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司法修習生の国民年金―保険料免除・納付猶予・追納の手続(AIリライト)

第1 司法修習生の国民年金上の位置付け

1 最初に確認すべき結論

日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の司法修習生で,厚生年金保険の被保険者である第2号被保険者又はその被扶養配偶者である第3号被保険者に該当しない者は,国民年金第1号被保険者となる(国民年金法7条1項)。
最高裁判所の第79期司法修習生向け案内21頁も,司法修習生は裁判所共済組合の健康保険及び年金保険に加入できず,修習開始前に第2号又は第3号被保険者であった者は,原則として第1号被保険者への変更が必要であると説明している。

したがって,「司法修習生であれば例外なく国民年金に加入し直す」と一律に扱うのではなく,年齢,国内住所,第2号又は第3号被保険者への該当性及び修習開始前の記録を確認する必要がある。
既に第1号被保険者である者は,通常,その資格が継続する。

2 修習開始前に会社員又は第3号被保険者であった場合

会社員等を退職して第2号被保険者でなくなった者は,退職日の翌日から14日以内を目安として,第1号被保険者への加入手続をする。
手続先は住所地の市区町村又は年金事務所であり,マイナポータルからの電子申請も利用できる(日本年金機構「国民年金に加入するための手続き」)。

第3号被保険者であった者は,配偶者の勤務先を通じた届出を含め,必要な資格変更を確認する必要がある。
切替えを放置すると修習期間が未納期間になるおそれがあるため,修習開始時点の年金記録はねんきんネット等で確認するのが安全である。

3 司法修習生に対する支給と社会保険の位置付け

次の画像は,法務省が令和元年6月18日の参議院文教科学委員会に提出した司法修習生に対する支給等の一覧である。
現行手続の根拠ではないが,修習給付金制度導入後の司法修習生が裁判所共済組合の社会保険の対象とされていないことを示す公的な歴史資料として掲載する。

法務省作成の司法修習生に対する支給等一覧
法務省作成「司法修習生に対する支給等一覧」(令和元年6月18日参議院文教科学委員会答弁資料)

第2 保険料免除制度と納付猶予制度の違い

1 制度を比較した場合

保険料免除は,保険料の全部又は一部を免除する制度である。
納付猶予は,保険料の支払時期を後に延ばす制度であり,承認期間だけでは老齢基礎年金額に反映されない点が大きく異なる。

比較項目保険料免除納付猶予
所得審査の対象本人,配偶者及び世帯主本人及び配偶者
年齢年齢による制度上の上限なし20歳以上50歳未満
承認される範囲全額,4分の3,半額又は4分の1の免除全額の納付を猶予
老齢基礎年金額国庫負担分を含む一定割合を反映追納しない限り反映しない
受給資格期間算入する算入する
追納承認月前10年以内の期間について可能承認月前10年以内の期間について可能

納付猶予は令和17年6月までの時限措置である。
令和7年の年金制度改正により期限が5年間延長された(厚生労働省「令和7年年金制度改正法」説明資料6頁)。

2 親の所得が結論を分ける場合

親と同居しているという事実だけで,親の所得が常に審査対象になるわけではない。
保険料免除では世帯主の所得が審査対象となるため,親が世帯主である場合にはその所得が影響するが,納付猶予では世帯主の所得を審査しない。

そのため,世帯主である親の所得が高く保険料免除を受けられない司法修習生でも,本人及び配偶者の所得要件を満たせば納付猶予を受けられることがある。
反対に,配偶者の所得は両制度で審査される。

3 免除と納付猶予のどちらを選ぶか

全額免除が承認される場合,その期間は老齢基礎年金額に2分の1が反映されるのに対し,納付猶予は追納しない限り年金額に反映されない。
現在の資金繰りだけでなく,将来の追納予定及び年金額への反映を比較する必要がある。

一部免除が承認された場合は,免除されなかった残りの保険料を納付しなければならない。
残額を納付しない期間は一部免除期間ではなく未納期間となるため,申請結果を確認せずに放置してはならない。

第3 所得審査と司法修習生に固有の注意点

1 所得基準と審査年度

免除及び納付猶予の年度は7月から翌年6月までであり,令和8年度分は令和8年7月から令和9年6月までを指す。
審査では原則として前年所得を用いるため,令和8年度分は令和7年所得が対象となる。

令和8年4月1日現在,全額免除及び納付猶予の所得基準は「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」である。
一部免除の本人所得の基準額は,4分の3免除が88万円,半額免除が128万円,4分の1免除が168万円に扶養親族等控除額及び社会保険料控除額等を加えた額であり,本人,配偶者及び世帯主の全員がそれぞれ基準を満たす必要がある(日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」)。

2 修習給付金は後の所得審査に影響し得ること

最高裁判所の第79期司法修習生向け案内21頁は,基本給付金及び住居給付金が所得税法上の雑所得に当たり,必要経費は認められないと説明している。
修習給付金を受けた年の所得は,その所得を参照する後の免除又は納付猶予の審査に影響し得る。

もっとも,司法修習生という身分又は修習給付金の受給だけで,免除若しくは納付猶予が当然に承認され,又は当然に不承認となるわけではない。
扶養親族等の数,配偶者及び世帯主の所得,退職の有無その他の個別事情を確認する必要がある。

3 退職して司法修習生となった場合

勤務先を退職して司法修習生となった者は,失業等による特例を利用できる場合がある。
この特例では,失業等をした者の前年所得を審査上除外して扱うが,配偶者又は世帯主の所得審査までなくなるわけではない。

申請時には,雇用保険受給資格者証,雇用保険受給資格通知又は雇用保険被保険者離職票等の失業の事実を確認できる書類が必要となることがある。
退職直後の申請では,通常の所得基準だけを見て諦めず,失業特例の適用及び必要書類を年金事務所等に確認するのが実務的である。

4 収入が不安定であることと法定の特例は同じではないこと

(1) 失業等の事実は資料で示す必要があること

免除又は納付猶予は申請により審査される制度であり,収入が不安定であるという説明だけで承認されるものではない。
失業特例を利用する場合には,対象となる事実と期間を公的書類等で示す必要がある。

(2) 横浜地方裁判所平成16年7月28日判決

横浜地方裁判所平成16年7月28日判決(平成15年(行ウ)第60号,国民年金保険料免除申請却下処分取消請求事件)は,当時の法令の下で,収入が不安定であることは所得額に関する事情にとどまり,別個の免除事由に当たらないとして,免除申請の却下処分を適法とした(裁判所HP裁判例詳細)。
この判決は旧制度を対象とし,司法修習生の事案でもないため,現在の個別申請の結論を直接決めるものではないが,「収入が安定しない」という事情と法定の失業特例等を区別する必要性を示している。

第4 承認期間が年金記録に及ぼす影響

1 老齢基礎年金額への反映

平成21年4月以後の免除期間について,老齢基礎年金額に反映される割合は次のとおりである。
納付猶予期間は受給資格期間には算入されるが,追納しない限り老齢基礎年金額には反映されない。

記録の区分老齢基礎年金額への反映割合受給資格期間
全額免除2分の1算入する
4分の3免除8分の5算入する
半額免除8分の6算入する
4分の1免除8分の7算入する
納付猶予反映しない算入する
未納反映しない算入しない

2 一部免除後の残額を納付しない場合

4分の3免除,半額免除又は4分の1免除は,残りの保険料を納付して初めて一部免除期間として扱われる。
納付期限までに残額を納付しない場合,その期間は未納期間となり,受給資格期間にも老齢基礎年金額にも反映されない。

3 障害基礎年金及び遺族基礎年金との関係

承認された免除期間及び納付猶予期間は,障害基礎年金及び遺族基礎年金の保険料納付要件を判定する際に所定の期間として扱われる。
これに対し,未納を放置すると同要件を満たさない原因になり得るため,老齢基礎年金額だけの問題と考えてはならない。

第5 免除又は納付猶予の申請方法

1 申請できる期間

免除又は納付猶予は,申請時点から2年1か月前までの期間について遡って申請できる。
ただし,申請が遅れると障害年金又は遺族年金を受けられない場合があるため,納付が難しい時点で速やかに申請するのが安全である(日本年金機構「国民年金保険料の免除等の申請が可能な期間」)。

免除等の年度は7月から翌年6月までであり,複数年度を申請する場合は年度ごとに申請書が必要である。
修習開始月と免除等の年度の切替月が一致しないことがあるため,対象月を申請書ごとに確認する必要がある。

2 申請先と基本書類

申請は,マイナポータルによる電子申請,住所地の市区町村の国民年金窓口,年金事務所又は郵送により行うことができる。
申請書には基礎年金番号又は個人番号を記載し,窓口では本人確認書類等が必要となる。

所得について税の申告が済んでいる場合,所得証明書の添付は通常不要である。
未申告の場合は住民税の申告が必要となることがあり,失業特例を利用する場合は失業の事実を確認できる書類を添付する。

3 審査結果を確認すること

免除又は納付猶予は,申請書を提出しただけで確定するものではない。
日本年金機構から届く承認又は却下の通知を確認し,一部免除の場合は残額の納付書に従って納付する必要がある。

全額免除又は納付猶予について翌年度以降の継続審査を希望できる場合があるが,失業等の特例による承認など継続審査の対象外となる場合もある。
毎年の所得,世帯主及び配偶者の状況が変わり得るため,継続の有無を通知で確認すべきである。

第6 追納と社会保険料控除

1 追納できる期間と加算額

免除又は納付猶予の承認を受けた期間は,追納が承認された月の前10年以内の期間について追納できる(日本年金機構「国民年金保険料の追納制度」)。
追納は原則として古い期間から行い,免除又は納付猶予を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降に追納すると,経過期間に応じた加算額が上乗せされる。

「過去2年分であれば常に加算額がない」とは限らない。
対象月と追納する年度の関係で加算の有無が決まるため,日本年金機構が発行する納付書の金額を確認する必要がある。

2 追納による年金額の増加

日本年金機構は,1年分を追納した場合,全額免除期間では老齢基礎年金が年額で約1万円,納付猶予期間又は学生納付特例期間では年額で約2万円増えると説明している。
実際の増加額は対象年度,月数及び年金額の改定により異なるため,この金額は目安である。

追納した保険料は,追納した年の社会保険料控除の対象となる。
もっとも,将来の税率だけを理由に追納時期を決めるのではなく,加算額,10年の期限,手元資金及び将来の年金額を合わせて検討する必要がある。

3 親が司法修習生の保険料を支払う場合

親が,自己と生計を一にする司法修習生の子の国民年金保険料を実際に支払った場合,親は支払額の全額を社会保険料控除の対象にできる(国税庁タックスアンサーNo.1130「社会保険料控除」)。
同居していることは絶対条件ではないが,別居している場合は生活費等の継続的な送金その他の事情により「生計を一にする」関係を確認する必要がある(所得税基本通達2-47)。

控除できるのは,その年に親が実際に支払った保険料である。
司法修習生本人が自分で支払った保険料を親の控除に付け替えることはできず,年末調整又は確定申告では国民年金保険料控除証明書等を用いる。

第7 出産,育児及び学生納付特例

1 産前産後期間の免除

国民年金第1号被保険者が出産する場合,出産予定日又は出産日の属する月の前月から4か月間の保険料が免除され,多胎妊娠では出産予定日又は出産日の属する月の3か月前から6か月間が免除される(日本年金機構「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」)。
この期間は保険料を納付したものとして老齢基礎年金額に反映され,所得の多寡を問わない。

2 令和8年10月に始まる育児期間の免除

令和8年10月から,国民年金第1号被保険者が1歳未満の子を養育する期間について保険料を免除する制度が始まる。
免除期間は保険料を納付したものとして老齢基礎年金額に反映され,所得要件はなく,父母がともに第1号被保険者として養育している場合は双方が対象となり得る(日本年金機構「国民年金保険料の育児期間免除制度」)。

本記事の基準日である令和8年7月27日には制度開始前であるため,申請時には施行後の様式及び対象期間を改めて確認する必要がある。
司法修習中に出産又は1歳未満の子の養育をする場合は,所得審査型の免除とは別に検討すべき制度である。

3 学生納付特例との区別

司法修習生という身分だけで学生納付特例の対象になるわけではない。
学生納付特例は,大学,大学院その他の対象校に在学する学生等を対象とする別制度であるため,司法修習開始前の学生納付特例と修習開始後の納付猶予を混同してはならない(日本年金機構「国民年金保険料の学生納付特例制度」)。

第8 司法修習生が確認すべき順序と関連記事

1 手続の確認順序

司法修習生が国民年金の手続をするときは,次の順序で確認すると分かりやすい。
① 修習開始時の年齢,住所及び第1号から第3号までの被保険者記録
② 退職日及び第1号被保険者への変更手続の完了
③ 申請対象月,免除等の年度及び審査対象となる所得年
④ 本人,配偶者及び世帯主の所得並びに失業特例の有無
⑤ 全額免除,一部免除及び納付猶予の年金額への影響
⑥ 承認通知,一部免除の残額及び翌年度の継続審査
⑦ 追納の期限,加算額及び社会保険料控除

2 関連記事

修習給付金,国民健康保険及び税務の全体像については,「修習給付金を受ける司法修習生の社会保険及び税務上の取扱い」を参照されたい。
弁護士登録後に第1号被保険者として上乗せ年金を検討する場合は,「日本弁護士国民年金基金」を参照されたい。

第9 出典

1 法令

① 国民年金法(昭和34年法律第141号)7条1項,90条,90条の2及び94条

2 裁判例及び裁判所資料

① 最高裁判所「第79期司法修習生用 司法修習生の修習給付金について」21頁
② 横浜地方裁判所平成16年7月28日判決(平成15年(行ウ)第60号,国民年金保険料免除申請却下処分取消請求事件)
③ 法務省作成「司法修習生に対する支給等一覧」(令和元年6月18日参議院文教科学委員会答弁資料)

3 公的ウェブ資料

① 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」(令和8年4月1日更新)
② 日本年金機構「国民年金保険料免除・納付猶予申請書の電子申請
③ 日本年金機構「国民年金保険料の免除等の申請が可能な期間
④ 日本年金機構「国民年金保険料の追納制度
⑤ 日本年金機構「国民年金に加入するための手続き
⑥ 日本年金機構「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度
⑦ 日本年金機構「国民年金保険料の育児期間免除制度
⑧ 厚生労働省「令和7年年金制度改正法について
⑨ 国税庁タックスアンサーNo.1130「社会保険料控除
⑩ 国税庁「所得税基本通達2-47 生計を一にするの意義
⑪ 日本年金機構「国民年金保険料の学生納付特例制度