第1 電子書籍のPDF化は,工程と行為者を分けて考える
電子書籍を画面から取り込み,PDFにして生成AIで要約する場合は,画面の取得,OCR,PDFの保存,AIへの入力及び回答の利用を分けて検討する必要がある。
利用者の端末で動くソフトであっても,実際の処理が端末内で完結するとは限らず,提供会社が営利企業であることだけで利用者の複製が違法になるわけでもない。
自炊代行訴訟が直接扱ったのは,業者が書籍を裁断・スキャンして電子ファイルを納品するサービスである。
その判断をソフトの提供へ及ぼすには,対象,処理方法,個別の複製への関与及び管理の実態を比較しなければならない。
本記事は,令和8年10月20日までに確認した日本の法令と裁判所公開の判決・決定原文を基に,一般的な判断手順を示す。
以下の実装別の評価は判例を踏まえた検討であり,特定製品について裁判所が適法又は違法と判断したことを意味しない。
第2 誰が,どの複製をしているのか
1 PDF作成とAI入力を一つの行為にしない
著作権法21条は複製権を定め,同法2条1項15号は有形的な再製を複製としている。
電子書籍の表現を画像やテキストとして保存する処理では,どの段階で何が再製されるかを確認する。
法律上の評価はファイル形式の名前だけでは決まらず,対象に保護される創作的表現があるか,保存・利用の具体的態様はどうかを調べる。
例えば,端末内で画面画像を保存する工程と,画像を外部サーバーへ送ってOCRする工程では,別の複製や別の行為者が問題になり得る。
完成したPDFを別会社のAIに入力する場合も,前段で作成したPDFの評価だけで,入力先の保存や後の出力まで処理したことにはならない。
2 道具の供給と複製工程の運営を区別する
利用者が対象を用意し,自分で管理する端末上で実行・保存し,会社はプログラムを供給するだけという構成なら,利用者が道具を用いて複製していると評価する有力な事情がある。
自動的なページ送りや連続保存も,それだけで開発会社を個々の複製の主体にするものではない。
他方,会社が個別の処理を引き受け,対象データを投入し,実行・再実行,検品又は納品を自己の事業として行うなら,その関与を具体的に検討する必要がある。
利用者が対象を選び,開始を指示することだけで,会社の主体性が否定されるわけではない。
主体は常に一人とは限らず,利用者と会社の関与をそれぞれ確認する。
第3 関連判例が示す判断の境界
1 自炊代行事件―注文と原本送付だけでは業者の主体性は失われない
知財高裁平成26年10月22日判決(平成25年(ネ)第10089号)は,独立した業者が自己の管理支配下で書籍を裁断・スキャンし,検品して納品する事実等から,業者を複製主体と認めた。
利用者が書籍を選び,注文して送付した事情によって,業者自身の複製行為が失われるとはしなかった。
同判決は,業者を複製主体と認定した後に,その業者について30条1項の私的使用の要件を検討している。
したがって,営利の会社がソフトを販売しているという事実だけから,利用者自身の複製に私的使用を認めないという順序にはならない。
また,原本を廃棄して複製物の総数が増えなくても,電子ファイルの作成が複製に当たることは変わらない。
2 ロクラクⅡ事件―利用者の実行指示だけでは決まらない
最高裁平成23年1月20日第一小法廷判決(平成21年(受)第788号)は,提供者が管理支配下で放送を受信して複製機器へ入力し,利用者の指示により自動録画する場合について,提供者が複製主体となるとした。
利用者が録画を指示することや,処理が自動であることだけでは,提供者の主体性を排除できない。
判決が重視したのは,当該サービスにおける複製時の受信・入力という具体的な関与である。
利用者が別の機器や方法なら自分で複製できるかという問いとは区別する。
この判断を,提供者がいなければ複製が絶対に不可能であることを要求する一般的な必要条件として扱うこともできない。
3 機器の所有や営利性だけでも決まらない
まねきTV事件の最高裁平成23年1月18日第三小法廷判決(平成21年(受)第653号)は,利用者所有の機器であっても,提供者が事務所で管理し放送を継続入力する事情から送信主体性を認めた。
公衆送信等の事件なので複製へ結論を直結させるべきではないが,所有権だけで著作権法上の行為主体を決められないことが分かる。
音楽教室事件の最高裁令和4年10月24日第一小法廷判決(令和3年(受)第1112号)は,生徒の自主的な演奏,技能習得という目的,受講料の対価性等を考慮し,教室を生徒の演奏の利用主体とは認めなかった。
これも演奏の事件として射程を区別する必要があるが,指導や収益があることだけで利用行為を帰属させず,具体的な目的・態様・関与を調べる参考になる。
第4 実装によって確認する事項が変わる
次の表は,構成を仮定した確認事項であり,各類型の適法性を一律に判定するものではない。
| 構成 | 主体判断で確認する事実 | 追加して検討すること |
|---|---|---|
| 端末内で画面取得・OCR・PDF保存まで完結 | 対象の投入,実行,停止及び保存を誰が管理するか | 利用者の使用目的,許諾,権利制限及び規約 |
| 端末内処理にライセンス認証を併用 | 認証情報だけを送るのか,本文も送るのか | 認証停止権限と個別の複製工程の管理は別に評価 |
| 外部サーバーでOCR・PDF生成 | 端末内とサーバー側の処理を分け,会社の実行・保存を確認 | 各複製の許諾・権利制限,中間物の保持と削除 |
| 会社が利用者端末を遠隔操作 | 操作,対象投入,修復,検品及び納品の担当 | 端末の所在地より具体的な作業・管理の実態 |
| 作成済みの書籍データを他の利用者へ再利用 | データの作成・保存・再提供を行う者 | 複製に加え,送信等の権利と許諾範囲 |
| 完成PDFを別会社のAIへ入力 | 入力,受信,保存,解析及び出力の担当 | 前段とは別の行為として利用根拠を確認 |
買切りか月額課金かは,契約内容や会社の関与を調べる資料になるが,それだけで主体が決まるものではない。
更新・認証・サポートの対価なのか,個別の電子化処理や成果物の提供の対価なのかを確認する。
利用を停止できることだけで会社が複製主体になるわけでもなく,停止能力は侵害防止措置を検討する場面で別に意味を持ち得る。
第5 利用者自身の複製でも,適法根拠を確認する
1 自分一人の業務利用と私的使用は別である
著作権法30条1項は,個人的又は家庭内等の限られた範囲での使用目的と,その使用者による複製を要件とし,除外事由も定めている。
本人による端末内の処理と評価できても,同項の要件を満たすかは別に検討する。
弁護士又は税理士が一人で法律書・税務書を使う場合でも,受任事件や顧客業務のための利用を,人数だけから私的使用と扱うことはできない。
購入済みの本であることや,完成PDFを公開しないことだけでも,業務利用の根拠は確定しない。
他の権利制限の要件又は許諾範囲を確認する必要がある。
2 AI処理という名称だけで30条の4を適用しない
30条の4では,著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用か,必要な限度か,権利者の利益を不当に害しないか等を確認する。
本の表現を回答として読ませる目的が併存する利用と,創作的表現の出力を目的としない情報解析を一律に扱わない。
要約という名称だけでも結論は決まらず,事実や知識の抽出と,保護される表現の利用を区別する。
検索拡張生成(RAG)であっても,入力用の蓄積,検索時の処理及び回答表示を分けて確認する。
47条の5の軽微利用や準備行為,47条の4の情報処理に付随する利用等を検討する場合も,各規定の対象・必要性その他の要件を確認し,保存した全文を包括的に適法化する規定として扱わない。
3 利用規約と保護措置を別に確認する
電子書籍サービスの利用規約違反と著作権侵害は,根拠となる権利,当事者,要件及び効果を分けて検討する。
契約して閲覧できることだけで,一括取得,外部AIへの送信又は成果物の配布まで許諾されたとはいえない。
規約に制限があることから,著作権法上の侵害まで当然に成立するともいえない。
技術的保護手段との関係は,採用されている措置と取得方法を確認する。
画面キャプチャという呼称だけで,回避に当たるか否かを判断しない。
追跡用の識別情報や利用上の注意書きも,許諾や権利制限の代わりにはならない。
第6 提供会社の責任は請求ごとに分ける
1 直接の主体であるかと,他者の侵害を助けたか
会社が複製主体ではないとしても,他者の侵害への教唆・幇助が問題になる場合がある。
反対に,利用者の複製が権利制限等によって適法なら,その適法な複製を容易にすることだけで当然に著作権侵害の幇助になるとはいえない。
会社自身が別に行う複製・送信等は,利用者の行為から独立して検討する。
2 民事の損害賠償
最高裁平成13年3月2日第二小法廷判決(平成12年(受)第222号・ビデオメイツ事件)は,当該カラオケ装置のリースについて,許諾契約の締結又は申込みを確認して引き渡す注意義務を認めた。
侵害が生じる蓋然性,営業利益,許諾状況,確認の容易性等を具体的に考慮している。
この判断を,全ソフトの全利用について個別許諾を確認すべき一般的義務へ広げることはできない。
適法利用と侵害利用の具体例,会社の認識,侵害回避措置の実効性,損害及び因果関係を調べる。
注意書きがあるという事実だけで,常に注意義務を尽くしたともいえない。
3 差止め
民法709条・719条による賠償責任と,著作権法112条による差止めは別の要件で検討する。
大阪地裁平成15年2月13日判決(平成14年(ワ)第9435号・ヒットワン事件)は,通信カラオケ提供の具体的な管理,利益,停止義務と実現可能性等から幇助者への差止めを認めた。
他方,知財高裁平成22年8月4日判決(平成22年(ネ)第10033号)は,図書館等を被告とする異なる事案で,113条に該当しない単なる幇助者への112条による差止めを否定した。
事案と審級の違いを保ち,賠償責任があれば当然にソフト提供全体を差し止められる,という説明を避ける。
対象著作物,問題とする行為及び必要な措置を具体化することが重要である。
4 刑事幇助
最高裁平成23年12月19日第三小法廷決定(平成21年(あ)第1900号・Winny事件)の多数意見は,侵害利用の一般的可能性の認識だけで直ちに幇助犯を認めず,具体的な侵害利用や,一定範囲の利用者による侵害利用の高い蓋然性についての認識・認容等を検討し,当該被告人の幇助の故意を否定した。
違法利用を明示的に勧めていなければ常に免責されるという判断ではない。
この刑事故意の判断を,民事上の過失責任の免責基準に置き換えない。
利用者の直接の侵害について,別の責任判断が必要であることにも注意する。
第7 導入前の仕様確認と,相談時の資料
導入前には,対象の選択者,実行・停止権限,本文の通信先,OCRの実行場所,保存・削除及び他の利用者への再利用を確認する。
契約上の名称だけでなく,実際の処理を示す仕様書,設定,操作記録及び必要な範囲の通信記録を対応させる。
事業者への照会では,認証情報と本文データの送信を区別し,端末内で行う処理とサーバー側で行う処理を具体的に質問する。
一般的な製品説明と,対象バージョン・設定での実際の挙動を同じ証拠として扱わない。
提供者の回答で確認できない事項は未確認として残し,端末内処理という結論を補わない。
権利侵害の指摘を受けた場合は,対象作品・取得元・処理日時・担当者・出力・共有範囲・適用規約・許諾を保存する。
新たな利用の停止と,既存の証拠の削除を区別し,無関係な依頼者資料や私的データまで調査を広げない。
第8 法律・税理士事務所での運用
事務所では,文献の利用権限と,依頼者の秘密・個人情報を外部へ送信できるかを別々に管理する。
顧客の同意があっても,出版社やデータベース事業者の権利まで処分できるとは限らない。
文献と顧客資料を同じ処理へ投入する前に,双方の根拠を確認する。
資料台帳には,取得元・版・規約・許諾に加え,複製工程の担当者,処理場所,送信先,保持期間及び回答の利用範囲を記録する方法が考えられる。
これは本記事の運用提案であり,全事務所に同一様式の台帳を作る法的義務があるという意味ではない。
税務上の経費処理や電子帳簿保存の要件を満たすことと,文献の著作権上の利用根拠があることも別の問題である。
第9 関連記事
紙の書籍を業者へ送る類型の判決と許諾範囲は,次の記事で詳しく扱う。
スキャン代行は著作権侵害になるか-自炊代行訴訟の確定判決と,許諾なしにできる範囲(AI作成)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/09/07/sukyan-daiko-chosakuken-jisui-daiko/
専門職の有料資料利用と,工程・証拠の確認は,次の記事も参照されたい。
弁護士・税理士が有料の法律・税務資料を生成AIで分析するとき―閲覧権限,外部送信,引用及び成果物の再利用(AI作成)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/07/legal-tax-paid-materials-generative-ai/
AI処理の著作権を工程とログから確認する―30条の4・47条の5とRAGの実務(AI作成)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/04/ai-processing-copyright-logs/
第10 出典と確認範囲
法令は著作権法2条1項15号,21条,30条1項,30条の4,47条の4,47条の5,112条及び民法709条・719条等を確認した。
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
①知財高裁平成26年10月22日判決(平成25年(ネ)第10089号),特にPDF実頁25~34。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-84579.pdf
②最高裁平成23年1月20日第一小法廷判決(平成21年(受)第788号),法廷意見のPDF実頁4。
金築誠志裁判官の補足意見は法廷意見と区別した。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-81015.pdf
③最高裁平成23年1月18日第三小法廷判決(平成21年(受)第653号),特にPDF実頁5~6。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-81012.pdf
④最高裁令和4年10月24日第一小法廷判決(令和3年(受)第1112号),PDF全2頁。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-91473.pdf
⑤最高裁平成13年3月2日第二小法廷判決(平成12年(受)第222号),特にPDF実頁3~5。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52293.pdf
⑥大阪地裁平成15年2月13日判決(平成14年(ワ)第9435号),判断部分のPDF実頁8~10。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-11314.pdf
⑦知財高裁平成22年8月4日判決(平成22年(ネ)第10033号),特にPDF実頁17。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-80577.pdf
⑧最高裁平成23年12月19日第三小法廷決定(平成21年(あ)第1900号),多数意見のPDF実頁1~11。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-81846.pdf
行政資料では,文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)の非享受目的・RAG等の説明を参照した。
これは行政の解釈資料であり,特定の電子書籍ソフトを判断した裁判例ではない。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
判例は裁判所公開原文で確認し,判例秘書による追加の検索・照合は未実施である。
特定製品の通信・OCR処理場所・保存・遠隔操作の実装検証や,全関連裁判例の網羅調査はしていない。
個別製品への適用には,対象バージョンと利用方法についての事実確認が必要である。