第1 この記事の対象と誤アップロード直後の対応
1 提出が完了した後の誤りを対象とする
本記事は,令和8年8月24日現在の民事訴訟規則及び裁判所公表資料に基づき,mintsで別事件の資料,未完成の書面,誤った書類種別のファイル又は秘密情報を提出した後の消去を扱うものである。
ファイルを選択できない,容量又はファイル名のエラーになるといった提出前の問題は,mintsでファイルをアップロードできない場合で説明している。
mintsで「差替え」と呼ばれる対応は,一つの操作ではない。
正しい版の追加提出,提出済みデータの消去申出,書類種別又は証拠番号の訂正及び訴訟行為としての撤回等を区別して扱う。
2 担当部・係へ直ちに連絡する
誤アップロードに気付いた場合は,誤ってファイルを記録したイベントを担当する裁判所の部・係へ直ちに連絡する。
別事件へ提出した場合は,正しい事件ではなく,誤って提出した先の事件番号,提出イベント,提出日時,ファイル名及び誤りの内容を特定する。
秘密情報,住所等の秘匿事項又は他事件の資料を含む場合は,その内容と緊急性を具体的に伝え,民事訴訟規則33条の5第2項による消去を求める旨を明確にする。
裁判所の誤アップロード時の案内も,まず担当部・係へ直ちに連絡するよう求めている。
3 休日・夜間には消去されない
休日又は夜間は,裁判所による消去対応を受けることができず,次の開庁日に担当部・係へ連絡することになる。
公開資料には,提出者が自ら閲覧を停止する機能又は全国共通の時間外消去窓口は示されていない。
事件が相手方と共有された後は,ファイルをアップロードした時点から相手方が閲覧・複製できる状態になる。
したがって,翌開庁日の連絡に備えて事件番号等を整理するだけでなく,秘密情報又は個人データの範囲と閲覧可能者を直ちに確認する。
第2 提出前の削除と提出後の消去の違い
1 「提出」を確定する前は利用者が削除できる
提出画面でファイルを追加しただけで,まだ「提出」を確定していない場合は,対象ファイルを選択して「選択したファイルを削除」により一覧から外すことができる。
これは提出準備中の画面操作であり,民事訴訟規則33条の5による訴訟記録の消去ではない。
提出前には,事件番号,書類種別,ファイル名及びPDFの内容を開いて確認する。
複数ファイルを同時に選択した場合も,表示名だけでなく,各ファイルの本文と提出先を個別に照合する。
2 提出後は利用者自身で削除・変更できない
提出済みのファイルは,利用者自身では削除できず,ファイルの内容又は名称も変更できない。
「主張」「証拠」「証拠説明書」等の書類種別を誤った場合も,利用者側で提出後に種別を変更することはできない。
新規事件の申立情報及び添付ファイルについても,提出後に利用者が自ら修正又は削除する仕組みではなく,提出先裁判所へ連絡することになる。
新規申立ての画面,添付書類及び手数料納付は,mintsで訴訟を提起する方法で説明している。
3 相手方の閲覧後は完全な原状回復にならない
民事訴訟規則33条の5による消去が行われても,裁判所書記官は消去措置の内容を記録した電磁的記録を作成し,ファイルに記録しなければならない。
消去は,誤提出が最初から存在しなかったことにする仕組みではない。
また,公開資料上,後の消去によって相手方が既にダウンロードした複製又は知った情報まで技術的に回収できるとは確認できない。
消去後の将来の閲覧可能性と,消去前に生じた情報流出は別に評価する。
第3 無関係又は明白な誤記録を消去する要件
1 民事訴訟規則33条の5第2項の要件
同項は,ファイルに記録された事項が係属事件に関するものでないこと,又は誤って記録されたことが明らかであると裁判所が認めるときに,裁判所が当該部分を消去できると定める。
消去の可否を判断するのは裁判所であり,提出者に無条件の消去請求権を認めた規定ではない。
当事者その他の関係人が記録した事項については,原則として,記録した者から消去を求める旨の申出がある場合に限られる。
第2項の消去には,当事者全員の同意は要求されていない。
2 第2項の典型例
裁判所の案内は,①別事件のファイル,②当該事件と無関係なファイル,③秘密情報を含むファイルを誤ってアップロードした場合を例示する。
外見上明らかな未完成書面又は同一ファイルの重複提出も,誤記録であることが明らかと認められる場合には第2項の対象となり得る。
これに対し,提出者の内心では未完成であっても,外見上は完成版に見える書面については,誤記録であることが明らかとは限らない。
「提出するつもりではなかった」という説明だけで第2項の要件を満たすとは断定できない。
3 本人の申出を待たない特別の事情
第2項ただし書は,速やかに消去を申し出ることが困難である事情その他の特別の事情がある場合には,本人の申出がなくても消去できる余地を設けている。
もっとも,これは裁判所による例外的な判断であり,提出者が連絡できるのに裁判所の発見を待ってよいという意味ではない。
『条解民事訴訟規則(デジタル化関係等)』は,当事者の死亡又は手続中断,濫用的な大量アップロード,裁判所書記官が秘密情報を発見して申出を待てない場合等を例示する。
これらは規則本文に列挙された要件ではないため,個別の事情を担当部・係へ具体的に説明する。
4 消去措置の記録は残る
裁判所が第1項又は第2項の消去を行う場合,裁判所書記官は措置内容を記録した電磁的記録を作成し,ファイルへ記録する。
規則制定時の補足説明は,消去対象となったデータ,提出者,表題及び消去日等を記録することを想定している。
この記録により,何がどの根拠で消去されたかを後から確認できる構造が保たれる。
したがって,誤ったファイル本体の閲覧を止めることと,提出・消去の経過が記録に残ることを区別すべきである。
第4 全員同意による消去の要件
1 第1項の対象は限定される
民事訴訟規則33条の5第1項は,どのような提出物でも当事者全員の同意で消去できると定めたものではない。
対象は,準備書面に係る部分と,一定の証拠に係る部分に限定される。
準備書面については,その書面に記載された事項が陳述された場合は消去できない。
証拠については,規則137条1項の文書の写し又は規則149条の2第1項の電磁的記録の複製であり,かつ,民事訴訟法181条1項により取り調べる必要がないとされた場合に限られる。
2 全員同意だけで消去は決まらない
第1項では,当事者の全員が消去に同意することに加え,裁判所が消去を相当と認める必要がある。
提出された事実又は不陳述の経過を記録上残す必要があれば,全員が同意しても裁判所が相当でないと判断する余地がある。
訴訟参加がある事件では,「当事者の全員」に補助参加人等が含まれ得るため,単純に原告と被告の二者だけとは限らない。
同意の確認方法又は提出書面は公開資料に統一様式が示されていないため,担当部・係の指示を確認する。
3 未完成書面と書類種別の誤り
外見上は未完成と明らかでないドラフト,又は「証拠」として出すべきファイルを「主張」として提出した場合等は,第2項の明白性を満たさず,第1項による処理が問題となることがある。
その場合も,記載事項が未陳述であること等の対象要件,全員同意及び裁判所の相当性判断を省略できない。
逐条解説は,正しい書類種別で再提出したことによって旧ファイルの誤りが明白になれば,第2項による消去が考えられる場合もあるとする。
書類種別の誤りを一律に第1項又は第2項へ分類せず,誤りの明白性と手続の進行を裁判所が個別に判断することになる。
| 区分 | 主な対象 | 当事者全員の同意 | そのほかの要件 |
|---|---|---|---|
| 規則33条の5第2項 | 別事件,無関係又は明白な誤記録 | 不要 | 原則として記録した者の申出,裁判所による明白性の判断 |
| 規則33条の5第1項 | 未陳述の準備書面,不要とされた一定の証拠 | 必要 | 対象要件を満たし,裁判所が消去を相当と認めること |
第5 正しい版の再提出と「差替え」
1 正しい版を出しても旧版は自動消去されない
正しい版を追加で提出しても,誤った旧版が自動的に上書き又は消去されるわけではない。
正しい版の提出と旧版の消去は別の処理であり,旧版については民事訴訟規則33条の5の要件を満たす必要がある。
再提出する場合は,裁判所の指示を確認し,正しいファイルであることが分かる名称及び提出区分を用いる。
準備書面の提出区分,直送及び受領書の取扱いは,mintsで準備書面を提出する方法で説明している。
2 書類種別・証拠番号の誤りは裁判所へ連絡する
提出後の書類種別は利用者側では変更できないため,誤りに気付いた場合は担当部・係へ連絡する。
正しい種別での再提出だけで足りるか,旧ファイルの消去が必要かは,書面の性質と手続段階により異なる。
証拠番号を誤った場合も,利用者が提出済みデータを直接書き換えることはできない。
mints FAQは,裁判所で証拠番号を訂正できる場合があるとしており,必要な処理を担当部・係へ確認するよう案内している。
3 訂正・撤回とシステム上の消去を区別する
主張の訂正又は撤回,証拠申出の撤回及び正しい版の提出は,訴訟手続上の意味を持つ対応である。
これに対し,民事訴訟規則33条の5は,裁判所のファイル又は電磁的訴訟記録から対象部分を消去する措置を定める。
訴訟行為を撤回したから旧ファイルが当然に消えるわけではなく,ファイルが消去されたから既にされた陳述等の効力が当然に失われるわけでもない。
個別事件で必要となる訂正,撤回及び消去を一つの「差替え」で済ませず,それぞれの効果を確認する。
第6 秘匿情報を誤アップロードした場合
1 まず規則33条の5第2項による消去を求める
秘密情報を含むファイルの誤アップロードは,裁判所の案内が第2項の例として明示している。
事件共有後は相手方が直ちに閲覧できるため,秘匿制度の申立書を準備するより先に,担当部・係へ消去を求める連絡を行う。
連絡時には,秘密情報が含まれる頁,情報の種類及び相手方に共有済みかを特定する。
消去が完了したと認識する前に,裁判所から対象ファイルと処理結果を確認することが安全である。
2 民事訴訟法92条は第三者の閲覧等を制限する
民事訴訟法92条は,私生活上の重大な秘密又は営業秘密が記載された部分について,申立てにより閲覧等を当事者に限る制度である。
原則として訴訟記録を閲覧する第三者に対する制限であり,訴訟の相手方に一般的な非開示を認める制度ではない。
したがって,既に相手方へ共有された秘密情報を,92条の申立てだけで相手方から回収できるわけではない。
他方,第三者による閲覧等のおそれがある場合には,誤アップロードの消去とは別に92条の申立てを検討する余地がある。
3 住所等・氏名等の秘匿制度は対象が限られる
民事訴訟法133条・133条の2は,住所等又は氏名等が知られることにより社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある場合の秘匿制度である。
秘匿事項届出書面はmintsで提出せず,紙で提出して紙のまま保管される。
秘匿事項を含むファイルをmintsへ誤って提出した場合は,担当書記官へ直ちに連絡して消去を求める。
制度の対象,申立方法及びPDFのマスキングは,mintsにおける当事者間秘匿で説明している。
4 黒塗りに見えるだけでは足りない
PDF上でマーカー又はハイライトを重ねただけでは,背後の文字データが残り,コピー,検索又はレイヤー操作により読める場合がある。
元データから対象文字を削除するなどの適切なマスキングを行い,保存後の提出用PDFを開き直して文字を取得できないことまで確認する。
誤ったPDFを消去できたとしても,同じ不完全な黒塗りのPDFを再提出すれば秘密情報は再び露出する。
再提出前には,表示,テキスト検索,コピー及び頁画像を点検する。
第7 個人情報漏えいと弁護士の守秘義務
1 外部から閲覧可能となった範囲を確認する
個人情報保護委員会の通則編は,個人データが外部へ流出したことを漏えいとし,書類の誤送付又はシステム設定により外部から閲覧可能となった場合を例示する。
mintsの誤アップロードでも,本来共有すべきでない個人データが相手方等から閲覧可能となった場合は,漏えい又はそのおそれを検討する。
全てを回収し,第三者が閲覧していないことを確認できた場合は,漏えいに当たらないことがある。
もっとも,mintsの公開資料では,提出者が相手方の閲覧又はダウンロード履歴を取得できる制度を確認できないため,アクセスログを当然に確認できるとは記載できない。
2 委員会報告が必要な場合は限定される
個人情報保護法26条及び同法施行規則7条が報告対象とするのは,①要配慮個人情報,②財産的被害のおそれがある情報,③不正目的の行為による漏えい等のおそれ,④1,000人を超える本人に係る漏えい等である。
誤アップロードがあったというだけで,全件について個人情報保護委員会への報告義務が生ずるわけではない。
報告対象である場合は,知った後速やかに速報を行い,原則として30日以内,不正目的の行為に関係する場合は60日以内に確報を行う。
本人への通知も状況に応じて速やかに行い,裁判所の消去処理とは別に判断する。
3 マイナンバーカードを提出しない
裁判所は,mintsへマイナンバーカードをアップロードしないよう案内している。
誤ってアップロードした場合は,速やかに裁判所へ連絡する。
特定個人情報については,閲覧されていなければ一般の「漏えい」に当たらない場合でも,番号法関係の報告対象となることがある。
本記事は番号法上の全ての報告要件を扱うものではないため,含まれていた情報と閲覧可能性を確認し,個別に報告要否を判定する。
4 事務所内の対応経過を保存する
弁護士法23条は,弁護士又は弁護士であった者について,職務上知り得た秘密を保持する権利及び義務を定める。
依頼者その他の秘密を誤アップロードした場合は,裁判所への消去申出だけで対応が完了するとは限らない。
発見日時,提出先,対象ファイル,含まれる情報,閲覧可能者,裁判所への連絡,消去結果,正しい版の提出及び再発防止措置を時系列で保存することが考えられる。
この内部記録は民事訴訟規則33条の5の消去要件ではないが,情報流出の評価と後日の説明可能性を確保するためのものである。
第8 関連記事
mintsのアカウント,電子申立て,証拠提出,送達及び障害対応の全体像は,mintsの実務解説・弁護士向けQ&Aで確認できる。
提出前のファイル仕様又は反映遅延と,提出後の誤記録・消去とを混同しないことが重要である。
証拠番号と書証ファイル名の付け方は,mintsの証拠番号とファイル名で説明している。
証拠説明書の提出方法及び電磁的記録の証拠調べとの関係は,mints後の証拠説明書を参照されたい。
第9 出典・参考資料
1 法令・規則
①民事訴訟法(平成8年法律第109号)91条の2,92条,132条の10第3項,133条,133条の2及び181条(e-Gov法令検索)
②民事訴訟規則33条の5,137条及び149条の2(最高裁判所)
③個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)26条(e-Gov法令検索)
④個人情報の保護に関する法律施行規則7条,8条及び10条(e-Gov法令検索)
⑤弁護士法(昭和24年法律第205号)23条(e-Gov法令検索)
2 裁判所・個人情報保護委員会の公表資料
①「mintsを利用して裁判書類を提出する際の留意事項」(裁判所)
②「mints操作マニュアル」バージョン2.368頁~69頁(裁判所,令和8年7月15日改訂)
③「mints FAQ」(mintsトップページから参照)(裁判所)
④「民事訴訟等手続のIT化準備の手引」22頁,39頁(最高裁判所,令和8年6月19日版)
⑤「民事訴訟規則等の一部を改正する規則案要綱案補足説明」77頁~78頁(最高裁判所)
⑥「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」(個人情報保護委員会)
⑦「漏えい等報告・本人通知の義務化について」(個人情報保護委員会)
⑧「特定個人情報の漏えい等に関するFAQ」(個人情報保護委員会)
⑨「民事裁判書類電子提出システムmintsについて」(裁判所)
3 文献
①最高裁判所事務総局民事局監修『条解民事訴訟規則(デジタル化関係等)』司法協会,2025年,103頁~113頁
②脇村真治編著『一問一答 新しい民事訴訟制度(デジタル化等)―令和4年民事訴訟法等改正の解説』商事法務,2024年,77頁~86頁