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令和6年度司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した63項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

本記事は,令和6年司法試験の論文式試験のうち,民事系科目第2問(会社法)を対象として,法務省が公表した「出題の趣旨」及び「採点実感」から答案の評価項目を抽出し,重み付けをした上で,それらの評価項目を満たす模範解答を示すものである。

本問は,筆頭株主が裁判所の許可を得て招集した臨時株主総会において,議案に賛成した株主に商品券を贈呈すると約束した事案(設問1)と,公開会社でない株式会社が,再建を支援してくれた株主だけを株式の併合で締め出した事案(設問2)について,監査役,反対株主及び締め出された株主がそれぞれ会社法上どのような手段を採り得るかを問うものである。

公式資料から抽出できた評価項目は63項目であり,答案に書くべき事項39項目と,採点実感が不十分な答案として挙げた型を「〜しない」の形にした24項目からなる。
重み5(答案の骨格又は採点実感が評価の分かれ目とした事項)に当たるのは,会社法385条1項が取締役の行為を対象とし少数株主の招集にそのまま適用できないことの指摘,同項の適用又は類推適用の可否の検討,会社法120条1項の「株式会社」「当該株式会社又はその子会社の計算において」という文言の検討,同項が採用されない可能性に配慮した「著しく不公正」の主張の併置,株式の併合が無効の訴えの対象でないことから株主総会決議の効力を争うという手段の選択,「著しく不当な決議」等の判断基準とその理論的根拠,公開会社でない株式会社の少数株主の利益が金銭的価値に尽きないことに着目した一般論の7項目である。

公式資料は,いずれの設問についても結論を一つに限っていない。
本記事の模範解答は,設問1小問1では会社法385条1項の類推適用を肯定し,設問1小問2では会社法120条1項の類推適用を否定した上で決議の方法が著しく不公正であるとし,設問2では本件株式併合の決議が特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議として取り消されるとしたが,これは一つの考え方である。

第5の模範解答は,論文式答案で広く使われてきた型(問題提起,規範の定立,当てはめ及び結論の順に書く型)で示し,その後に出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説を付けている。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

評価項目は,本問の出題の趣旨(民事系科目第2問の部分)又は採点実感(民事系科目第2問の部分)の記述から抜き出したものに限り,一つの項目に一つの判定対象だけを入れ,答案に何が書かれていれば満たすのかが分かる形に言い換えた。
各項目には,出題の趣旨と採点実感のどこに根拠があるかを,PDFの頁と見出し番号で示し,一方の資料に記載がない場合は「記載なし」と表示した。
公式資料の文章は,根拠となる記述の趣旨を要約して示し,判定に必要な短い語句だけを引用している。
採点実感が不十分な答案として指摘した事項は,「〜しない」の形の項目にして,他の項目と同じ5段階で重みを付けた。
この評価項目は法務省の採点基準ではなく,公式資料から本記事が独自に抽出したものである。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,公式資料の書きぶりの強さから本記事が付けたものであり,法務省の配点ではない。
段階の数と基準の骨格は,同じ形式の令和7年度の記事にそろえた。

①重み5:答案の骨格そのもの,又は採点実感が評価の分かれ目とした事項(「高く評価された」「十分に検討したものと評価することはできない」「評価に差が付いた」「極めて少数」等とされたもの)
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け若しくは事実の評価,又は評価を大きく下げる誤り
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項,又は許容される別の構成

評価項目の末尾に「(許容分岐)」と付けたものは,いずれの結論も許される場面での一方の立論であり,答案がその立場を採るときに当てはまる。

第3 本問の概要

甲社は会社法上の公開会社である取締役会設置会社で,発行済株式500万株,株主数1000名である。
監査役Dほか2名は甲社の株式を保有していない。
甲社の20%の株式を有する筆頭株主乙社は,取締役3名及び監査役3名全員の解任・選任を目的とする株主総会の招集を請求したが,甲社が招集しなかったため,裁判所の許可を得て臨時株主総会を招集した。
その招集通知には,乙社提案の全議案に賛成した株主に1000円相当の商品券を贈呈する旨の書面が同封されていた。
総会では乙社提案の議案が出席議決権の約75%の賛成で可決され,出席議決権数は例年の定時株主総会より約30%増え,賛成割合も例年の甲社提案への賛成割合より高かった。
乙社は,自らの費用で,賛成した株主全員に商品券を送付した。

小問1は,招集通知の時点で,監査役Dが会社法に基づいて総会の開催をやめるように求める手段の有無について,相談を受けた弁護士がどう回答すべきかを問う(開催の法令違反の有無は論じなくてよいとされている。)。
小問2は,議案に反対した株主Eが決議の取消しの訴えを提起した場合のEの主張とその当否を問う。

設問1の事実はないことを前提に,甲社は株式の併合等により公開会社でない株式会社となり,発行済株式600株を,再建を支援した丙社が200株,Aが200株,B及びCが各100株を保有することとなった。
業績回復後,丙社は,甲社と競合する丁社(丙社が少数株主として出資している。)の再建のため,甲社の技術やライセンスを丁社に提供するよう求め,甲社を完全子会社化する意向も示した。
取締役Aらは丙社を締め出すことを決め,BがAに100株を譲渡した上で,①300株を1株とする株式の併合,②1株を200株とする株式の分割,③自己株式200株をB及びCに100株ずつ割り当てる処分を一連の計画として決定した。
株主総会では丙社が反対したが,他の株主全員の賛成で株式の併合が可決され,その効力が生じた。
端数の買取価格は公正な価格と認められるものであった。

設問2は,株式の併合の効力発生後の時点で,丙社がその効力を争うために採ることができる会社法上の手段に関し,丙社の立場から考えられる主張とその当否を問う。

第4 評価項目と重み

1 設問1小問1(監査役による開催の差止め)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1385条1項は取締役の行為を対象とするため、少数株主が裁判所の許可を得て招集する株主総会にそのまま(直接)適用できないことを指摘している511頁・2⑴小問1について8頁・3⑴ア(ア)
2385条1項の適用又は類推適用の可否を検討している511頁・2⑴8頁・3⑴ア(ア)
3肯定方向の論拠として、少数株主は個人の利益のためではなく株式会社のために招集権限を付与されており、その意味で取締役に準ずる立場にあることを指摘している311頁・2⑴8頁・3⑴イ(ア)優秀又は良好
4肯定方向の論拠として、少数株主も取締役と同様に適法に株主総会を招集する義務を負うことを指摘している311頁・2⑴8頁・3⑴ア(ア)
5肯定方向の論拠として、類推を認めなければ適法性を監査するという監査役の任務を全うできないことを指摘している311頁・2⑴8頁・3⑴ア(ア)
6否定方向の論拠として、少数株主と取締役とでは立場が異なることを指摘している(許容分岐)211頁・2⑴10頁・3⑴イ(ア)
7否定方向の論拠として、会社は自ら招集できたのにしなかったのだから、差し止められず事後の取消訴訟で対応することになってもやむを得ないことを指摘している(許容分岐)211頁・2⑴10頁・3⑴イ(ア)
8招集権限の付与と差止めの必要性を広く考慮し、Dから相談を受けた弁護士としての回答(いずれの結論でもよい)を示している411頁・2⑴19頁・3⑷
9類推を肯定する立場でも、否定されるリスクを含めて回答している2記載なし9頁・3⑴ア(イ)
10385条1項とは別の被保全権利(監査役の少数株主に対する妨害排除請求権、取消訴訟を本案とする仮処分)に基づく仮の地位を定める仮処分を、権利の存在又は本案の決議不存在の問題まで説得的に検討している(許容分岐)111頁・2⑴なお書9頁・3⑴ア(イ)
11会社法385条1項が取締役の行為を対象としていることに触れないまま,少数株主の行為に漫然と同項を適用しない3記載なし10頁・3⑴イ(イ)
12少数株主が招集する場合も株主総会の目的事項の決定や招集通知の発出は取締役が行うという誤った前提で,取締役の行為の差止めを論じない3記載なし9頁・3⑴ア(イ)
13取締役が招集しなかった不作為を会社法385条1項で差し止めるという,開催をやめさせる手段にならない構成を採らない2記載なし9頁・3⑴ア(イ)
14会社法385条1項を検討せずに,検査役の選任(会社法306条1項)や報告義務(会社法382条・384条)だけを論じない3記載なし10頁・3⑴イ(イ)
15会社法297条の要件の充足を検討して,それを満たす以上手段はないとする答え方をしない2記載なし10頁・3⑴イ(イ)
16被保全権利を明らかにしないまま,仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)を論じない2記載なし10頁・3⑴イ(イ)
17株主でない監査役Dについて,株主の差止請求(会社法360条1項)を検討の中心にしない1記載なし8頁・3⑴ア(イ)
18論じなくてよいとされた本件臨時株主総会1の法令違反の有無を詳しく論じない2記載なし19頁・3⑷

2 設問1小問2(Eの決議取消しの主張)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
19本件決議1が831条1項各号のいずれに該当するかを明示して取消事由を検討している411頁・2⑵10頁・3⑵ア(ア)
20乙社の行為が120条1項の利益供与に当たり、決議の方法が法令に違反する(831条1項1号)とのEの主張を立てている411頁・2⑵10頁・3⑵ア(ア)
21120条1項が「株式会社」による「当該株式会社又はその子会社の計算においてする」利益供与を禁止し、少数株主が自らの負担で行う行為を直接の対象としないことを指摘している511頁・2⑵12頁・3⑵ア(イ)
22120条1項の趣旨(会社財産の浪費防止・株式会社が株主の議決権行使に影響を与えることの禁止か、株式会社の公正な運営の確保か)を示し、その趣旨から適用又は類推適用の可否を検討している411頁・2⑵11頁・3⑵ア(ア)
23120条1項の趣旨を会社財産の浪費防止と公正な運営の確保の双方とみる場合に、いずれを重視するか、一方を欠いても適用・類推できるかを検討している2記載なし11頁・3⑵ア(ア)
24120条の主張が採用されない可能性に配慮して、決議の方法が「著しく不公正」(831条1項1号)との主張も立てている512頁・2⑵12頁・3⑵ア(イ)
25規範として、議決権の行使が株主として会社から受ける経済的な利益とは異なる要因によって左右される状況で行われた決議は「著しく不公正」といい得ることを示している412頁・2⑵11頁・3⑵ア(ア)
26上記の状況で行われた決議が「著しく不公正」といい得る理論的な根拠を自分なりに考察している312頁・2⑵11頁・3⑵ア(ア)
27肯定方向の事実として、乙社提案の議案に賛成した株主にのみ商品券が贈呈されることを評価している312頁・2⑵11頁・3⑵イ(ア)
28肯定方向の事実として、乙社には議案を可決させることに強い利害関係があることを評価している212頁・2⑵11頁・3⑵ア(ア)
29肯定方向の事実として、例年の定時株主総会との比較から商品券の贈呈が議決権行使に影響を与えた可能性が高いことを評価している312頁・2⑵11頁・3⑵イ(ア)
30否定方向の事実として、商品券の額が少額であることを評価している(許容分岐)212頁・2⑵11頁・3⑵ア(ア)
31否定方向の事実として、乙社提案に反対する議決権行使が殊更妨害されたわけではないことを評価している(許容分岐)212頁・2⑵11頁・3⑵ア(ア)
32否定方向の事情として、業績悪化や筆頭株主乙社との対立で例年と状況が異なり、例年比較は重要でないことを評価している(許容分岐)212頁・2⑵11頁・3⑵ア(ア)
33許容分岐として、招集株主も株式会社ではない以上、自らの資金で議決権行使に影響を与えても「著しく不公正」とはいえないとの考え方とその根拠を検討している(許容分岐)112頁・2⑵11頁・3⑵ア(ア)
34「著しく不公正」の場合は決議への影響の有無にかかわらず裁量棄却の対象にならないこと(831条2項)を正しく扱っている312頁・2⑵なお書13頁・3⑵ア(イ)
35付加的に、賛成すれば商品券を贈呈される関係にある株主の特別利害関係(831条1項3号)を、その関係に着目して検討している2記載なし11頁・3⑵ア(ア)
36例年と比べた賛成割合の上昇を,会社法120条1項の「株主の権利の行使に関し」の当てはめに使わない2記載なし12頁・3⑵ア(イ)
37会社法120条1項の「株式会社」「会社の計算」の要件を検討しないまま,会社による贈呈の事案の下級審裁判例を参考に利益供与の該当性を論じない3記載なし12頁・3⑵ア(イ)
38乙社が「株式会社」であることを理由に会社法120条1項を適用しない3記載なし12頁・3⑵ア(イ)
39どのような行為がどのような理由で「著しく不公正」となるかを分析せずに,事実を並べて結論付けない2記載なし13頁・3⑵ア(イ)
40株主総会を招集し議案を提案した乙社の議決権行使を,特別の利害関係を有する者の議決権行使としない2記載なし13頁・3⑵ア(イ)
41決議方法の著しい不公正や会社法831条1項3号を理由とするのに裁量棄却を論じたり,裁量棄却を主要な論点として詳しく論じたりしない2記載なし13頁・3⑵ア(イ)

3 設問2(丙社が株式の併合の効力を争う手段)

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
42株式併合は828条の無効の訴えの対象でないため、株式併合の株主総会決議(180条2項)の効力を否定して株式併合の無効を主張すべきことを示している512頁・3⑵15頁・3⑶ア(イ)
43手段①として、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議の取消しの訴え(831条1項3号)を挙げている412頁・3⑵15頁・3⑶ア(イ)
44手段②として、決議内容の法令違反を理由とする無効確認の訴え(830条2項)を挙げている412頁・3⑵17頁・3⑶ア(イ)
45丙社が本件決議2の取消しによって株主となる者(831条1項後段)に当たることに言及している212頁・3⑵括弧書15頁・3⑶ア(イ)
46許容分岐として、828条の類推適用(無効確認は提訴期間がなく法的安定性を害する等)を検討している(許容分岐)113頁・3⑵17頁・3⑶イ(ア)
47A又はCが特別の利害関係を有する者であることを検討している413頁・3⑶15頁・3⑶ア(ウ)
48「著しく不当な決議」又は「決議の内容が法令に違反する」といえる場合について自分なりの基準を立て、その理論的根拠を示している513頁・3⑶16頁・3⑶ア(ウ)
49公開会社でない株式会社では少数株主の利益が株式の金銭的価値に尽きないことに着目し(例:株式併合に正当な事業目的を要求する)、本設問の特質を捉える一般論を立てている513頁・3⑶16頁・3⑶ア(ウ)
50830条2項による場合に、法令違反の根拠(株主平等原則(109条1項)、権利の濫用(民法1条3項)等)に触れている313頁・3⑶15頁・3⑶ア(ウ)
51事実評価で、丙社の案もAらの案も企業価値との関係で客観的に優劣がないことを評価している413頁・3⑶16頁・3⑶ア(ウ)
52事実評価で、端数の買取価格が公正な価格であったことを評価している413頁・3⑶16頁・3⑶ア(ウ)
53結論(効力を否定・肯定のいずれでもよい)を説得的に示し、肯定する場合でも否定する立場の立論とその当否を検討している413頁・3⑶16頁・3⑶ア(ウ)
54効力が生じた後の株式併合について,差止め(会社法182条の3)や,その後の自己株式の処分の差止め・無効を,効力を争う手段として論じない2記載なし15頁・3⑶ア(イ)
55丙社の締出しの当否(決議の内容)を,招集の手続又は決議の方法の著しい不公正(会社法831条1項1号)の中で論じない2記載なし15頁・3⑶ア(イ)
56決議方法の法令違反として取締役の説明義務違反の有無だけを検討しない2記載なし17頁・3⑶ア(ウ)
57A又はCが特別の利害関係を有する者であることから,直ちに「著しく不当な決議」と結論付けない2記載なし17頁・3⑶ア(ウ)
58「著しく不当な決議」又は法令違反に当たる判断基準・枠組みを示さずに,事実を並べて結論を導かない3記載なし16頁・3⑶ア(ウ)
59上場会社の買収防衛策の議論をそのまま本問に当てはめない1記載なし16頁・3⑶ア(ウ)
60会社法830条2項の法令違反を,特に重大な違反に限定しない2記載なし18頁・3⑶イ(イ)
61株式併合の効力を争う手段の有無を検討せずに,決議の取消し・無効確認や株式併合無効の訴えを当然の前提にしない3記載なし18頁・3⑶イ(イ)
62会社法831条1項1号を根拠に,株式併合の決議の内容の法令違反や不公正を論じない2記載なし18頁・3⑶イ(イ)
63公開会社でない会社では取締役が株主を選別できるとして,既存の株主の締出しを広く許容する(新たな株主の受入れと混同する)論じ方をしない1記載なし16頁・3⑶ア(ウ)

4 重みの分布

63項目の内訳は,重み5が7項目,重み4が11項目,重み3が15項目,重み2が24項目,重み1が6項目であり,重みの合計は178点である。
設問別では,設問1小問1が18項目(重みの合計48点),設問1小問2が23項目(同65点),設問2が22項目(同65点)であり,設問1と設問2の重みの合計の比は約63:37で,公表された配点の割合(60:40)と大きくは違わない。
重み5の7項目(番号1,2,21,24,42,48,49)は,いずれも条文の文言から問題の所在をつかむこと又は自分なりの基準を立てることに関わる事項であり,採点実感が答案全体の評価について挙げた2点(条文の文言を丁寧に検討する姿勢と,問われていることに正面から向き合う姿勢)に対応している。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

答案は,試験時の会社法(令和6年7月時点)を前提とし,条文は会社法の条文を法令名を付けずに示した(民事保全法と民法は法令名を付けた)。
問題文の項目番号は「問題文3」のように示した。
字数は約5500字である。
判例は答案に用いていない(第7の3参照)。

2 答案

1 設問1小問1について
(1) Dは,本件臨時株主総会1の開催をやめるよう求めることができるか。監査役の差止請求(385条1項)によることが考えられる。
 しかし,同項は,「取締役」が法令に違反する行為等をし,又はそのおそれがある場合に,当該取締役に対してその行為をやめることを請求できるとするものである。本件臨時株主総会1を招集したのは,裁判所の許可(297条4項)を得た株主である乙社であり,取締役ではない。よって,385条1項を直接適用することはできない。
(2) そこで,385条1項を類推適用して,Dが乙社に対し,本件臨時株主総会1の開催をやめることを請求できないかが問題となる。
 確かに,監査役の監査の対象は取締役の職務の執行であり(381条1項),少数株主は株主という立場で招集権を行使する者であって,取締役とは立場が異なる。また,会社は自ら株主総会を招集することができたのにこれをしなかったのであるから,違法な招集を差し止められず,事後に決議取消しの訴え(831条1項)で対応することになってもやむを得ないとも思える。
 しかし,株主総会は,297条4項による場合を除き取締役が招集し(296条3項),同項により株主が招集する場合には,その株主が取締役に代わって招集事項を定め,招集通知等の手続を行う(298条1項括弧書,299条)。つまり,少数株主は,自己の利益のためではなく,会社の機関である株主総会を開くために招集権限を与えられているのであって,その限りで取締役に準ずる立場にあり,取締役と同様に適法に株主総会を招集する義務を負う。
 思うに,監査役の任務は会社の業務の適法性を監査する点にあり,385条はその実効性を確保するため,違法な行為を事前に差し止める権限を監査役に与えたものである。そして,取締役に代わって違法な株主総会を招集する少数株主を差し止められないとすれば,監査役は適法性の監査という任務を全うできない。また,決議取消しの判決が確定するまで決議は有効なものとして扱われ,その間に選任された役員が業務を執行するから,事後の救済だけでは足りない。
 よって,297条4項により招集する株主の招集又は決議の方法が法令に違反し,又はそのおそれがある場合において,これにより会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは,監査役は,385条1項の類推適用により,当該株主に対し,その行為をやめることを請求できると解する。
(3) 本小問では,甲社の取締役は乙社の招集請求に応じず(問題文2),乙社は裁判所の許可を得て,取締役に代わり本件臨時株主総会1を招集している(問題文3)。そして,本件各議題は取締役3名及び監査役3名の全員の解任・選任であり,違法な方法で決議がされれば甲社の機関が全面的に入れ替わる点で,甲社に著しい損害が生ずるおそれがあるといえる。
(4) したがって,弁護士は,本件臨時株主総会1の開催に法令違反があり,それにより甲社に著しい損害が生ずるおそれがある場合には,Dは,385条1項の類推適用により乙社に対しその開催をやめることを請求でき,開催禁止の仮処分(民事保全法23条2項)も申し立てることができる(担保は要しない。385条2項類推)と回答すべきである。もっとも,明文のない類推であるから,裁判所がこれを否定するリスクがあり,その場合には,決議後に監査役として決議取消しの訴え(831条1項。解任されても同項後段により原告適格を有する。)を提起することになる旨も併せて伝えるべきである。
2 設問1小問2について
(1) Eは甲社の株主であるから,本件決議1の日(令和3年10月20日)から3箇月以内に,甲社を被告として(834条17号),取消しの訴えを提起できる(831条1項)。
(2) Eとしては,まず,乙社による商品券の提供は株主の権利の行使に関する利益の供与(120条1項)に当たり,本件決議1は「決議の方法が法令…に違反」する(831条1項1号)と主張することが考えられる。
 しかし,120条1項は,「株式会社」が「当該株式会社又はその子会社の計算において」する利益の供与を禁ずるものである。本問では,商品券を提供したのは株主である乙社であり,その費用も乙社が全て負担している(問題文5)から,同項を直接適用することはできない。では,同項を類推適用できないか。
 確かに,同項の趣旨を会社の公正な運営の確保に求めれば,株主総会を招集する少数株主による利益の供与も会社の運営の公正を害し得るし,その問題は会社の計算によるか否かを問わず生ずるから,類推適用すべきとも思える。しかし,同項は「会社の計算」を明文の要件とし,違反の効果として,供与を受けた者の会社に対する返還義務(同条3項)と関与した取締役の会社に対する支払義務(同条4項)を定めている。つまり,同項は,会社財産の浪費を防ぎ,株主によって意思決定がされるべき会社がその財産を用いて株主の議決権の行使に影響を与えることを禁ずるものである。とすれば,甲社の財産が全く用いられていない本件に同項を類推する基礎はない。
 よって,この主張は認められない。
(3) 次に,Eは,本件書面による商品券の提供は議決権の行使を賛成へと誘導するもので,「決議の方法が…著しく不公正なとき」(831条1項1号)に当たると主張することが考えられる。
 思うに,株主総会の決議が多数決によって全株主を拘束するのは,各株主が,株主として会社から受ける経済的な利益を基準に議決権を行使し,その集積が会社の利益に合致すると期待できるからである。とすれば,議決権の行使がそのような利益とは異なる要因によって左右される状況で行われた決議は,多数決の正当性の基礎を欠き,提供者が会社であるか株主であるかを問わず,「著しく不公正」といい得る。よって,利益の提供の条件・目的,提供者の利害関係,決議結果への影響を総合し,議決権の行使が会社から受ける利益と異なる要因で左右されたといえる場合には,「著しく不公正」に当たると解する。
 本問では,乙社は招集者として招集通知に本件書面を同封しており(問題文3),その提供は本件臨時株主総会1の決議の方法の一部をなす。そして,本件書面は乙社提案の「各議案のいずれにも賛成していただいた方」にのみ商品券を贈呈するとしており,賛成という特定の内容の行使を条件とする点で,賛成票の対価としての性質を有する。また,乙社は筆頭株主として役員全員の解任・選任を求めており(問題文1,2),議案の可決に強い利害関係を有する。さらに,甲社では従前このような提供はなく(問題文3),出席した株主の議決権数は例年より約30%増加し,賛成の割合も例年の甲社提案への賛成割合より高かった(問題文4)から,提供が議決権の行使に影響した可能性が高い。
 本問では確かに,1000円という額は少額であり,反対の議決権の行使が殊更妨害された事情もうかがわれない。また,本件臨時株主総会1は業績の悪化と筆頭株主との対立の中で開かれたもので(問題文2),例年の定時株主総会とは状況が異なるとも思える。しかし,賛成を条件とする以上,額の多少にかかわらず賛否の判断そのものに会社から受ける利益と無関係な利益が結び付けられるのであり,出席・賛成の顕著な増加はその影響を否定できない程度のものである。
 したがって,本件決議1の方法は著しく不公正であり,Eの主張は認められる。なお,裁量棄却(831条2項)は「法令又は定款に違反するとき」に限られるから,本件には適用されない。
(4) また,Eは,賛成した株主は商品券を受ける特別の利害関係を有する者であり,その議決権行使により著しく不当な決議がされた(831条1項3号)と主張することも考えられる。しかし,商品券は議案が否決されても賛成すれば贈呈されるのであるから,賛成した株主は決議そのものについて特別の利害関係を有するとはいえず,この主張は認められない。
(5) 以上より,Eの請求は認容され,本件決議1は取り消される。
3 設問2について
(1) 丙社が採り得る手段
 株式の併合は,会社の組織に関する行為の無効の訴え(828条1項)の対象とされていない。もっとも,株式の併合は株主総会の決議(180条2項)に基づいて行われるから,丙社としては,その決議である本件決議2の効力を否定することにより,本件株式併合が無効となることを主張することが考えられる。その手段としては,①特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議として取消しの訴え(831条1項3号)を提起すること,②決議の内容が法令に違反するとして無効の確認の訴え(830条2項)を提起することがある。なお,提訴期間の定めがない無効確認では法的安定性を害するとして,828条を類推適用すべきとの考え方もあり得るが,決議の効力を争う訴えが法定されている以上,その要件の下で争えば足りる。
(2) ①について
 ア 丙社は本件株式併合により端数のみを有することとなり,株主の地位を失っている。しかし,本件決議2が取り消されれば丙社は200株の株主の地位を回復するから,「当該決議の取消しにより株主…となる者」(831条1項後段)として原告適格を有する。そして,本件決議2の日(令和5年12月11日)から3箇月以内に訴えを提起すればよい。
 イ 「特別の利害関係」とは,当該決議により他の株主と共通しない特殊な利益を得,又は不利益を免れる関係をいうと解される。本問では,本件株式併合は300株を1株とするもので,Bから100株の譲渡を受けたA(300株)だけが株主として残り,Cは丙社と同様に端数となる(問題文10,11①)。しかし,本件計画は①から③までを一連のものとして行うもので(問題文11),Cは③により株主に復帰し,Aは発行済株式の半数を有する代表取締役として支配を維持する。よって,A及びCは,丙社だけを排除して甲社の支配を自らに集める利益を得る点で,特別利害関係人に当たる。確かに,③には別の株主総会決議を要する(199条2項,309条2項5号)。しかし,丙社の排除後はAらだけでその決議ができるから,本件決議2の利害は本件計画全体から判断すべきである。そして,A及びCの議決権は計400個で,出席株主の議決権600個の3分の2ちょうどであり,その賛成がなければ特別決議(309条2項4号)は成立しなかったから,「議決権を行使したことによって」決議がされたといえる。
 ウ では,本件決議2は「著しく不当」か。
 思うに,会社法は株式の併合の目的を制限しておらず,少数株主の経済的利益は事前開示や株式買取請求・価格の決定(182条の2以下)で保護しているから,締出しの目的があることだけでは「著しく不当」とはいえない。もっとも,公開会社でない株式会社では,株式の譲渡が制限され(問題文6),少数株主は株主であり続けて会社の経営に関与することに利益を有しており,その利益は株式の金銭的価値に尽きない。よって,公開会社でない会社において特定の少数株主を締め出す株式の併合には,その締出しを必要とする正当な事業目的が要求され,これを欠く場合には,価格が公正であっても「著しく不当」に当たると解する。
 これを本問について見ると,本件計画は,Bの株式をAに集めた上で300株を1株とする併合の割合を選び,端数となったCを③で復帰させるもので,端数となる株主のうち丙社だけを排除するように設計されている(問題文10,11)。そして,丙社を締め出すAらの案とGの案とは,甲社の企業価値との関係で客観的にいずれが優れているともいい難い(問題文10)から,丙社の排除が甲社の事業のために必要であったとはいえない。かえって,Aは「我々経営陣が退くのでなければ、最終的には退出していただくほかない。」と述べており(問題文12),その主な目的は経営陣の地位の維持にある。さらに,丙社はFを派遣し,取引先を紹介するなどして甲社の再建に協力した株主である(問題文7)。
 本問では確かに,丙社は甲社と競合する丁社の株式を保有し,Fを通じて技術やライセンスを丁社に提供するよう求めていた(問題文7から9まで)から,甲社の独立を維持するという目的には合理性があり,正当な事業目的が認められるとも思える。しかし,その要求は取締役会の議論等で拒むことができ,現にAらはこれに応じていない(問題文9)。また,買取価格は公正であるが(問題文12),Gが「金額の問題ではなく、信義の問題だ。」と述べるとおり,丙社が失う経営への関与の利益は金銭によって償われない。
 したがって,本件決議2は著しく不当な決議であり,丙社の主張は認められる。
(3) ②について
 丙社は,本件決議2は株主平等原則(109条1項)に反し,又は権利の濫用(民法1条3項)として,決議の内容が法令に違反すると主張することも考えられる。しかし,本件株式併合は全ての株式に同じ割合を適用するもので,決議の内容それ自体は株主をその有する株式の数に応じて平等に取り扱っている。丙社の不利益は③を含む本件計画全体から生ずるもので,そのような多数決の濫用は,法が提訴期間を定めて用意した831条1項3号によって評価すべきである。よって,この主張は認められない。
(4) 以上より,丙社の本件決議2の取消請求は認められる。取消判決には839条の適用がないから,本件決議2は遡って無効となり,これに基づく本件株式併合も効力を失い,丙社は200株の株主の地位を回復する。
以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 設問1小問1:会社法385条1項の類推適用

出発点は,監査役の差止請求(会社法385条1項)が「取締役」の行為を対象としていることである。
本問で総会を招集したのは裁判所の許可を得た株主乙社であるから,同項をそのまま適用することはできず,このことを指摘した上で類推適用の可否を検討することが求められている(出題の趣旨11頁)。

肯定する場合の論拠として,出題の趣旨は,少数株主は個人の利益のためではなく会社のために招集権限を付与されており,その意味で取締役に準ずる立場にあって,取締役と同様に適法に株主総会を招集する義務を負うこと,類推適用を認めなければ適法性を監査するという監査役の任務を全うできないことを挙げる。
模範解答は,この論拠の条文上の手掛かりとして,会社法298条1項括弧書が,同法297条4項により株主が招集する場合には,招集事項の決定から招集通知等(299条から302条まで)までを「当該株主」が行うとしていることを示した。

否定する場合の論拠として,出題の趣旨は,少数株主と取締役との立場の違いや,違法な招集を差し止められなくてもやむを得ないことを挙げ,採点実感は,会社は自ら株主総会を招集できたのにしなかったのであるから,事後的に決議取消しの訴えで対応することになってもやむを得ないとする答案を良好な例に挙げる(採点実感10頁)。
結論はいずれでもよいとされており,類推適用を肯定しつつ否定されるリスクも含めて回答すべきであると指摘した答案は好印象であったとされている(採点実感9頁)。

これに対し,少数株主が招集する場合でも招集事項を定めて通知を発するのは取締役であるとして取締役の行為を差し止める答案,取締役が招集しない不作為を差し止める答案,会社法306条の検査役や同法382条の報告義務等の開催をやめることにつながらない手段だけを論ずる答案は,いずれも不良とされた。
監査役Dは株主ではないから,株主の差止請求(会社法360条1項)は問題とならない。

(2) 設問1小問2:会社法120条1項と「著しく不公正」

Eとしては,まず,乙社の商品券の提供が利益供与(会社法120条1項)に当たり,決議の方法が法令に違反する(同法831条1項1号)と主張することが考えられる。
しかし,同項は「株式会社」が「当該株式会社又はその子会社の計算において」する利益供与を禁止するもので,株主が自らの負担で行う行為を直接の対象としていない。
採点実感は,この文言の検討が不十分な答案が多かったこと,乙社が「株式会社」であることを理由に同項を適用する答案や,文言を検討せずに,採点実感が名を挙げる利益供与の下級審裁判例(東京地裁平成19年12月6日判決。第7の4)を参考にする答案が低く評価されたことを指摘している(採点実感11頁~12頁)。

類推適用の可否は,同項の趣旨の理解によって分かれる。
会社財産の浪費を防止し,株主によって意思決定がされるべき会社が株主の議決権行使に影響を与えることを禁ずるものと考えれば類推は否定に傾き,会社の公正な運営の確保を趣旨と考えれば,招集株主による利益供与も公正な運営を害し得るとして肯定する余地がある(出題の趣旨11頁~12頁)。
模範解答は,同項が「会社の計算」を明文の要件とし,違反の効果として会社への返還義務(同条3項)と関与取締役の会社への支払義務(同条4項)を定めていることから,前者の理解を採った。

その上で,採点実感は,会社法120条1項の主張が採用されない可能性に配慮して,決議の方法が「著しく不公正」(会社法831条1項1号)であるとの主張も検討すべきであるとする(採点実感12頁)。
出題の趣旨が示す判断の軸は,議決権の行使が,株主として会社から受ける経済的な利益とは異なる要因によって左右されるような状況で行われた決議かどうかであり,その理論的な根拠を自分なりに考えることが求められている(出題の趣旨12頁)。
模範解答は,多数決が全株主を拘束する正当性の基礎を,各株主が会社から受ける経済的な利益を基準に議決権を行使することに求め,賛成のみを条件とする贈呈,乙社の議案可決への強い利害関係,例年との比較による影響と,少額であること,反対の行使が妨害されていないこと,例年とは状況が異なることとを比較した。
「著しく不公正」を理由とする場合は,裁量棄却(会社法831条2項)は問題とならない。

採点実感は,賛成の議決権を行使すれば商品券を受ける関係に着目して特別の利害関係(会社法831条1項3号)を付加的に検討した答案を相対的に高く評価した一方,招集して議案を提案した乙社を特別利害関係人とする答案は適切でないとしている(採点実感11頁・13頁)。

(3) 設問2:株式の併合の効力を争う手段

株式の併合は,会社の組織に関する行為の無効の訴え(会社法828条)の対象とされていない。
そのため,株式の併合をするための株主総会決議(会社法180条2項)の効力を否定することによって株式の併合が無効となることを主張するのが基本の筋であり,その手段として,特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議の取消しの訴え(会社法831条1項3号)と,決議内容の法令違反による無効確認の訴え(会社法830条2項)がある(出題の趣旨12頁)。
丙社は株式の併合により株主でなくなっているが,決議の取消しにより株主となる者(会社法831条1項後段)に当たることに触れられれば,なお望ましいとされている。
株式の併合の効力は既に生じているから,株式の併合の差止め(会社法182条の3)や,その後の自己株式の処分の差止め・無効は,効力を争う手段にならない(採点実感15頁)。

「著しく不当な決議」又は「決議の内容が法令に違反する」といえる場合について,自分なりの基準とその理論的根拠を示した上で,丙社の案もAらの案も企業価値との関係で客観的に優劣がつけ難いこと,端数の買取価格が公正であることを含む事実関係全体を多面的に評価することが求められている(出題の趣旨13頁)。
採点実感が高く評価したのは,公開会社でない株式会社では少数株主の利益が株式の金銭的価値に尽きないことに着目し,株式の併合に正当な事業目的を要求するといった一般論で事実を評価する答案であり,そのような答案は極めて少数であったとされる(採点実感16頁)。
他方,会社法上,株式の併合の目的は制限されていないとして効力を肯定することも許され,効力を肯定する場合でも,否定する立場からの立論とその当否を検討する姿勢が求められる。

模範解答は,正当な事業目的を要求する一般論を採り,Bの株式をAに集めた上での併合割合の選択と,端数となったCを③で復帰させる設計から,丙社だけを狙い撃ちにする締出しであると評価し,独立維持という甲社側の目的は丙社の要求を拒めば足りることから正当な事業目的とはいえないとした。

(4) 答案作成上の重要点

①条文の文言から出発する。
会社法385条1項は「取締役」,会社法120条1項は「株式会社」と「計算」,会社法828条1項は列挙された行為に限られることを確認すれば,各設問の問題の所在(類推の可否,手段の選択)が見えてくる。
②問われた手段・時点に答える。
小問1は開催をやめさせる手段に限られ,設問2は効力発生後に効力を争う手段に限られるから,それ以外の手段(検査役,報告義務,差止め,価格決定等)を論じても評価されない。
③類推適用は趣旨から論ずる。
文言が外れることの指摘だけで終わらず,規定の趣旨が本件に及ぶかを検討する。
④一般条項(「著しく不公正」「著しく不当」)は,判断基準とその根拠を立ててから事実を評価する。
事実を並べて「よって、著しく不公正であった」とする答案は評価されない。
⑤当事者の立場から検討する。
E又は丙社の訴訟代理人になったつもりで,その利害関係を具体的に検討することが求められている(採点実感19頁)。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

模範解答は,会社法385条1項とは別の被保全権利(監査役の少数株主に対する妨害排除請求権や,決議取消しの訴えを本案とする仮の地位を定める仮処分)は扱っていない(出題の趣旨は「考えられないではない」とするにとどまり,採点実感も説得力のある論述をした答案はほとんどなかったとする。)。
決議無効確認の訴えには提訴期間がなく法的安定性を害するとして,会社法828条を類推適用すべきとする構成も,模範解答では1文で退けるにとどめた。
字数は約5500字で,試験時間内に書き切るには多い。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の別の模範解答

①令和6年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)
②令和6年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した52項目と5段階の重み付け(AI作成)
③令和6年度司法試験民事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した60項目と5段階の重み付け(AI作成)
④令和6年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した55項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑤令和6年度司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した51項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑥令和6年度司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した28項目と5段階の重み付け(AI作成)
⑦令和6年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)

2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事

①株式併合による少数株主の締出し―差止め・決議取消し・買取請求・価格決定(AI作成)
②裁判所の許可を得て株主が招集する株主総会―監査役の差止め,利益供与及び決議取消し(AI作成)
③株主総会決議の取消しの訴えは誰が起こせるか―株主等,決議で地位を失った株主・役員(会社法831条1項後段),提訴期間及び訴えの利益(AI作成)
④令和7年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①法務省・令和6年司法試験論文式試験問題(民事系科目のPDF。第2問は5頁~9頁)
②法務省・令和6年司法試験論文式試験出題の趣旨(PDF。民事系科目第2問は10頁~13頁)
③法務省「令和6年司法試験の採点実感」のうち民事系科目(PDF。第2問は8頁~20頁)
④法務省「令和6年司法試験の結果について」(②へのリンク元)

2 法令

①会社法(平成17年法律第86号)109条,120条,180条,182条の2から182条の6まで,199条,296条から299条まで,309条,360条,381条,382条,385条,828条,830条,831条,834条,839条
②民事保全法(平成元年法律第91号)23条
③民法(明治29年法律第89号)1条

3 裁判例

模範解答では裁判例を用いていない。
第7の4で触れた次の2件は,判例秘書で全文を確認した。
①東京地裁平成19年12月6日判決(平成19年(ワ)第16363号,判例秘書の判例番号 L06234318)(第7の4)
②東京地裁令和6年9月10日決定(令和6年(ヨ)第30142号,判例秘書の判例番号 L07932609)(第7の4)

4 確認状態

出題の趣旨は民事系科目第2問の部分(10頁~13頁)を,採点実感は民事系科目第2問の部分(8頁~20頁)を全て読み,評価項目の根拠とした語句が抽出テキストに実在することを機械的に照合した。
両資料は法務省の公式ページのリンクから取得した。
条文は,e-Gov法令検索のAPIで試験実施時点の版を確認した。

本記事は,次の4段階で作成した。
①公式の出題の趣旨・採点実感を読まずに,問題文と法令(試験実施時点の会社法等)だけから答案を作り,その版を固定した(以下「未読版」という。)。
②固定した後に公式資料を読み,評価項目を抽出して未読版と照合した。
③照合の結果を踏まえて,第5の模範解答を作った。
④本記事を作成した。

未読版は,書くべき事項39項目について本記事の重みを付けた網羅率で約80%(判定の幅を考慮して77%~84%)にとどまり,招集株主が適法に招集する義務を負うこと,会社法120条1項の趣旨についての二つの理解の対比,「著しく不公正」の判断基準を「株主として株式会社から受ける経済的な利益」に置くこと,公開会社でない株式会社における締出しに着目した一般論等が欠け,又は不十分だった。
この網羅率は本記事の評価項目による試算であり,法務省の配点や得点の推計ではない。
なお,未読版の作成に用いた作業手順書の一部には,本問の公式資料を以前に参照して作られた記述が含まれていたことが事後に判明したため,未読版は公式資料を全く参照しない状態で作られたものとまではいえない。

本記事の記述は,次のとおり根拠の種類を区別している。
①法令の条文(会社法385条,120条,296条から299条まで,828条,830条,831条,109条,民法1条等)は,e-Gov法令検索のAPIで,試験実施時点(令和6年7月10日)と事実発生時点(令和3年10月20日)の版を取得して確認した(両時点で使用した条文の文言は同一)。
②評価項目,類推適用の肯定・否定の論拠,「著しく不公正」の判断の軸,正当な事業目的の一般論は,法務省の出題の趣旨・採点実感の記述(公式資料が示す一つの考え方)である。
③模範解答の結論と,会社法298条1項括弧書を準取締役性の根拠に用いる等の理由付けは,本記事の独自の推論である。

裁判例についての確認結果と残る不明点は,次のとおりである。

①採点実感が利益供与に関する下級審裁判例として名指しする東京地裁平成19年12月6日判決(平成19年(ワ)第16363号,判例秘書の判例番号 L06234318)は,判例秘書で全文を確認した。
同判決は,会社が,議決権を行使した株主1名につきQuoカード1枚(500円分)を自らの計算で交付した事案である。
同判決は,会社法120条1項の趣旨を,取締役が会社の負担において株主の権利の行使に影響を及ぼす趣旨で利益供与を行うことを許すと会社法の基本的な仕組みに反し,会社財産の浪費をもたらすおそれがあるため,これを防止することにあるとした。
その上で,株主の権利の行使に関する利益供与は原則としてすべて禁止され,株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づき,個々の株主への額が社会通念上許容される範囲で,総額も会社の財産的基礎に影響しないときに限り,例外的に許容される場合があるとした。
そして,贈呈は会社提案に賛成する議決権行使の獲得をも目的としたもので正当な目的によるものとはいえないとして利益供与に当たるとし,決議の方法の法令違反を理由に決議を取り消した(会社法831条2項による棄却も否定した。)。
本問は,株主総会を招集した株主が自らの費用で賛成者だけに商品券を贈った事案であり,同判決とは供与の主体と計算の点で前提が異なる。
採点実感も,本問では会社法120条1項の要件の一部が満たされていないことが問題となっており,同裁判例とは異なる状況であることを指摘している。
模範解答は,同判決を用いず,「著しく不公正」の主張の中で賛成を条件とする贈呈を評価した。

②少数株主が裁判所の許可を得て招集した株主総会について,監査役が会社法385条の類推適用による差止請求権を被保全権利として開催禁止の仮処分を求めた事案として,東京地裁令和6年9月10日決定(令和6年(ヨ)第30142号,判例秘書の判例番号 L07932609)がある。
同決定は,類推適用の可否には触れず,招集の手続又は決議の方法が法令・定款に違反し,又はそのおそれがあるとはいえず,会社に著しい損害が生ずるおそれもないとして,被保全権利の疎明がないことを理由に申立てを却下した。
株式の併合による特定株主の締出しを直接判断した裁判例は,裁判所ウェブサイトの検索では見つからなかった(見つからなかったことは,存在しないことを意味しない。)。