第1 自治体が最初に整理すること
自治体が空き家の管理や公共事業の用地取得を進める際には,所有者が死亡しているのか,生存しているが所在不明なのか,所有者を知ることができないのかを区別する必要がある。
その上で,財産全体を管理する必要があるのか,特定の土地・建物だけを対象にすれば足りるのかを検討する。
本記事は,令和8年10月18日に確認した民法及び国土交通省の「空き家対策における財産管理制度の活用に関する参考資料」等に基づき,自治体担当者の制度選択と申立準備を整理する。
本記事は一般の土地・建物を対象とし,区分所有建物に関する特則は扱わない。
管理人等を選任しても,自治体の希望どおりの売却や解体が当然に実現するわけではない。
申立ての根拠,管理の必要性,選任後の許可,費用及び管理終了までを見通して準備する必要がある。
民間の債権者や相続人による一般的な申立ては,相続財産清算人とは及び不在者財産管理人の手続を参照されたい。
第2 状況別の制度選択
| 調査で判明した状況・目的 | 検討する制度 | 申立先と注意点 |
|---|---|---|
| 死亡し,相続人のあることが明らかでない | 相続財産清算人 | 家庭裁判所。遺産全体の清算になる |
| 所有者又は相続人が生存しているが不在である | 不在者財産管理人 | 家庭裁判所。不在者の財産全体が対象になる |
| 特定の土地・建物の所有者又は所在を知ることができない | 所有者不明土地・建物管理命令 | 地方裁判所。土地と建物の対象範囲を別に確認する |
| 所有者の管理が不適当で,他人の権利・利益への侵害等がある | 管理不全土地・建物管理命令 | 地方裁判所。処分許可には所有者の同意の問題がある |
| 相続人はいるが未分割遺産の保存が必要である | 民法897条の2の相続財産管理人 | 家庭裁判所。保存の必要性と除外事由を確認する |
1 死亡した所有者と不在の所有者
所有者が死亡したというだけで,相続財産清算人を選任できるわけではない。
相続人のあることが明らかでないことが必要であり,全員が相続放棄をして相続する者がいなくなった場合も含まれる。
一方,相続人が判明しているが所在不明である場合は,その相続人についての不在者財産管理等を検討する。
死亡や相続放棄の有無を確認せず,「連絡がつかない」という事情だけで清算人の手続を選ぶことはできない。
登記名義人,相続関係,戸籍・住民票等の調査結果と未判明事項を分けて記録する必要がある。
2 財産全体の管理と特定物の管理
不在者財産管理人と相続財産清算人は,自治体が取得したい土地だけを管理する制度ではない。
他の財産や債務も職務の対象となるため,用地の売買が終わっても管理が続く場合がある。
特定の土地・建物だけの管理で目的を達成できるかは,所有者不明土地・建物管理制度との比較事項になる。
所有者不明土地管理命令を得ても,当然にその上の建物まで管理対象になるわけではない。
土地と建物をともに対象にする必要があるか,所有者は同じか,敷地利用権はどうなっているかを調べる必要がある。
各制度の基本的な違いは,相続財産清算人,相続財産管理人及び不在者財産管理人の違いでも説明している。
第3 自治体の申立権と特別法の請求権
1 利害関係人としての申立て
公共事業の用地を取得する必要や,被相続人に対する債権等を理由に,自治体が利害関係人として申立てを検討する場合がある。
この場合には,事業内容,対象物件,所有者との法律関係及び管理人等の選任によって実現しようとする目的を資料で具体化することが重要である。
自治体であることだけで,すべての民法上の制度について当然に利害関係が認められると考えてはならない。
2 空家法等に基づく請求
国土交通省の参考資料は,空家法14条により,所定の必要性がある場合に市町村長が不在者財産管理人,相続財産清算人,所有者不明建物管理命令又は管理不全土地・建物管理命令の請求を行えることを説明している。
同資料は,所有者不明土地法42条に基づく国の行政機関の長等の請求についても整理している。
一般の利害関係人としての請求と,これらの特別法に基づく請求を区別する必要がある。
特別法の請求権があっても,不在,相続人不存在等又は管理不全といった,利用する制度自体の要件が不要になるわけではない。
空き家の状態,周辺への影響,所有者調査及び求める管理行為を整理し,該当する条項と管轄裁判所を確認することになる。
第4 申立て前にまとめる資料と費用
1 案件整理表の作り方
申立準備では,次の事項を一つの案件整理表にまとめるとよい。
① 登記名義人,土地・建物の表示,共有者及び担保権等である。
② 死亡・相続・相続放棄・所在調査の結果と,それを裏付ける戸籍,照会結果等である。
③ 空き家の写真,現地調査記録,周辺への影響及び緊急性である。
④ 申立ての根拠となる利害関係又は特別法の条項と,予定する管理・売却・解体の内容である。
⑤ 評価,契約条件,測量・残置物・解体等の費用及び事業の予定時期である。
⑥ 予納金の予算,支出手続,返還された場合の処理及び関係部署の担当である。
これは自治体内部の準備事項の例であり,全国一律の裁判所提出書類一覧ではない。
具体的な添付書類は,選んだ制度と申立先の裁判所の現行書式に合わせて確認する必要がある。
2 予納金と自治体の費用負担
国土交通省の参考資料は,請求をした者が予納金を納める必要があり,裁判所の判断によって不要となる場合や,管理終了後に返還される場合があると説明している。
財産から費用・報酬を支払えないときは予納金が使われるため,返還を前提に予算を組むことはできない。
選任費用だけでなく,管理期間,解体等の必要額,売却可能性及び追納の可能性も含めて検討する必要がある。
金額は裁判所と事件によって異なる。
清算人の費用の種類は,相続財産清算人の費用・予納金・報酬で説明している。
国交省資料に掲載された過去の公告料等を,現在の裁判所の金額として転記してはならない。
第5 選任後の売却・解体と自治体の立場
1 選任と処分の許可は別の段階である
不在者財産管理人又は相続財産清算人が不動産を売却・解体する場合には,保存・利用改良の範囲を超える行為として,家庭裁判所の権限外行為許可が必要になる。
所有者不明土地・建物管理人についても,権限の範囲を超える処分では地方裁判所の許可を確認する必要がある。
管理不全土地・建物管理人については,処分の許可に所有者の同意が必要となる点にも注意を要する。
自治体は,選任申立人であることを理由に,管理人へ売却先や解体方針を当然に指示できるわけではない。
国土交通省の参考資料も,請求者の希望に沿った方針の管理になるとは限らないとしている。
2 買主となる場合の準備
自治体が土地・建物の買主となる場合には,対象物件,価格の根拠,契約の効力と許可の関係,決済,登記,明渡し及び残置物の扱いを管理人等と確認することになる。
申立て前の事業計画と,選任後に管理人が独立して行う財産調査・条件判断を区別する必要がある。
売買条件の検討には,相続財産清算人による不動産の任意売却及び権限外行為許可も参照されたい。
第6 事業目的の達成後と隣接する問題
不在者財産管理は,用地取得など当初の申立目的が達しただけでは当然に終了しない。
引継ぎ,残金の供託・公告,報酬及び選任処分の取消し等を,制度に応じて処理する必要がある。
相続財産清算人についても,対象物件の売却後に債権者への弁済や残余財産の処理が続くことがある。
葬祭費に充当した後の自治体保管の遺留金については,用地取得とは異なる処理判断が必要である。
相続人への返還,清算人の選任又は弁済供託の選択は,自治体が保管する遺留金の処理で説明している。
第7 出典
① 民法(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)25条,28条,264条の2~264条の14,897条の2及び952条。
② 国土交通省「空き家対策における財産管理制度の活用に関する参考資料」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/002019819.pdf)PDF実頁2~15及び19~27(制度の対象・請求権・費用・フロー・Q&A)。
③ 国土交通省「空き家対策関連施策」(https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html)。
④ 大阪家庭裁判所「相続財産清算人選任申立ての手引き」(https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/seisannin_ippan_tebikiR080105.pdf)(令和8年1月5日版)。
⑤ 旧制度の資料は,相続財産管理人選任申立ての手引に掲載している。
⑥ 空家等対策の推進に関する特別措置法14条(https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC1000000127)。
⑦ 所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法42条(https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC0000000049)。