第1 公証人とは
公証人は,法務大臣に任命され,公正証書の作成,私署証書や定款の認証,確定日付の付与などを行う法律の専門家である。
当事者の合意や意思を法的に明確な形で残し,将来の紛争を予防する役割を担う。
公証人が仕事をする事務所を「公証役場」という。
遺言を公正証書にしたい人,養育費などの合意を証書に残したい人,会社設立のために定款認証を受けたい人などが利用する。
1 公証人は公務員なのか
公証人は国家公務員法上の公務員ではないが,国の公証作用を担う実質的な公務員である。
法務大臣が任命し,法務局又は地方法務局に所属する一方,国庫から給与や諸手当が支給される仕組みではない。
このため,「公務を行うか」という問題と,「国から給与を受ける国家公務員か」という問題を分ける必要がある。
2 公証役場の書記も公証人と同じ身分なのか
公証人本人と,公証人が雇用する書記・事務補助者とは区別する必要がある。
公証人法24条は,所属法務局等の長の認可を受けて書記を置き,執務を補助させることを認めている。
法務省の公募案内も,書記の人件費を公証人が手数料収入から負担すると説明している。
公証役場で働いているというだけで,公証人として任命されたことや,国から給与を受ける職員であることを意味するわけではない。
なお,公証人法8条には一定の場合に法務事務官が公証人の職務を行う制度があるため,個別の身分を確認するときは,公証人・書記・法務事務官を混同しないことが必要である。
身分と雇用についての根拠は,公証人法7条・8条・10条・11条・24条及び法務省の公募案内7「公証人の職務内容等」である。
原資料のURLは第7に掲載している。
第2 公証人はどのような仕事をするのか
1 公正証書の作成
公正証書は,公証人が権限に基づいて作成する公文書である。
遺言のほか,金銭の貸借,離婚に伴う養育費・財産分与,任意後見契約など,目的に応じて作成する。
合意内容を書面にしたい場合でも,公証人が相手に合意を強制したり,争いのある条件を一方的に決めたりする手続ではない。
金銭の支払などについて,一定の要件を満たし,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述を記載した公正証書は,執行証書となる。
すべての公正証書が,すべての約束について直ちに強制執行できるわけではない。
遺言の方式を詳しく確認したい場合は,公正証書遺言の方式遵守を立証するための方法を参照されたい。
2 私署証書・定款の認証
私署証書の認証は,署名又は記名押印のある私文書について,作成名義人の意思に基づいて作成されたことを公証人が証明するものである。
認証と,公証人自身が公正証書を作成することとは別の手続である。
株式会社などの設立では,定款について公証人の認証を受ける制度がある。
定款認証を受けたことと,会社の設立登記が完了したことも区別する必要がある。
3 確定日付の付与
確定日付は,その日に文書が存在したことを証明するために付与される。
文書に書かれた事実のすべてが真実であることや,契約内容のすべてが有効であることを,確定日付だけで証明するものではない。
公証事務の3つの区分は,日本公証人連合会の「公証事務とは」で確認できる。
第3 公証人になれる人は誰か
1 法曹有資格者と学識経験を有する者の任命
公証人法13条は,裁判官,検察官又は弁護士の資格を有する者について,試験及び実地修習を経ずに公証人に任命できると定めている。
任命には,日本国民で成年者であることなどの条件があり,欠格事由についても確認が必要である(同法12条・14条)。
ただし,簡易裁判所判事及び副検事は,この条文の対象から除かれている。
また,同法13条ノ2には,多年法務に携わり,法曹有資格者に準ずる学識経験を有し,所定の審議会等の選考を経た者の任命についての規定がある。
法曹資格がない人でも,単に希望を出せば任命される制度ではない。
法務省は,法曹有資格者向けの公募案内で申込資格や必要書類,面接等の選考を案内している。
令和8年7月1日付けの案内では,一定の水準に達している者がいない場合には採用内定がなされないことも明記されている。
応募資格があることと,採用が保証されることとは異なる。
この案内の受付期間は令和8年8月10日までであり,現在も応募を受け付けているという意味ではない。
2 人数・前職・応募状況を調べるには
過去の人数や前職別内訳については,平成18年度以降の,公証人の任命状況を,氏名等の一覧については,公証人一覧を参照されたい。
統計の基準日と,公募の実施年度を確認することが重要である。
古い応募・採用実績を,現在の合格率や将来の採用確率として読むことはできない。
第4 公証人の年収はどのように考えるべきか
公証人には国から給与が支給されず,法律で定められた手数料等が収入となる。
その収入から,公証役場の賃料,設備費,雇用した書記の人件費などを支払う。
したがって,手数料収入の総額は,経費を差し引いた所得や手取り額と同じではない。
「公証人の平均年収」を調べる際には,調査年,収入の定義,必要経費の扱い,地域や役場による差を確認する必要がある。
本記事では,現在の全国平均年収を一つの金額として示すことはしない。
過去の国会答弁資料に現れる手数料収入と,その読み方については,平成18年度以降の,公証人の任命状況の「公証人の手数料収入」で整理している。
第5 公証人と司法書士・弁護士の違い
1 役割の違い
公証人は中立・公正な立場で公証事務を行う。
これに対し,司法書士や弁護士は,依頼を受けて,それぞれの資格で認められた範囲の業務を行う。
同じ遺言・相続・離婚の問題でも,公正証書を作ること,登記を申請すること,争いについて交渉することでは,相談先と役割が異なる。
| 専門家 | 主な役割 | 相談する場面の例 |
|---|---|---|
| 公証人 | 中立・公正な立場で公正証書の作成や認証などを行う | 遺言や合意済みの養育費の定めを公正証書にする,定款認証を受ける |
| 司法書士 | 登記・供託手続の代理,裁判所提出書類の作成などを行う | 相続による不動産の名義変更,会社設立登記を依頼する |
| 弁護士 | 法律相談,依頼者の代理人としての交渉や裁判手続などを行う | 遺産分割,離婚条件,契約内容について争いがある場合に相談する |
この表は代表的な役割の整理であり,業務のすべてを列挙したものではない。
司法書士にも法律で認められた範囲の相談・代理業務があるため,「争いがあれば司法書士は一切関与できない」という意味ではない。
業務範囲は,日本司法書士会連合会の「司法書士の業務」及び弁護士法3条を参照されたい。
2 遺言・相続・離婚で迷う場合
遺言の内容を公正証書にしたい場合は,公証役場に相談できる。
遺産をどのように分けるか,遺留分への影響や紛争への備えも含めて相談したい場合には,弁護士への相談を検討する。
相続後の不動産の登記申請を依頼したい場合には,司法書士が相談先となる。
公正証書遺言を作っただけで,不動産の相続登記まで行われるわけではない。
離婚に伴う金銭の支払条件などに合意がある場合は,公正証書の作成について公証役場に相談できる。
離婚するかどうか,養育費や財産分与の条件について合意できていない場合は,合意形成や法的見通しについて弁護士への相談を検討する。
公証人が中立であることを,依頼者一人のために相手と交渉することと混同しないことが大切である。
第6 公証役場を利用するには
1 公証役場を探して,目的と必要資料を確認する
現在の所在地・連絡先を調べる場合は,日本公証人連合会の公証役場一覧を利用する。
当ブログの過去の公証人名簿は,各資料の基準日時点の情報である。
現在の担当者や受付方法を確認せずに,過去の名簿だけをもとに訪問することは避けたい。
公証役場には,遺言,養育費,貸金,定款認証など,利用目的を伝え,必要資料と打合せ方法を確認する。
本人確認資料のほか,遺言では家族関係や財産を確認する資料,契約では合意内容を確認する資料などが必要となる。
必要資料は,証書の種類,本人か代理人か,個人か法人かによって異なるため,一つの一覧ですべての手続を賄えるわけではない。
2 住所地以外の公証役場や,出張・リモート方式を利用できるか
住所地とは別の区域にある公証役場に赴いて,公正証書を作成することは可能である。
ただし,公証人が役場の外へ出張する場合には,所属法務局等の管轄区域の制限がある。
会社等の設立のための定款認証にも,本店所在地を管轄する法務局等の公証人が扱うという制限がある。
すべての手続について,全国のどの公証役場でも同じように扱えるわけではない。
公正証書の作成手続は令和7年10月1日からデジタル化され,一定の要件の下でリモート方式を利用できる。
希望を伝えただけで当然に利用できるわけではなく,利用要件や適否を公証人に確認する必要がある。
詳しくは,公正証書作成手続のデジタル化を参照されたい。
また,遺言の作成は代理人が本人に代わって行えるものではないため,家族や専門家による準備の援助と,本人が遺言することも区別する必要がある。
3 相談料・作成費用はいくらか,誰が払うか
公証業務に関する相談は無料である。
一方,公正証書の作成や認証などには,公証人手数料令に基づく手数料等がかかる。
費用は,法律行為の目的の価額,証書の種類,交付する書面や電磁的記録,出張の有無などに応じて異なる。
公証人に対する手数料等の支払義務と,当事者間で最終的に誰が費用を負担するかという合意は別の問題である。
公証人手数料令2条は,嘱託人が2人以上の場合,各嘱託人が連帯して支払義務を負うと定めている。
離婚などで費用を一方が負担する合意をする場合も,公証人に対する支払関係と区別して確認しておくことが望ましい。
作成を依頼する前に,必要な手数料,交付等の費用,出張がある場合の日当・旅費,支払方法・時期を公証役場に確認する。
弁護士や司法書士に別の業務を依頼する場合の報酬も,公証人の手数料とは区別する。
手数料の改正内容は,令和7年10月1日施行の公証人手数料令改正で,遺言の計算例は,公正証書遺言の作成手数料で確認できる。
第7 出典・参考資料
以下の資料について,令和8年10月13日時点の掲載内容又は現在施行の条文を確認した。
制度の一般的な説明と,期間の定めのある公募案内とは区別して読む必要がある。
公証人法1条・7条・8条・10条・11条・12条・13条・13条ノ2・14条・24条(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/141AC0000000053
公証人手数料令2条・4条・5条・6条(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/405CO0000000224
弁護士法3条(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205
法務省「公証人法第13条に規定する公証人の公募(法曹有資格者)について」(令和8年7月1日。1,4(3),7):https://www.moj.go.jp/jinji/shomu/jinji05_00040.html
日本公証人連合会「公証人とは」:https://www.koshonin.gr.jp/system/s02/s02_02
日本公証人連合会「公証事務とは」:https://www.koshonin.gr.jp/system/s02/s02_03
日本公証人連合会「公証人の職務執行区域について」:https://www.koshonin.gr.jp/system/s02/s02_07
日本公証人連合会「Q1.手数料制度の概要」:https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow12/12-q01
日本公証人連合会「11 必要書類」:https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow11
日本公証人連合会「Q3.公正証書は,本人でなければ作成できないのでしょうか?」:https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow01/1-q03
日本公証人連合会「公正証書」(デジタル化・リモート方式のQ7~Q9):https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow01/1000
日本公証人連合会「公証役場一覧」:https://www.koshonin.gr.jp/list
日本司法書士会連合会「司法書士の業務」:https://www.shiho-shoshi.or.jp/about/business.html