PDF上に黒い図形又はマーカーを重ねただけでは,下の文字情報が残る。
コピー,検索又は編集によって読み取られることがある。
裁判所へ提出する文書に,第三者の氏名や住所等,マスキングをすべき情報が含まれる場合は,表示を隠すのではなく,対象となる文字・画像の情報そのものを提出用コピーから除去しなければならない。
本記事では,正しいマスキングの手順,確認の方法,マスキング文書を提出する場面,及び誤って黒塗り前の文書を提出した場合の対応を説明する。
第1 「黒く見える」と「読めない」は違う
PDF編集ソフトのマーカー機能(黄色いハイライト等)や,黒い四角形を重ねる方法では,マーカーの下の文字情報が完全には削除されない。
相手方がテキストのコピーや検索によって読み取れてしまうことがある。
マスキングをするときは,対象の文字・画像情報を除去する墨消し(黒塗り)機能を用い,適用して保存する。
提出前に,対象情報の除去と,注釈・添付等に残る不要情報の有無を確認する。
第2 確認の手順
1 墨消しの適用と,非表示情報の削除を分ける
墨消しは,見えている文字や画像の対象部分を提出用コピーから除去する処理である。
黒い矩形を上に置くだけでは,その下の画像や文字が残る場合がある。
また,墨消し予定箇所を選択しただけで止めず,ソフトの「適用」及び保存まで実行する必要がある。
文書のサニタイズは,メタデータ,コメント,非表示レイヤー等の不要情報を除去する別の確認である。
添付ファイル等にも秘密が残っていないかを調べ,提出目的に不要な情報を除く。
原本まで加工せず,証拠として保全する元ファイルと提出用コピーを分ける。
出典:Adobe・墨消しの適用,PDFのサニタイズ。
2 保存した最終ファイルを検査する
| 確認 | 分かることと限界 |
|---|---|
| 画面表示 | 秘密部分が見えないか。黒く見えることだけでは内部データの削除を証明しない |
| テキスト検索・コピー | 残存する文字層を発見できることがある。画像内の文字や未検索の別表記までは網羅しない |
| ページの画像書出し | 通常の描画結果を確認できる。ただし黒い図形の下にある元画像の不存在は証明しない |
| 墨消し処理と内部要素 | 対象文字・画像への墨消し適用と保存,注釈,レイヤー,メタデータ,添付等を確認する |
| 別の閲覧ソフトと最終コピー | 表示差を点検し,検査したファイルと実際に提出するファイルを取り違えない |
特にスキャンPDFは,検索にヒットしなくても画像として秘密情報を保持していることがある。
「検索不可・コピー不可・画像化しても黒い」という三つの結果だけで,安全と判定してはいけない。
使うソフトが対象情報を実際に除去する機能を持つかを確認し,機密性の高い資料では専門的な検査も検討する。
検査用には,秘密を含まない試験PDFに既知の文字・画像・注釈等を配置し,墨消し後の残存を確認する方法が考えられる。
これは検査方法の提案であり,本記事で特定ソフトの漏えい試験が完了したという意味ではない。
ハッシュ値は検査済みコピーとの一致確認に利用できるが,そのコピー自体の墨消しが適切であったことは別の問題である。
関連:デジタル証拠の原本保全とハッシュ値。
第3 マスキング文書を提出する場面
1 閲覧等制限の申立てに伴うもの
秘密記載部分が文書等の一部である場合,その部分を除いたマスキング文書も提出しなければならない(民事訴訟規則34条3項本文)。
秘密記載部分が文書等の全部である場合は,同項ただし書によりマスキング文書の提出を要しない。
マスキング文書は,第三者による閲覧等の対象となる基本の事件情報へ提出する。
ファイル名の冒頭には「(マスキング)」と表示し,ファイル種別は秘密記載文書と同じものを選択する。
申立てを認容する決定で特定された秘密記載部分が申立ての対象と異なる場合,申立人は,決定に対応した新しいマスキング文書を遅滞なく提出しなければならない(同規則34条5項)。
申立てと決定で特定された秘密記載部分が同一である場合は,改めて提出する必要はない。
2 対象となる証拠を別ファイルにする
申立ての対象が書証又は電磁的証拠の一部だけである場合,対象外の証拠とファイルを分ける。
例えば,甲1の1から甲1の4までのうち甲1の4だけが対象であれば,甲1の4を別ファイルとし,甲1の1から甲1の3までを一つのファイルにまとめることは差し支えないと,大阪地方裁判所知的財産権部は案内している。
3 当事者間秘匿の場合
秘匿事項届出書面は,書面(紙媒体)で提出しなければならない。
ファクシミリによる提出も,mintsへのアップロードもできない。
秘匿決定を受けた事項が記載されたマスキングなしの書面をどこへ提出するかは,事件情報の作り方の問題になる。
通常の事件情報の記録一覧へそのままアップロードしてはならない。
第4 誤って提出した場合
秘密記載文書を基本の事件情報へ誤って提出すると,第三者の閲覧等の対象となることがあるため,直ちに担当部へ連絡する。
大阪地方裁判所知的財産権部の案内では,裁判所が当該ファイルを消去し,【閲覧制限対象ファイル提出用】の事件情報への再アップロードを求める取扱いが示されている。
提出者がmints上で提出済みファイルを自由に削除できるわけではない。
誤ったPDFを消去できたとしても,同じ不完全な黒塗りのPDFを再提出すれば秘密情報は再び露出する。
再提出前には,第2の手順により,墨消しの適用,表示・検索・コピー・画像書出し及び内部の不要情報を改めて点検する。
第5 提出前のチェックリスト
①マーカー又は図形を重ねただけになっていないか。
②墨消し機能を適用・保存し,対象の文字・画像情報を除去したか。
③保存後の最終ファイルについて,表示・検索・コピーに加え,内部要素と不要な非表示情報を確認したか。
④対象外の証拠と同じファイルにまとめていないか。
⑤マスキング文書のファイル名の冒頭に「(マスキング)」を付けたか。
⑥提出先の事件情報(基本の事件情報か,閲覧制限対象ファイル提出用か)を確認したか。
⑦秘匿事項届出書面をmintsへアップロードしていないか。
第6 関連記事
①mintsで閲覧等制限を申し立てる方法
②訴訟提起で原告の住所・氏名を秘匿する方法
③mintsで誤アップロードした場合
④mints提出用PDFの作り方
⑤mints(ミンツ)とは―料金・対象事件・登録・ログイン・提出・送達の実務Q&A
出典・参考資料
①民事訴訟法(平成8年法律第109号)92条・133条・133条の2
②民事訴訟規則33条の5・34条
③最高裁判所事務総局民事局「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」39頁
④mints「mintsご利用に関するQ&A」7頁
⑤大阪地方裁判所知的財産権部の公開案内