第1 処分禁止の仮処分の目的
1 登記を取得・回復する権利を守る
不動産について登記手続を求める訴訟を進めても,その間に名義が移転したり,抵当権等の登記がされたりすると,判決後の登記実現が複雑になる場合がある。
そこで,登記請求権を守るために処分禁止の仮処分を検討する。
民事保全法53条は,不動産に関する登記請求権を保全する処分禁止の仮処分を,処分禁止登記によって執行するものと定めている。
本記事は不動産を中心に,令和8年10月8日に確認した法令及び裁判所の書式に基づいて説明する。
2 金銭回収の仮差押えと区別する
貸金や売掛金を回収するため,相手方の不動産を責任財産として確保したい場合は,通常,仮差押えを検討する。
これに対し,所有権移転登記や登記の抹消など,登記請求権そのものを守りたい場合は,処分禁止の仮処分が問題となる。
同じ不動産を対象にすることから手続を選ぶのではなく,最終的に金銭回収を求めるのか,登記を実現するのかを先に確認する必要がある。
金銭回収の手続は,仮差押えの総論を参照する。
民事保全の3類型と手続全体の比較は,民事保全とはで説明している。
第2 登記請求権と保全の必要性
1 どの登記を誰に請求するかを特定する
申立てでは,権利の発生原因,対象不動産,請求する登記の種類・内容,相手方を確認する。
売買等の契約と登記記録,既存の担保権,登記上の利害関係人を照合し,本案で求める内容と保全する権利を対応させる必要がある。
契約書だけでなく,現時点の登記の状態を確認することが大切である。
2 現状変更による権利実行の危険を示す
係争物に関する仮処分には,現状の変更によって権利実行が不能又は著しく困難になるおそれが必要である(民事保全法23条1項)。
相手方が登記請求に応じないことと,さらに譲渡や担保設定等によって登記の実現が難しくなる危険とは,分けて説明する必要がある。
処分の具体的な動き,関係者の説明,登記の変化等について,どの事実をどの資料で疎明するかを整理する。
第3 処分禁止登記と保全仮登記
1 処分禁止登記によって執行する場合
民事保全法53条1項の処分禁止の仮処分は,処分禁止登記によって執行される。
相手方に命令が発せられたという段階と,登記による保全執行がされた段階を区別し,実際の登記を確認する必要がある。
2 所有権以外の権利の保存・設定・変更を求める場合
不動産の所有権以外の権利の保存,設定又は変更に関する登記請求権を保全する場合は,処分禁止登記とともに保全仮登記をする(民事保全法53条2項)。
東京地裁の書式6は,根抵当権設定登記請求権を保全する,保全仮登記併用の申立ての例である。
全ての処分禁止の仮処分に同じ保全仮登記を付けるのではなく,保全する登記請求権の内容に応じて手続を選ぶ。
第4 相対的効力とその限界
1 後の登記が全て絶対的に無効となるわけではない
処分禁止登記がされても,後の譲渡や登記が全ての関係者に対して当然に無効となるわけではない。
民事保全法58条1項は,仮処分の債権者が保全した登記請求権に係る登記をする場合,後の登記に係る権利取得や処分制限が,その権利の取得・消滅と抵触する限度で債権者に対抗できないと定めている。
このように,保全した権利の実現との関係で働く効力を理解する必要がある。
2 本案後の登記と抹消も権利の種類に応じて異なる
同法58条2項は,保全仮登記を併用する場合を除く仮処分の債権者について,処分禁止登記に後れる登記の抹消を定めている。
保全仮登記併用の場合は,保全仮登記に基づく本登記による方法等が定められている(同条3・4項)。
後順位の登記があれば全て一律に抹消できると考えず,本案の債務名義,保全した権利,抵触する後の登記,必要な登記手続を確認することが重要である。
第5 建物収去土地明渡しを保全する別の類型
民事保全法55条は,建物収去土地明渡請求権を守るための建物の処分禁止の仮処分を,処分禁止登記によって執行するものと定めている。
これは,自分への所有権移転登記を求める場合と同じ請求権ではない。
東京地裁は,登記請求権を保全する書式6とは別に,建物収去土地明渡しの書式7を掲載している。
建物の所有者と現実の占有者が異なる場合は,誰に建物収去を求め,誰に退去や明渡しを求めるかを確認する必要がある。
登記上の処分を防ぐことと,占有の移転を防ぐことも別の問題であるため,占有移転禁止の仮処分の要否を合わせて検討する。
第6 申立て前から本案後までの確認事項
| 時点 | 確認する事項 |
|---|---|
| 申立て前 | 最新の登記,権利の発生原因,相手方,対象物件と請求する登記,現状変更の危険 |
| 発令・執行時 | 担保その他の条件,処分禁止登記・保全仮登記の要否,実際の登記内容 |
| 本案訴訟中 | 本案の請求と保全した権利の対応,後の登記や権利関係の変化 |
| 本案の債務名義取得後 | 実現する登記の内容,抵触する後の登記,抹消等の手続,保全仮登記との符合 |
保全執行には債権者への送達から2週間の期間制限がある(民事保全法43条2項)。
登記による執行でも,必要な資料・費用の準備や登記の実施を確認し,命令の取得だけで作業が完了したと扱わない。
土地の一部の登記請求権を保全する際に土地全体を対象とできるかという別の問題は,1筆の土地の一部を保全する処分禁止仮処分で説明する。
第7 出典・参考資料
①e-Gov法令検索・民事保全法(13条,23条,43条,53~55条,58~63条)。
②東京地方裁判所書式6・処分禁止仮処分(保全仮登記併用)及び書式7・処分禁止仮処分(建物収去土地明渡)(令和8年10月8日確認)。
③野村創『失敗事例でわかる!民事保全・執行のゴールデンルール30〈改訂版〉』(学陽書房,令和6年)第4章25~27・29。処分禁止と占有移転禁止の区別,相対的効力及び本案との対応の検討の参考とした。