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保佐人・補助人の権限と実務――同意権・取消権・代理権,金融機関への届出及び令和8年改正(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,保佐人と補助人が,どのような権限を持ち,選任後に何をするのかを,同意権・取消権・代理権の三つの権限を軸に説明するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は令和8年9月18日にe-Gov法令検索で取得した現行条文による。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)の保佐人・補助人の章(149頁~184頁)と,能力の変化への対応(122頁~123頁)及び代理行為目録・同意行為目録の書式(259頁~262頁)である。
本書は2023年時点の記述なので,大阪家庭裁判所の運用は,現行の「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版。以下「大阪家裁ハンドブック」という。)で確かめられたものと,本書の記載にとどまるものを分けて書く。

令和8年法律第45号(民法等の一部を改正する法律)により,法定後見は補助に一元化され,保佐は廃止される。
成年後見部分の施行日は,公布の日(令和8年6月24日)から起算して2年6月を超えない範囲内で政令で定める日であり,基準日現在は未施行である。
本記事の第2から第9までは現行法の説明であり,改正後の姿と,既存の保佐人・補助人が施行時に検討すべきことは第10で扱う。
改正全体の構造は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。

2 結論

①保佐人は,民法13条1項各号の行為について当然に同意権と取消権を持つが,代理権は審判で付与された範囲に限られる。
補助人は,審判で定められた同意権(民法13条1項の行為の一部に限る。)と代理権の一方又は双方を持つにとどまる。
②代理権の付与は,本人以外の請求によるときは本人の同意が要件である(民法876条の4第2項,876条の9第2項)。
代理権が付与されても本人は自らその行為をすることができ,本人の行為を取り消せるのは同意権の対象行為に限られる。
③同意権しかない保佐人・補助人も,元本の領収(預貯金の払戻し)が同意の対象であれば,金融機関へ届け出るべきである。
もっとも,大阪家裁後見センターは,保佐・補助で本人が通帳を渡さないなど非協力的な場合には,金融機関に届け出ずに本人に預貯金の管理を委ねる例が多く,同意権だけを持つ保佐人等が金融機関に届け出て預貯金を管理する例はほとんど見られないとしている(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)87頁~88頁)。
同書は,その場合の初回報告は判明した範囲で提出し,必要に応じて代理権付与の審判の取消しも検討するとしている。
④成年後見人の郵便物の回送嘱託(民法860条の2),財産目録の作成期間(民法853条)及び死後事務(民法873条の2)の規定は,保佐人・補助人に準用されていない。
⑤報酬付与の審判は,報酬の支払を命ずる審判ではなく,民事執行法22条の債務名義に当たらないから,本人の預貯金を管理していない保佐人・補助人は,本人を説得して任意に支払を受けるほかない。
⑥令和8年改正の施行後も,施行日前に開始した保佐は原則として従前の例によって続くが,保佐人の解任と意向の尊重には改正後の規定が適用され,保佐人は補助開始の審判を請求することができる。
既存の補助は改正後の補助とみなされ,同意権・代理権の一つ一つについて必要性が問われることになる。

第2 保佐と補助の基本構造

1 保佐

民法11条は,「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」について,家庭裁判所が保佐開始の審判をすることができると定める。
保佐開始の審判を受けた者は被保佐人とされ,保佐人が付される(民法12条)。
本書149頁は,「著しく不十分」とは,後見相当ではないが,支援を受けなければ契約等の意味・内容を自ら理解し判断することができず,法律行為を行うに当たって常に援助が必要な場合をいうと説明する。
大阪家裁ハンドブック4頁(Q2)も,日常の買い物程度のことは自分でできても,重要な行為をするときは常に支援が必要となる人を被保佐人と説明している。

2 補助

民法15条1項は,「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」について補助開始の審判を定め,本人以外の者の請求によるときは本人の同意が必要である(同条2項)。
補助開始の審判は,補助人の同意を要する旨の審判(民法17条1項)又は補助人に代理権を付与する旨の審判(民法876条の9第1項)とともにしなければならない(民法15条3項)。
したがって,補助人の権限は,①代理権だけ,②同意権・取消権だけ,③その双方,の三通りになる(本書173頁,大阪家裁ハンドブック6頁~7頁)。

3 権限の比較

項目保佐人補助人
同意権・取消権民法13条1項各号は当然に付与。同条2項で拡張可審判で定めた行為だけ(民法13条1項の行為の一部)
代理権審判で付与した特定の法律行為だけ同左
代理権付与への本人の同意本人以外の請求なら必要同左
同意権付与への本人の同意不要本人以外の請求なら必要(民法17条2項)

保佐人の同意を要する行為の定めの審判と代理権の範囲は,いずれも登記される(後見登記等に関する法律4条1項5号・6号)。
被保佐人は,同意権を拡張する審判に対して即時抗告をすることができる(家事事件手続法132条1項4号)。
これに対し,補助人の同意を要する旨の審判と,保佐人・補助人に代理権を付与する審判については,即時抗告の規定がない(家事事件手続法132条1項,141条1項)。
本書174頁は,これらはいずれも本人が反対すれば審判できないものだからであると説明する。

第3 同意権と取消権

1 保佐人の法定の同意権

民法13条1項は,被保佐人が同項各号の行為をするには保佐人の同意を得なければならないと定め,ただし書で「第九条ただし書に規定する行為」,すなわち日用品の購入その他日常生活に関する行為を除いている。
本書152頁~154頁の解説のうち,実務でよく問題になるものは次のとおりである。

(1) 元本の領収(1号)と預貯金の払戻し

預貯金の払戻しは「元本を領収し」に当たるが,食料品の購入や公共料金の支払に必要な範囲の引出しは日常生活に関する行為であり,取り消すことができない(本書152頁)。
具体的な線引きは,本人の資産・収入・生活状況を総合して判断するほかない。
本書152頁は,本人に一定の範囲で払戻しを認める方法として,本人が自由に払い戻せる口座を特定して届け出て,残りの口座を保佐人が管理する方法や,「1回につき○万円まで,月額○万円までは同意する」といった包括的な同意書を出しておく方法を挙げている。

(2) 重要な財産に関する権利の得喪(3号)

売買,担保の設定,賃貸借や使用貸借の締結・解除のほか,相当の対価を伴う有償の役務提供契約(介護契約,施設入所契約等)も3号の対象と解されている(本書152頁)。
「重要な」財産か否かは,本人の財産状態だけでなく生活状況(1か月当たりの家計収支等)も考慮して判断すべきであるとされる(本書153頁)。
そのため相手方との間で疑義が生じやすく,消費者被害が心配される本人については,「金5万円以上の物品購入契約,役務提供契約,工事契約」のように同意権を拡張しておくことが考えられる(本書153頁)。

(3) 訴訟行為(4号)

被保佐人が訴えを提起するには保佐人の同意が必要であるが,相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには,保佐人の同意その他の授権を要しない(民事訴訟法32条1項)。
他方,訴えの取下げ,和解,請求の放棄・認諾等には特別の授権が必要である(同条2項)。
本書153頁は,保佐人が訴訟行為の代理権を付与されている場合でも,和解等で終結する見込みがあるときは,これらの行為についても代理権の付与を受けておく必要があると指摘する。
人事訴訟では,民法13条・17条と民事訴訟法32条1項・2項は適用されないから(人事訴訟法13条1項),被保佐人も単独で訴訟行為をすることができる。

(4) その他の号

相続の承認・放棄及び遺産分割(6号),民法602条の期間を超える賃貸借(9号)も同意の対象である。
10号は,1号から9号までの行為を「制限行為能力者」の法定代理人としてすることを同意の対象とする。
代理人が制限行為能力者であっても行為能力の制限を理由に取り消せないのが原則であるが(民法102条本文),他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為はその例外とされ(同条ただし書),10号はこれに対応する(本書154頁)。

2 同意権の拡張と補助人の同意権

(1) 保佐人の同意権の拡張

家庭裁判所は,民法11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により,民法13条1項各号以外の行為についても保佐人の同意を要する旨の審判をすることができる(民法13条2項)。
本人の同意は要件ではない。
ただし,日常生活に関する行為は拡張の対象にできない(同項ただし書)。
本書155頁は,有償の役務提供契約は既に3号に含まれるので,拡張の対象となるのは,無償の契約や,対価が重要な財産とはいえない程度の契約であると説明する。

(2) 補助人の同意権

補助人の同意を要する旨の審判は,「第十三条第一項に規定する行為の一部に限る」(民法17条1項ただし書)。
本人以外の請求によるときは本人の同意が必要である(同条2項)。
本書261頁~262頁の同意行為目録(書式25)は,民法13条1項各号を並べたうえで,例えば1号について「預貯金の払戻し」「債務弁済の受領」「金銭の利息付貸付け」,3号について「本人の所有の土地又は建物の売却」「通信販売(インターネット取引を含む。)又は訪問販売による契約の締結」「クレジット契約の締結」等に細分してチェックさせる形式をとり,民法13条1項各号の行為の一部である必要があると注記している。

3 同意に代わる許可

保佐人・補助人が,本人の利益を害するおそれがないのに同意をしないときは,家庭裁判所は,本人の請求により,同意に代わる許可を与えることができる(民法13条3項,17条3項)。
同意又はこれに代わる許可を得ないでした行為は,取り消すことができる(民法13条4項,17条4項)。
許可を得てした行為は取消しの対象にならない。

4 取消権とその行使

民法120条1項は,行為能力の制限によって取り消すことができる行為は,制限行為能力者又はその代理人,承継人若しくは「同意をすることができる者」に限り取り消すことができると定める。
保佐人・補助人は「同意をすることができる者」として取消権を持つから,取消権の範囲は常に同意権の範囲と一致する(本書155頁)。
もっとも,取消しは本人が自らの意思でした行為の効果を否定するものである。
本書159頁は,本人の身体や財産その他の利益を著しく損なう場合には取消権を行使して利益の回復を図るべきであるが,それほど大きな不利益がないときは,追認して法律関係を確定させるか,そのままにしておくこともあり得るとする。
大阪家裁ハンドブック4頁(Q2)も,不利益と考えられる場合には取り消し,不利益でないと考えられる場合には追認すると説明している。

5 携帯電話・スマートフォンの契約

本書174頁~175頁は,携帯電話・スマートフォンの購入・利用契約を具体例として取り上げる。
利用料は通話料・通信料や課金・代行決済で高額になり得るから,原則として民法13条1項3号の「重要な財産」に関する行為に当たると考えられるが,通話料・通信料が定額で上限があり,代行決済にも本人の生活費を圧迫しない上限が設定されている場合には,日常生活に関する行為として取り消せないと考えるのが相当であるとする。
機器の購入は,高額なものが多いので原則として3号に当たるとする。
ただし,重要な財産かどうかは本人の収入や資産との関係で決まるため,疑義を避ける観点から,「携帯電話等の購入・利用契約」「月額○万円を超える携帯電話等の購入・利用契約」などを同意行為目録に明記しておくことが有効であるとしている。
なお,代理行為目録(書式24)にも,情報通信(携帯電話・インターネット等)に関する契約の締結・変更・解除及び費用の支払という項目がある(本書259頁)。

第4 代理権の付与と本人の同意

1 代理権付与の審判

家庭裁判所は,民法11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって,「被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判」をすることができる(民法876条の4第1項)。
補助人についても同様である(民法876条の9第1項)。
本人以外の者の請求によってこの審判をするには,本人の同意がなければならない(民法876条の4第2項。補助は876条の9第2項で準用)。
代理権付与の申立ては,開始の審判の申立てとともにすることも,開始後に追加的にすることもできる(本書156頁,175頁)。
大阪家裁ハンドブック5頁(Q2)は,審判書謄本に記載されていない法律行為についてさらに代理権が必要になった場合は新たな代理権付与の審判が必要であり,裁判所は本人の意見を聴いたうえで必要性等を考慮して審判すると説明している。

2 代理行為目録

代理権付与の申立てでは,家庭裁判所が作成した代理行為目録(書式24)を使う(本書156頁)。
本書259頁~260頁の目録は,①財産管理関係(不動産,預貯金等の金融関係,保険,収入の受領・支出,情報通信契約,債務の弁済,債権の回収),②相続関係(相続の承認・放棄,遺産分割,遺留分侵害額請求等),③身上保護関係(介護契約等の福祉サービス契約,要介護認定等の申請,施設入所契約,医療契約・入院契約),④その他(税金の申告,登記の申請,マイナンバーに関する手続,住民票の異動,家事審判・訴訟等の手続),⑤関連手続,に分かれている。
預貯金の取引について,全口座ではなく一部の口座に限った代理権の付与も想定されており,本人の経済活動を維持しつつ必要最小限の保護を図ることができる(本書175頁~176頁)。
遺言や婚姻・認知等の一身専属的な行為は代理権の対象にならない(本書156頁)。

3 代理権と同意権・取消権の関係

代理権の対象は同意権の対象に限られず,日常生活に関する行為も代理権の対象にすることができる(本書149頁,156頁)。
反対に,ある行為に代理権が付与されても,本人はその行為を自らすることができる(本書157頁)。
例えば遺産分割について保佐人に代理権が付与されていても,本人が内容を理解して意思表示できるのであれば,本人が協議書に署名押印し,保佐人が同意する旨の署名押印を添える方法でもよい(本書157頁)。
そして,民法13条1項各号以外の行為に代理権が付与されただけでは,本人がその行為をしても取り消すことはできない。
本人が自らその行為をすることを制限する必要があるときは,代理権とは別に同意権拡張の審判を申し立てておく必要がある(本書157頁)。

4 財産管理権

成年後見人には包括的な財産管理権(民法859条1項)があるが,保佐人・補助人にはこれに当たる規定がない。
保佐人・補助人は,付与された代理権に付随して,その範囲で本人の財産を管理する権限を持つと解されている(本書157頁,176頁)。
例えば「預貯金及び出資金に関する金融機関等との一切の取引」の代理権があれば,通帳やキャッシュカードを保管することができる。
逆に,財産の管理・保存に関する代理権がなければ,本人の財産の占有を確保することはできない(本書150頁)。
大阪家裁ハンドブック11頁・13頁も,保佐人・補助人は審判で定められた代理権の範囲内で財産を管理するのであって,財産調査や収支予定の作成も付与された代理権の範囲内で行うべきであると注意している。

第5 保佐人・補助人の義務

1 意思尊重義務と身上配慮義務

民法876条の5第1項は,「保佐人は、保佐の事務を行うに当たっては、被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と定め,補助人にも準用される(民法876条の10第1項)。
代理権の行使でも,費用の支払のように本人の意向にかかわらず行うべき事務は別として,施設の選択や不動産の処分のような重要な行為は,できるだけ本人の決定に沿うべきである(本書159頁)。

身上配慮義務の範囲について,本書158頁及び177頁は,権限が限定されている以上,付与された事務についてのみ負うとする見解を紹介したうえで,代理権の追加付与や同意権の拡張が認められていることから,事務を行うに当たって課題が生じ得る周辺の範囲にも及ぶと考えるのが相当であるとする。
例えば,ケアマネジャー等の支援者から,保佐人の権限の及ばない法律行為について課題が示されたときは,権限の追加を検討すべき立場にあるということである。
他方で,本書177頁は,遺産分割だけの代理権を付与された補助人が,福祉サービスが足りているかまで配慮しなければならないとはいえないとも述べている。

2 善管注意義務と第三者に対する責任

保佐人・補助人は善管注意義務を負う(民法876条の5第2項・876条の10第1項による644条の準用)。
本人が第三者に損害を与えた場合に保佐人が民法714条の監督義務者の責任を負うかについて,本書168頁は,最高裁平成28年3月1日判決(平成26年(受)第1434号,民集70巻3号681頁)を踏まえつつ,保佐人の権限が同意権や特定の代理権に限られていることからすれば,同居の親族のような場合でない限り,監督義務を引き受けたとみられることはないであろうとする。
同判決は,法定の監督義務者に該当しない者でも,監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなど,監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,法定の監督義務者に準ずべき者として民法714条1項が類推適用されると判示したものである(裁判所HP)。
もっとも,本人所有の建物の管理を代理権で任されている保佐人が,危険な状態を知りながら放置した場合には,保佐人自身の不法行為責任が問題になり得る(本書169頁)。

第6 選任直後の実務

1 本人と関係者への説明

保佐人・補助人の権限は限られているが,記録の閲覧,本人・関係者との面談が必要なことは成年後見人と変わらない(本書161頁,179頁)。
特に同意権だけの場合,本人がどの行為に同意が必要かを理解し続けているとは限らない。
本人に分かるように権限を説明し,同意が必要な行為をするときは事前に相談してほしいと伝え,気軽に相談してもらえる関係を作ること,支援者から連絡が入る体制を作ることが重要である(本書161頁)。

2 金融機関への届出

(1) 代理権がある場合

金融機関との取引の代理権が付与されたときは,金融機関に保佐人・補助人を届け出る。
金融機関によっては届出書に本人の署名押印を求めることがある。
本書161頁及び179頁は,代理権は本人の了解のもとに付与されているのだから金融機関が改めて本人の了解を求めるべきものとは思われないとしつつ,手続が進まないのであれば本人の署名押印を得て届け出るのも一つの方法であるとする。
大阪家裁ハンドブック15頁(Q8)は,預貯金に関する金融機関等との取引について代理権を付与された保佐人・補助人の口座名義や口座開設の必要書類は成年後見人と同様であるとしている。

(2) 同意権しかない場合

元本の領収が同意の対象であれば,金融機関に対し本人の行為能力が制限されていることを示しておく必要があり,届出が必要である(本書162頁,180頁)。
保佐人には金融機関への届出の代理権がないとして,保佐人からの届出を拒む金融機関もある。
本書162頁は,届出の必要性を示す裁判例として東京高裁平成22年12月8日判決(平成22年(ネ)第5782号,金融・商事判例1383号42頁,金融法務事情1949号115頁。裁判所HP未掲載)を挙げている。
同判決は,保佐開始の審判を受けた本人が,保佐人の同意を得ずにATMで預金を払い戻して浪費した後,払戻しを取り消して預金の返還を求めた事案である。
信用金庫の普通預金規定は,補助・保佐・後見が開始されたときは直ちに成年後見人等の氏名その他必要な事項を書面で届け出るよう求め,その届出の前に生じた損害について金融機関は責任を負わないと定めていた。
同判決は,保佐人が通帳やカードの管理を十分にするほか,金融機関に審判を届け出てATMによる払戻しを不可能にするなどの措置を執らない限り被保佐人の保護が全うされないことが明らかであるとして,この条項を被保佐人等の保護と取引の安全の調和を図るための合理的な定めとして有効とし,本人は届出前にした払戻しを取り消すことができないと判断した。
つまり,届出を怠ると,同意のない払戻しであっても取り消せなくなるおそれがある。
本書162頁は,どうしても届出を拒まれるときは内容証明郵便で保佐開始を通知することも考えられ,本人自身による届出が可能であれば,その方が円滑に進むこともあるとしている。
本書151頁は,金融機関によっては届出をすると本人による入出金が一切できなくなるとも指摘している。
そのため,第3の1(1)で述べた口座の使い分けや包括的な同意書を,届出と同時に設計しておくのが実際的である。

3 郵便物

成年後見人への郵便物の回送嘱託(民法860条の2・860条の3)は,保佐人・補助人に準用されていない(民法876条の5第2項,876条の10第1項は860条の2を掲げていない)。
そのため,保佐人・補助人は,代理権の範囲内で,役所や事業者に送付先変更の手続をとることができるにとどまる(本書162頁)。
回送嘱託の仕組みは,成年後見人への郵便物の回送嘱託で扱っている。
なお,本書162頁は送付先変更の例として健康保険証を挙げるが,健康保険証は令和6年12月2日に新規発行が停止され,令和7年12月1日に有効期限が終了しており,現在は資格確認書である(成年後見人のマイナンバーカード管理)。

4 財産目録と裁判所への報告

成年後見人の財産目録の作成(民法853条)と支出金額の予定(民法861条1項)の規定は,保佐人・補助人に準用されていない。
他方,家庭裁判所の監督に関する民法863条は準用されているから(民法876条の5第2項,876条の10第1項),家庭裁判所は,いつでも保佐人・補助人に事務の報告や財産目録の提出を求めることができる。
本書162頁及び180頁は,民法853条が準用されないため期間伸長の申立てはできず,期限までに初回の財産目録を出せないときは,その事情と今後の財産調査の方針を裁判所に報告すべきであるとする。
本人が自ら通帳を持っていて引継ぎを受けられないこともあるが,その場合でも判明している内容を報告しておくべきである(本書162頁)。

大阪家裁の運用について,本書162頁は,財産管理に関する代理権を付与された保佐人・補助人に,審判確定後1か月以内(原則)に財産目録及び収支予定表を提出させ,年1回の定期報告もさせていると記載する。
現行の大阪家裁ハンドブックは,代理権の範囲内で速やかに財産の内容や収支状況を調査して財産目録・収支予定表を提出すること(11頁・13頁),初回報告は審判書謄本に同封された「手続の流れ」に記載された提出期限までに出し,間に合わないときは理由と見込み日を連絡すること(34頁),預貯金に関する代理権の範囲内で財産を管理する保佐人・補助人は1年に1回報告すること(23頁)を定めている。
定期報告は本人の誕生月に自主的に提出する方式で,裁判所から提出を促す書面は送られない(同36頁)。
報告書の書式は令和7年4月の全国統一書式であり,書き方は令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方で扱っている。

第7 居住用不動産・利益相反・複数選任

1 居住用不動産の処分

民法859条の3は保佐人・補助人に準用されている(民法876条の5第2項,876条の10第1項)。
したがって,本人の不動産の売却等について代理権を持つ保佐人・補助人が,本人を代理して居住用不動産を処分するには,家庭裁判所の許可が必要である(本書163頁,180頁~181頁)。
当初から特定の居住用不動産の処分について代理権付与を求める場合は,代理権付与の審判と処分許可の審判が同じ審判書に記載されることがある(本書163頁)。
代理権がない場合,保佐人・補助人は売却できず,本人の売却に同意するか否かを判断する立場にとどまる(本書163頁)。

本人自身が居住用不動産を処分する場合には,条文上,家庭裁判所の許可は不要と解されている(本書163頁)。
しかし,保佐人がこれを黙認すれば許可の制度を潜脱することになりかねないから,保佐人は同意権を適切に行使し,本人による処分を知ったときは直ちに家庭裁判所に報告して協議すべきであり,処分の効果は原則として取消権で対応すべきであるとされる(本書163頁~164頁)。
許可申立ての実際は成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可で扱っている。

2 臨時保佐人・臨時補助人

保佐人・補助人と本人との利益が相反する行為については,保佐人・補助人は臨時保佐人・臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない(民法876条の2第3項,876条の7第3項)。
保佐監督人・補助監督人があるときは不要である(同各項ただし書)。
大阪家裁ハンドブック21頁(Q14)は,遺産分割や抵当権の設定について代理権を付与された保佐人・補助人と本人との間でこれらの行為をする場合を例に挙げ,選任された臨時保佐人・臨時補助人が同意権(取消権)・代理権を行使すると説明している。

3 複数の保佐人・補助人

家庭裁判所は,数人の保佐人・補助人を選任することができる(民法876条の2第2項・876条の7第2項による843条3項の準用)。
共同行使又は事務分掌の定めをすることもできる(民法876条の5第2項・876条の10第1項による859条の2の準用)。
定めがなければ,同じ行為について代理権・同意権を付与された各保佐人・補助人は,それぞれ単独で代理し,同意し,取り消すことができる(本書164頁,181頁)。
本書181頁は,補助では弁護士と社会福祉士が選任されて権限を分掌することがしばしばあるとし,本人を混乱させないため補助人間で情報を共有すべきであるとする。

第8 報酬の回収

家庭裁判所は,保佐人・補助人に,本人の財産の中から相当な報酬を与えることができる(民法876条の5第2項・876条の10第1項による862条の準用)。
報酬を受けるには申立てが必要であり,大阪家裁ハンドブック47頁によれば,申立てには収入印紙800円と郵便切手110円(令和8年1月現在の額)が要る。
報酬額の目安は成年後見人等の報酬額の目安で扱っている。

問題は,保佐人・補助人が本人の預貯金を管理していない場合である。
この場合,保佐人・補助人は,報酬付与の審判で定められた報酬を本人に請求することになる(本書165頁,182頁)。
家事事件手続法75条が執行力を認めるのは「金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判」であり,報酬付与の審判は報酬を与えるものであって支払を命ずるものではない。
本書165頁及び182頁は,報酬付与の審判は民事執行法22条の債務名義に当たらないから,同審判をもって本人の財産に強制執行をすることはできず,報酬の趣旨を本人に説明して任意の支払を受けられるよう説得するほかないとする。
実務上は,代理権付与の申立ての段階で,報酬の支払を含む支出の代理権をどの範囲で求めるかを検討しておく意味がある。

第9 能力の変化への対応と終了

1 権限の追加と取消し

本人の生活の変化に応じて,同意権の拡張(民法13条2項,17条1項)や代理権の追加付与(民法876条の4第1項,876条の9第1項)を申し立てることができる。
本書123頁は,在宅生活から施設入所に変わる場合の施設入所契約や,訴訟が必要になった場合の訴えの提起を例に挙げる。
補助で本人が権限の追加に同意しないときは,理由を尋ね,必要性を説明して理解を得るよう努め,同意しないことが判断能力の低下によるのであれば類型変更を検討せざるを得ないこともある(本書178頁)。

反対に,必要がなくなった権限は取り消すべきである。
家庭裁判所は,請求により,保佐人の同意権拡張の審判(民法14条2項),補助人の同意を要する旨の審判(民法18条2項),代理権付与の審判(民法876条の4第3項,876条の9第2項)の全部又は一部を取り消すことができる。
補助人の同意権と代理権をすべて取り消す場合には,家庭裁判所は補助開始の審判を取り消さなければならない(民法18条3項)。
大阪家裁ハンドブック7頁(Q3)は,代理権や同意権を行使する可能性がなくなったときは,放置せず速やかに取消しの審判を申し立てるよう求めている。

2 類型の変更

判断能力が変動して別の類型に移る必要があるときは,新たな類型の開始の審判を申し立てる。
新たな開始の審判をするときは,家庭裁判所は元の類型の開始の審判を取り消さなければならない(民法19条)。
開始の原因が消滅したときは,保佐開始・補助開始の審判を取り消さなければならないが(民法14条1項,18条1項),その後に別の類型の開始の審判を職権ですることはできないから,申立てがなければ何の審判もない状態になる(本書122頁)。
本書122頁及び160頁は,保佐から後見への移行は権利制限が大きいから慎重に検討すべきであり,必要な代理権が付与されていれば,判断能力が後見相当になっても保佐のままで対応することも十分理由があるとする。

開始の申立ての段階では,後見・保佐・補助は別個の申立てであり,大阪家裁後見センターは,申し立てられた類型と異なる類型が相当と考えるときは申立ての趣旨の変更を促し,これに応じなければ申立てを却下するとしている(大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)36頁~37頁)。
代理権は「本人所有の不動産の売却」程度の特定で足りるが(同書40頁注9),代理行為は一つ一つ本人の意向を確認して厳選する必要がある(同書40頁~41頁)。
本人による申立てと申立ての意思の確認は,本人による後見等開始の申立て――手続行為能力,申立意思の確認と説明状況報告書で扱っている。

3 終了事務と死後事務

保佐人・補助人も,任務終了時の応急処分義務(民法654条)と管理の計算義務(民法870条)を負う(民法876条の5第3項,876条の10第2項)。
もっとも,権限が限られているから,従前の権限に応じてできる限り行えば足りるとされる(本書166頁,183頁~184頁)。

成年後見人の死後事務に関する民法873条の2は,保佐人・補助人には準用されていない(民法876条の5第3項,876条の10第2項は873条を掲げるが873条の2を掲げていない)。
そのため,本人の死後に預貯金口座が凍結されても,保佐人・補助人は民法873条の2第3号の許可を得ることができず,民法897条の2第1項の「相続財産の保存に必要な処分」として払戻しを命ずる審判の申立てを検討することになる(本書167頁,184頁)。
本書167頁は,保佐人が預貯金を管理している場合に,本人の死期が迫った時点で家庭裁判所に報告したうえで預貯金の一部を引き出し,現金出納帳で厳格に管理することが特別に認められているとも記載するが,この取扱いは現行の大阪家裁ハンドブックでは確認できなかった。
成年後見人の死後事務の全体像は成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることで扱っている。

第10 令和8年改正

1 保佐の廃止と補助への一元化

令和8年法律第45号による改正後の民法(以下「改正民法」という。)は,後見・保佐を廃止し,法定後見を補助に一元化する。
改正民法7条1項は,「精神上の理由により事理を弁識する能力が不十分である者」について補助開始の審判をすることができるとし,同条3項は,補助開始の審判を,改正民法9条1項(同意),10条1項(特定補助)又は11条1項(代理権)の審判のいずれかをする必要がある場合に,これらと同時にしなければならないとする。
改正民法13条から19条までは削除される。
以下の条番号は,法務省の新旧対照条文とe-Gov法令検索の未施行版(令和8年法律第45号による改正後の民法)で確かめたものである。

2 同意権(改正民法9条)

改正民法9条1項は,家庭裁判所は,「必要があると認めるときは」,補助開始の審判を受けた者が特定の行為をするには補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができると定める。
現行の保佐のように一定の行為に当然に同意権が生じる仕組みはなくなり,同意権は一つ一つ必要性を審査して付与されるものになる。
本人以外の請求によるときは本人の同意が必要であるが,本人がその意思を表示することができない場合は,この限りでない(同条3項)。

対象となる「特定の行為」は,改正民法9条2項各号の行為のうち家庭裁判所が定めるものに限られる。
現行の民法13条1項と比べると,1号に「預金又は貯金の預入又は払戻しの請求をすること。」が独立の号として置かれ,4号に「居住の用に供する建物の大修繕に関する工事の請負契約その他の重要な役務の提供に関する契約を締結すること。」が置かれた。
現行13条1項8号の「新築、改築、増築又は大修繕をすること。」に当たる号は置かれていない。
11号は「前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者及び前項又は次条第一項の規定による審判を受けた者をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。」である。
現行の保佐のように同項各号以外の行為へ同意権を拡張する規定はないから,例えば本記事第3の5で述べた携帯電話の契約のような行為は,改正民法9条2項各号のいずれかに当てはめて同意行為を定めることになると考えられる。
同意に代わる許可(同条4項)と取消し(同条5項)の構造は現行法と同じである。

3 特定補助(改正民法10条)

改正民法10条1項は,補助開始の審判を受けた者が「精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」であり,かつ必要があると認めるときに,特定補助人を付する旨の審判をすることができるとする。
この審判を受けた者がした改正民法9条2項各号の行為(日常生活に関する行為を除く。)は取り消すことができ(改正民法10条2項),それ以外の特定の行為も審判で取消しの対象にすることができる(同条3項)。
特定補助人の権限は,取消権の行使,意思表示の受領及び財産に関する保存行為である(同条5項)。
財産目録の作成(改正民法876条の15)と郵便物等の管理(改正民法876条の16・876条の17)は特定補助人についての規定であり,特定補助人でない補助人には,現行の保佐人・補助人と同じく郵便物の回送嘱託の制度はない。

4 代理権(改正民法11条)と審判の取消し(改正民法12条)

代理権の付与も,家庭裁判所が「必要があると認めるとき」に限られ(改正民法11条1項),本人以外の請求によるときは本人の同意が必要である(ただし,本人が意思を表示できない場合を除く。同条2項)。
改正民法12条は,開始原因の消滅による補助開始の審判の取消し(1項)に加え,同意権・特定補助・代理権の各審判について,家庭裁判所が「必要がなくなったと認めるとき」に全部又は一部を取り消すことができると定め(2項~5項),同意権・特定補助・代理権の各審判をすべて取り消す場合には補助開始の審判を取り消さなければならないとする(6項)。
さらに,補助人は,毎年1回一定の時期に,本人の状況その他家庭裁判所の命ずる事項を家庭裁判所に報告しなければならず(改正民法876条の21第1項),家庭裁判所は,その報告を受けて改正民法12条1項から5項までに該当するときは,職権で取消しの審判をすることができる(同条2項)。
現行の大阪家裁の運用では年1回の報告は財産管理の代理権を持つ保佐人・補助人に求められているが,改正後は同意権だけの補助人を含むすべての補助人に法律上の報告義務が生じる。

5 意向の尊重(改正民法876条の11)

改正民法876条の11第1項は,補助人は,補助の事務を行うに当たっては,本人の心身の状態に応じて,「その者に対し、その事務に関する情報の提供をしてその者のその事務に関する陳述を聴取することその他の適切な方法により、その事務に関する意向を把握するようにしなければならない。」と定める。
同条2項は,そのようにして把握した意向を尊重し,心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないとする。
現行の民法876条の5第1項の「意思を尊重し」に比べ,意向を把握するための方法まで条文に書き込まれた点が新しい。

6 その他の変更

①居住用不動産の処分許可は,居住用不動産の処分について代理権を付与された補助人に求められる(改正民法876条の13)。
②臨時補助人は改正民法876条の14に置かれる。
③報酬は改正民法876条の19に置かれ,「補助の事務の内容」が考慮要素として明記される。
④補助人の解任事由に「補助開始の審判を受けた者の利益のため特に必要があるとき」が加わり(改正民法876条の5第3号),この事由による解任は欠格事由にならない(改正民法876条の6第2号)。
⑤死後事務は改正民法876条の26に置かれ,補助人は,家庭裁判所の許可を得て火葬又は埋葬に関する契約を締結することができ(1項),死亡時の権限内の行為に限って相続財産の保存行為等をすることができる(2項)。
現行法で保佐人・補助人に死後事務の規定がないという問題は,改正後の補助人については手当てされる。
⑥民事訴訟法32条は「補助開始の審判を受けた者」の規定に改められ,人事訴訟法13条1項の適用除外も改正民法9条・10条2項・3項等に改められる(整備法の新旧対照条文)。

7 経過措置

経過措置は,法務省が公表している法律案本文の附則で確かめた。
附則3条1項は,施行日前に保佐開始の審判がされた被保佐人並びにその保佐人及び保佐監督人に関する民法の規定の適用については,附則に特別の定めがある場合を除き,なお従前の例によるとする。
つまり,既存の保佐は施行によって自動的に補助へ移行せず,現行の民法13条以下の規定により続く。
附則3条2項は,後見についての附則2条2項から7項までを保佐に準用しており,その内容は次のとおりである。
①保佐人・保佐監督人の解任には改正民法876条の5が適用される(附則2条2項)。
②保佐人による本人の意向の尊重と配慮には改正民法876条の11が適用される(附則2条3項)。
③保佐人・保佐監督人は,本人について改正民法による補助開始の審判(9条1項,10条1項・3項,11条1項の審判を含む。)を請求することができる(附則2条4項)。
④その審判をするに当たり,家庭裁判所は,施行日前に保佐開始の審判を受けたことを考慮しない(附則2条5項)。
⑤改正民法による補助開始の審判をするときは,家庭裁判所は施行日前の保佐開始の審判を取り消さなければならない(附則2条6項)。
⑥家庭裁判所は,本人,配偶者,四親等内の親族又は保佐人・保佐監督人の請求により,保佐開始の審判を取り消すことができる(附則2条7項)。
また,施行日前にされた保佐開始の審判の請求で,施行日前に審判が確定していないものは,施行日以後は補助開始の審判の請求とみなされる(附則3条3項)。

既存の補助については,附則4条1項が,施行日前の補助開始の審判を改正民法7条1項の補助開始の審判とみなし,被補助人・補助人・補助監督人をそれぞれ改正後の者とみなす。
現行民法17条1項の同意を要する旨の審判は改正民法9条1項の審判と,現行民法876条の9第1項の代理権付与の審判は改正民法11条1項の審判とみなされる(附則4条2項)。
附則4条2項は号の対応を個別に定めていないので,現行民法13条1項の号番号で書かれた同意行為目録が,改正民法9条2項のどの号に当たるかは読み替えて確認する必要がある。

8 施行時に既存の保佐人・補助人が検討すべきこと

既存の保佐人は,次の点を検討することになる。
①保佐はそのまま続き,民法13条1項による法定の同意権もそのまま残る。
他方,解任については「本人の利益のため特に必要があるとき」という改正後の事由が適用されるから,本人との関係が悪化して交代が本人のためになるような場合にも解任があり得ることを意識しておく。
②意向の尊重は改正民法876条の11によるから,本人への情報提供と陳述の聴取を事務の中で行い,その経過を記録して報告書に反映させる。
③本人の現在の判断能力と生活に照らし,保佐のまま続けるか,改正後の補助開始(必要に応じて特定補助)を請求するかを検討する。
補助へ移るときは,同意権も代理権も一つ一つ必要性が審査されるから,現在の法定同意権や拡張された同意権のうち本当に必要なものを,改正民法9条2項各号に当てはめて整理しておく必要がある。
また,補助へ移れば,改正民法876条の26の死後事務の規定や毎年の報告義務の規定の適用を受けることになる。
附則3条2項が改正後の規定の適用を解任と意向の尊重に限っている文言からすると,保佐のまま続く保佐人には改正民法876条の26は及ばず,死後事務は現行と同じく民法897条の2の審判等で対応することになると読むのが素直である。
④保佐の必要自体がなくなっているときは,附則2条7項の準用による保佐開始の審判の取消しの請求も選択肢になる。

既存の補助人は,施行と同時に改正後の補助人とみなされるから,次の点を確認しておく。
①付与されている同意権と代理権の一つ一つについて,改正民法9条1項・11条1項の「必要があると認めるとき」に当たるかを見直し,不要なものは改正民法12条2項・5項により取消しを求める。
毎年の報告を受けた家庭裁判所が職権で取り消すこともあり得る(改正民法876条の21第2項)。
②同意権だけの補助人も毎年の報告義務を負うことになるから,本人の状況を把握する体制を整えておく。
③同意行為目録の号番号の読替えを確認し,金融機関等への説明に備える。
④本人の判断能力が事理を弁識する能力を欠く常況に至っているときは,特定補助人を付する旨の審判(改正民法10条1項)の要否を検討する。

第11 本書刊行後に変わった点と大阪家裁の運用

1 本書刊行後に変わった点

①郵便料金は令和6年10月に改定され,大阪家裁ハンドブックでは報酬付与の申立ての郵便切手は110円(令和8年1月現在の額)とされている(47頁)。
②健康保険証は令和7年12月1日に有効期限が終了し,資格確認書に切り替わった。
③後見等事務報告書等は令和7年4月の全国統一書式に切り替わっている。
④令和8年法律第45号が公布され,保佐の廃止と補助への一元化が決まった(未施行)。
他方,本書が保佐人・補助人の章で引用する民法13条,17条,876条の4,876条の5,876条の9,876条の10等の内容は,e-Gov法令検索で取得した現行条文と食い違っていなかった。

2 大阪家裁の運用

現行の大阪家裁ハンドブックで確認できたのは,次の点である。
①保佐人・補助人は,審判書謄本で付与された権限をまず確認し,代理権の範囲内で財産を管理する(4頁~7頁,11頁)。
②初回報告は「手続の流れ」に記載された期限までに提出する(34頁)。
③預貯金に関する代理権の範囲内で財産を管理する保佐人・補助人は年1回報告する(23頁)。
④利益相反行為については臨時保佐人・臨時補助人の選任を申し立てる(21頁)。
⑤保佐監督人・補助監督人は,後見監督人と異なり,保佐人・補助人が重要な財産行為を行うときでも同意を要しない(27頁)。
⑥権限を行使する可能性がなくなったときは速やかに取消しを申し立てる(7頁)。

これに対し,初回の財産目録を「審判確定後1か月以内(原則)」に出させる運用と,死期が迫った時点での預貯金の一部引出しの取扱いは,本書(162頁,167頁)の記載にとどまり,現行の大阪家裁ハンドブックでは同じ記述を確認できなかった。

第12 出典・参考資料

1 法令

民法(11条~19条,102条,120条,602条,644条,654条,713条,714条,843条,853条,859条,859条の2,859条の3,860条の2,861条~863条,870条,873条の2,876条~876条の10,897条の2) e-Gov法令検索
令和8年法律第45号による改正後の民法(7条,9条~12条,876条の2~876条の26) e-Gov法令検索
民事訴訟法(28条,32条) e-Gov法令検索
人事訴訟法(13条) e-Gov法令検索
民事執行法(22条) e-Gov法令検索
家事事件手続法(75条,132条,141条) e-Gov法令検索
後見登記等に関する法律(4条) e-Gov法令検索

2 裁判例

最高裁平成28年3月1日判決(平成26年(受)第1434号,民集70巻3号681頁) 裁判所HP
東京高裁平成22年12月8日判決(平成22年(ネ)第5782号,金融・商事判例1383号42頁,金融法務事情1949号115頁) 裁判所HP未掲載

3 公的資料

法務省「民法等の一部を改正する法律案」(法律案本文) 法務省
法務省「民法等の一部を改正する法律案新旧対照条文」 法務省
法務省「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案新旧対照条文」 法務省
大阪家庭裁判所「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和8年2月1日版)4頁~7頁,11頁,13頁,15頁,21頁,23頁,27頁,34頁,36頁,47頁 大阪家庭裁判所
大阪家庭裁判所「成年後見」 大阪家庭裁判所

4 文献

大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年)122頁~123頁,149頁~184頁,259頁~262頁
大阪家庭裁判所後見センター編『大阪家庭裁判所後見センターだより』(大阪弁護士協同組合,2025年)36頁~41頁,87頁~88頁

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