第1 保証整理が終わった後も確認すること
1 債務の整理と信用情報の処理を分ける
会社を破産させ,代表者個人の保証債務を経営者保証ガイドラインに基づく特定調停で整理しても,その後の信用情報の処理は確認する必要がある。
CICの開示報告書で終了状況が「完了」となっていても,返済状況に「異動」が残っている場合には,登録した会社,異動の原因と発生日,調停の内容及び契約終了の時期を突き合わせることが重要である。
経営者保証ガイドラインには,対象となる保証整理に関連する事故情報を登録しない取扱いがある。
したがって,「完了と表示されているから問題ない」「消費者金融やリース会社だから異動が残るのは仕方がない」と,表示や業態名だけで結論を出すべきではない。
2 この記事の対象
本記事は,令和8年10月17日に確認した公式資料に基づき,経営者保証の整理後にCICの登録内容を確認する際の一般的な手順を説明する。
対象は会社債務の個人保証を整理する場面であり,代表者自身の生活費の借入れ等の固有債務について,同じ取扱いが当然に及ぶものではない。
個別の異動情報を訂正・削除できるかは,登録原因,保証契約,適用するガイドライン,債権者との合意及び登録時期によって異なる。
信用情報の訂正ができることと,新たな住宅ローン等の審査に通ることも別の問題である。
第2 CICの「異動」と「完了」の意味
1 異動は何を示すか
CICの公式説明によれば,「異動」には,返済日から61日以上又は3か月以上の支払遅延,保証会社による返済,破産手続開始決定に係る情報等が含まれる。
異動は「債務整理」という言葉と常に同じ意味ではないため,どの事由で登録されたかを登録元に確認する必要がある。
会社が破産したことと,代表者個人が破産したことは区別する。
また,代表者が会社の保証人であることだけで,異動原因がCICの説明する保証会社による保証履行と分かるわけではない。
2 完了になれば異動も消えるか
「完了」は,支払が完了して契約が終了したことを示す終了状況の表示である。
これに対し,「異動」は過去の支払状況等に係る情報であり,CICは,延滞等が解消した後も保有期限までは異動の記録が残ると説明している。
このように表示が併存し得ることと,経営者保証ガイドラインによる整理に際して当該異動を登録・維持することが適切かどうかは,分けて検討しなければならない。
完了の表示だけを見て調査を終えず,異動の原因とガイドラインによる合意の範囲を確認する。
3 保有期間の起算点を確認する
CICのクレジット情報の保有期間は,契約期間中及び契約終了後5年間である。
異動発生日や特定調停の成立日から一律に5年を数えるのではなく,実際の契約終了の処理と,開示報告書に示された保有期限を確認する必要がある。
第3 経営者保証ガイドラインが定める取扱い
1 事故情報の不登録と履行完了の登録
経営者保証ガイドライン8⑸は,同ガイドラインによる債務整理を行った保証人について,対象債権者は,債務整理の事実その他の関連情報を信用情報登録機関に報告・登録しないと定めている。
この関連情報には,代位弁済に関する情報も含まれる。
同ガイドラインQ&A8-5は,弁済計画について対象債権者と合意に至った時点,又は分割弁済の場合には債務を完済した時点で,債務履行完了として登録し,事故情報の登録は行わないと説明している。
通常の契約情報まで一切なくなるという意味ではなく,事故情報の取扱いと履行完了の処理をそれぞれ確認する必要がある。
2 特定調停を利用しただけで判断しない
特定調停という手続を利用したことだけで,すべての債務についてガイドラインの不登録の取扱いが適用されると判断することはできない。
調停調書,弁済計画,対象債権者の同意書及び事前協議の記録から,当該債権者との保証整理が,どの準則と合意に基づくものかを確認する。
ガイドラインは,法的拘束力を持つ法律ではなく,自発的な尊重・遵守が期待される自主的な準則である。
その規定だけから,個別の登録について裁判上の削除請求権や損害賠償請求権が当然に成立するとまではいえず,必要な場合には契約・合意と具体的な登録事実に即した法的検討を要する。
第4 貸金業者・リース会社について確認すること
1 消費者金融という業態名だけで除外しない
金融庁の貸金業者向け監督指針Ⅱ-2-13-3は,経営者保証ガイドラインの取扱いを説明する際の金融機関に,貸金業者を含むことを明記している。
全銀協Q&A1-2も,金融債権に,銀行取引約定書等による取引だけでなく,金銭消費貸借契約等の金融取引に基づく債権を含めている。
会社への事業融資に係る代表者保証であれば,貸付会社が消費者金融であることだけを理由として当然に対象外とはできない。
保証契約の適用要件,対象債権者としての参加・同意及び個人の固有債務との区別を確認する必要がある。
2 リース事業協会のガイドラインを確認する
リース事業協会の「中小企業向けのリース契約に関する経営者保証ガイドライン」6項は,要件を満たす保証整理について,会員会社が経営者保証ガイドラインの対象債権者として誠実に対応する旨を定めている。
同項の注及びQ&A16は,経営者保証ガイドライン8⑸の信用情報に関する取扱いにも言及している。
ただし,すべてのリース契約・会社に,同じ条件で当然に適用されるという意味ではない。
当該会社の会員資格,契約の種類,保証契約の要件,整理への参加内容を確認し,会員会社の子会社等に関する対応への期待と,会員会社向けの規律も区別する。
3 整理した時期と当時の版を確認する
リース事業協会のガイドラインは令和2年1月1日から適用され,令和5年改正は同年4月1日から適用される。
過去の相談や既に終わった整理について,現在の版をそのまま遡って当てはめず,整理時期,当時の規定及び個別の合意を確認する必要がある。
第5 異動が残っている場合の確認・訂正の進め方
1 開示結果と調停資料をそろえる
まず,CICの開示報告書のうち,登録元,契約の種類,異動発生日,残債額,終了状況,報告日及び保有期限を,契約ごとに整理する。
その上で,会社の債務に対する保証なのか,本人の固有債務や共同借入れなのかを契約書で確かめる。
次に,主債務者の支払停止,保証債務の履行請求と弁済期,ガイドライン利用の申出,異動の発生,弁済計画の合意・調停成立,分割弁済の完済及び契約終了を時系列にする。
整理の申出より前の延滞を含むのか等も調べ,すべての既存情報が当然に消えると決め付けない。
2 最初に登録元へ照会する
CICの公式FAQによれば,誤った登録情報の訂正・削除を行うのは登録元のクレジット会社等であり,まず登録元への問合せが案内されている。
開示報告書の該当箇所と調停資料を示し,異動の具体的な原因,登録根拠及びガイドラインによる合意との整合性について,書面で調査・回答を求めると整理しやすい。
例えば,会社債務の代表者保証をガイドラインに基づく特定調停で整理したこと,終了状況は完了である一方で異動が残っていることを具体的に示す。
その上で,誤登録又は合意した取扱いとの不整合がある場合の訂正・削除を求める。
3 解決しない場合はCICへの調査依頼を検討する
登録元への問合せでも解決せず,誤った信用情報が登録されている可能性がある場合には,本人の申出により,CICから登録元へ調査を依頼することができる。
CICへ申し出れば,希望だけで正確な情報も消せるという制度ではない。
申出に際しては,問題とする契約・登録項目,誤りと考える理由,登録元への照会日と回答内容を明確にする。
相談窓口や必要な申出方法は,その時点のCICの公式案内で確認する。
4 訂正後は再開示で確かめる
登録元から訂正したとの回答があった場合も,再開示によって該当契約の返済状況,終了状況,残高及び保有期限を確認することが有用である。
ほかの信用情報機関にも登録がある場合には,各機関の情報を別々に確認し,CICでの訂正が他機関にも当然に反映されたとは扱わない。
第6 住宅ローンの申込みと相談時の資料
1 情報の訂正と融資の承認を分ける
信用情報は融資審査の判断資料の一つであり,最終的な審査は金融機関等が行う。
異動情報を訂正できた場合でも,収入,返済負担,他の債務,担保,保証会社の審査等によって結論は異なるため,必ず借りられるとはいえない。
融資を断られた理由についても,申込者が受けた説明と,金融機関・保証会社が実際に審査した内容を区別する。
「異動だけが原因」と断定せず,確認できる範囲で,参照した機関,問題とされた情報及び再審査に必要な事項を確認する。
2 弁護士への相談時に用意するもの
相談時には,信用情報開示報告書,会社の借入れ・リース契約書,個人の保証契約書,調停調書,弁済計画,同意書,弁済記録,登録元とのやり取りを用意する。
住宅ローンの申込みをしている場合は,申込先・保証会社,申込日及び謝絶時の説明を記録したものもあると,確認すべき範囲を絞りやすい。
第7 関連記事と公式資料
1 会社と保証人の手続を検討する記事
早期事業再生法で経営者保証はどうなる?―保証債務が残る理由とガイドラインによる一体整理(AI作成)
早期事業再生法でリース料はどうなる?―対象債権,支払継続及び設備を使い続けるための確認事項(AI作成)
倒産事件の実務メモ―破産・個人再生・私的整理(AIリライト)
2 公式資料と確認箇所
経営者保証に関するガイドライン2項・8⑸(8⑸はPDF実頁15頁,印字14頁):https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline.pdf
同Q&A1-1・1-2(PDF実頁11頁,印字3頁)及び8-5(PDF実頁38頁,印字30頁):https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline_qa.pdf
金融庁「貸金業者向けの総合的な監督指針」Ⅱ-2-13-3:https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/kashikin/02.html
リース事業協会ガイドライン6項・7項(PDF実頁4~5頁):https://www.leasing.or.jp/docs/guide20230228_01.pdf
同Q&A15・16(PDF実頁4~5頁)及び19(PDF実頁6頁):https://www.leasing.or.jp/docs/guide20230228_02.pdf
CIC「信用情報開示報告書の見方」ポイント4・5:https://www.cic.co.jp/mydata/report/documents/kaijimikata.pdf
CIC「CICが保有する信用情報」保有期間等:https://www.cic.co.jp/guide/credit-information/possession/
CIC「開示した結果,登録情報に誤りがある場合は,訂正などをしてもらえますか?」:https://www.cic.co.jp/faq/detail/1084.html