第1 会社名を変えても旧債務の責任が問題になる
事業譲渡の前後で会社の商号が変わっていても,同じ屋号やブランドを使っていれば,譲受会社の旧債務に対する責任が問題になることがある。
ただし,名称が同じという一事だけで責任が決まるわけではない。
その表示が商品を識別するだけなのか,事業を営む主体を示しているのかを,実際の使われ方から確認する必要がある。
本記事は,会社間の事業譲渡について,令和8年10月20日に確認した会社法と最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決を基に整理する。
旧会社の債権者が譲受会社へ請求する問題を扱い,名称の使用を許した名義人への請求は区別する。
第2 商号・屋号・商品商標を分ける
会社法22条1項は,譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合に,譲渡会社の事業によって生じた債務について譲受会社にも弁済責任を負わせる。
譲渡契約で旧債務を除外したことと,この対外責任が生じるかは別の問題である。
商号ではない店舗名・施設名等については,同項が当然に直接適用されるとして処理せず,商号続用責任を類推できるかを検討する。
商品の品質や出所を示す商標を引き継いだだけなのか,取引先や顧客に営業主体を示す名称としても使われていたのかが,検討の出発点となる。
第3 最高裁平成16年2月20日判決の内容
1 ゴルフクラブ名を引き継いだ事案である
最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決(平成14年(受)第399号,民集58巻2号367頁)は,ゴルフ場の営業を譲り受けた会社が,旧会社の商号は使わず,同じゴルフクラブ名で経営を続けた事案を扱った。
会員は,旧会社へ預託した1300万円について,譲受会社への返還を求めた。
原審では,譲受会社が預託金返還債務を契約上引き受けた事実は認定されていなかった。
2 名称が営業主体を表示する機能を重視した
最高裁は,当該クラブ名がゴルフ場の営業主体を示すものとして用いられていると評価した。
そのような名称を譲受人が続用するときは,特段の事情がない限り,旧商法26条1項の類推適用により預託金返還義務を負うとした。
会員が同じ主体による営業の継続,又は主体が変わっても旧債務が引き受けられたと信じることが無理からぬものとなる点を説明している。
3 特段の事情の審理のため破棄差戻しとなった
判決は,譲受後遅滞なく会員の施設優先利用を拒否したなどの特段の事情に言及した。
その有無を更に審理させるため原判決を破棄して差し戻しており,この判決だけで当該事件の最終的な支払義務が確定したと説明してはならない。
この法理は旧商法のゴルフ場事案について示されたものである。
現在の会社法22条の類推適用や,他の業種の商品ブランドへ検討を進める場合には,表示の機能と事案の違いを具体的に示す必要がある。
単に同じロゴ・商品名が残ったという理由で,すべての旧債務を引き受けたと結論付けることはできない。
第4 どの表示と証拠を確認するか
次の表は,判決の考え方を踏まえた調査上の整理である。
各資料が一つあるだけで責任が決まるものではなく,譲渡前後の使われ方と当該債権との関係を照合する。
| 確認する表示 | 調べる事実 | 保存する資料 |
|---|---|---|
| 看板・店舗名・ロゴ | 商品だけでなく営業主体を示していたか | 譲渡前後の写真・掲示物 |
| ウェブサイト・顧客案内 | 誰が事業を続け,旧債務をどう扱うと説明したか | 日付・URL付き画面,配布した案内 |
| 契約書・請求書・領収書 | 名称と契約当事者,請求・支払先の対応 | 原本,版,発行日,送付先 |
| 会員制度・サービス | 旧契約上の利用関係がどう扱われたか | 規約,利用の受付・拒否,通知・回答 |
ウェブ担当者が変更後の画面だけを保存するのでは,譲渡前との比較ができない。
旧画面・変更日・顧客への説明を対応させ,法務担当者が契約と表示の食い違いを点検することが望ましい。
名称が営業主体を示すかという客観的な評価と,個々の債権者が実際に見聞きしたことは,別欄にして整理する。
会社法22条4項が定める譲受会社への弁済の効力と,同条1項の責任も別の問題である。
4項に明記された善意・重大な過失がないという条件を,1項へそのまま追加しない。
第5 免責通知・債務引受広告・名板貸しと区別する
商号続用について,会社法22条2項は,事業譲受け後遅滞なく行う免責登記,又は両会社から第三者への免責通知を定めている。
通知による扱いは,その通知を受けた第三者についてのものである。
前記判決の特段の事情と,この法定の登記・通知とは整理して検討し,通知書があるだけで名称続用に関する責任がすべて消えると即断しない。
会社法23条の債務引受広告では,事業を引き継いだとの告知と,旧事業債務を引き受けるとの表示を区別する。
名板貸しでは,名称を使わせた名義人が取引による債務を負うかが問題となる。
同じ看板や広告が証拠となっても,誰に,誰の,いつの債務を請求するのかを先に定める必要がある。
第6 譲受会社と債権者が行う確認
譲受会社は,契約交渉中に,続用する名称・媒体・旧契約・顧客預り金等を一覧化する。
法務は責任根拠と通知の内容を確認し,営業・広報・ウェブ担当は案内や表示をそろえる。
実行後は,予定どおり表示が改まり,通知が届いたかを証拠で確かめる。
債権者は,旧債権の成立資料,事業譲渡日,名称の使用状況,受領した通知を保全する。
表示変更やサイト閉鎖が見込まれるときは,早めに画面等を保存し,請求先と根拠を検討する。
表示の評価に争いがある場合や回収のため保全が必要な場合は,契約書と時系列をそろえて弁護士へ相談することが望ましい。
第7 関連記事
① 事業譲渡で残存債権者は譲受会社に請求できるか
② 事業譲渡の債務不承継条項と対外責任
③ 個人名・屋号を貸した後の事業譲渡
④ 名板貸の許諾撤回・営業主交替後の対応
第8 出典と適用範囲
① 会社法(平成17年法律第86号)9条・22条・23条。令和8年10月20日取得の条文を確認した。
https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
② 最高裁平成16年2月20日第二小法廷判決(平成14年(受)第399号,民集58巻2号367頁)。
公式事件情報と判決本文全3頁を確認した。
https://www.courts.go.jp/hanrei/57044/detail2/index.html
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-57044.pdf
判決の法理と,それを踏まえた資料保存・担当分担の提案は区別して記載した。
個々の商品商標や屋号について責任を判断する際は,名称の機能,取引の内容及び譲渡前後の事実を確認する必要がある。