第1 有料資料と生成AIの利用を工程ごとに考える
1 契約して読めることと外部で利用できること
法律・税務の書籍や会員制データベースを生成AIで分析する場合,①サービス内での閲覧,②資料の取得・複製,③外部AIへの送信,④分析結果の作成,⑤依頼者への交付又はブログ公開,⑥知識庫への保存・再利用を分けて確認する必要がある。
閲覧できる契約を結んでいることは重要な出発点であるが,それだけで各工程の利用権限が確認できたことにはならない。
本記事は,令和8年10月7日に確認した弁護士ドットコムLIBRARYの利用規約を具体例として,専門職が確認する事項を整理するものである。
同規約は令和8年10月5日改定のものであり,他社の税務データベース,紙の書籍又は別契約のサービスへそのまま適用されるものではない。
過去の利用行為については,当時適用された規約,個別契約及び許諾の内容を確認する必要がある。
2 正確性,秘密保持及び利用権限は別々に確認する
法的説明が正確であり,出典を明記し,個人情報を含まない文章であっても,取得した文献の複製・外部送信・公開に関する契約上の制限は残り得る。
反対に,文献の利用許諾があっても,依頼者の秘密や個人データを同じ入力に含めてよいかは別の問題である。
顧客がAI利用に同意した場合も,その顧客が出版社やデータベース事業者の権利まで処分できるとは限らない。
顧客資料の取扱いは,税理士事務所であれば税理士法上の守秘義務を含めて検討し,文献のライセンスとは別に記録するのが適切である。
第2 LIBRARYの規約から確認できる事項
1 閲覧,コピー,印刷及びダウンロード
LIBRARY利用規約第4条は,指定する利用方法に従ったライセンスを定め,コピー,印刷及びダウンロードについても提供機能と許可範囲に条件を設けている。
公式の機能があることと,取得した情報をどの用途でも利用できることは同じではない。
コピー又はダウンロードした情報については,出典表示の条件に加え,法令及び第14条等との整合性も確認する必要がある。
第13条は許諾のない転載・投稿・アップロード等を,第14条は派生物の作成,複製・改変,第三者への頒布・公衆送信等を制限している。
そのため,画面を一括保存して全文を取り出す方法や,取得した本文を外部へ送信する方法については,単に閲覧できるという理由で許諾済みと扱うことはできない。
ID・パスワード及びサービス利用権の共有については第7条も確認する。
2 サービス内のAIアシスタントが生成する短文
第20条は,サービス内のAIアシスタントによる検索支援を定めている。
同条第6項は質問等への個人情報の入力を禁じ,第8項は生成された短文についてサービス内の利用を除く利用許諾をしない旨及び利益を得る利用の禁止を定めている。
したがって,その短文をブログの原稿や顧客向け文書へそのまま転用することは,同条の利用範囲に整合しない。
利用者自身が入力した質問についての無償の自己利用許諾と,生成された短文の利用制限は区別する必要がある。
この条項はサービス内の当該機能を対象としているため,外部AIが独自に生成した文章へ機械的に拡張することも適切ではない。
第3 特定の1冊を分析する場合と外部AIへ送る場合
1 1冊だけであることから結論は決まらない
対象を1冊に絞った分析であること自体から,規約違反であるとも適法・許諾済みであるとも断定できない。
指定された方法で閲覧し,論点を理解し,法令・判例を独立に確認する作業と,書籍全体のコピーを作り,詳細な代替版を生成して配布する作業とでは,検討する行為が異なる。
第14条の派生物に関する文言は広いが,読むことで得た一般的知識を用いる行為まで一律に禁止されると断定するには,サービスの目的,許諾範囲及び具体的な成果物との関係を検討する必要がある。
書籍の表現や構成を再現する詳細な要約,本文を復元できる蓄積,原資料の代替となる配布物では,取得・複製と成果物の双方について問題が生じ得る。
2 外部AIという語がなくても一般条項を読む
確認した規約には,外部AIによるあらゆる処理を一括して禁止する専用条項があるわけではない。
しかし,テキストの貼付け,スクリーンショットの送信,OCR,ファイルのアップロード及び知識庫への取込みが,複製・アップロード・第三者への提供等の一般条項とどう関係するかは,別途検討する必要がある。
許諾が未確認でも外部AIを利用する方針を採る場合,その事実を事業者の許諾が確認された状態と取り違えてはならない。
「未確認」は確認状況の記録であり,禁止又は許諾の結論を意味しない。
処理対象の範囲,送信先,処理目的,保存条件及び成果物の使い道を具体化し,確認できた制限に反しないよう運用する必要がある。
第4 著作権法上の検討と公開する文章
1 情報解析という名称だけで判断しない
著作権法30条の4の適用では,非享受目的,必要と認められる限度及び権利者の利益を不当に害しないことなどが問題となる。
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」37頁~38頁は,生成指示のための入力について,既存の著作物に類似する生成物を作る目的がある場合などの検討を示している。
単に「分析」「学習オフ」と呼ぶことによって,すべての入力が同条の対象になるわけではない。
著作権法上の権利制限が成立するかと,契約上の利用条件に反するかは,それぞれの根拠を分けて検討する。
権利制限規定があることから契約上の制限も当然に消える,あるいは規約に制限があることから著作権法上も当然に侵害となるという説明はいずれも正確ではない。
購入した紙の本を電子化して検索用の知識庫へ登録する場合も,本の取得,スキャン・OCR,外部AIへの送信,検索に用いる複製及び生成した回答の交付を分けて確認する。
本を所有していることは,これら全ての利用について著作権者の許諾を受けたことを意味しない。
会員制サービスの規約を紙の本へ一律に移すこともせず,具体的な行為とその根拠を確認する。
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」21頁~22頁は,検索拡張生成(RAG)のためのデータベース作成についても,創作的表現を出力する目的の有無等によって検討を分けている。
書籍の創作的表現の全部又は一部を出力する目的で複製する場合を,通常のモデル学習と同じ説明だけで処理しない。
30条の4が適用されない場合も,他の権利制限の適用又は許諾の要否を具体的に検討する。
同資料は行政の整理であり,特定の事務所の電子化・検索利用を適法と認定した裁判所の判断ではない。
権利制限の検討に先立ち,利用者自身の端末内の複製,外注先による電子化,クラウドOCRや生成AI事業者のサーバー上の複製を分け,工程ごとの行為者を確認する必要がある。
自炊代行判決の結論を,利用者端末で動くソフトにそのまま当てはめることはできない。
ソフト提供者が料金を得ていることだけで利用者の私的複製が否定されるわけではないが,弁護士・税理士が受任事件や税務業務のために行う利用は,利用者が一人でも,それだけで30条1項の私的使用にはならない。
詳しくは,電子書籍のPDF化・AI要約ソフトと著作権―自炊代行判決の射程と利用者・提供者の責任(AI作成)を参照されたい。
閲覧ソフトに保存や画面の取り込みを防ぐ機能がある資料について,その機能を無効化し又は迂回して取得する方法は,契約上の利用条件とは別に,著作権法30条1項2号(技術的保護手段の回避による複製)の問題を生じさせ得る。
防止機能を無効化するプログラムの提供が不正競争防止法上の不正競争に当たるとした最高裁令和3年3月1日第一小法廷決定(平成30年(あ)第10号,刑集75巻3号273頁)もある。
画面の取り込みやOCRを使う場合は,対象の資料に防止機能があるか,使用するソフトがそれを外す処理をするかを確認する。
詳しくは,電子書籍のキャプチャー防止を外すソフトは違法か―最高裁令和3年3月1日決定と不正競争防止法・著作権法(AI作成)を参照されたい。
業務用の書籍要約については,文化庁の著作権に関するFAQの問6-⑲も参考になる。同問は,書籍等を検索拡張生成(RAG)へ収集して要約を業務の参考にする場面について,創作的表現を出力させない仕様なら30条の4によって許容される可能性がある一方,その表現を回答させる目的がある場合には享受目的が併存すると説明している。
同FAQは,47条の5にも付随性・軽微利用等の条件があり,創作的表現を提供することが主目的の要約へ当然に適用できるわけではないとする。また,業務利用には30条の私的使用の規定は適用されないと説明している。これは文化庁の行政上の説明であり,特定のサービスや要約方法についての裁判所の判断ではない。
したがって,資料台帳には「AI要約」とだけ記すのではなく,原文の表現をどこまで出力する設計か,誰が何に使うのかも残す方法が考えられる。Kindle等の電子書籍をPDF化して入力する場面の工程・行為者・規約の区別は,電子書籍のPDF化・AI要約ソフトと著作権の記事で扱う。
2 引用,独自の説明及び表現の再現
ブログでは,法令・判例・公表資料で確認した事項と,執筆者の分析を区別し,文章と構成を独自に組み立てる。
原文を引用する場合は,公表された著作物の引用について著作権法32条の条件を検討し,引用部分を明確に区別して出所を示す。
出典を表示したことや,単語を言い換えたことだけで,引用又は転載が適法になるわけではない。
文化庁のチェックリスト&ガイダンス18頁~21頁も,業務利用者について入力,生成及び利用を分けた確認を示している。
類似性の確認は,単純な文字一致率だけに頼らず,説明の表現,図表及び特徴的な構成を含めて行う。
第5 効率を保つための実務上の運用案
1 資料ごとの短い台帳を作る
毎回すべてを調べ直す代わりに,①資料名・版,②取得元と契約プラン,③適用規約の版・確認日,④取得方法と対象範囲,⑤外部AIの送信先・目的・保存条件,⑥許諾又は確認の状況,⑦公開・交付・再利用の範囲を記録する方法が考えられる。
これは本記事の運用提案であり,各事業者がこの様式を義務付けているという意味ではない。
公式に認められた取得機能の利用と,その後の処理を同じ記録に残すと,どの工程が未確認なのかを把握しやすい。
規約又はプランが変わった場合は該当する工程を見直し,過去の確認結果だけで新機能の利用まで許諾済みとしない。
法令・判例を根拠に使う台帳では,原文の頁,判例要旨・行政解説・当事者の主張・裁判所の判断の別,審級及び上告・確定状況の確認根拠も残すとよい。
請求棄却だけで各争点の判断を推測せず,プログラム等の対象ごとに結論が分かれていないかを確認する。
上級審が引用した範囲と,原審にしかない理由も区別する。
検索やOCRで文字列が見付からない場合も,対象頁,抽出の品質及び画像を確認し,不検出だけで記載がないと扱わない。
確認した頁と未読の頁を区別して残せば,必要な再確認に範囲を絞りやすい。
判例データベースの要旨と判決原文を照合する具体例は,次の記事の第7・第8で扱う。
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/09/17/hanrei-database-seisei-ai-rag-chosakuken-keiyaku/
台帳には,誰が対象資料を指定し,処理を開始・停止・再実行するのか,OCR・PDF生成・AI処理が端末内と外部サーバーのどちらで行われるのかも記録する。
ライセンス認証の通信と資料本文・画像の送信を分け,提供者側での保存期間,再利用の有無及びそれを確認した仕様書・実測記録を対応させる。
「ローカルで動く」という説明だけで本文の外部送信がないと判断せず,操作画面,処理経路及び契約を照合する。
2 AIに任せる工程と担当者が確認する工程
外部AIによる論点候補の整理,資料間の比較及び起案は,取扱条件を具体化した上で利用する。
成果物の法的根拠,原文との関係,引用の範囲及び公開先の確認は担当者が行い,サービス内AIの短文や資料の写しを公開原稿へ混入させない。
効率への影響は,分析対象の量,取得方法及び公開する成果物の内容によって異なる。
外部AIを利用できる工程が多ければ手作業は減り得るが,許諾状況の記録や原資料の確認が不要になるわけではなく,一定の削減率を保証することはできない。
第6 出典・参考資料
①弁護士ドットコムLIBRARY利用規約第4条,第7条,第13条,第14条及び第20条(令和8年10月5日改定。令和8年10月7日確認)
②著作権法30条の4,32条及び48条
③文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)37頁~38頁
④文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(令和6年7月31日)18頁~21頁
上記の規約から直接確認できる制限と,その具体的な利用への当てはめ及び本記事の運用提案は区別している。
個別の外部AI処理について事業者の承諾を取得したこと,又は同規約の解釈について裁判所の判断を確認したことを示す記事ではない。