警察が死体を取り扱ったからといって、直ちに犯罪死又は司法解剖の対象になったとは限りません。犯罪行為により死亡したと認められる死体又は変死体以外についても、警察は死因及び身元を明らかにするための調査を行います。本記事では、その手順と遺族が確認できる情報を整理します。
第1 死体調査法の対象
警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律は、警察官が取り扱う死体のうち、犯罪捜査の手続が行われる死体を除くものについて、死因又は身元を明らかにするための措置を定めています。
調査中に犯罪に関係する疑いがあると認められた場合は、刑事訴訟法229条の検視その他の犯罪捜査手続へ移行します。そのため、調査の開始時と終了時で法的な扱いが変わることがあります。
第2 警察が行う基本調査
警察官は、死体の外表、発見場所、所持品その他の状況を調査し、必要な範囲で関係者へ質問します。死因だけでなく、身元、死亡時期、生活状況及び発見までの経過を明らかにするための調査です。
医師による検案とは別の手続ですが、実際には検案医の医学的所見と警察の現場・関係者調査を組み合わせて判断します。死体検案書の死因が暫定的な記載で、後日の検査結果により変更されることもあります。
第3 薬毒物検査その他の科学調査
1 薬物・毒物及び体液の検査
死因を明らかにするため必要がある場合、体液、尿その他の試料を採取し、薬物、毒物、アルコール等を検査します。結果判明までに時間を要することがあるため、死体引渡し時の説明と最終結果を分けて確認する必要があります。
2 死亡時画像診断(Ai)
死亡時画像診断は、死後のCT又はMRI等により、骨折、出血、異物、ガス、臓器の状態等を確認する検査です。Autopsy imagingの頭文字から「Ai」と呼ばれますが、人工知能のAIとは別の語です。
Aiは、体表から分からない所見を非破壊的に確認し、解剖の要否・部位を判断する上で有用です。他方、微細な損傷、早期の病変、薬毒物の種類、組織学的所見等は画像だけで判定できない場合があります。「Aiで異常がなかった」ことをもって、すべての死因又は犯罪性が否定されたと考えることはできません。
3 DNA型、指紋及び歯牙の調査
身元不明の場合は、DNA型、指紋、歯牙、所持品、身体特徴等を組み合わせて身元を調べます。DNA型だけで自動的に氏名が判明するわけではなく、比較対象となる資料や親族との照合が必要です。歯科診療記録、過去の画像及び家族資料が手掛かりになることがあります。
第4 調査法解剖
外表調査、検案及び各種検査だけでは死因を明らかにできず、特に必要があると認められる場合、警察署長は医師に解剖を実施させることができます。これが調査法解剖です。
遺族の承諾は法的要件ではありませんが、遺族等が判明しているときは原則として事前通知が行われます。司法解剖、監察医による解剖及び病理解剖との違いは、司法解剖・行政解剖・調査法解剖の違いで比較しています。
第5 遺族への説明と資料提供
警察等は、死体を引き渡す際、死因その他参考となるべき事項を遺族へ説明します。薬毒物検査、病理検査又は身元確認が未了であれば、暫定的説明であることと、後日結果を連絡する窓口を確認します。
警察庁の令和6年3月1日付け通達は、遺族等から求めがある場合、捜査への支障、第三者の名誉・プライバシー等を考慮しつつ、客観的事実を簡潔に記載した書面、解剖結果書面の写し、死亡時画像診断の画像データ等を提供する取扱いを示しています。
医師が検案後に警察から解剖・検査結果の提供を受け、死因等を確定又は変更した場合には、死体検案書の記載との関係も確認する必要があります。死亡診断書・死体検案書の実務も参照してください。
第6 死体の尊厳、写真及び個人情報
死体の取扱いでは、死者の尊厳と遺族感情への配慮が求められます。警察庁は令和8年4月7日付け通達で、必要性のない指紋採取や、職員個人の携帯電話による写真撮影等を行わないこと、撮影資料を厳格に管理することを改めて求めています。
遺族が画像・写真の提供を希望する場合にも、第三者情報、捜査上の秘密及び死者の尊厳を踏まえ、範囲や方法が調整されることがあります。口頭説明、閲覧、写しの交付及びデータ提供は同じではありません。
第7 遺族・代理人の実務チェックリスト
- 担当警察署、取扱番号、担当部署及び連絡先を記録する。
- 刑事訴訟法上の検視か、死体調査法上の調査かを確認する。
- 検案医、解剖・Ai・薬毒物検査の実施機関を確認する。
- 暫定死因、未了検査、最終説明の予定を分けて確認する。
- 書面、解剖結果、画像データ等の提供を具体的に申し出る。
- 保険、相続、医療紛争又は損害賠償で必要な事実を整理する。
- 刑事事件記録が必要な場合は、別途、保管庁と開示手続を確認する。