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平成29年司法試験民事系第1問(民法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した26項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

平成29年司法試験の民事系第1問(民法)について,公式の出題の趣旨・採点実感から評価項目を整理し,模範解答と解説を示す。
評価項目の抽出と重みは記事独自の分析であり,法務省の項目別配点・公式得点ではない。

項目内容
対象平成29年司法試験論文式・民事系第1問(民法),設問1〜3
問題文法務省の問題PDFの物理1〜5頁
答案の基準時試験実施当時。民法の債権法改正前の規定を用いる
出題の趣旨実読済み。物理4頁の民事系第1問開始から8頁の第2問直前まで
採点実感実読済み。物理1〜8頁の民事系第1問全体
評価項目26項目。重み5は8項目。重み合計104
答案の分量改行を除き3513字。全設問合計5000字以下
主要事項賃借権取得時効,敷地利用と転貸,別筆土地の対抗力と権利濫用
主要裁判例最高裁昭和43年10月8日・昭和28年9月25日・平成9年7月1日の各判決
試験後の改正後の民法改正による用語・効果を答案へ遡及させていない
確認日令和8年10月27日

答案例は,設問1では用益開始を工事開始時とし時効完成を否定する。
設問2では①を敷地の転貸とせず,②は転貸に当たるが背信性を欠くとしてAの解除を否定する。
設問3では乙・甲1土地の賃借権の対抗を認め,甲2土地では権利濫用を否定する。
起算点,敷地範囲,解除及び権利濫用の成否は,理由と事実評価を伴う別の論述も考えられる。

本問の事実と設問要求は第3,評価表は第4,答案及び設問別解説は第5に掲載する。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

一項目につき一つの判断対象を示し,公式資料の記載を答案で判定できる内容に要約した。
条件付き項目は,そこに示した構成を採る場合だけに適用し,非採用の代替構成を全答案へ累積して要求しない。
「間接」は当該資料の一般的な評価と対応することを示し,その資料が個別の構成を明示したという意味ではない。
頁数はPDFの物理頁である。

2 5段階の重み付けの基準

重み基準
5その設問の判断を大きく分ける核心
4結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ
3通常押さえる法的処理・事情の評価
2論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意
1補充的な引用・記述範囲の確認

件数を各重みに割り当てる方式ではない。
重みの合計を公式得点,合格可能性又は科目間の難易度に読み替えることはできない。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

問題文と別紙図面の正本を参照されたい。
Aは,乙土地に隣接するB所有の甲1・甲2部分まで柵で囲い,Cへ建物所有目的で賃貸した。
Cは平成16年10月1日に引渡しを受けたが,工事は平成17年6月1日に始まり,丙建物を乙・甲1部分上に所有し,甲2部分を患者用駐車場に用いた。
Bは平成27年4月20日に甲1部分の明渡しを求めた。

その後,Aは甲1・甲2部分を取得し,分筆・移転登記と建物所在地の更正登記がされた。
CはDに丙建物を貸し,甲2土地をDの患者用駐車場としたため,Aが抗議した。
AC間の紛争は50万円の支払による和解で終わったが,Aは解除済みであるとEに虚偽の説明をし,更地7000万円から収去・明渡し未了分1000万円を減じた6000万円で本件土地を売った。
登記を得たEがCへ建物収去・土地明渡しを求めた。

2 設問が求めること

設問立場・対象指定・仮定・除外到達点
1Cの反論を構成し,その当否を判断Bの所有を認める。事実1〜11。建物収去の可否・要否は除外占有権原の根拠・要件・成否
2Aによる土地賃貸借解除の可否事実1〜16。①建物賃貸と②甲2土地使用をそれぞれ評価採用構成から解除可否へ到達
3Eの収去明渡請求に対するCの反論事実1〜20。別筆土地と建物登記の範囲を区別乙・甲1と甲2の双方を処理

第4 評価項目と重み

1 設問1

番号5〜8の事実への当てはめは,賃借権の時効取得を認める立場を前提とする。
否定説を採るときは,番号4の否定理由と設問に応じた要件説明を踏まえて評価し,肯定説の当てはめを累積して要求しない。

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1B所有を認めた上で,占有権原の抗弁として甲1部分の賃借権の短期取得時効を主張する。5出題趣旨・物理4〜5頁・実読済み採点実感・物理1〜2頁・実読済み
2民法163条・162条2項の10年・自己のためにする意思・平穏公然・開始時の善意無過失と,145条の援用を示す。4出題趣旨・物理5頁・実読済み採点実感・物理2〜3頁・実読済み
3条文の権利行使・自己のためにする意思を,継続的用益と賃借意思の客観的表現に結び付けて説明する。4出題趣旨・物理5頁・実読済み採点実感・物理2〜3頁・実読済み
4賃借権の時効取得を認めるかについて,他人物賃貸借という関係も踏まえて理由を示す。3出題趣旨・物理5頁・実読済み採点実感・物理2〜3頁・実読済み
5条文と判例を踏まえ,賃借権の行使と占有・対抗力との関係から,時効の起算点を理由付きで選択する。5出題趣旨・物理5頁・実読済み採点実感・物理2〜3頁・実読済み
6賃貸借契約の締結と約定賃料の支払を,賃借意思の客観的表現として評価する。4出題趣旨・物理5頁・実読済み採点実感・物理3頁・実読済み
7Cの登記閲覧・現地調査・柵の確認・測量結果を,権利行使開始時の無過失の判断に用いる。4出題趣旨・物理5頁・実読済み採点実感・物理2〜3頁・実読済み
8選んだ起算点から10年の期間とBの提訴による中断を検討し,時効援用による反論の成否を示す。4出題趣旨・物理5頁・実読済み採点実感・物理2〜3頁・実読済み

2 設問2

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
9解除原因を民法612条の無断転貸として特定し,建物賃貸を無断譲渡や用法違反に置き換えない。3出題趣旨・物理6頁・実読済み採点実感・物理4〜5頁・実読済み
10建物所有目的の土地賃貸借の特性と612条の趣旨から,建物賃貸が敷地転貸に当たらないとする理由を示し,①に適用する。5出題趣旨・物理5〜6頁・実読済み採点実感・物理4〜5頁・実読済み
11建物がない甲2土地が転貸否定の対象となる敷地に含まれるかを,建物賃貸の自由を認める理由と利用関係から検討する。5出題趣旨・物理6頁・実読済み採点実感・物理4〜5頁・実読済み
12甲2土地の専用駐車場利用合意とDの現実の使用を,転貸該当性及び612条2項の要件へ当てはめる。3出題趣旨・物理6頁・実読済み採点実感・物理4頁・実読済み
13転貸を認める場合には,個別の承諾の有無を確認し,一団の建物所有目的の賃貸から包括的承諾を導くなら敷地範囲との整合性を説明する。3出題趣旨・物理6頁・実読済み採点実感・物理4〜5頁(間接)・実読済み
14無断転貸を解除原因とする原則と,背信的行為と認めるに足りない特段の事情による例外の関係を理由付きで示す。4出題趣旨・物理6頁・実読済み採点実感・物理4〜5頁・実読済み
15信頼関係破壊の評価根拠と評価障害の双方を拾い,第三者の専用使用と従前同様の診療所付随利用等を総合して評価する。4出題趣旨・物理6〜7頁・実読済み採点実感・物理4〜5頁・実読済み
16①②それぞれの意義と採用した敷地範囲・承諾・信頼関係の判断から,土地賃貸借全体の解除可否へ一貫して到達する。3出題趣旨・物理7頁・実読済み採点実感・物理5頁・実読済み
17【条件付き】建物賃貸による敷地転貸を肯定する反対説では,判例・通説の理由を踏まえて自説を正当化し,②による転貸範囲・危険の増加を評価する。3出題趣旨・物理6〜7頁・実読済み採点実感・物理4頁・実読済み

3 設問3

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
18Cの賃借権を占有権原とする反論として構成し,賃貸人の地位の移転を対抗力の根拠にしない。3出題趣旨・物理7頁・実読済み採点実感・物理5〜7頁・実読済み
19乙・甲1土地について,建物所有目的・C名義の建物登記・Eの権利取得との先後を借地借家法10条1項に当てはめる。4出題趣旨・物理7頁・実読済み採点実感・物理5〜6頁・実読済み
20甲2土地が別筆で,賃借権登記もその上の登記建物もないことから,10条1項の形式的適用をまず否定する。5出題趣旨・物理7〜8頁・実読済み採点実感・物理5〜6頁・実読済み
21甲2土地の対抗要件欠缺だけで終えず,一体利用等を手掛かりに,所有権行使の例外的制限を根拠付きで検討する。5出題趣旨・物理7〜8頁・実読済み採点実感・物理5〜6頁・実読済み
22権利濫用構成では,不動産賃借権が債権であることと対抗要件の機能から,対抗関係構成と異なる根拠を説明する。4出題趣旨・物理8頁・実読済み採点実感・物理5〜7頁(間接)・実読済み
23権利濫用構成では,双方の利益・損失及び買主の主観等を総合する判断枠組みを示す。5出題趣旨・物理8頁・実読済み採点実感・物理6頁(間接)・実読済み
24権利濫用構成では,一体利用・駐車機能喪失と診療所存続への影響,Eの説明への信頼・代金設定等を評価し,請求の成否を示す。5出題趣旨・物理7〜8頁・実読済み採点実感・物理6頁(間接)・実読済み
25【条件付き】対抗関係構成では,債権である賃借権を対抗関係として扱う理由と第三者の正当な利益・主観的態様の基準を示して当てはめる。4出題趣旨・物理7〜8頁・実読済み採点実感・物理6頁(間接)・実読済み
26【条件付き】10条1項による効力拡張構成では,本則の例外を正当化する十分な根拠と範囲を示し,甲2土地がその範囲に属するかを判断する。3出題趣旨・物理8頁・実読済み採点実感・物理5〜6頁(間接)・実読済み

4 重みの分布

重み1は0項目,2は0項目,3は8項目,4は10項目,5は8項目である。
総数は26項目,重み合計は104である。
条件付きの代替構成もこの公開表の件数・重み合計には含めるが,個々の答案への適用時には採用構成に応じて区別する。

重み5は,番号1の反論選択,5の起算点,10の建物賃貸の理由,11の敷地範囲,20の甲2土地の原則,21の例外的保護,23の判断枠組み,24の具体的利益衡量である。
全設問共通の注意は各項目と解説に組み込み,同じ誤りを別の「答案全体」項目として重ねて集計していない。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

答案は試験当時の法令・判例を前提とする。
以下の答案は改行を除き3513字であり,設問順に規範・事実評価・結論を示した。
本問への当てはめや採用構成に複数の見解が考えられる部分では,本記事の立場を一つ選んでいる。

2 答案

1 設問1

(1)Cは,甲1部分の賃借権を時効取得したとして,占有権原の抗弁を主張することが考えられる。
AC間の他人物賃貸借は当事者間では有効であるが,所有者Bはこれに拘束されないから,契約の成立だけではBの請求を拒めない。
Bの所有を認めるという前提から,所有権の取得時効を根拠とすることもできない。

(2)民法163条は,所有権以外の財産権の取得時効を認めている。
賃借権は債権であるが,占有を伴って継続的に行使される権利であり,長年続いた権利行使の状態を尊重して法律関係を安定させる必要があるから,同条の対象となる。
他人物賃貸借であっても,賃貸人との契約だけでは所有者に主張できない権利を時効により取得する意味があり,これを一律に排除すべきではない。
同条及び162条2項により,10年間,自己のためにする意思をもって,平穏かつ公然と賃借権を行使し,その行使開始時に善意無過失であることを要する。
ここで,賃借権の行使とは601条の使用収益であり,自己のためにする意思は賃借意思として具体化される。
したがって,土地の継続的な用益という外形的事実があり,その用益が賃借の意思に基づくことが客観的に表現されていることが必要である。
さらに,時効の援用を要する(145条)。

(3)Cは平成16年10月1日に本件土地の引渡しを受け,約定どおり毎月賃料を支払っている。
賃貸借契約の締結とその履行は,無償利用や地上権の行使と異なる賃借意思を客観的に示す。
外周の柵も維持され,平穏かつ公然の占有が認められる。
しかし,賃借意思の表示や占有と用益の開始は別問題である。
引渡しによって建築のために土地を確保した時から用益しているとみる余地はあるが,本件では工事開始まで全く利用されず,更地のままであったことが明示されている。
この状態を継続的用益と認めると,権利の行使という要件が単なる占有に置き換わるから,甲1部分を建築工事に供し始めた平成17年6月1日を起算点と解する。

Cは,Aに甲1部分を賃貸する権限があると信じていた。
登記閲覧に加え,Aと現地を調査して柵を確認し,測量面積と登記地積の一致も確認している。
排水溝が埋没している状況の下でこれらの調査を尽くしたCには,越境を知らなかったことにつき過失はないと評価できる。
もっとも,平成17年6月1日からBの提訴した平成27年4月20日までは10年未満である。
設問1の事実1〜11を前提に本件訴えが継続している限り,Bの裁判上の明渡請求によって時効は中断される(147条1号)。
よって,Cが時効を援用しても上記反論は認められない。

2 設問2

(1)解除原因として考えられるのは,612条2項の無断転貸である。
同条が承諾を要求するのは,賃貸借の基礎となる信頼関係を保護し,使用収益を任せる相手方の交替による不利益を防ぐためである。
もっとも,建物所有目的の土地賃貸借は,長期にわたり建物を所有して利用することを認める契約である。
建物を他人に賃貸することも通常の建物所有権の利用であり,土地賃借人は建物所有者として敷地を利用し続け,土地賃貸人に対する責任主体も変わらない。
したがって,建物賃貸に当然伴う敷地利用まで土地転貸とするのは,契約によって認めた建物所有の効用を不当に制約するから,その範囲では土地の転貸に当たらないと解する。

①では,丙建物を貸しても建物所有者・土地賃借人はCのままである。
Dが甲1土地上の出入口を使うことも建物の通常の使用に伴うものであり,独立した土地利用権の設定ではない。
よって,①を理由に解除することはできない。

(2)②では,甲2土地まで上記の敷地利用に含まれるかが問題となる。
その範囲は建物の建つ部分だけに機械的に限定せず,建物利用との結び付きと,独立した土地利用を認めたといえるかによって判断すべきである。
甲2土地は診療所の患者用駐車場として密接に関係するものの,建物自体の出入りは専ら甲1土地上で行われ,甲2土地の利用は建物を使用するために不可欠ではない。
CDは甲2土地を専らDの患者用駐車場とする旨を合意し,現にDが使用しているから,独立した土地の転貸と評価する。
Aが個別に承諾した事実はない。
本件土地を一団として貸したことから包括的承諾を認める余地もあるが,独立の土地利用と評価した甲2土地の転貸まで,建物所有目的の合意だけから承諾済みとすることはできない。

(3)もっとも,612条の上記趣旨から,無断転貸があっても,背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には解除権は発生しない。
甲2土地を第三者Dに専用使用させることは,Aが選択していない者による直接利用を認める点で信頼を害する方向に働く。
しかし,従前と同じ診療所の患者用駐車場としての利用であり,普通自動車3台分という規模も変わらない。
うち1台は救急患者専用であって,建物利用との結び付きも強い。
健康上の理由で廃業するCに代わってDが同じ診療所を営むに至ったのであり,駐車場を切り離して営業的に転貸した事情はなく,Cの土地賃借人としての義務も存続する。
これらを総合すると,背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるから,②を理由としても本件土地賃貸借契約を解除することはできない。

3 設問3

(1)Cは,本件土地の賃借権を占有権原として反論する。
Aが甲1・甲2土地を取得して従前どおりの賃貸借を認めた後,無断利用に関する紛争も50万円を対価とする和解で解決されており,賃借権は存続する。
問題は,Cがこの賃借権を土地取得者Eに主張できるかである。

(2)本件賃借権は建物所有目的の借地権であり(借地借家法2条1号),借地権者が土地上に自己名義で登記された建物を所有すれば,借地権の登記がなくても第三者に対抗できる(同法10条1項)。
丙建物は乙・甲1土地の上にあり,C名義の保存登記がされている。
所在土地の表示も平成27年11月20日に両筆へ更正されており,Eの所有権取得登記に先立つ。
したがって,Cは乙・甲1土地の賃借権をEに対抗でき,丙建物の収去及び両土地の明渡しを拒むことができる。

(3)甲2土地は別筆であり,その上にC名義で登記された建物はなく,賃借権の登記もない(民法605条)。
建物登記を土地賃借権の公示に代える10条1項の趣旨から,乙・甲1土地上の建物登記による対抗力を,建物が存在しない別筆の甲2土地へ当然に拡張することはできない。
一体利用というだけでその拡張を認めるのは,第三者が登記から知り得る公示の範囲を不明確にする。

(4)そこで,Cは,甲2土地の明渡請求が権利の濫用であると反論することが考えられる(1条3項)。
賃借権は債権であり,所定の対抗要件によって初めて土地取得者に効力を主張できるから,その要件を欠く本件では,Eを当然の対抗関係の当事者として扱うのではなく,Eの所有権行使の限界として検討する。
対抗要件を欠く以上,Eの請求は原則として認められ,権利濫用は例外である。
一団として利用される土地については,双方の土地利用の必要性と利用できないことによる損失,買主の認識・請求に至る経緯,対抗要件欠缺についてのやむを得ない事情等を総合し,その権利行使が社会的に許容される範囲を超えるかを判断する。

甲2土地は柵で囲まれた本件土地の一部として従前から診療所に付随して利用され,明渡しによって駐車機能が失われ,救急患者を含む患者の利便も損なわれる。
駐車場には登記すべき建物がなく,建物登記による公示ができなかった事情も,C側に有利に考慮できる。
しかし,診療所への出入りは甲1土地上で確保されており,甲2土地の利用が失われても,診療所の存続が不可能になるとまでは認められない。
他方,Eは,賃貸借が解除され,速やかに明渡しを受けられると信じて購入した。
代金6000万円は更地7000万円から収去・明渡し未了の負担として1000万円を減じたものであり,長期にわたる借地権の負担を引き受ける価格設定ではない。
この経緯は,借地権の対抗要件欠缺を利用して格安で取得した場合と異なり,Eが甲2土地の返還を求める利益を基礎付ける。
現存する建物や駐車場の利用状況は,Aの説明をそのまま信じることへの疑問となるものの,それだけでEの利益を後退させ,Cの対抗要件欠缺を例外的に補うに足りるとはいえない。
以上を総合すると,患者の不便等を考慮しても権利濫用を認めるには足りず,Cのこの反論は認められない。
よって,Eの請求は丙建物の収去及び乙・甲1土地の明渡しについては認められず,甲2土地の明渡しについては認められる。
以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案の1は番号1〜8,2は番号9〜16,3は番号18〜24に対応する。
重み3以下の番号4・9・12・13・16・18も,当該答案部分又は下記の留保に対応する。
番号17・25・26は非採用の代替構成であり,本文へ累積させない。

第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。

番号重み評価項目答案の該当箇所・留保
15B所有を認めた上で,占有権原の抗弁として甲1部分の賃借権の短期取得時効を主張する。1(1):契約の相対性と時効抗弁。
24民法163条・162条2項の10年・自己のためにする意思・平穏公然・開始時の善意無過失と,145条の援用を示す。1(2):条文の各要件と援用。
34条文の権利行使・自己のためにする意思を,継続的用益と賃借意思の客観的表現に結び付けて説明する。1(2):使用収益・賃借意思との接続。
55条文と判例を踏まえ,賃借権の行使と占有・対抗力との関係から,時効の起算点を理由付きで選択する。1(3):引渡し時を採る余地を示し,工事開始時を選択。保存登記時起算説の位置付けは解説(2)参照。
64賃貸借契約の締結と約定賃料の支払を,賃借意思の客観的表現として評価する。1(3):契約締結と賃料支払。
74Cの登記閲覧・現地調査・柵の確認・測量結果を,権利行使開始時の無過失の判断に用いる。1(3):登記・現地・測量の評価。
84選んだ起算点から10年の期間とBの提訴による中断を検討し,時効援用による反論の成否を示す。1(3)末尾:10年未了・提訴中断・反論否定。
105建物所有目的の土地賃貸借の特性と612条の趣旨から,建物賃貸が敷地転貸に当たらないとする理由を示し,①に適用する。2(1):土地賃貸借の特性と建物所有の効用。
115建物がない甲2土地が転貸否定の対象となる敷地に含まれるかを,建物賃貸の自由を認める理由と利用関係から検討する。2(2):不可欠性と独立利用から範囲を判断。
123甲2土地の専用駐車場利用合意とDの現実の使用を,転貸該当性及び612条2項の要件へ当てはめる。2(2):専用使用の合意と現実の駐車利用。
133転貸を認める場合には,個別の承諾の有無を確認し,一団の建物所有目的の賃貸から包括的承諾を導くなら敷地範囲との整合性を説明する。2(2):個別承諾なし・包括的承諾を否定する理由。
144無断転貸を解除原因とする原則と,背信的行為と認めるに足りない特段の事情による例外の関係を理由付きで示す。2(3)冒頭:原則と特段事情の例外。
154信頼関係破壊の評価根拠と評価障害の双方を拾い,第三者の専用使用と従前同様の診療所付随利用等を総合して評価する。2(3):専用使用の不利益と用途・規模・目的の継続を総合。
173【条件付き】建物賃貸による敷地転貸を肯定する反対説では,判例・通説の理由を踏まえて自説を正当化し,②による転貸範囲・危険の増加を評価する。不採用。敷地転貸を肯定する場合だけ必要。解説(3)参照。
194乙・甲1土地について,建物所有目的・C名義の建物登記・Eの権利取得との先後を借地借家法10条1項に当てはめる。3(2):建物登記・所在更正・先後。
205甲2土地が別筆で,賃借権登記もその上の登記建物もないことから,10条1項の形式的適用をまず否定する。3(3):別筆・建物なし・公示範囲。
215甲2土地の対抗要件欠缺だけで終えず,一体利用等を手掛かりに,所有権行使の例外的制限を根拠付きで検討する。3(4):権利濫用の反論へ進む。
224権利濫用構成では,不動産賃借権が債権であることと対抗要件の機能から,対抗関係構成と異なる根拠を説明する。3(4)冒頭:債権と対抗関係の区別。
235権利濫用構成では,双方の利益・損失及び買主の主観等を総合する判断枠組みを示す。3(4):利益・損失・主観等の総合判断。
245権利濫用構成では,一体利用・駐車機能喪失と診療所存続への影響,Eの説明への信頼・代金設定等を評価し,請求の成否を示す。3(4):診療所の利便,出入口,価格,Eの信頼を比較。
254【条件付き】対抗関係構成では,債権である賃借権を対抗関係として扱う理由と第三者の正当な利益・主観的態様の基準を示して当てはめる。不採用。対抗関係として扱う根拠が別途必要。解説(4)参照。
263【条件付き】10条1項による効力拡張構成では,本則の例外を正当化する十分な根拠と範囲を示し,甲2土地がその範囲に属するかを判断する。不採用。効力拡張には公示原則の例外を正当化する理由が必要。解説(4)参照。

(2) 設問1

出題の趣旨・採点実感は,反論の選択,条文上の全要件と判例の定式との関係,賃借権時効を認める理由,起算点及び具体的事実の評価を求める(番号1〜8)。
「要件」は実体法上の要件であり,抗弁の要件事実だけに絞るものではない。
答案は,引渡しを受けた時から土地を確保していたという評価と,全く利用されていなかったという事実を比較し,後者を重視した。
公式資料は平成16年10月1日起算と平成17年6月1日起算を比較する検討を求めており,結論の語句だけで評価が決まるわけではない。

公式資料は,賃借権の時効取得を一般に認めない立場や,他人物賃貸借では認めない立場についても,理由を挙げて検討することを求めている(番号4)。
本答案は取得を認める立場を採ったものであり,否定説を採ること自体を全答案共通の誤りとするものではない。

採点実感は,対抗力を備えた賃借権だけが時効取得の対象となるという理解から,平成18年2月15日の建物所有権保存登記時を起算点とする答案にも一定の評価を与えている。
これは,条文・判例との関係を理由付きで説明する別の起算点の考え方として位置付けられる(番号5)。
他方,平成16年9月15日の契約締結時を起算点とする答案には,賃借権の行使が占有を前提とすること等への理解を欠くとして,高い評価を与えていない。

本件の裁判上の請求については,旧民法147条1号とともに,訴えの却下又は取下げの場合には中断の効力を生じないとする旧149条に注意を要する。
答案は設問1の事実1〜11を前提として本件訴えが継続する場合を述べており,後の設問に現れる事実12の取下げを設問1へ遡及して用いていない。

最高裁昭和43年10月8日判決(昭和42年(オ)第954号)は,用益の継続と賃借意思の客観的表現という要件を示す。
答案の更地不使用への評価は,本記事による事案への当てはめであり,同判決が本問と同一の事実について結論を示したものではない。

(3) 設問2

公式資料が重視するのは,①②の結論だけでなく,建物の賃貸が敷地の転貸に当たらない理由と,そこから敷地の範囲を定める論理である(番号10・11)。
敷地を建物の投影面積と同一視したり,別筆だから直ちに転貸としたりしては,この理由が欠ける。
答案は,建物所有権の通常の効用と責任主体の継続を理由に①を転貸とせず,②は独立した土地利用と認めた。
その上で,承諾と背信性の検討を別に行った(番号12〜16)。

甲2土地を建物の敷地利用に含める立場,敷地利用にも転貸を認める立場も,理由・当てはめが一貫すれば排除されない。
後者では,②によって直接利用の範囲と賃貸人の危険が増すことを評価する必要がある(番号17)。
無断転貸があるというだけで解除を決めず,逆に信頼関係を害しない事情だけを並べるのでもなく,評価障害も検討する。

(4) 設問3

公式資料は,乙・甲1土地での対抗力を認める一方,甲2土地では形式的な対抗要件欠缺を確認した先の反論を主眼とする(番号18〜21)。
答案は,建物登記の公示範囲を別筆土地へ当然には広げず,権利濫用の例外を検討した。
賃貸人の地位がEへ移転したことを先に述べて占有権原を導くと,対抗力の有無という前提が逆転する。

最高裁平成9年7月1日判決(平成6年(オ)第590号)は,複数土地が一体利用される事案につき,登記建物のない土地の対抗力を否定した上で,土地利用の必要性・損失,買主の認識・請求経緯,対抗要件欠缺の事情等による権利濫用の判断を示す(番号22〜24)。
同判決では当該土地を失うとガソリンスタンド営業の継続が事実上不可能となる事情等があった。
本問は駐車の利便が失われるが,建物への出入りは甲1土地上にある。
また,代金の減額は収去・明渡し未了を考慮したものであり,借地権の負担を受け入れた減額と同一視できない。
答案はこの差を重視して権利濫用を否定したが,これは本記事の事実評価であり,公式資料がこの結論だけを指定したという意味ではない。

甲2土地に建物がなく建物登記による公示ができないことは,賃借権自体の登記が法律上不可能であることを意味しない(旧民法605条)。
本問にはAが登記協力を拒んだ等の事情はなく,この点だけで対抗要件の欠缺をやむを得ないものと扱うことはできない。

対抗関係構成を採る場合は,債権である賃借権についてその構成を用いる理由を示し,第三者の正当な利益と主観的態様を検討する(番号25)。
10条1項の効力拡張構成では,公示の原則に例外を認める根拠と範囲が必要となる(番号26)。
いずれも,本答案の権利濫用構成へ無条件に追加する項目ではない。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

用益開始時,敷地の範囲及び権利濫用については,具体的な評価によって結論が分かれ得る。
Eがどのような現地確認をしたか,CDへ問い合わせたかは問題文にないため,その不実施を事実として追加していない。
甲2土地の返還による患者の不便は評価したが,診療所の存続が不可能になるという事実は補っていない。
錯誤,和解の一般論,賃貸人の地位の移転を中心的反論にすることを避け,設問1の建物収去も検討対象から除いた。
答案全体に関する採点実感の注意として,適切な法規範を体系上の順序で選ぶこと,設問外事項へ過剰に分量を割かないこと,理由と結論を整合させることが挙げられる。
これらは個々の評価項目と重なる部分があるため,本表では重複して加点・減点しない。

同資料末尾の学習指導は,判例の前提事実,価値判断,論理構造及び射程を具体的に検討することを勧めるものであり,独立の答案必須論点を追加する趣旨ではない。
手書きの判読性も指摘されているが,実際の手書き答案の可読性は本記事の活字答案から確認できず,数値評価の対象としていない。

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第7 出典及び確認状態

1 公式資料

平成29年司法試験の結果についてに掲載された論文式試験出題の趣旨の民事系第1問(物理4頁途中〜8頁途中)を実読した。
平成29年司法試験の採点実感に掲載された民事系科目の採点実感の第1問(物理1〜8頁)も実読した。
合冊資料の他科目・他問題は本記事の根拠に用いていない。

2 法令

民法・平成28年10月13日施行版の1条・162条・163条・145条・147条・149条・601条・605条・612条等と,借地借家法・平成25年1月1日施行版の2条・10条等を確認した。
現在の条文をそのまま試験当時の答案へ置き換えていない。

3 裁判例

最高裁第三小法廷昭和43年10月8日判決・昭和42年(オ)第954号の本文を確認した。
最高裁第二小法廷昭和28年9月25日判決・昭和25年(オ)第140号は,解除制限を述べる法廷意見の物理1〜2頁を確認した。
最高裁第三小法廷昭和44年12月23日判決・昭和44年(オ)第317号及び最高裁第三小法廷平成9年7月1日判決・平成6年(オ)第590号の本文も確認した。
旧建物保護法の下の判決は,建物登記を借地権登記に代える公示機能との関係で参照し,廃止された法律を直接の適用根拠にはしていない。

出題の趣旨・採点実感が紹介する最高裁昭和62年6月5日判決及び大審院昭和8年12月11日判決は,本記事では公式資料による紹介として確認した。
両判決の原文は直接実読しておらず,原文を実読した上記4判決とは確認範囲が異なる。

4 確認状態

問題,出題の趣旨及び採点実感の本問部分は実読済みである。
公式資料から読み取れる要求と,重み付け・採用構成・個別事情の評価という記事独自の分析を区別した。
評価項目の全てを一つの答案へ累積させるものではなく,条件付き項目は採用構成に応じて用いる。
公式に書かれていない改正後の判例・実務を,当時の答案要求として付け加えていない。