メインコンテンツへスキップ
       

訴額の算定に関する最高裁判例―付加金,複数請求の同一利益及び不足手数料の追完(AI作成)

申立手数料は訴額に応じて決まる。
しかし,請求書に記載した金額の合計がそのまま訴額になるとは限らない。

請求の法的性質によって訴額へ算入されない部分があり,複数請求を同一の利益とみるかどうかでも結論が変わる。
その判断を誤ると,手数料の過納又は不足が生じる。

本記事では,訴額の算定の条文上の枠組み,裁量算定と基準時,訴額通知に基づく土地・住民訴訟の例に加え,付加金,複数請求及び手数料の追完に関する最高裁判例を説明する。

第1 訴額算定の条文上の枠組み

手数料の額の算出の基礎となる訴訟の目的の価額は,民事訴訟費用等に関する法律4条1項により,民事訴訟法8条1項及び9条の規定によって算定する。

民事訴訟法9条1項は,一の訴えで数個の請求をする場合にその価額を合算するとしつつ,ただし書で,その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合を除いている。
同条2項は,果実,損害賠償,違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは,その価額を訴訟の目的の価額に算入しないとしている。

また,財産権上の請求でない請求に係る訴えについては,訴訟の目的の価額を160万円とみなす(費用法4条2項前段)。
財産権上の請求に係る訴えで訴訟の目的の価額を算定することが極めて困難なものについても同様である(同項後段)。

以下に紹介する三つの決定は,この枠組みのうち,9条2項の附帯の目的に当たるかどうか,9条1項ただし書の共通の利益に当たるかどうか,及び納付の瑕疵が治癒されるかどうかが争われたものである。

訴額の具体的な算定方法と個別例

以下は訴額の具体的な算定に関する資料である。納付額は算定した訴額を基に別途計算する。

(1) 算定が著しく困難な場合の裁量算定

財産権上の請求で訴訟物の価額の算定が著しく困難な場合は,裁判長又は裁判所が,算定にとって重要な諸要因を確定し,これを基礎として裁量により価額を算定することができる(最高裁昭和49年2月5日判決・民集28巻1号27頁)。算定が「極めて困難」なものは費用法4条2項の160万円みなしによるが,「著しく困難」でもなお算定が可能な場合は,この裁量算定によることになる。

(2) 算定の方法と基準時

訴額の算定は,必ずしも鑑定その他の証拠調べによる必要はなく,他の方法で認定することも許される。また,算定は訴え提起の時が基準となります(最高裁昭和47年12月26日判決。判例秘書に掲載。裁判所ウェブサイト未掲載)。

(3) 訴額通知

実務では,訴額は,訴訟物の価額の算定基準について(昭和31年12月12日付の最高裁判所民事局長通知)(訴額通知)に基づいて算定される。訴額通知は裁判所を拘束するものではないが(最高裁昭和47年12月26日判決),訴額の具体的算定を容易とする特段の事情がない限り,訴額は訴額通知の示す基準に従って算定するのが相当とされている(最高裁昭和44年6月24日判決・民集23巻7号1109頁参照)。

(4) 土地を目的とする訴訟

土地を目的とする訴訟物の価額の算定基準は,平成6年4月1日から当分の間,固定資産税評価額に2分の1を乗じた金額が標準とされている(土地を目的とする訴訟の訴訟物の価額の算定基準について(平成6年3月28日付の最高裁判所民事局長の通知))。

(5) 住民訴訟

最高裁昭和53年3月30日判決は,旧制度の地方自治法242条の2第1項4号所定の損害賠償請求訴訟を,非財産権上の請求として扱い,原告の数にかかわらず訴額を当時の法定額35万円としました。現在の費用法4条2項の非財産権上の請求の額は160万円ですが,引用判例の当時の額と現行制度の請求類型を区別する必要があります(最高裁昭和53年3月30日判決・民集32巻2号485頁)。住民訴訟の請求の性質と個数については判例タイムズ1439号(2017年10月1日号)に「住民訴訟の訴額」が掲載されている。実例として,3件の旅費支出行為に関しそれぞれ損害賠償を求める住民訴訟の訴額を160万円×3=480万円とした裁判例がある(東京高裁平成22年4月2日決定・判例時報2121号4頁。裁判所ウェブサイト未掲載)。

被告が控訴する場合について,〔三訂版〕事例からみる訴額算定の手引29頁・30頁は,「住民訴訟においては,請求額にかかわらず,原告の訴え提起時及び控訴提起時の訴額を一律に160万円と解すべきこととの均衡上,被告控訴の訴額も160万円と解するのが相当である」とし,裁判所書記官研修所「民事上訴審の手続と書記官事務の研究」105頁を引いています。

第2 付加金請求を訴額へ算入しなかった決定

最高裁判所第三小法廷平成27年5月19日決定(平成26年(許)第36号,民集69巻4号635頁)は,労働基準法114条の付加金請求を民事訴訟法9条2項の付帯請求として訴額へ算入しないと判断し,4万8,000円の還付を命じた。

事件名は「手数料還付申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件」であり,原審は大阪高等裁判所(平成26年(ラ)第681号)である。
結論は破棄自判である。

請求書に記載した金額の合計がそのまま訴額になるとは限らず,請求の法的性質によって手数料と還付額が変わる例である。

第3 複数請求を同一利益と認めなかった決定

最高裁判所第三小法廷令和3年4月27日決定(令和2年(行フ)第2号,裁判集民事265号143頁)は,自己の当選を無効とした決定及びその決定に対する審査申立てを棄却した裁決の取消請求と,別の当選人の当選無効請求について,両者で主張する利益は共通でないとして,訴額を少なくとも320万円とした。

自己の当選を無効にする請求をした事案ではなく,自己の当選無効決定等を取り消す請求をした事案である。その請求と別の当選人の当選無効請求では,認容されることによって実現する状態が異なると判断した。
当選無効訴訟の訴額を一律に320万円とした決定ではなく,住所要件をめぐる本案の適否も判断していない。
選挙の種類による申立て・提訴の手続と期限については,当選無効訴訟とは―選挙無効訴訟との違い,提訴できる人・期限・手続で説明している。

事件名は「手数料還付申立て却下決定に対する許可抗告事件」であり,原審は東京高等裁判所(令和2年(行ケ)第1号)である。
結論は棄却である。

複数請求の訴額を合算するかという評価により,申立人が想定した還付が認められない場合もあることを示す。

第4 不足手数料の追完を認めた旧制度下の決定

最高裁判所第一小法廷平成27年12月17日決定(平成27年(行フ)第1号,裁判集民事251号121頁)は,旧制度下で申立てを却下する命令が出た後でも,その確定前に不足手数料が納付されたときは,申立時に遡って瑕疵が治癒されるとした。

事件名は「訴訟救助申立て却下決定に対する抗告状却下命令に対する許可抗告事件」であり,原審は大阪高等裁判所(平成26年(行ス)第21号)である。

もっとも,同決定は,令和8年施行の民事訴訟法137条の2又は電子納付情報の失効を直接判断したものではない。
現行制度でも期限切れ後に必ず追完できるとの根拠にすることはできない。

表示期限を過ぎた場合は,判例を前提に自己判断で放置せず,事件係へ直ちに確認する必要がある。

第5 実務上の帰結

①請求の法的性質を確認し,訴額へ算入しない部分がないかを検討する。
②複数請求がある場合,同一の利益といえるかを個別に検討する。
③概算表示の金額だけで納付額を確定せず,裁判所が登録した納付情報を照合する。
④過納が判明した場合は,Pay-easyの運営主体ではなく,事件を担当する裁判所へ還付を申し立てる。
⑤納付期限を過ぎた場合は,追完を当然の前提とせず,直ちに事件係へ確認する。

訴額に応じた手数料の計算方法は民事訴訟の申立手数料の計算方法で,還付の要件と手続は訴訟手数料の還付で,それぞれ説明している。
遺留分減殺を原因とする不動産の持分移転登記請求について,土地の2分の1の取扱いと建物の扱いを含む訴額の算定方法は,遺留分減殺請求の訴額の算定―不動産の持分移転登記請求,土地の2分の1,建物,訴額と価額弁償額・弁護士費用の違いで説明している。

第6 関連記事

・当選無効訴訟とは―選挙無効訴訟との違い,提訴できる人・期限・手続
①民事訴訟の申立手数料の計算方法
②訴訟手数料の還付
③mintsの手数料をPay-easyで納付する方法
④訴訟費用とは――費目,計算方法,敗訴者負担と回収手続

出典・参考資料

①民事訴訟法(平成8年法律第109号)9条・137条の2
②民事訴訟費用等に関する法律(昭和46年法律第40号)4条・9条
③最高裁判所第三小法廷平成27年5月19日決定(平成26年(許)第36号,民集69巻4号635頁)
④最高裁判所第三小法廷令和3年4月27日決定(令和2年(行フ)第2号,裁判集民事265号143頁)
⑤最高裁判所第一小法廷平成27年12月17日決定(平成27年(行フ)第1号,裁判集民事251号121頁)