目次
第1 平成16年の裁判所法改正までの経緯
1 司法制度改革審議会意見書及び司法制度改革推進計画の記載
2 財政制度等審議会の建議
第2 平成16年の裁判所法改正の内容
第3 修習専念義務を明文化した理由
第4 平成16年の裁判所法改正に関する文書が最高裁判所に存在しないこと
第5 内閣法制局の法律案審議録(法務省開示分)
第6 平成16年の裁判所法改正に関する日弁連新聞及び日弁連の会長談話
1 平成16年の裁判所法改正に関する日弁連新聞
2 平成16年の裁判所法改正に関する日弁連の会長談話
第7 関連記事その他
第1 平成16年の裁判所法改正までの経緯
1 司法制度改革審議会意見書及び司法制度改革推進計画の記載
(1) 平成13年6月12日付の司法制度改革審議会意見書における記載
修習生に対する給与の支給(給費制)については,将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘もあり,新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ,その在り方を検討すべきである。
(2) 司法制度改革推進計画(平成14年3月19日閣議決定)における記載
新司法試験実施後の司法修習が,司法修習生の増加に実効的に対応するとともに,法科大学院での教育内容をも踏まえ,実務修習を中核として位置付けつつ,修習内容を適切に工夫して実施されるよう,司法修習の具体的な内容等について,最高裁における検討状況を踏まえた上で検討を行い,少なくとも主要な事項の枠組みについて結論を得る。また,併せて,司法修習生の給費制の在り方につき検討を行う。
2 財政制度等審議会の建議
(1) 平成13年11月15日の,財政制度等審議会財政制度分科会の「平成14年度予算の編成等に関する建議」における記載
13.司法制度改革
司法制度は,社会の複雑化,多様化,国際化,事前規制型から事後チェック型行政への移行といった変化に対応し,見直さなければならないものであり,「司法制度改革審議会意見書」(平成13年6月12日)を踏まえ,司法制度改革を推進することとされているところである。
今後,裁判の迅速化,司法の人的基盤の拡充等に向けた具体的方策の検討を進める中で,限られた財政資金の効率的使用の観点から,新たな法曹養成制度,国民の司法参加等について合理的な制度を構築していくことが必要である。
なお,総人件費抑制の必要性や公務員全体の給与の在り方についての検討も踏まえ,裁判所・検察庁等についても,その給与の在り方について適切な検討が加えられるべきである。
(2) 平成14年6月3日の,財政制度等審議会の「平成15年度予算編成の基本的考え方について」における記載
14.司法制度改革
司法制度改革については,限られた財政資金の効率的使用の観点から,合理的な制度を構築していくことが必要であり,裁判官,検察官の増員を図る際には,既存の人材の有効活用,訴訟手続改善等の制度の効率的活用を図ることが必要である。また,法科大学院での教育を踏まえた司法修習の在り方,司法修習生の給費制等,これまでの制度や既定予算の見直しを行うことが必要である。
なお,裁判官,検察官の給与についても,公務員給与の在り方の検討も踏まえ,適切な検討が加えられるべきである。
(3) 平成14年11月20日の,財政制度等審議会の「平成15年度予算の編成等に関する建議」における記載
10.司法制度改革
司法機能の充実・強化に当たっては,法曹人口の増大や迅速な紛争解決を実現する司法制度改革に係る国民の負担を軽減するため,訴訟手続き等に関して制度・運用面の改善を可能な限り行うこと,弁護士報酬の透明化・合理化を図ることなどとともに,既定の予算の見直しを行うことが必要である。
既定の予算の見直しについては,例えば,司法修習生手当に関して,各種の公的給与・給付の見直し等を踏まえ,受益と負担の観点等から,早期に給費制は廃止し,貸与制への切替を行うべきである。
(4) 平成15年6月9日の,財政制度等審議会の「平成16年度予算編成の基本的考え方について」における記載
10.司法制度改革
裁判の迅速化,公的刑事弁護の拡充,司法ネットの構築等の司法機能の充実・強化に当たっては,限られた財政資金の効率的使用の観点から,最高裁判所による検証,公的試験の投入にふさわしい透明性・説明責任の確保,関連機関との連携等に配意し,合理的かつ機能的な制度・仕組みを構築していくことが必要である。
また,司法制度改革を進める中で,「15年度建議」でも述べたとおり司法修習生の給費制は早期に廃止し貸与制への切替を行うべきであり,公務員給与の在り方についての見直しも踏まえ,裁判官・検察官の給与の在り方についても見直しに取り組んでいくべきである。
(5) 平成16年5月17日付の,財政制度等審議会の「平成17年度予算編成の基本的考え方について」における記載
Ⅱ. 各論
10.治安対策・司法制度改革
(2)司法制度改革
新たな被疑者国選弁護や司法過疎地域対策などを含めた総合法律支援制度に関しては,その主たる担い手となる日本司法支援センターについて効果的かつ効率的な体制・運営の在り方を検討する必要がある。具体的には,常勤弁護士の活用などによる効果的な弁護士供給体制の構築,地域毎のニーズに応じたきめ細かな対応,関連法律職種,地方公共団体との密接な連携等を実現することが重要である。
裁判員制度の導入,法曹人口の拡大等に伴い,中期的にも財政負担の増大が見込まれるところである。「11月建議」でも指摘したように,司法修習生の給費制は早期に廃止し貸与制への切替を行うべきであり,また,裁判官・検察官の給与についても,一定の明確な目安を踏まえた昇級の在り方について検討するなど,その在り方について見直しを行うべきである。
第2 平成16年の裁判所法改正の内容
1(1) 現行64期までの司法修習生については,「司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。ただし、修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については、この限りでない。」と定める裁判所法67条2項に基づき,給与の支給を受けていました(司法修習生の給費制)。
しかし,裁判所法の一部を改正する法律(平成16年12月10日法律第163号)による改正後の裁判所法67条2項は,「司法修習生は、その修習期間中、最高裁判所の定めるところにより、その修習に専念しなければならない。 」となり,平成22年11月1日からの給費制の廃止,修習資金貸与制の導入が決定されました。
(2) 裁判所法の一部を改正する法律(平成16年12月10日法律第163号)3項は,裁判官の報酬等に関する法律(昭和23年7月1日法律第75号)14条ただし書を削りました。
2 平成16年の裁判所法改正では当初,新60期司法修習生から貸与制を導入することを前提に,平成18年11月1日から施行することが予定されていました(「裁判所法の一部を改正する法律案」(第161回国会閣法第7号)付則1項参照)。
しかし,貸与制実施の延長を求める日弁連の活動(平成16年6月14日付の「司法修習給費制の堅持を求める緊急声明」参照)等の結果,裁判所法の一部を改正する法律案に対する修正案が可決されたため,平成22年11月1日から施行される予定ということに変更されました。
平成16年12月3日付の日弁連会長談話の記載
本日、第161回臨時国会が会期満了により終了した。(中略)「裁判所法の一部を改正する法律案(司法修習生への給費制廃止)」の2法案は可決成立し、(中略)今次司法制度改革における立法は基本的に完了した。https://t.co/XN6QSTqOeV
— 弁護士 山中理司 (@yamanaka_osaka) September 17, 2021
第3 修習専念義務を明文化した理由
1 裁判所法67条2項は,従前は給費制を定めた条文でしたが,貸与制が導入されてからは,修習専念義務を定めた条文となっています。
2 この点に関する法務省の説明は以下のとおりです(平成16年9月13日付の法務省の参考資料参照)。
修習資金は,後記のとおり,司法修習生がその修習期間中に修習に専念することができるようにするための経済的支援を行い,修習の実効性を確保するため,すなわち,司法修習生が修習に専念する義務(以下「修習専念義務」という。)を担保するために貸与するものであるところ,このような貸与性の趣旨を法律上明確にするためには,制度の目的・前提となる修習専念義務を法律上規定し,法制的にこれを明確に位置付ける必要がある。そこで,第67条第2項中,削除すべき「国庫から一定額の支給を受ける」を「最高裁判所の定めるところにより,その修習に専念しなければならない」に改めることとしたものである。
現行の給費制においては,「給与を受ける」と規定することにより,修習期間中の生活を経済的に保障して司法修習生が修習に専念することができるようにする趣旨であることが法律上も明確に定められているということができ,その上更に修習専念義務を法律上規定する必要はないものと考えられるが,貸与制においては,「修習資金を貸与する」と規定するだけでは貸与の趣旨が法律上明確であるとはいえず,これを明確にするためには,法律上,制度の目的・前提となる修習専念義務を規定し,法制的にこれを明確に位置付けた上で,修習資金が,司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金であることを規定する必要があると考えられる。
そして,貸与制においても,司法修習の意義・重要性や修習専念義務の内容は変わるものではなく,修習専念義務についての上記の規定は,現在と同じ内容の修習専念義務(抽象的な行為規範としての修習専念義務)を,上記のような法制的な理由から法律上規定するものであり,その具体的な内容(具体的な修習への専念の在り方)については現在と同様に最高裁判所規則で定めるべきものと考えられる(現在は,第67条の第3項の包括委任を根拠として定められている現行規則が,新第2項の個別委任を根拠とすることになるものであり,現行規則の形式等に何ら変更を要するものではない。)。
第4 平成16年の裁判所法改正に関する文書が最高裁判所に存在しないこと
平成16年の裁判所法改正に関する,①議員への説明,②趣旨説明,③想定問答,④答弁書及び⑤国会審議録といった文書は,最高裁判所には存在しません(平成28年度(最情)第28号(平成28年10月11日答申))。
第5 内閣法制局の法律案審議録(法務省開示分)
1 裁判所法の一部を改正する法律(平成16年12月10日法律第163号)に関する,内閣法制局の法律案審議録(法務省開示分)を掲載しています。
2 裁判所法の一部を改正する法律案について(司法修習生に対する修習資金の貸与制)と題する法務省文書(平成16年9月13日付)がメインの資料です。
ちゃんとソースがあるのが凄い。結局弁護士の生計が全く解らない輩(≒一部の研究者)が支離滅裂な妄想を喚いていたのをなぜか国が拾っちゃったというお話。 https://t.co/Sou1GSNiwd
— ひなた荘の管理人(弁護士) (@shinobuhome) August 15, 2022
第6 平成16年の裁判所法改正に関する日弁連新聞及び日弁連の会長談話
1 平成16年の裁判所法改正に関する日弁連新聞
(1) 平成16年12月1日付の日弁連新聞第371号の「臨時国会 敗訴者負担反対と給費制堅持ーその帰趨を分けたものー」には以下の記載があります。
11月30日に司法制度改革推進本部が設置期限の3年の満了により解散するなか、53日間の臨時国会が12月3日閉会した。所要の修正を求め、これが得られなければ「廃案」と不退転の決意で臨んだ弁護士報酬の敗訴者負担法案と、司法修習生への給費制堅持を強く求めていた裁判所法一部改正法案についても決着した。前者は廃案、後者は、給費制を前提に法科大学院に入学した学生の期待を裏切ることは避けるべきではないか、との観点から、廃止(貸与制への移行)時期を、政府案の2006年11月から2010年とする修正のうえ、成立した。
日弁連は、どちらの課題についても法案提出前から、会長を本部長とし全理事を本部委員とする対策本部を設置し、広く市民やマスコミに呼びかけ、会を挙げて精力的に国会議員へも働きかけた。国会の現場でその帰趨に接した立場からは、その差は結局のところ、我々弁護士・弁護士会が自らの主張について国民を説得する言葉を持っていたか否かにより生じたものと感じられた。
実際、敗訴者負担は、内閣提出法案であるにもかかわらず、その問題点に共感する声が日増しに高まり、新聞の論調に至っては日弁連の主張と軌を一つにするものも複数出そろうなかで廃案を勝ち取れたのに対し、給費制堅持は、「学生の期待を裏切るべきではない」との点では国民や世論の支持を得ることはできたものの、「個人が資格を得るためのお金を国が支払うべきなのか」との観点で、マスコミ論調の共感を得るには至らなかった。
法曹三者の協議によるのではなく、国民を説得する理と言葉を持った改革だけが勝ち残るという改革の原点を、改めて思い起こさせた国会の幕切れであった。
(2) 平成16年当時の,弁護士報酬等の敗訴者負担制度に関する法務省の資料を以下のとおり掲載しています。
1月15日付,1月22日付,1月28日付及び2月5日付
2 平成16年の裁判所法改正に関する日弁連の会長談話
・ 平成16年12月3日付の日弁連の会長談話(第161回臨時国会の終了にあたって)には,以下の記載があります。
本日、第161回臨時国会が会期満了により終了した。今国会において審議された司法制度改革に関連する法案のうち「裁判外紛争解決手続の利用の促進等に関する法律案(ADR法案)」及び「裁判所法の一部を改正する法律案(司法修習生への給費制廃止)」の2法案は可決成立し、「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案(弁護士報酬の敗訴者負担制度)」は廃案となった。今臨時国会は、司法制度改革推進本部の設置期限が平成16年11月末とされたその最終の国会であり、今次司法制度改革における立法は基本的に完了した。
日本弁護士連合会は、今次司法制度改革における諸立法により、主権者である国民が裁判官とともに裁判に参画する裁判員制度の創設、被疑者国選弁護制度の創設、利用者である市民が利用しやすい裁判所、日本司法支援センターなどの弁護士へのアクセスの制度及びこれらを支えるべき法曹制度と法曹養成の制度が整備されたことを心から歓迎するものである。
第7 関連記事その他
1 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきとされています(最高裁平成28年2月19日判決)。
2(1) 憲法14条は,もとより合理的理由のある差別的な取扱いまでをも禁止するものではありませんから,国有農地等の売払いに関する特別措置法(昭和46年4月26日法律第50号)の立法に合理的理由がある以上,たとえ前記のように国に対して当該買収農地の売払いを求める権利を取得した者について,同法の施行日前に売払いを受けた場合と同法の施行日以後に売払いを受ける場合との間において差別的な取扱いがされることになるとしても,これをもって違憲であるとすることができません(最高裁大法廷昭和53年7月12日判決)。
(2) 村長が特定の者に対しその者が村内で行う工場の建設・操業に全面的に協力することを言明し,村有地を工場敷地の一部として提供する旨の村議会の議決を経由したうえ積極的に工場建設を促し,右特定の者は右協力が継続するものと信じて工場敷地の確保・整備、機械設備の発注等を行い,村の側もこれを予想していたなど,判示の事実関係のもとにおいて,右工場建設に反対する村民の支持を得て当選した新村長が,右特定の者に生ずべき多額の積極的損害について補償等の措置を講ずることなく,右工場建設の途中でこれに対する協力を拒否した場合には,右協力拒否は,やむをえない客観的事情が存するのでない限り,右特定の者に対する違法な加害行為たることを免れません(最高裁昭和56年1月27日判決)。
3 以下の記事も参照して下さい。
・ 司法修習生の給費制に関する,平成10年の裁判所法改正
・ 給費制を廃止した平成16年の裁判所法改正の経緯
→ 大分地裁平成29年9月29日判決の「平成16年改正に至るまでの経緯」からの抜粋です。
・ 司法修習生の給費制に関する,平成22年の裁判所法改正及びその後の予算措置
・ 司法修習生の身分に関する最高裁判所事務総局審議官の説明
・ 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金
司法試験予備校に負けた大学が、大学の復権と予算の獲得のために立ち上げたのが法科大学院で、修習の予算と予備校に流れるお金をぶんどる一方、弁護士になった後のことなんぞ知らんわ、自己責任だろ、というのが司法試験改革ですよ。
— くまったさん&パートナーズ (@ottokumatta) September 27, 2021