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利益はあるのに現金がない会社―内部留保・課税所得・資金繰りを弁護士と税理士が一緒に読む(AI作成)

第1 利益,内部留保,課税所得及び現金を分ける

会社が黒字であることと,期限までに支払えることは別である。
決算書に利益剰余金が多く計上されていても,その額と同額の現金が銀行口座にあるとは限らない。
反対に,借入れによって預金が増えても,それだけで会社の利益が増えたことにはならない。

本記事は,法人の決算書,法人税申告書及び資金繰りを結び付け,債権回収,支払猶予,事業再建又は役員との取引を検討するときの読み方を整理するものである。
基準日は令和8年10月8日である。
以下の数値例は,違いを説明するための仮定であり,実際の会社の決算又は特定の裁判例を再現したものではない。

1 四つの数字の役割

数字意味主に確認する資料
当期の会計利益一定期間の収益から費用を控除した成果損益計算書,月次試算表,売上・費用の元帳
利益剰余金過去の利益のうち配当等で社外へ流出せず蓄積された残高貸借対照表の純資産の部,株主資本等変動計算書
法人税の課税所得税法上の益金から損金を控除して計算する金額法人税申告書の別表四・別表五(一),調整明細
使用できる現預金支払に充てられる資金。使用制限と必要支出も確認する預金明細,資金繰り表,借入返済表,支払予定表

税引前利益と税引後の当期純利益も区別する必要がある。
利益剰余金は一時点の残高であり,当期利益は一定期間の成果であるから,両者をそのまま比較してはいけない。

2 内部留保は現金の別口座ではない

財務省の利益剰余金の解説は,当期純利益から配当金等を控除した額が蓄積されたものを利益剰余金として説明している。
また,その対応する資産は現金・預金に限られず,有形・無形固定資産など様々な形で再投資されるとしている。

したがって,「内部留保が1000万円ある」という説明から,「自由に引き出せる現金が1000万円ある」とは推定できない。
利益剰余金の額を,現預金,売掛金,在庫,設備,不動産及び負債の残高と併せて読む必要がある。
法人税申告書の利益積立金額も税法上の計算に用いるものであり,会社の預金残高を表示する欄ではない。

第2 黒字でも現金が減る四つの場面

1 売上げを計上しても代金が未回収である

売上げ1000万円を計上し,関連する費用700万円を支払ったが,売上代金はまだ回収していない場合を考える。
他の損益を無視すれば,利益は300万円である一方,この取引による現金の動きは700万円の支出となる。
入金前に給与,仕入代金又は税金の支払期限が来れば,黒字であっても資金不足となり得る。

売掛金については,請求書に書かれた入金予定だけでなく,取引先の承認,検収,支払条件,紛争又は相殺の有無,過去の回収状況を確認する。
回収予定を確実な入金と仮定した資金繰り表だけでは,支払能力の評価を誤ることがある。

2 設備代金の支払と減価償却費は一致しない

設備を1000万円で購入し,全額を支払った場合でも,その1000万円が購入年度の費用又は損金になるとは限らない。
仮に当期の減価償却費が200万円であるなら,設備購入の現金支出1000万円と当期費用200万円には800万円の差がある。
この200万円は説明のための仮定であり,個別資産の償却限度額を示すものではない。

法人税法31条1項は,減価償却費の損金算入について,損金経理額のうち償却限度額に達するまでの金額とする仕組みを定めている。
資産の種類,取得日,事業供用日,取得価額,償却方法及び特例の適用を確認する必要がある。
法人税法施行令13条に定められた減価償却資産の範囲も確認する。
土地など減価償却の対象とならない資産もあるため,設備・不動産の購入支出をすべて同じ処理にしてはいけない。

3 借入元本を返済する

借入元本を300万円返済すると,現金と借入金がそれぞれ300万円減る。
通常の借入元本の返済は,借入金という負債を減らす取引であり,その支出額をそのまま損益計算書の費用にするものではない。
利息,保証料及び手数料は元本と区別し,契約とその対象期間に対応させる。

毎月の元利合計返済額だけを見ると,利益が残るのに資金が減る理由を見落とす。
返済予定表を元本と利息に分け,損益計算書と資金繰り表の双方へ対応させる必要がある。

4 納税と費用計上の時期が異なる

申告・納付する税金の支出時期と,決算で法人税等を計上する時期も一致するとは限らない。
中間納付,確定申告による納付,還付及び過年度分の精算を,税目と対象年度ごとに整理する。
「利益の何%を払えばよい」という概算だけで支払日までの資金を用意したことにはならない。

消費税,源泉所得税及び社会保険料の支払も,法人税の納税予定とは別に資金繰りへ載せる。
支払額の見積りと,猶予等の制度を利用できるかという法律・税務上の判断は分けて確認する。

第3 会計利益から課税所得への調整を読む

1 支出した額がすべて損金になるわけではない

法人税法22条1項は,各事業年度の所得の金額を,益金の額から損金の額を控除した金額とする。
会計利益を出発点にしても,税法に別段の定めがある項目について調整が必要となるため,会計利益と課税所得は一致するとは限らない。

例えば,役員給与の損金算入要件を満たさない支給や,減価償却限度額を超える費用計上などは,現金を支出していても法人税計算上の扱いを別に確認することになる。
法人税申告書の別表四で会計上の利益から所得金額へ至る加算・減算をたどり,別表五(一)などと照合する。
税理士には,単に申告所得の数字を尋ねるだけでなく,差額の原因,翌期以降に影響する項目及び必要な納税資金の説明を求めるとよい。

2 利益剰余金の増加だけで所得を計算しない

期首と期末の利益剰余金の差には,当期純利益以外に配当等の変動が関係する。
貸借対照表の二つの残高を差し引いただけで,当期の課税所得又は現金収入を計算することはできない。
過年度の訂正がある場合も,訂正した内容,元の対象年度及び税務上の対応を分けて整理する。

役員給与の取扱いは国税庁「役員に対する給与」,会計上の訂正と税務処理の区別は前期損益修正と会計・税務を参照されたい。

第4 弁護士と税理士が共有する確認資料

1 同じ基準日と対象法人で資料をそろえる

会社単体の資料と企業グループの連結資料,会社の口座と代表者個人の口座を分ける。
決算日,直近の月末及び相談日で数字が違う場合には,各時点の残高とその間の取引をつなぐ。
最低限,次の資料を対応させることが有用である。

①決算書,月次試算表及び総勘定元帳
②法人税申告書,主要な別表,消費税申告書及び納税予定
③銀行の残高・入出金明細及び使用制限のある預金の資料
④売掛金・買掛金の相手方別明細,契約書,請求書及び支払条件
⑤借入契約書,元本・利息別の返済予定表,担保及び保証の資料
⑥在庫,不動産,設備等の評価と売却に要する期間の資料
⑦役員貸付金・役員借入金の契約,資金使途及び実際の返済記録

2 資金繰りを日付で検証する

月次だけで不足時期が分からない場合は,週次又は日次で,期首資金,入金,支払及び期末資金を記録する。
給与,仕入れ,賃料,借入返済,納税及び社会保険料を,各支払日に対応させる。
回収が遅れた場合や追加融資を受けられない場合も計算し,いつ,いくら不足するかを確認する。

入金見込みには,確定した入金と交渉中の入金を区別して記載する。
融資枠があっても,利用条件を満たしていない,貸出しが停止されている又は期限までに実行されない場合には,同額の資金が使えるとは扱えない。

3 法的評価と税務処理を対応させる

弁護士は,債権の成立,弁済期,相殺,担保順位,保証,差押え及び支払猶予の合意内容を確認する。
税理士は,取引の会計処理,税法上の所得計算,損金経理,納税額及び年度帰属を確認する。
担当を分けても,前提となる契約と資金移動の事実は同じ資料に結び付けて共有することが必要である。

確認表には,金額,対象期間,作成日・取得日,資料の出所,確認できた事実及び未確認の事項を残す。
経営者の説明,帳簿の数字,銀行の実際の入出金及び相手方の回答を混ぜず,不一致の理由を調べる。

第5 個別の法律問題へつなげる

1 資金不足と破産法上の支払不能は同じではない

破産法2条11項の支払不能は,弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できない状態を問題とする。
一時的な手元資金不足だけで結論を出さず,換価できる資産,収入及び現実に利用できる信用を含めて検討する。
他方で,黒字又は帳簿上の資産超過であることだけから,支払不能を否定することもできない。

具体的な資料と数値例は,支払不能と債務超過の違いを参照されたい。

2 債務者の資金不足だけで貸倒損失としない

法人税基本通達9-6-2は,債務者の資産状況・支払能力等から,金銭債権の全額を回収できないことが明らかとなった場合の取扱いを定めている。
現金不足,赤字又は債務超過という一つの数字だけで全額回収不能を判定せず,担保,保証及びその他の資産からの回収可能性も調べる。
損金経理,担保処分及び明らかとなった事業年度の要件も別に確認する。

詳しい類型と資料の整理は,法人の貸倒損失の計上基準を参照されたい。

3 会社の財産を役員個人の現金と扱わない

会社の現預金に余裕があっても,それをそのまま代表者個人の収入又は自由に使える生活資金と扱うことはできない。
役員給与,配当,貸付け,経費精算又は私的費用の負担のどれに当たるかを,決議,契約,証憑及び資金移動から確認する。
関連する税・社会保険・給付制度の区別は,役員報酬を0円にして非課税世帯になれるかを参照されたい。

第6 出典・参考資料

①財務省「利益剰余金」(利益剰余金の意味と対応する資産の説明)
②e-Gov法令検索・法人税法(22条,31条)
③e-Gov法令検索・破産法(2条11項)
④国税庁「No.5211 役員に対する給与」
⑤国税庁・法人税基本通達9-6-2
⑥e-Gov法令検索・法人税法施行令(13条)

資料確認表や資金繰りの作り方は,これらの制度と会計上の区別を実務へ結び付けた整理であり,法令が一律に要求する書類一覧ではない。