第1 和解が不履行でも終了した訴訟は原則として復活しない
裁判上の和解が成立すると、その内容は和解調書に記録され、確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。相手方が約束どおりに支払わない、明け渡さない、物を引き渡さないという事態が起きても、それだけで和解前の訴訟が再開するわけではありません。
最高裁昭和43年2月15日判決は、裁判上の和解を前提とする私法上の契約を債務不履行により解除しても、和解による訴訟終了の効力には影響しないと判断しました。したがって、不履行後の対応は、和解調書に基づく強制執行、和解後に生じた請求についての新たな訴訟、又は解除後の法律関係に基づく請求を区別して検討します。
第2 最初に和解調書と不履行の内容を確認する
1 何を、いつまでに履行する条項か
金銭の支払、建物の明渡し、物の引渡し、製造販売の停止、書類の交付など、義務の内容を特定します。期限、条件、相手方の先履行又は同時履行が定められている場合は、その成否も確認します。
2 期限の利益喪失条項があるか
分割払いでは、1回の遅滞で当然に残額全額が支払期日を迎えるとは限りません。何回又はいくらの遅滞で期限の利益を失うか、催告が必要か、残額、条件付き免除及び遅延損害金の関係を読みます。
3 履行したことを示す資料
振込記録、受領証、鍵の引渡書、写真、廃棄証明書、配達記録などを確保します。不履行と考えていても、支払先口座の誤り、受領拒絶、相殺の主張又は条件未成就が問題になることがあります。
第3 和解調書に基づく強制執行
1 金銭給付
和解調書で金銭債務と期限が特定されている場合は、預金、給与、売掛金、不動産などに対する強制執行を検討します。実際の手続では、執行文の要否、送達証明、確定した残額及び対象財産を確認します。
期限の利益喪失が条件付きで定められているときは、条件成就の証明が問題になることがあります。和解成立時に、将来の執行で何を提出すればよいかまで確認しておく必要があります。
2 建物明渡しその他の非金銭給付
建物明渡しの強制執行は、執行官が行います。目的物、明渡義務者及び期限が調書上明確でなければ、執行段階で問題になります。残置物がある場合も、債権者が当然に自由処分できるわけではありません。
行為義務又は不作為義務については、直接強制、代替執行又は間接強制のどの方法が使えるかが義務の性質によって異なります。和解条項を作る時点で、違反した場合の実現方法を検討します。
第4 解除を検討するときの注意点
1 解除できるかは和解後の契約内容による
民法541条以下は、債務不履行による解除を定めています。ただし、催告が必要か、無催告解除ができるか、違反が軽微でないか、債権者側に帰責事由がないかなど、解除の要件を個別に確認しなければなりません。
裁判上の和解の条項には、元の権利関係を確認する部分、債務を変更する部分、免除を条件付きで定める部分などが混在することがあります。和解全体を一つの契約として解除できるのか、一部の給付関係だけが対象になるのかも、条項の解釈によって異なります。
2 解除しても訴訟終了の効力は戻らない
最高裁昭和43年2月15日判決が明らかにしたのは、私法上の契約を解除しても、裁判上の和解によって訴訟が終了したという訴訟法上の効果には影響しないという点です。この判決は、あらゆる和解契約が必ず解除できることや、解除後に元の請求がそのまま認められることまで判断したものではありません。
第5 再度の訴訟が必要になる場合
和解調書だけでは執行できない義務、和解後に成立した損害賠償請求、解除後の原状回復又は新たな給付請求については、別の訴訟が必要になることがあります。
その場合も、元の訴訟を単純に再開するのではなく、新しい訴えの請求原因、和解条項の効力、既判力又はこれに準じる効力、請求放棄及び清算条項の範囲を検討します。和解調書の文言と異なる内容を容易に認めることはできないため、元の請求と新しい請求の関係を整理する必要があります。
第6 不履行に備える和解条項
1 分割払い
各支払日と金額、振込先、振込手数料、期限の利益喪失事由、残額、遅延損害金及び条件付き免除を一続きで確認します。条件付き免除を使う場合は、何を履行すれば、どの債務が、いつ消滅するかを明記します。
2 履行確認
資料の返還、製品の廃棄、アカウント削除又は表示の変更などは、完了報告の期限、報告方法及び裏付け資料を定めます。「誠実に対応する」といった抽象的な文言だけでは、後の強制執行に適さないことがあります。
3 清算条項
不履行時にも残す請求、和解の履行に関する請求、将来損害及び別契約上の請求を整理します。広い清算条項があると、不履行後に予定していた請求まで争われる可能性があります。
4 保証又は担保
保証人、抵当権その他の担保を置く場合は、保証意思確認、公正証書作成等の法定手続、被担保債権の範囲及び和解による債務変更との関係を確認します。
第7 不履行発生後の確認手順
最初に、和解調書正本、送達関係書類、支払履歴及び相手方の財産情報を集めます。次に、期限が到来しているか、条件が成就しているか、催告が必要か、相手方が履行拒絶又は相殺を主張しているかを確認します。
その上で、和解調書による執行、任意の履行交渉、財産開示等、解除及び新たな訴訟を比較します。時効や執行対象財産の散逸が問題になるときは、保全処分を含めて早期に検討します。
第8 根拠資料と関連記事
一次資料は、民事訴訟法267条、民法541条から545条及び最高裁昭和43年2月15日判決です。
最高裁判決の射程は、和解を前提とする私法上の契約の解除が訴訟終了の効力に影響しないという点です。個別の解除要件、解除後の実体法上の請求及び執行方法は、条項と事実関係に応じて別に検討する必要があります。
条項全体の確認方法は、民事訴訟における和解案・和解条項案を参照してください。