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相続放棄は取り消せるか―受理前の取下げ・受理後の取消しと無効(AI作成)

第1 相続放棄をやめたいとき,最初に確認すること

相続放棄の申述書を提出した後で,故人の預金や不動産が見つかったり,家族との話合いが変わったりすることがある。
しかし,相続放棄は,一度有効に行えば,熟慮期間の3か月以内でも自由に撤回できない(民法919条1項)。

申述が受理される前の「取下げ」,受理された放棄に取消原因がある場合の「取消し」,本人の意思や代理権等に問題がある場合の「無効」,申述を却下された場合の「即時抗告」は別の問題である。
まず,何を,いつ,誰が提出し,家庭裁判所がどの段階まで処理したかを確認する必要がある。

現在の状況検討すること
申述書を提出したが,受理前である申述の取下げ。現在の受理状況を裁判所に確認する。
受理された後,単に考えを変えた熟慮期間内でも自由な撤回はできない。別の取消原因があるかを分けて検討する。
詐欺・強迫・錯誤・行為能力等の問題がある民法919条2項の取消しと,期間制限及び家裁への申述を検討する。
本人の意思又は代理権等に問題がある取消しとは別に,放棄の実体的な有効性が問題になる。記録と原因を確認する。
相続放棄の申述が却下された受理された放棄を取り消す話ではない。却下審判への即時抗告を検討する。

通常の申述の流れは,相続放棄の手続きを自分でするにはで説明している。

相続実務研究会編『Q&A限定承認・相続放棄の実務と書式』(民事法研究会,平成30年)39頁~42頁・47頁~48頁は,撤回の禁止,取消原因及び受理前の取下げを区別している。
以下では,その整理に加え,現在の民法と家事事件手続法の条文を確認する。

第2 受理前は申述の取下げを検討できる

1 提出した日と受理された日は違う

家事事件手続法82条1項は,特別の定めがある場合を除き,審判があるまで家事審判の申立てを取り下げることができるとする。
相続放棄の申述についても,受理前の取下げと,受理後の撤回禁止を分ける必要がある。

取り下げたい場合は,申述先の家庭裁判所に,事件番号,申述人及び被相続人を伝え,受理の有無と取下げの提出方法を確認する。
郵送したばかりだから必ず間に合う,照会書にまだ回答していないから受理されていない,と自分だけで判断しない。

2 受理通知書が届いていなくても,受理済みの場合がある

家事事件手続法201条7項は,申述の受理の審判を申述書に記載した時に,その審判が効力を生ずると定める。
受理を知らせる通知が申述人の手元に届いた時を,受理審判の効力発生時としているわけではない。

したがって,「まだ通知書が届いていない」という事情だけでは取下げが可能な段階か分からない。
提出した申述書,郵便の記録,裁判所からの連絡及び事件番号を確認して,現在の処理状況を照会する必要がある。

3 取下げと期限・法定単純承認も別問題である

申述を取り下げれば,相続放棄の3か月が新しく始まるという制度ではない。
また,既に遺産の売却,分割協議への参加等による法定単純承認が生じていた場合に,取下げだけでその効果が消えるわけでもない。

取下げ後に相続を承認するのか,別の手続を検討するのかも含め,現在の期限と既にした行為を確認する。
期間計算と伸長は,相続放棄の期限はいつから3か月かを参照されたい。

第3 受理後に考えを変えても自由に撤回できない

民法919条1項は,相続の承認・放棄について,熟慮期間内でも撤回できないと定める。
相続放棄をした後に財産の価値が上がった,他の相続人との関係が悪くなった,又は資産が見つかったという事情だけで,当然に撤回できるものではない。

放棄によって,他の相続人や債権者との法律関係も変わる。
申述人が気持ちを変えるたびにその関係を戻すことはできないためである。
放棄を受理した裁判所へ「撤回したい」と連絡すれば必ず相続人へ戻れる,という説明は適切でない。

もっとも,単なる後悔と,詐欺・強迫・錯誤等の取消原因がある場合とは区別する。
何が違っていたのか,誰からどのような説明又は圧力を受けたのか,その事情が申述にどう影響したかを具体的に整理する必要がある。

第4 取消原因がある場合の取消し

1 詐欺・強迫・錯誤等を具体的に検討する

民法919条2項は,撤回禁止が,民法総則及び親族編の規定による取消しを妨げないと定める。
相続放棄の申述をする意思の形成に詐欺・強迫があった場合や,錯誤又は行為能力等の問題がある場合には,それぞれの取消原因の要件を検討する。

「家族に勧められた」「資産がないと思った」という説明だけで取消しの結論は決まらない。
申述前の説明の内容,認識していた財産・債務,その認識の根拠,調査の状況及び提出までの経緯を確認する必要がある。

現行民法95条は,一定の要件を満たす錯誤による意思表示の取消しを定める。
旧法の錯誤無効を前提とする裁判例を,現在の相続放棄へそのまま適用してはならない。
重要な認識の誤りの有無,法律行為の基礎とした事情,重大な過失等と,相続放棄が相手方のない行為であることを踏まえた適用を検討する。

2 法定代理・同意の問題を区別する

未成年者又は成年被後見人の相続放棄では,誰が本人を代理したか,利益相反があるか,必要な同意を得たか等も確認する。

例えば,成年後見監督人が置かれている場合,成年後見人が本人の相続放棄をする際の同意については民法864条・865条が問題になる。
他方,親権者と子の利益相反や代理権の欠缺は,同意のない行為の取消しと同じ言葉だけでは処理できない。

利益相反と特別代理人の判断は,親と未成年の子の利益相反と特別代理人で説明している。

第5 取消しにも期間制限と家裁への申述がある

1 追認できる時から6か月,放棄の時から10年

民法919条3項により,取消権は,追認をすることができる時から6か月間行使しないとき,又は相続の承認・放棄の時から10年が経過したときは,時効により消滅する。

6か月を,単純に申述書の提出日や受理通知書の到着日から数える説明は正確でない。
民法124条は,原則として,取消原因となっていた状況が消滅し,かつ取消権を有することを知った後の追認を定め,法定代理人等による追認について例外も置く。
「追認をすることができる時」がいつかは,取消原因,その状態が解消した時期及び誰が追認するのかに応じて確認する。
期間が迫っている場合は,原稿や証拠を全て整えるまで相談を待たない。

2 取消しの申述をする

同条4項は,相続放棄の取消しをしようとする者が,その旨を家庭裁判所に申述することを求める。
親族や債権者へ取消しを伝えるだけで,この申述に代えることはできない。

家事事件手続法201条は,取消しの申述の手続も定める。
受理した事件の記録を特定し,当事者・法定代理人,取消しをする旨,取消原因及び期間の根拠となる具体的事実を整理する。
提出先や資料は,元の相続放棄を受理した家庭裁判所へ確認する。

第6 無効の問題と,受理後の効力争い

1 本人の意思や代理権を欠く場合

本人に申述の意思がなかった,署名の真偽に争いがある,又は代理した者の権限に問題がある場合には,放棄の実体的な有効性を検討する必要がある。
詐欺や錯誤による取消しとは,原因及び手続の整理が異なる。

家族が書類を作成・郵送したという事実だけで,直ちに無効と決まるわけではない。
本人の意思,代理関係,署名,提出書類,照会への回答及び裁判所の確認経過を調べる。
「無効」という題名の書面を出せば全て解決する手続がある,という説明もしない。

2 受理された事実と実体的な効力は区別する

家裁による申述受理があっても,債権者との後の民事訴訟等で,熟慮期間や法定単純承認等を理由に放棄の効力が争われることがある。
受理審判の存在と,利害関係人との間で実体的な有効性が終局的に確定したことを同一視しない。

また,遺産を処分した売買や分割協議を取り消す問題と,相続放棄自体を取り消す問題も別である。
返金や契約の取消しだけで法定単純承認の効果が当然に消えるとは限らない。
詳しくは,相続放棄でしてはいけないこと―法定単純承認となる行為と判断基準を参照されたい。

第7 相続放棄の申述が却下された場合

家事事件手続法201条9項3号は,相続放棄の申述を却下する審判に対して,申述人が即時抗告できると定める。
取消しの申述を却下する審判についても,同項2号の規定がある。

同法86条による即時抗告の期間は,特別の定めがある場合を除き2週間の不変期間であり,審判の告知を受ける者については告知を受けた日から進行する。
通常の相続放棄の熟慮期間である3か月と混同してはならない。

却下審判の内容,告知日,届いた封筒及び裁判所の案内を保存し,期限内に対応できるよう早く相談する。
改めて同じ申述書を提出するだけで,抗告期間が延びるとは考えない。

第8 相談時の記録と出典

1 用意する記録

提出した申述書と添付資料,照会書・回答書,受理通知又は却下審判,事件番号及び裁判所名を用意する。
併せて,死亡・相続人性を知った日,申述日,裁判所から連絡を受けた日,問題となる説明や圧力を受けた日を時系列にする。

資産・債務の資料,親族とのメールや手紙,署名の経緯,代理・同意に関する書類も確認する。
取消しの期間が迫る,既に財産を処分した,又は訴状・支払督促等が届いた場合は,裁判所書類の期限を優先する。

山中弁護士への相談・依頼は,遺言・相続のお問い合わせから可能である。

2 出典・参考資料

① 民法(e-Gov法令検索)95・96・124・864・865・915・919・921・938・939条。

② 家事事件手続法(e-Gov法令検索)82・86・201条――取下げ,即時抗告期間,相続放棄・取消しの申述及び受理審判の効力発生時。

③ 裁判所「相続の放棄の申述」――通常の申述の手続及び法定代理人・利益相反。

④ 相続実務研究会編『Q&A限定承認・相続放棄の実務と書式』(民事法研究会,平成30年10月1日第1刷)Q1―6〜8,印刷39頁~42頁・47頁~48頁,Q3―9,印刷129頁~131頁――撤回・取消し・受理前の取下げ及び処分行為と法定単純承認の区別。

法令及び裁判所の公開案内は令和8年10月12日確認。
錯誤については現行95条を用い,書籍に紹介された旧法の裁判例を現在の相続放棄に一律に適用していない。