メインコンテンツへスキップ
       

司法修習生の給費制に関する,平成22年の裁判所法改正及びその後の予算措置(AIリライト)

第1 平成22年3月までの経緯

平成16年の裁判所法改正により平成22年11月1日からの貸与制移行が決まった後,弁護士会は施行が近づくにつれて反対の意思表示を重ねた。茨城県弁護士会は平成21年7月1日に「司法修習生の修習資金貸与制の実施を延期し給費制の復活を求める声明」を,大阪弁護士会は同年9月28日に「司法修習生の給費制の継続を求める意見書」をそれぞれ公表している。日本弁護士連合会も同年8月20日に「司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則(案)に対する意見書」を公表し,保証人,返還猶予期間,期限の利益喪失等について改善を求めるとともに,給費制の維持を主張した。

第2 平成22年4月以降の経緯

1 日本弁護士連合会による給費制存続運動

平成22年2月5日の日弁連会長選挙では当選者が決まらず,同年3月10日の再投票で宇都宮健児会員が当選し,同年4月1日に会長に就任した。同連合会は,同月15日に司法修習費用給費制維持緊急対策本部を設置し,給費制の存続を訴える活動を開始した(日弁連HPの「司法修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を」参照)。同年5月28日に名古屋市で開催された第61回定期総会では,「市民の司法を実現するため、司法修習生に対する給費制維持と法科大学院生に対する経済的支援を求める決議」が賛成者多数で採択された。

同連合会の『平成22年度会務報告書』によれば,同対策本部は,司法修習生の給与の支給継続を求める市民連絡会を中心とする市民,法科大学院生・司法修習生・若手弁護士らによるビギナーズ・ネット,全国各地の弁護士会と連携して,各種集会,請願署名,議員要請及び街頭宣伝行動を展開した。請願署名は30万筆を目標としたところ約5か月で約67万筆が集まり,一部は同年9月29日の院内集会後に,残りは11月1日に国会へ提出された。同年9月16日には日比谷野外音楽堂に2000人が集まって決起集会が開かれ,国会への請願パレードと院内集会が行われている。全国26の弁護士会が主催した市民集会が共催とされたほか,同年9月9日の新司法試験合格発表日には,東京,愛知,大阪,福岡,仙台及び札幌の6か所の合格発表掲示場所でビラ配りが行われた。ビギナーズ・ネット(司法修習生の給費制復活のためのネットワーク)は,平成22年6月に発足したものである。

2 給費制の維持に反対する立場からの意見表明

一方で,給費制の維持に反対する意見も表明されている。青年法律家協会は「青年法律家 号外」(2010年8月30日付)を発行して給費制存続を訴えたのに対し,法科大学院協会理事長は,平成22年10月12日に「修習生の給費制維持は司法制度改革に逆行(理事長所感)」を発表し,司法修習生の給費制を維持することに反対した。

3 議員立法に向けた動き

平成22年11月1日,給費制を廃止して貸与制を導入する裁判所法の一部を改正する法律(平成16年法律第163号)が施行された。もっとも,その直後から,給費制を1年延長するための裁判所法改正を議員立法で行う動きが報じられ,同月19日午前,自由民主党法務部会は,司法修習生に国が給与を支払う給費制を1年間継続する議員立法に関し,1年後の再延長を認めないことなどを条件に平沢勝栄部会長に対応を一任し,事実上,継続を容認した(日本経済新聞HPの「自民、司法修習生「給費制」継続容認」参照)。

なお,平成22年9月17日発足の菅第1次改造内閣において第84代法務大臣に就任した柳田稔参議院議員は,同年11月14日に国会軽視発言をした結果,同月22日に法務大臣を辞任し,23期の仙谷由人衆議院議員が第85代法務大臣となった。

第3 法律案の起草,衆議院法務委員会の決議及び議決経過

1 衆議院法務委員会における起草と内閣の意見

本法律案は,内閣提出法律案ではなく,衆議院法務委員長提出の法律案(委員会提出法律案)である。平成22年11月24日の衆議院法務委員会は,「裁判所法の一部を改正する法律案起草の件」を議題とし,委員長から起草案の趣旨及び内容の説明があった後,衆議院規則第48条の2の規定により内閣の意見を聴取し,起立総員で委員会提出の法律案とすることを決した。委員長は,起草案の趣旨を次のとおり説明している。

 本年十一月一日に施行された改正裁判所法により、司法修習生に対し給与を支給する制度にかえて修習資金を国が貸与する制度が導入されたところであります。しかしながら、昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ、それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう、法曹養成制度に対する財政支援のあり方について見直しを行うことが緊要な課題となっております。

 本起草案は、このような状況にかんがみ、平成二十三年十月三十一日までの間、暫定的に、司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金を国が貸与する制度を停止し、司法修習生に対し給与を支給する制度とするものであります。

内閣の意見を求められた仙谷由人法務大臣は,「本法律案につきましては、政府としてはやむを得ないと認めます。」と述べた。衆議院法務委員長提出予定の裁判所法の一部を改正する法律案に対する国会法第57条の3に基づく内閣の意見要旨(平成22年11月22日付)も,「標記裁判所法の一部を改正する法律案については,政府としては,やむを得ないものと認めます。」というものであった。

2 裁判所法の改正に関する件(決議)

同じ日の衆議院法務委員会は,民主党・無所属クラブ,自由民主党・無所属の会,公明党,たちあがれ日本及び国益と国民の生活を守る会の共同提案による次の決議を,起立総員で採択した。この決議が,翌年の「法曹の養成に関するフォーラム」設置の根拠となる。

    裁判所法の改正に関する件(案)

  政府及び最高裁判所は、裁判所法の一部を改正する法律の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

 一 改正後の裁判所法附則第四項に規定する日までに、個々の司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずること。

 二 法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずること。

  右決議する。

この決議に対し,仙谷由人法務大臣は「その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。」と述べ,最高裁判所事務総局総務局長は「ただいまの委員会決議の裁判所に関する部分につきましては、その問題意識を十分に踏まえまして、最高裁判所として適切に対処してまいりたいと考えております。」と述べた。

3 議決経過

裁判所法の一部を改正する法律案(第176回国会衆法第13号)の議決経過は,参議院の議案審議情報及び衆議院の「議案審議経過情報」により次のとおり確認できる。両院とも採決態様は多数であり,全会一致ではない。参議院法務委員会では,みんなの党の桜内文城委員が反対討論を行っている。

段階期日結果
衆議院法務委員会(起草・成案決定)・提出平成22年11月24日起立総員・同日提出(衆法第13号)
衆議院本会議平成22年11月25日可決・起立・多数
参議院受領・法務委員会付託・委員会議決平成22年11月25日可決・多数
参議院本会議平成22年11月26日可決・押しボタン・多数(成立)
公布・施行平成22年12月3日法律第64号

新第64期司法修習生の採用日は平成22年11月27日であるから,同法は,その前日である同月26日に成立したことになる。日本弁護士連合会は,成立当日である同月26日に「司法修習貸与制施行延期に関する「裁判所法の一部を改正する法律」成立にあたっての会長声明」を発表した。

第4 平成22年の裁判所法改正の内容

裁判所法の一部を改正する法律(平成22年12月3日法律第64号)は,公布の日から施行され,裁判所法附則第4項を次のとおり改めた。貸与制を定める67条の2の適用を停止したうえで,67条2項及び3項について給費制当時の文言に読み替えるという構造をとっている。

 附則第四項を次のように改める。

  第六十七条の二の規定は、平成二十三年十月三十一日までの間は、適用しない。この場合において、第六十七条第二項中「最高裁判所の定めるところにより、その修習に専念しなければならない」とあるのは「国庫から一定額の給与を受ける。ただし、修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については、この限りでない」と、同条第三項中「前項に定めるもののほか、第一項」とあるのは「第一項」とする。

同法附則2項は,改正後の裁判所法附則第4項の規定を平成22年11月1日から施行日の前日までに採用された司法修習生についても適用するものとし,同附則5項は,施行の際に現に修習資金の貸与の申請をしている司法修習生について,施行の日に申請を撤回したものとみなすこととした。これにより,貸与制は平成22年11月1日にいったん施行されていたにもかかわらず,同年12月3日に,同年11月1日に遡って新第64期司法修習生に給費制が適用されることとなった。

給費制が適用されたのは,平成22年11月1日から平成23年10月31日までに採用された司法修習生,具体的には新第64期及び現行第65期の司法修習生である。給与の額は月額20万4200円であり,平成29年4月18日の参議院法務委員会においても,元榮太一郎委員が「給費制の場合ですと、平成二十三年四月当時で、月額二十万四千二百円のほか、各種手当も支給されていました。」と述べている(詳細につき,司法修習生の給与に関する暫定措置規則(平成22年12月9日最高裁判所規則第11号)参照)。

第5 平成22年の裁判所法改正後の予算措置

1 予算の流用

新第64期及び現行第65期に対する給費制を存続する際,最高裁判所長官は,財務大臣に対し,平成22年12月27日付で予算流用等承認要求を行い,財務大臣は,最高裁判所長官に対し,平成23年1月4日付で予算流用等承認を通知した(「平成22年度一般会計歳出予算流用等の承認要求書及び承認通知書」参照)。具体的には,「修習資金貸与金」という目から「司法修習生手当」という目に,20億4676万2000円が流用された。この金額は,平成22年12月から平成23年3月までの分に相当するものと考えられる。

財政法の仕組みは次のとおりである。裁判所所管の一般会計歳出予算のうち,最高裁判所,下級裁判所,検察審査費,裁判費,裁判所施設費及び裁判所予備経費といった「項」の区分は国会の議決事項であり(同法23条),予算が成立した後に内閣が各省各庁の長に対して行う配賦において,各項が更に職員基本給,職員諸手当といった「目」に区分される(同法31条2項)。各目の経費の金額は,財務大臣の承認を経なければ目の間で流用することができず(同法33条2項),承認があったときは財務大臣が当該各省各庁の長及び会計検査院に通知する(同条3項)。裁判所HPに「裁判所の予算・決算・財務書類」が掲載されている。

なお,法律案に添付された「本案施行に要する経費」によれば,同法の施行に要する経費は,平成22年度において約27億円,平成23年度において約73億円(経過措置により給与を支給する制度が存続する平成24年度において約2億円)の見込みであった。

2 予算に関する国会答弁

吉田泉財務大臣政務官は,平成22年10月22日の衆議院法務委員会において,貸与制への移行を前提として組まれていた予算について次のとおり答弁している。

 予算の方は、法律を前提に、つまり貸与制への移行を前提に組まれております。

 裁判所の二十二年度予算を申し上げますと、新しく始まります修習資金貸与金として二十七億円、そして従来からの給費制にかかわる分として司法修習生手当六十九億円、これは職員基本給、期末・勤勉手当等が含まれております。さらには、その方々の国家公務員共済組合負担金として七億円、これが二十二年度予算でございます。

 また、来年度、二十三年度の予算の概算要求においては、貸与金として八十九億円、手当として二億円、共済組合の負担金として一千八百万円、こういう要求が裁判所から出ております。これを前提に現在予算編成の作業を行っているところでございます。

34期の林道晴最高裁判所事務総局経理局長は,平成22年11月25日の参議院法務委員会において次のとおり答弁している。

 給費制が一年間延長された場合には、まず、平成二十二年度予算におきまして、この十一月二十七日に採用される予定の修習生、司法修習新六十四期の修習生になりますが、それに係る司法修習生手当あるいは共済組合の関係の負担金等として、合計約二十七億円の予算を計上する必要があります。これにつきましては、裁判所の他の予算を流用する手続を速やかに取ることになると考えております。また、平成二十三年度の予算につきましては、本年の十一月から貸与制に移行することを前提として概算要求を行っておりますので、給費制が一年間延長された場合には、それに応じた予算要求に改めることが必要になります。

同じ委員会において,29期の大谷直人最高裁判所事務総局人事局長は,最高裁判所が平成22年9月に日弁連に対して行った照会について次のとおり答弁している。

 裁判所といたしましては、日本弁護士連合会に、今御指摘のとおり、例えば弁護士となって五年を経過した以降の収入の状況等、日弁連の主張の根拠となる具体的なデータの提供を求めていたわけでございますが、こういった点につきまして日弁連から十分な提供ないし説明があったとは必ずしも考えておりません。

 ただ、最高裁といたしましては、今後この論点についての検討がされる際には、関係機関との間で実証的なデータに基づいた意見交換をしてまいりたいと、このように考えております。

第6 平成22年の裁判所法改正に関する文書が最高裁判所に存在しないこと

平成22年の裁判所法改正に関する,①議員への説明,②趣旨説明,③想定問答,④答弁書及び⑤国会審議録といった文書は,最高裁判所には存在しない(平成28年度(最情)答申第28号(平成28年10月11日答申))。同答申は,その理由について次のとおり述べており,法律案の成立が極めて短期間であったことを根拠として挙げている。

 また、平成22年法律第64号については、議員立法であることや、平成22年11月24日に法案が提出され、そのわずか2日後の同月26日に成立したという経緯からすれば、裁判所は、同法に関する想定問答等を作成しなかったものと推測される。

第7 その後の経過

平成22年の改正で延長された給費制は,平成23年10月31日をもって終了し,同年11月27日から修習が開始された新第65期司法修習生から貸与制が実施された。

衆議院法務委員会の決議を受け,平成23年5月13日に,内閣官房長官,総務大臣,法務大臣,財務大臣,文部科学大臣及び経済産業大臣の申合せにより「法曹の養成に関するフォーラム」が設置された。同フォーラムは,同年8月31日に,貸与制を基本としたうえで,個々の司法修習終了者の経済的状況等を勘案した措置を講ずるべきとする「第一次取りまとめ」を行った。

37期の菅野雅之最高裁判所事務総局審議官は,平成23年7月13日の第3回「法曹の養成に関するフォーラム」において,日本弁護士連合会が提案した一部減額のうえでの給費制復活について,「正に立法政策の問題である」としつつ,次のとおり述べた(リンク先の印字16頁から17頁)。

 司法修習生全員に対し給費制を維持することにつき、どのような実証的な根拠があるのかという点につきまして、昨年秋以来、私どもは日弁連にお尋ねしているところでございますが、今回このフォーラムの事務局が経済調査を行って、その結果についてただいま御報告をいただいたところです。……国民的な視点に立てば、給費制を行うことについての合理性が検証されなければならないのではないかと考えておりますが、先ほど事務局から説明をいただいたように、相当高額の収入を得ている弁護士が多いという経済調査の結果のもとで、将来高額収入が得られることが見込まれる司法修習生についてまで一律に給費を行うということには疑問が生じないのであろうかという感じがいたします。このような疑問に合理的な説明がないまま給費を行うということになりますと、いわゆるばらまきを行っているのではないかという批判を招かないのかという心配があるようにも思います。

 早いもので,既に次期第65期の修習生が11月には修習を開始するという状況になっております。昨年は,貸与制がいったん施行された後に,私どもがよく分からない状況のもとで,議員立法によりこれを遡及的に延期するという正に異例の事態が起こり,現場には大きな影響が生じて,その対応に苦慮することになりました。今回は昨年とは異なり,正にこういうお忙しい委員の先生方をお迎えしてこのようなフォーラムで議論していただくという大変貴重な機会が設けられているわけですので,私どもとしてもそういう意味では安心しているところでございます。是非このフォーラムで早期にきちんとした結論を出していただけるようにお願いしたいと申し上げます。

その後,政府は第179回臨時国会に貸与金の返還猶予事由を追加する裁判所法改正案を提出し,第180回国会において裁判所法及び法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律の一部を改正する法律(平成24年8月3日法律第54号)として成立した。同法は,裁判所法67条の2第3項に「修習資金を返還することが経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由があるとき」という返還猶予事由を加えるとともに,法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律附則第2条を改め,同法の施行後1年以内に法曹養成制度についての検討を加えて一定の結論を得るものとした。この検討の枠組みを経て,裁判所法の一部を改正する法律(平成29年4月26日法律第23号)により修習給付金が創設され,平成29年11月1日から施行されて第71期司法修習生に適用されている。

第8 関連記事その他

給費制の導入から修習給付金の創設までの経過は,次の各記事で扱っている。

次の画像は,司法修習生に対する支給等の一覧であり,法務省が作成した,令和元年6月18日の参議院文教科学委員会の国会答弁資料である。

司法修習生に対する支給等一覧(法務省作成の,令和元年6月18日の参議院文教科学委員会の国会答弁資料)

出典・参考資料

法令

議事録・公文書

弁護士会資料