司法修習生の給費制に関する,平成22年の裁判所法改正及びその後の予算措置


目次
1 平成22年3月までの経緯
2 平成22年4月以降の経緯
3 平成22年の裁判所法改正の影響
4 平成22年の裁判所法改正後の予算措置
5 関連記事その他

1 平成22年3月までの経緯
(1) 茨城県弁護士会は,平成21年7月1日,「司法修習生の修習資金貸与制の実施を延期し給費制の復活を求める声明」を公表しました。
(2) 日弁連は,平成21年8月20日,「司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則(案)」に対する意見書を公表しました。
(3) 大阪弁護士会は,平成21年9月28日,「司法修習生の給費制の継続を求める意見書」を公表しました。

2 平成22年4月以降の経緯
(1) 平成22年3月10日の再投票で当選し,同年4月1日に日弁連会長に就任した宇都宮健児弁護士の主導により,日弁連は,給費制の存続を訴える活動を開始し(日弁連HPの「司法修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を」参照),同年5月28日の定期総会において,市民の司法を実現するため、司法修習生に対する給費制維持と法科大学院生に対する経済的支援を求める決議を出しました。
   また,ビギナーズネット(司法修習生の給費制復活のためのネットワーク)が平成22年6月に発足しました。
(2) 青年法律家協会は「青年法律家 号外」(2010年8月30日付)を出しました。
(3) 法科大学院協会理事長は,平成22年10月12日,「修習生の給費制維持は司法制度改革に逆行(理事長所感)」を発表して,司法修習生の給費制を維持することに反対しました。
(4) 平成22年11月18日午前5時,司法修習生の給費制を1年延長するための裁判所法改正を議員立法で行う予定であることがNHKで報道されました。
(5) 平成22年11月19日午前,自民党法務部会は,司法修習生に国が給与を支払う「給費制」を1年間継続する議員立法に関し,1年後の再延長を認めないことなどを条件に平沢勝栄部会長に対応を一任し,事実上,継続を容認しました(日経新聞HPの「自民、司法修習生「給費制」継続容認」参照)。
(6)ア 平成22年9月17日発足の菅第1次改造内閣において第85代法務大臣に就任した柳田稔衆議院議員は,平成22年11月14日に国会軽視発言をした結果,同月22日に法務大臣を辞任し,23期の仙谷由人衆議院議員が第86代法務大臣となりました。
イ 衆議院法務委員長提出予定の裁判所法の一部を改正する法律案に対する国会法第57条の3に基づく内閣の意見要旨(平成22年11月22日付)は,「標記裁判所法の一部を改正する法律案については,政府としては,やむを得ないものと認めます。」というものでした。
(7) 司法修習生の給費制の1年延長を定めた裁判所法の一部を改正する法律案(第176回国会衆法第13号)は,平成22年11月24日に衆議院に付託され,翌25日,衆議院本会議で可決され,翌26日,参議院本会議で可決成立しました(衆議院HPの「議案審議経過情報」参照)。
   そして,新64期司法修習が開始する前日である平成22年11月26日,給費制を1年間延長する旨の裁判所法改正法が成立しました。
(8) 日弁連は,平成22年11月26日,「司法修習貸与制施行延期に関する「裁判所法の一部を改正する法律」成立にあたっての会長声明」を出しました。

3 平成22年の裁判所法改正の影響
(1) 同年11月1日から平成23年10月31日までに採用された司法修習生(具体的には,新64期及び現行65期の司法修習生)は,裁判所法の一部を改正する法律(平成22年12月3日法律第64号)(同日施行)による改正後の裁判所法付則4項・67条2項に基づき,1年間の修習期間中,国庫から一定額の給与(毎月20万4200円)を受けることができることとなりました(詳細につき,司法修習生の給与に関する暫定措置規則(平成22年12月9日最高裁判所規則第11号)参照)。
(2) 司法修習生の貸与制は平成22年11月1日にいったん開始していましたから,同年12月3日,同年11月1日に遡及して,新64期司法修習生に対して給費制が適用されることとなりました。
(3) 37期の菅野雅之最高裁判所事務総局審議官は,平成23年7月13日の第3回「法曹の養成に関するフォーラム」において以下の発言をしました(リンク先の16頁)。
    早いもので,既に次期第65期の修習生が11月には修習を開始するという状況になっております。昨年は,貸与制がいったん施行された後に,私どもがよく分からない状況のもとで,議員立法によりこれを遡及的に延期するという正に異例の事態が起こり,現場には大きな影響が生じて,その対応に苦慮することになりました。今回は昨年とは異なり,正にこういうお忙しい委員の先生方をお迎えしてこのようなフォーラムで議論していただくという大変貴重な機会が設けられているわけですので,私どもとしてもそういう意味では安心しているところでございます。是非このフォーラムで早期にきちんとした結論を出していただけるようにお願いしたいと申し上げます。

4 平成22年の裁判所法改正後の予算措置
(1)ア 新64期及び現行65期に対する給費制を存続する際,最高裁判所長官は,財務大臣に対し,平成22年12月27日付で予算流用等承認要求を行い,財務大臣は,最高裁判所長官に対し,平成23年1月4日付で予算流用等承認を通知しました(財政法33条2項及び3項のほか,「平成22年度一般会計歳出予算流用等の承認要求書及び承認通知書」参照)。
   具体的には,「修習資金貸与金」という目から,「司法修習生手当」という目に,20億4676万2000円を流用しました。金額については,平成22年12月から平成23年3月までの分と思われます。
イ 裁判所法の一部を改正する法律(平成22年12月3日法律第64号の施行に要する経費は,平成22年度において約27億円,平成23年度において約73億円(なお,経過措置により給与を支給する制度が存続する平成24年度において約2億円)の見込みでした。
(2)ア 裁判所所管の一般会計歳出予算各目明細書における①最高裁判所,下級裁判所,検察審査費,裁判費,裁判所施設費及び裁判所予備経費という「項」の区分,及び②職員基本給,職員諸手当といった「目」の区分は国会の議決事項であり(財政法23条及び31条),③各目の経費の金額の流用は,財務大臣の承認を得ることを条件とする各省各庁の長の権限事項です(財政法33条2項)。
イ 裁判所HPに「裁判所の予算・決算・財務書類」が載っています。
(3)ア 吉田泉財務大臣政務官は,平成22年10月22日の衆議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    予算の方は、法律を前提に、つまり貸与制への移行を前提に組まれております。
    裁判所の二十二年度予算を申し上げますと、新しく始まります修習資金貸与金として二十七億円、そして従来からの給費制にかかわる分として司法修習生手当六十九億円、これは職員基本給、期末・勤勉手当等が含まれております。さらには、その方々の国家公務員共済組合負担金として七億円、これが二十二年度予算でございます。
    また、来年度、二十三年度の予算の概算要求においては、貸与金として八十九億円、手当として二億円、共済組合の負担金として一千八百万円、こういう要求が裁判所から出ております。これを前提に現在予算編成の作業を行っているところでございます。
イ 34期の林道晴最高裁判所経理局長は,平成22年11月25日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    給費制が一年間延長された場合には、まず、平成二十二年度予算におきまして、この十一月二十七日に採用される予定の修習生、司法修習新六十四期の修習生になりますが、それに係る司法修習生手当あるいは共済組合の関係の負担金等として、合計約二十七億円の予算を計上する必要があります。これにつきましては、裁判所の他の予算を流用する手続を速やかに取ることになると考えております。また、平成二十三年度の予算につきましては、本年の十一月から貸与制に移行することを前提として概算要求を行っておりますので、給費制が一年間延長された場合には、それに応じた予算要求に改めることが必要になります。

5 関連記事その他
(1)ア 平成22年の裁判所法改正に関する,①議員への説明,②趣旨説明,③想定問答,④答弁書及び⑤国会審議録といった文書は,最高裁判所には存在しません(平成28年度(最情)第28号(平成28年10月11日答申))。
イ 29期の大谷直人最高裁判所事務総長は,平成22年11月25日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
    裁判所といたしましては、日本弁護士連合会に、今御指摘のとおり、例えば弁護士となって五年を経過した以降の収入の状況等、日弁連の主張の根拠となる具体的なデータの提供を(山中注:平成22年9月に)求めていたわけでございますが、こういった点につきまして日弁連から十分な提供ないし説明があったとは必ずしも考えておりません。
    ただ、最高裁といたしましては、今後この論点についての検討がされる際には、関係機関との間で実証的なデータに基づいた意見交換をしてまいりたいと、このように考えております。
(2) 以下の記事も参照してください。
・ 司法修習生の給費制に関する,平成10年の裁判所法改正
・ 司法修習生の給費制に関する,平成16年の裁判所法改正
・ 給費制を廃止した平成16年の裁判所法改正の経緯
 司法修習生の給費制,貸与制及び修習給付金

法務省作成の,令和元年6月18日の参議院文教科学委員会の国会答弁資料


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