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刑事事件の費用補償と刑事補償-請求期間,補償額及び令和8年再審制度改正(AI作成)

第1 費用補償・刑事補償・被疑者補償・国家賠償の違い

1 この記事の対象と基準日

費用補償は無罪となった刑事裁判に要した一定の費用を補償する制度であり,刑事補償は無罪となった者が受けた抑留,拘禁又は刑の執行等を補償する制度である。
名称は似ているが,根拠法令,補償対象及び請求期間が異なる。

本記事は,令和8年9月6日現在の法令を基準とし,同年10月23日に施行される再審請求手続の費用補償制度を併せて説明する。
個別の請求では,無罪判決等が確定した日,身体拘束の根拠となった被疑事実,未決勾留日数の本刑算入及び実際に負担した費用を確認する必要がある。

2 四つの制度の比較

制度主な根拠主な対象主な成立場面
費用補償刑事訴訟法188条の2以下旅費・日当・宿泊料及び弁護人報酬無罪判決が確定した場合
刑事補償日本国憲法40条,刑事補償法未決の抑留・拘禁,刑の執行又は拘置身体拘束後に無罪判決を受けた場合等
被疑者補償被疑者補償規程不起訴となった被疑者の抑留・拘禁その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由がある場合等
国家賠償国家賠償法1条1項違法な公権力の行使によって生じた損害公務員の職務行為に違法性及び故意・過失等がある場合

刑事補償は,捜査機関又は裁判所の違法性を成立要件としていない。
これに対し,国家賠償は,無罪判決が確定したという事実だけでは足りず,国家賠償法上の違法性等を別に立証する必要がある。

3 最初に確認する請求期間

通常の費用補償は無罪判決確定後6か月以内,検察官だけが上訴した場合の上訴審費用の補償は上訴棄却,取下げ又は上訴権放棄の日から2か月以内,刑事補償は無罪判決確定後3年以内に請求する必要がある。
刑事補償決定の公示を求める場合は,補償決定確定後2か月以内に別の申立てをする必要がある。

第2 無罪判決が確定した場合の費用補償

1 補償の要件と例外

刑事訴訟法188条の2は,無罪判決が確定したとき,国が元被告人に対してその裁判に要した費用を補償すると定めている。
ただし,元被告人の責めに帰すべき事由によって生じた費用については補償されないことがあり,捜査又は審判を誤らせる目的で虚偽の自白をし,又は有罪の証拠を作った場合にも,補償の全部又は一部が認められないことがある。

一個の裁判で一部無罪,一部有罪となった場合は,無罪部分と有罪部分の双方を含む費用の全部が当然に補償されるわけではない。
どの公訴事実について生じた費用であるか,費用の発生原因が元被告人に帰責できるかが区別される。

2 補償対象となる費用と金額

刑事訴訟法188条の6による補償対象は,元被告人及び弁護人が公判準備又は公判期日に出頭するために要した旅費,日当及び宿泊料並びに弁護人報酬に限られる。
実際に支出した費用の全額や,私選弁護人との報酬約定額がそのまま補償される制度ではなく,刑事訴訟費用等に関する法律の関係規定を準用して額が定められる。

弁護人が複数いるときは,事件の性質,審理の状況その他の事情により,旅費,日当及び宿泊料を主任弁護人その他一部の弁護人に係るものに限ることができる。
費用を裏付ける資料として,弁護人選任関係書類,期日一覧,交通経路,領収書及び弁護士報酬の支払資料を整理しておくことが考えられる。

3 請求先,裁判及び不服申立て

費用補償は,無罪判決をした裁判所に対し,元被告人が請求する。
請求期間は無罪判決確定後6か月であり,裁判所は決定によって補償の可否及び額を判断する。

費用補償の決定に対しては即時抗告をすることができる。
補償の手続,国から他の法令により損害の填補を受けた場合の調整,請求権の譲渡・差押えの禁止及び相続については,刑事補償法の関係規定が準用される。

4 検察官だけが上訴した場合

検察官だけが上訴し,その上訴が棄却若しくは取り下げられ,又は上訴権が放棄されて原判決が確定した場合には,上訴審で生じた費用についても補償を請求できる。
請求先は上訴裁判所であった最高裁判所又は高等裁判所であり,請求期間は上訴棄却,取下げ又は上訴権放棄の日から2か月である。

この場合の決定に対しては,通常の即時抗告ではなく,決定をした最高裁判所又は高等裁判所に異議を申し立てることができる。
通常の無罪確定後6か月という期間と取り違えないことが必要である。

第3 再審請求手続の費用補償に関する令和8年改正

1 令和8年10月22日までの制度

最高裁昭和53年7月18日第二小法廷決定(昭和53年(し)第58号・刑集32巻5号1055頁)は,再審請求手続に要した費用は刑事訴訟法188条の2による費用補償の対象に含まれないとした。
この取扱いは,令和8年10月22日までの制度について妥当する。

2 令和8年10月23日からの制度

刑事訴訟法の一部を改正する法律(令和8年法律第67号)により,再審開始決定が確定した事件について無罪判決が確定したときは,国が検察官以外の再審請求人に対し,再審請求の審判に要した一定の費用を補償する制度が設けられる。
費用補償関係の改正規定は,令和8年10月23日に施行される

補償対象は,再審請求人又はその弁護人であった者が再審請求の審判手続に出頭するために要した旅費,日当及び宿泊料並びに弁護人であった者に対する報酬である。
鑑定費用,記録謄写費又は新証拠の収集費用は独立した補償費目として列挙されておらず,実際の支出額がそのまま全額補償される制度ではない。

3 経過措置

改正法は,無罪判決が令和8年10月23日以後に確定した事件について適用される。
再審請求手続上の費用が施行日前に生じていた場合でも,無罪判決の確定日が同日以後であれば適用対象となる。

改正後も,再審請求人の責めに帰すべき事由によって生じた費用については,補償されないことがある。
制度の立法経過及び再審制度改正全体については,令和8年の再審制度改正で説明している。

第4 身体拘束又は刑の執行に対する刑事補償

1 刑事補償を請求できる場合

日本国憲法40条は,抑留又は拘禁された後に無罪の裁判を受けた者が,法律の定めるところにより国に補償を求めることができると定めている。
刑事補償法1条は,通常手続,再審又は非常上告の手続で無罪の裁判を受けた者が未決の抑留又は拘禁を受けた場合のほか,上訴権回復による上訴,再審又は非常上告によって無罪となり,原判決による刑の執行又は所定の拘置を受けていた場合を補償対象としている。

刑事補償は国家賠償と異なり,身体拘束や刑の執行をした機関に違法性又は故意・過失があったことを成立要件としない。
他方,在宅事件で抑留,拘禁又は刑の執行等がなかった場合は,これらを対象とする刑事補償は生じない。

2 拘禁補償の金額

未決の抑留又は拘禁に対する補償額は,1日につき1000円以上1万2500円以下である。
裁判所は,拘禁の種類及び期間,財産上の損失,得るはずであった利益の喪失,精神上の苦痛,身体上の損傷,捜査・審判機関の故意又は過失の有無その他一切の事情を考慮して額を定める。

したがって,拘禁日数に上限額を乗じた額が常に認められるわけではない。
請求書では,対象となる拘禁期間を特定した上で,収入資料,休業又は失職に関する資料,治療記録その他の事情を示す資料が補償額の判断にどのように関係するかを整理することになる。

3 補償の全部又は一部が認められない場合

刑事補償法3条は,本人が捜査又は審判を誤らせる目的で虚偽の自白をし,又は他の有罪の証拠を作ることにより,起訴,未決の抑留・拘禁又は有罪判決を受けるに至った場合に,裁判所が補償の全部又は一部をしないことができると定める。
一個の裁判で併合罪の一部について無罪となり,他の部分について有罪となった場合も,同様に裁判所の裁量による不補償又は減額の対象となり得る。

これは,虚偽の自白があれば必ず全額不支給となるという規定ではない。
虚偽自白等が起訴又は拘禁等を招いた関係と,一部有罪部分を含む拘禁の評価を個別に検討する必要がある。

4 請求先,不服申立て,払渡し及び公示

刑事補償は無罪判決をした裁判所に請求し,請求期間は無罪判決確定後3年である。
裁判所は補償又は請求棄却の決定をし,請求人及び同順位の相続人は即時抗告をすることができるが,高等裁判所が決定した場合は同裁判所への異議申立てとなる。

補償決定が確定した後は,決定をした裁判所に補償の払渡しを請求する。
また,補償決定確定後2か月以内に申し立てれば,裁判所は決定の要旨を官報及び申立人が選択する3種類以内の新聞紙に掲載して公示する。

第5 拘禁期間をめぐる主な最高裁判例

1 不起訴事実に基づく拘禁

不起訴となった被疑事実について無罪判決が言い渡されることはないため,その事実だけを対象として刑事補償法上の補償を請求することは原則としてできない。
もっとも,最高裁大法廷昭和31年12月24日決定(昭和30年(し)第15号・刑集10巻12号1692頁)は,不起訴事実に基づく拘禁であっても,その一部が実質上,無罪となった事実の取調べのために利用されたと認められるときは,その部分を補償対象に含め得るとした。

不起訴となった被疑者に対する別の制度として,被疑者補償規程がある。
同規程の位置付け,要件及び手続については,被疑者補償規程に基づく補償で説明している。

2 本刑に算入された未決勾留日数

最高裁昭和34年10月29日第一小法廷決定(昭和34年(し)第44号・刑集13巻11号3076頁)は,本刑に算入された未決勾留日数について,刑の執行とみなされるため,未決拘禁として重ねて補償しないとした。
最高裁昭和55年12月9日第二小法廷決定(昭和55年(し)第129号・刑集34巻7号535頁)は,執行猶予付きの刑に算入された場合にも,この原則が及ぶとした。

3 執行猶予期間が満了していた場合の例外

最高裁平成6年12月19日第一小法廷決定(平成6年(し)第127号・刑集48巻8号611頁)は,再審判決確定時に執行猶予期間が既に満了し,本刑が執行される可能性が全くなかった事案について,算入又は通算された未決勾留日数を補償対象とした。
本刑への算入があれば常に補償対象外になるわけではなく,補償請求時に本刑が執行される可能性が残っているかを区別する必要がある。

第6 免訴・公訴棄却,被疑者補償及び国家賠償

1 免訴又は公訴棄却の場合

刑事補償法25条1項は,免訴又は公訴棄却の裁判を受けた者について,その裁判をすべき事由がなければ無罪判決を受けるべきものと認める十分な事由があるときに,刑事補償を請求できると定める。
免訴又は公訴棄却であれば当然に補償されるわけではなく,実体上無罪となるべき十分な事由が必要である。

これに対し,刑事訴訟法188条の2の費用補償は,無罪判決の確定を要件としている。
免訴又は公訴棄却について刑事補償法25条の要件を満たしても,刑事訴訟法上の費用補償まで当然に認められるわけではない。

2 被疑者補償

被疑者補償規程は,公訴を提起しない処分を受けた者が抑留又は拘禁され,その者が罪を犯さなかったと認めるに足りる十分な事由がある場合等について,検察官が補償を行う制度を定めている。
同規程は法務省訓令であり,刑事補償法に基づく裁判上の補償請求権と同一ではない。

不起訴事実に基づく拘禁が,無罪となった別の事実の取調べにも実質的に利用された場合は,前記昭和31年大法廷決定による刑事補償の問題が生じ得る。
被疑者補償だけを検討して,無罪事実との実質的な関係を見落とさないようにする必要がある。

3 国家賠償は自動的な差額補償ではない

刑事補償法5条は,刑事補償を受ける権利が国家賠償その他の損害賠償請求を妨げないことと,同一原因による給付が重複するときの控除を定めている。
同条は,刑事補償額を超える損害について,その差額が国家賠償として当然に支払われると定めたものではない。

最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決(昭和49年(オ)第419号・民集32巻7号1367頁)は,無罪判決が確定したという事実だけでは,逮捕,勾留又は公訴提起・追行が直ちに国家賠償法上違法となるものではないとした。
国家賠償を求める場合は,国家賠償法1条1項に基づく違法性,公務員の故意又は過失,損害及び因果関係等を別に検討する必要がある。

第7 出典・参考資料

1 法令

日本国憲法40条(e-Gov法令検索)。
刑事訴訟法188条の2~188条の7(令和8年9月6日時点,e-Gov法令検索)。
刑事訴訟法188条の2,188条の3及び188条の6(令和8年10月23日時点,e-Gov法令検索)。
刑事補償法1条,3条~7条,19条,20条,22条,24条及び25条(令和8年9月6日時点,e-Gov法令検索)。
国家賠償法1条1項(e-Gov法令検索)。
刑事訴訟法の一部を改正する法律(令和8年法律第67号)及び附則。
刑事補償規則(最高裁判所規則)。

2 裁判例

最高裁大法廷昭和31年12月24日決定・昭和30年(し)第15号・刑集10巻12号1692頁。
最高裁第一小法廷昭和34年10月29日決定・昭和34年(し)第44号・刑集13巻11号3076頁。
最高裁第二小法廷昭和53年7月18日決定・昭和53年(し)第58号・刑集32巻5号1055頁。
最高裁第二小法廷昭和53年10月20日判決・昭和49年(オ)第419号・民集32巻7号1367頁。
最高裁第二小法廷昭和55年12月9日決定・昭和55年(し)第129号・刑集34巻7号535頁。
最高裁第一小法廷平成6年12月19日決定・平成6年(し)第127号・刑集48巻8号611頁。

3 立法・制度資料

①法務省「刑事法(再審関係)部会における最終的な検討内容・第6 再審請求手続に関する費用補償」。
②衆議院「刑事訴訟法の一部を改正する法律案の経過情報」。
③法務省「被疑者補償規程」(法務大臣訓令,検察庁ウェブサイト掲載)。

4 文献

①伊丹俊彦・合田悦三編集代表『逐条実務刑事訴訟法』(立花書房,2018年)316頁~322頁(費用補償。資料上の頁。PDFビューア上360頁~366頁を確認)。
②渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗『憲法Ⅰ 基本権〔第2版〕』(日本評論社,2023年)477頁~481頁。

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