す。【必須】 | 5 | 9頁・第1問:「自己の負担部分を超える額」 | 5頁・第1問:「全額又は自己の負担部分を超える額」 |
| 83 | 特約なしの内部負担を平等の各250万円と算定する。【必須】 | 4 | 9頁・第1問:「内部的負担部分は各250万円」 | 5頁・第1問:「求償することができる額を正しく算出」 |
| 84 | Fへの一部免除だけでGの内部負担が減るとしない。【必須】 | 4 | 9頁・第1問:「Gをも免除する趣旨」 | 5頁・第1問:「求償の要件及びその範囲」 |
| 85 | 300万円から自己負担250万円を控除してGへの50万円を算定する。【必須】 | 5 | 9頁・第1問:「50万円をGに対して求償」 | 5頁・第1問:「求償することができる額を正しく算出」 |
| 86 | 負担部分以下の弁済にも割合求償できるとの連帯債務の規律を流用しない。【負例】 | 4 | 9頁・第1問:「連帯債務者間の求償とは要件が異なり」 | 5頁・第1問:「弁済額が負担部分を超えていなくても」 |
4 一般的な指摘と補足
採点実感6~7頁は,重要な論点以外の基本要件も検討すること,制度相互の体系を理解すること,判例の事実・価値判断・射程を読むこと,判読しやすい文字と答案構成を用いることを指摘している。これらの一般的な作法は重みなしとし,下記の件数・重みの合計へ混ぜていない。二重回収を避ける説明等の補足も,独立した公式評価項目として増やしていない。
5 重みの分布と重み5の項目
実際の評価表の86行の内訳は,重み1が0項目,重み2が4項目,重み3が22項目,重み4が38項目,重み5が22項目である。N=0+4+22+38+22=86,W=0+2×4+3×22+4×38+5×22=336となる。段階ごとの割当て件数は設けていない。
重み5の22項目は次のとおりである。表の通し番号から対応箇所を探せる。各項目の適用条件は維持し,骨格であることを全構成への必須化と同一視しない。
- 番号3:動産について有効な取引行為による取得であることを当てはめる。(全答案)
- 番号5:Dの善意・無過失を説明内容と外観から当てはめる。(全答案)
- 番号9:昭和35年判例の一般外観変更の準則を指図移転の事実へ適用する。(全答案)
- 番号14:甲が盗品であることを193条へ当てはめる。(全答案)
- 番号15:Cが直接占有者であることを回復の相手方要件へ当てはめる。(全答案)
- 番号16:盗難から2年以内の回復請求であると日付を当てはめる。(全答案)
- 番号24:193条の回復までの所有権帰属を理由付きで決める。(全答案)
- 番号25:Aの損失を使用収益権限の帰属と関連付ける。(全答案)
- 番号34:Eが負う授業・専門指導の債務内容を先に確定する。(全答案)
- 番号36:準委任なら裁量あるAの教育事務の処理という積極的理由を示す。(準委任構成)
- 番号43:各月と5か月一体の処理単位を定め後続判断へ持ち越す。(全答案)
- 番号44:採用類型に従い任意解除の根拠と要件を示す。(全答案)
- 番号53:準委任では不利な時期の意味を自由解除との関係から定義する。(準委任構成)
- 番号56:損害範囲を不利な時期に固有の損害に限定し理由を述べる。(準委任構成)
- 番号64:Fの保証債務自体の時効と主債務の援用・付従性を分ける。(全答案)
- 番号67:457条1項により主債務の更新が保証債務にも及ぶと示す。(全答案)
- 番号70:売買代金債権100万円が時効消滅することを弁済期から確認する。(全答案)
- 番号71:508条の適用可能性を検討対象として発見する。(全答案)
- 番号72:自働債権の時効完成が受働債権の弁済期より先と日付を比較する。(全答案)
- 番号77:求償範囲を弁済当時の利益とし現存利益と混同しない。(全答案)
- 番号82:465条1項の全額又は自己負担超過という入口要件を示す。(全答案)
- 番号85:300万円から自己負担250万円を控除してGへの50万円を算定する。(全答案)
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下は,指図による占有移転での即時取得,原所有者帰属説,準委任契約という構成を採用した一つの答案例である。請負・無名契約や別の回復構成を不適切として排除するものではない。設問指定に沿って,規範,事実評価,反論,効果及び請求の終点を順に示す。字数は見出しを含み空白を除いて約5544字である。
本権の訴え提起日や追加の機会損失額は問題文から確定できないため,その日付・額を補わない。判例の括弧書きは裁判所掲載の全文を確認したものに限った。公式資料が引用する大正10年判決は,原文を確認した判例として答案へ掲げていない。
2 答案
1 設問1について
(1) 請求1とCの主張㋐
Aは甲の原所有者であり,現にこれを占有するCに所有権に基づく返還を請求する。Bは廃棄されたと誤信して甲を持ち帰ったが,所有権は放棄されておらず,Bは無権利者である。
そこでCの㋐は,Dの即時取得によってAが所有権を失ったとの所有権喪失の抗弁と解する。Cの使用借権だけでは第三者Aに対抗できないので,まずDの所有権取得を検討する。
民法192条の即時取得には,動産についての有効な取引行為,これに基づく占有取得,平穏・公然,譲渡人の権利に関する善意・無過失を要する。Bは借入金債務の弁済に代えて甲をDに譲渡しており,代物弁済は所有権取得を目的とする取引行為である。Bが無権利であること自体は,Dとの取引の成立を妨げない。甲は工作機械という動産である。
DはBから中古機械の販売業者より買ったとの説明を受け,これを信じた。所有者のプレートもその他の不審な点もなく,権利者であると信じたことに過失はない。平穏・公然も推定され,これを覆す事情はない。
(2) Aの主張㋑と占有移転
Aの主張は,甲の現実の支配に変更がないため192条の占有取得を欠くというものである。192条の占有取得は178条の対抗要件としての引渡しとは別であり,後者を満たしても前者を当然には満たさない。判例(最判昭和35年2月11日)は,一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるような占有取得を要求し,占有改定による即時取得を否定する。
しかし,本件ではBがCに以後Dのために甲を占有するよう命じ,Dが承諾している。これは184条の指図による占有移転であり,Cの承諾は同条の要件ではない。Cの直接占有は続くが,Cへ指図が到達し,Bのための占有からDのための占有へ変わる。Dは間接占有を取得し,Bは甲の支配を失う。第三者Cとの関係で,その占有が誰のためのものかを確認できるという外観の変更がある点で,譲渡人が自己の手元で所持し続ける占有改定とは異なる。よって指図による占有移転でも192条の占有開始を満たすと解する。したがって㋑の理由だけでDの取得を否定することはできず,㋐は192条の要件については理由がある。
(3) Aの主張㋒と盗品の回復
193条は,192条の場合にも,盗品の被害者が盗難から2年間,占有者に回復を請求できるとする。取引安全のみでなく,意思に反して占有を失った被害者を保護するためである。本件では令和2年4月10日に盗まれ,同年10月15日の請求は2年以内である。193条の占有者を192条の取得者と同義に限る理由はないから,直接占有者Cに回復を求められる。Cが即時取得者Dと異なるというだけで請求を排斥することはできない。
回復期間中の所有権は,意思に反して占有を失った所有者の保護を重視し,2年間はAに所有権が留保され,期間内に回復しないときに取得者の所有権が確定すると解する。いずれにしても,Dの即時取得だけで期間内の回復請求を排斥できない。
194条による代価弁償の抗弁は,競売,公の市場又は同種物を販売する商人から善意で買い受けた場合に限られる。Bは土木業者であり,Dが行ったのも代物弁済である。B自身が販売業者から買ったという虚偽の説明は,Dがその商人から直接買い受けたことにはならない。したがってAは代価を弁償する必要がなく,㋒には理由がある。請求1は認められる。
(4) 請求2
使用料相当額について,Aは703条の不当利得返還請求をする。Cは甲の使用によって使用料の支出を免れ,Aは使用収益を妨げられている。Bとの使用貸借はAの所有権に対抗する法律上の原因にはならない。
もっとも,189条1項は善意の占有者に果実取得を認める。その趣旨は,占有権原があると信じて使用収益した者の信頼を保護することにあり,自ら物を使用する利益にも及ぶ。Cは5月1日に盗難及びBの取得経緯を知らず,適法に借りて使用できると信じていたから,その間の使用利益を返還する必要はない。
他方,CがAの所有権及び自己の使用権原の不存在を知った後は,190条1項に従って使用利益を返還する。10月15日の請求は悪意の認定資料になるが,請求を受けたことだけから当然に悪意になるわけではない。CがDの取得によってなお適法な使用権原があると信じる場合も,Aの本権に基づく訴えに敗訴すれば,189条2項により訴え提起時から悪意の占有者とみなされる。
よって請求2は,5月1日以降Cが善意であった期間については認められず,悪意となった時又は敗訴によって悪意とみなされる訴え提起時から返還までについて認められる。問題文は訴え提起日を示していないので,その日を10月15日と同一視しない。B又はDが間接占有者であることは,直接占有者Cへの189条・190条の適用を妨げない。
2 設問2について
(1) Eの債務の内容と契約の性質
Eは5か月間,週4日,Aの事業所で従業員に授業を行い,乙検定合格に向けて,受講生の技能・理解・負担に応じて専門家として合理的に指導する債務を負う。
他方,合格は受講生の努力,技能及び試験内容にも左右される。高い合格実績の宣伝や高額の月額報酬があっても,30名全員又は特定数の合格を約束したことにはならない。月額報酬は事務処理に対応し,別途合格者数に応じた成功報酬を定めたことも,授業債務の履行と結果の実現を分ける合意と理解できる。
EはAの指揮命令に従って労務を提供するのではなく,専門家として授業内容・方法を独立して決めるから雇用ではない。請負として各月の授業実施そのものを完成と捉える構成も可能だが,本件では学習状況に応じた指導という裁量ある事務処理を継続することが中心である。よって法律行為でないAの教育事務を委託する有償の準委任と解する。656条により委任の規定が準用され,Eは644条の善管注意義務を負う。成功報酬の合意は成果に応じた報酬として整合し,それのみで契約全体を請負にはしない。
(2) Aの解除と請求3
Aは課題量,叱責,退席者の発生及び改善要求後も方法が変わらなかったことを理由に,善管注意義務違反による541条等の解除を主張すると考えられる。
しかし,専門的指導には相当の裁量があり,課題が多いことだけで義務違反とはいえない。1か月後には技能が顕著に伸び,その後も技能を伸ばす者が相当数おり,20名は継続していた。試験合格という目的から一定の負担を課すことにも合理性がある。以上から,Eが契約上要求される注意を欠いたとまでは認められず,債務不履行解除は認められないと解する。
それでも651条1項によりAはいつでも準委任を解除できる。よって8月31日の解除は有効である。
解除の効果は652条,620条により将来に向かって生じ,既履行の授業を遡って消滅させない。契約期間は5か月であるが,月額報酬は各月の役務提供に対応する。月額報酬の支払は648条2項ただし書,624条2項により当該期間経過後に請求できる。Eは8月末まで授業を行ったから,8月分60万円の請求3は認められる。
(3) 請求4
Eは9月及び10月の月額報酬合計120万円を損害として請求する。しかし,有効な任意解除後の2か月について事務処理の報酬自体は発生せず,約定報酬全額を履行利益として賠償させれば,いつでも解除できるという制度を損なう。
もっとも,651条2項1号は相手方に不利な時期の解除について賠償を認める。不利な時期とは,事務処理を継続する場合と比べた報酬喪失一般ではなく,解除時期のため受任者が代替措置を採るなどして不利益を避けることが困難な時期をいう。自由な解除を認めつつ時期固有の不利益を調整するため,賠償はその時期に解除したための損害に限られる。
Eは本件のため新規出張講座を断り,通学講座の代替講師を手配してAにも伝えていた。5か月の契約の途中で,11月の検定に向けた講座が8月末に閉鎖され,9月・10月に他の講座へ戻る余地が限られることがうかがわれる。既に手配した講師への報酬負担も残ったから,不利な時期の解除に当たる。8月6日の予告は回避可能性の判断資料だが,これだけで手配済み講師への報酬義務が解消したとはいえない。
Aは受講生の離脱や改善要求への対応を理由に,やむを得ない事由による免責を主張し得る。しかし,改善要求は抽象的で,指導がEの裁量を逸脱したとは認められず,解除が必要不可避であったともいえない。651条2項ただし書の免責は認められない。他方,同項2号の受任者の利益には報酬を得る利益だけは含まれず,本件でこれ以外のEの利益は示されていない。
代替講師報酬40万円は請求額120万円に含まれ,さらに加算して160万円とすることはできない。少なくとも解除時期のため無駄となった準備費用としての40万円は賠償の対象となる。他の収入機会の喪失も対象となり得るが,本件の月額60万円全額と当然には一致せず,回避できた費用・取得した利益も考慮する。別講座の15万円はその収入機会の喪失を算定する際に控除するのであって,準備費用40万円から機械的に引くものではない。追加の機会損失の具体額は与えられた事実からは確定できない。よって請求4は少なくとも40万円の限度で理由があり,それを超える部分は時期固有の損害の裏付けを要し,120万円全額は当然には認められない。
3 設問3について
(1) 全額の支払拒絶
AH間の契約②は書面による諾成的消費貸借であり,Aは500万円の交付を受けた(587条の2)。FH間ではこの債務を連帯保証する契約③が書面で成立し,446条1項・2項を満たす。これがHの500万円請求の原因である。
Fは自己の保証債務の時効を援用できるほか,145条により主債務の時効を援用し,付従性による保証債務の消滅を主張できる。両債務の時効を区別して検討する。貸金債権の弁済期は令和10年4月1日であり,Hは同日から権利行使できることを知っているから,通常は166条1項1号の5年が問題となる。
しかし,Aは同年6月20日,Hに弁済猶予を求めている。これは本件債務が存在することを認める権利の承認に当たり,152条1項によって時効は更新され,同日から再進行する。令和15年5月11日の時点でも更新後5年が経過していない。
457条1項により主債務者について生じた更新は保証人にも効力を生じ,保証債務についても時効は更新される。Fが承認を知らなかったことは同条の要件ではなく,更新の効力を妨げない。したがって主債務及びFの保証債務の時効を理由とする全額拒絶はできない。
(2) 100万円分の支払拒絶
457条3項によれば,AがHに相殺権を有するときは,相殺によりAが免れるべき限度でFは履行を拒める。F自身がAの債権を自働債権として相殺することとは異なる。
Aの売買代金債権100万円は令和4年8月31日が弁済期であり,同日から行使可能であることをAは知っていたから,令和9年8月末には5年の消滅時効が完成する。Hが時効を援用すれば,通常の相殺はできない。
そこで508条が問題となる。同条について判例(最判平成25年2月28日)は,時効消滅前に相殺に適するようになっていた債権について,相殺への正当な期待を保護する。しかし,売買代金債権の時効完成時には,受働債権である貸金債権の弁済期である令和10年4月1日は来ていない。Aが自己の期限の利益を放棄して相殺できる余地があったとしても,現実に期限の利益を放棄した事実はない。将来放棄できるだけで現実の相殺適状と同視すれば,双方の弁済期が到来していたことによる期待保護の範囲を広げすぎる。
したがって508条による相殺は認められず,Hの時効援用に対してFは100万円分も拒絶できない。
(3) Aに対する求償
FはGの依頼に応じたがAには知らせておらず,主債務者Aの委託を受けた保証人ではない。Aと交流を断っていたことだけで,Aの意思に反して保証したとまでは認められない。462条1項により459条の2第1項が準用され,Fは弁済当時Aが利益を受けた限度で求償できる。
Fの300万円の弁済によりAの債務はその限度で消滅した。HがFに残額200万円を免除したことは,458条,441条の相対効原則によりAに及ばず,Aの残債務200万円は残る。したがってAの受益は500万円ではなく300万円であり,FはAに300万円を求償できる。弁済当時の利益に限定されるため,弁済以後の法定利息・費用等を300万円に上乗せして請求することはできない。
(4) Gに対する求償
F,Gはいずれも全額につき連帯保証し,内部的負担割合の合意はないから平等である。各自の負担部分は500万円の半分である250万円となる。
465条1項は,全額又は自己の負担部分を超えて弁済した共同保証人について442条から444条までを準用する。連帯債務者のように負担部分以下の弁済でも割合に応じて求償できるわけではない。主債務者への求償を別に有する保証人間では自己の負担部分をまず負担し,それを超えて負担した部分を他の保証人へ求償する。
HによるFへの200万円の免除は相対効にとどまり,Gの債務や内部負担部分を減らす趣旨も示されていないから,各250万円の負担部分は変わらない。Fが弁済した300万円は自己負担250万円を超えるため,超過額50万円をGに求償できる。Fに対する外部的な免除額と内部負担額を同一視せず,300万円の半額をそのまま求償額とすることもできない。AとGへの求償を通じて同じ出捐を二重に回収することはできない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
設問1の答案は番号1~33に対応する。㋐は所有権喪失の抗弁と捉え,指図移転の当てはめを昭和35年判例の一般外観変更の準則へ接続した。Dの即時取得とCへの回復を分け,使用利益は所有権の帰属を経て189条・190条へ進む。回復請求だけで悪意を当然に認定せず,本権訴敗訴の擬制も別に示した。占有権原の抗弁を採る場合の貸主地位移転や,占有者帰属説の遡及効等は,表に条件付き分岐として残した。
設問2の答案は番号34~62に対応する。独立した裁量ある教育事務の処理という準委任の積極的根拠を置き,月々の役務と報酬を対応させた。請負なら各月の授業実施を仕事完成とする方法もあり,5か月一体なら中途終了時の634条の利益の検討を要する。準委任の損害は不利な時期に固有のものに限り,失われた収入機会と準備費用を分ける。請負なら641条の履行利益から節約費用・別講座の15万円を控除する。120万円に含まれる40万円を二重に加算しない点は共通する。
設問3の答案は番号63~86に対応する。主債務と保証債務の時効,Aの相殺権による履行拒絶,Aへの無委託保証人の求償,Gへの共同保証人間の求償を分けた。平成25年判決は,受働債権の期限利益を放棄できる可能性と現実の期限到来を区別する。Gへの求償は,出題の趣旨9頁が示す300万円-250万円=50万円の処理によった。改正後の連帯債務者間の比例計算をそのまま保証人間の額へ流用しない。
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第7 出典及び確認状態
1 公式資料
- 法務省・令和3年司法試験問題
- 令和3年司法試験論文式問題・民事系科目(第1問:物理1~4頁)
- 令和3年司法試験論文式試験問題出題の趣旨(民事第1問:物理4~9頁の該当部分)
- 法務省・令和3年司法試験の採点実感
- 令和3年司法試験の採点実感・民事系科目(第1問:物理1~7頁)
2 法令
試験実施日に適用される版を確認し,現在の条文だけで判断していない。民法の債権法改正後の規律を前提とする。
3 裁判例
4 確認状態と答案の限界
法務省掲載の問題・出題の趣旨・採点実感を正本とし,第1問に関する上記範囲を実読した。裁判例3件は裁判所掲載の全文を読んだ。平成12年判決は194条の適用事例であり,本件へ結論を直接移していない。大判大正10年7月8日(民録27輯1373頁)の内容は出題の趣旨の記載に基づく紹介で,判決原文は未確認(Unknown)である。
評価項目・重み及び答案の採用構成は独自の判断(Inference)であり,公式が述べる内容(Source statement)や原文の取得・実読確認(Confirmed)とは区別する。準委任の追加機会損失の額,Cが実際に悪意となった時点,訴え提起日は,問題文の情報から一意に確定できない。この限界は損害額と使用利益の期間に影響するため,答案も条件付きで示した。