目次
- 第1 訴額算定の条文上の枠組み
- 第2 付加金請求を訴額へ算入しなかった決定
- 第3 複数請求を同一利益と認めなかった決定
- 第4 不足手数料の追完を認めた旧制度下の決定
- 第5 実務上の帰結
- 第6 関連記事
- 出典・参考資料
申立手数料は訴額に応じて決まる。
しかし,請求書に記載した金額の合計がそのまま訴額になるとは限らない。
請求の法的性質によって訴額へ算入されない部分があり,複数請求を同一の利益とみるかどうかでも結論が変わる。
その判断を誤ると,手数料の過納又は不足が生じる。
本記事では,訴額の算定と手数料の追完について,最高裁判所の三つの決定を紹介する。
いずれも裁判所ウェブサイトの裁判例検索で確認できるものである。
第1 訴額算定の条文上の枠組み
手数料の額の算出の基礎となる訴訟の目的の価額は,民事訴訟費用等に関する法律4条1項により,民事訴訟法8条1項及び9条の規定によって算定する。
民事訴訟法9条1項は,一の訴えで数個の請求をする場合にその価額を合算するとしつつ,ただし書で,その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合を除いている。
同条2項は,果実,損害賠償,違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは,その価額を訴訟の目的の価額に算入しないとしている。
また,財産権上の請求でない請求に係る訴えについては,訴訟の目的の価額を160万円とみなす(費用法4条2項前段)。
財産権上の請求に係る訴えで訴訟の目的の価額を算定することが極めて困難なものについても同様である(同項後段)。
以下に紹介する三つの決定は,この枠組みのうち,9条2項の附帯の目的に当たるかどうか,9条1項ただし書の共通の利益に当たるかどうか,及び納付の瑕疵が治癒されるかどうかが争われたものである。
第2 付加金請求を訴額へ算入しなかった決定
最高裁判所第三小法廷平成27年5月19日決定(平成26年(許)第36号,民集69巻4号635頁)は,労働基準法114条の付加金請求を民事訴訟法9条2項の付帯請求として訴額へ算入しないと判断し,4万8,000円の還付を命じた。
事件名は「手数料還付申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件」であり,原審は大阪高等裁判所(平成26年(ラ)第681号)である。
結論は破棄自判である。
請求書に記載した金額の合計がそのまま訴額になるとは限らず,請求の法的性質によって手数料と還付額が変わる例である。
第3 複数請求を同一利益と認めなかった決定
最高裁判所第三小法廷令和3年4月27日決定(令和2年(行フ)第2号,裁判集民事265号143頁)は,候補者自身の当選無効請求と他候補者の当選無効請求を同一の利益に関する請求とは認めず,訴額を少なくとも320万円とした。
事件名は「手数料還付申立て却下決定に対する許可抗告事件」であり,原審は東京高等裁判所(令和2年(行ケ)第1号)である。
結論は棄却である。
複数請求の訴額を合算するかという評価により,申立人が想定した還付が認められない場合もあることを示す。
第4 不足手数料の追完を認めた旧制度下の決定
最高裁判所第一小法廷平成27年12月17日決定(平成27年(行フ)第1号,裁判集民事251号121頁)は,旧制度下で申立てを却下する命令が出た後でも,その確定前に不足手数料が納付されたときは,申立時に遡って瑕疵が治癒されるとした。
事件名は「訴訟救助申立て却下決定に対する抗告状却下命令に対する許可抗告事件」であり,原審は大阪高等裁判所(平成26年(行ス)第21号)である。
もっとも,同決定は,令和8年施行の民事訴訟法137条の2又は電子納付情報の失効を直接判断したものではない。
現行制度でも期限切れ後に必ず追完できるとの根拠にすることはできない。
表示期限を過ぎた場合は,判例を前提に自己判断で放置せず,事件係へ直ちに確認する必要がある。
第5 実務上の帰結
①請求の法的性質を確認し,訴額へ算入しない部分がないかを検討する。
②複数請求がある場合,同一の利益といえるかを個別に検討する。
③概算表示の金額だけで納付額を確定せず,裁判所が登録した納付情報を照合する。
④過納が判明した場合は,Pay-easyの運営主体ではなく,事件を担当する裁判所へ還付を申し立てる。
⑤納付期限を過ぎた場合は,追完を当然の前提とせず,直ちに事件係へ確認する。
訴額に応じた手数料の計算方法は民事訴訟の申立手数料の計算方法で,還付の要件と手続は訴訟手数料の還付で,それぞれ説明している。
第6 関連記事
①民事訴訟の申立手数料の計算方法
②訴訟手数料の還付
③mintsの手数料をPay-easyで納付する方法
④訴訟費用とは――費目,計算方法,敗訴者負担と回収手続
出典・参考資料
①民事訴訟法(平成8年法律第109号)9条・137条の2
②民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律第40号)4条・9条
③最高裁判所第三小法廷平成27年5月19日決定(平成26年(許)第36号,民集69巻4号635頁)
④最高裁判所第三小法廷令和3年4月27日決定(令和2年(行フ)第2号,裁判集民事265号143頁)
⑤最高裁判所第一小法廷平成27年12月17日決定(平成27年(行フ)第1号,裁判集民事251号121頁)