本記事は,令和6年司法試験租税法第2問の模範解答と,法務省の出題の趣旨・採点実感から抽出した60の評価項目を示すものである。学資金の非課税,誤徴収額の回収,機械の減価償却,ゴルフ会員権の取得費及び損益通算を,条文と事実を結び付けて検討する。
第1 この記事の対象と結論
対象は,令和6年司法試験論文式試験問題〔選択科目・租税法第2問〕である。出題の趣旨及び採点実感〔選択科目〕を参照し,評価項目を答案から充足の有無を判断できる形にした。法務省の公式採点基準又は配点表ではない。
本答案は,設問1では免除益を給与所得と把握した上で学資金として非課税とし,設問2ではB法人の国への還付請求とAのB法人への給与請求を分ける。設問3では令和元年末の取得を否定して減価償却費の損金算入を否定する。設問4では名義書換料の取得費算入を認め,設問5では娯楽目的の資産に係る譲渡損失の給与所得との通算を否定する。
評価項目は60項目,重み5は18項目である。重み5の番号は1・4・7・8・12・13・17・18・19・27・29・37・39・41・48・49・51・52であり,条文の入口,二重括弧,源泉徴収と申告納税の別個性,取得・所有の私法評価,取得費及び損益通算の趣旨・当てはめが中心となる。第4に全項目,第5に2,293字の答案と解説を置く。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一項目につき一つの判定対象を置き,通し番号を記事全体で連続させた。「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」は重みと別の区分である。負例は典型的な誤りを避けるための指標であり,記載量を増やすための要求ではない。許容分岐はその構成を採る場合に限って適用され,互いに異なる構成を全部書く必要はない。53は発展的な視点で,全答案への必須要求ではない。
両資料の頁はPDFの1頁目から数えた頁である。引用は対応箇所を見つけるための短い抜粋であり,行末の改行・空白を除いて表示した。「記載なし」は本問の関連範囲を読んだ結果である。包括的な設問説明だけを根拠とする部分は,具体的な要件等を直接述べた採点実感と区別して理解する必要がある。内部の追跡IDは公開番号1~60とそれぞれR1~R60で対応する。
2 5段階の重み付けの基準
重み5は採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格,4は出題の趣旨が検討を求め採点実感も要件・適用又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項,3は一方が明示する中核の理由付け,2は一方が触れた補強又は典型的な誤り,1は控えめに触れた事項とする。重み4をすべて「高く評価した」と読み替えない。重みの合計は独自の整理値で,得点・合格可能性・科目間の難易度を示さない。
第3 本問の概要
設問1・2は,医学部在学中に全額授業料に用いた300万円の貸与型奨学金が,B法人の病院で5年間常勤医師として勤務したAについて令和2年3月末に免除された事案である。通常の給与に加えて免除益を受けたAに対する源泉徴収の適否と,違法な徴収を前提とする税額相当額の回収・令和2年分の確定申告との関係を問う。
設問3は,D社がE社へ製作を委託した機械乙について,検収時に引渡し・所有権移転・代金支払をする合意の下,令和元年11月から試運転を兼ねた生産を行ったが不具合が続き,令和2年1月末に検収を終えた事案である。問われるのは令和元年事業年度の減価償却費の全部又は一部の損金算入である。
設問4・5は,令和3年に父Cから丙ゴルフ会員権を単純承認により相続したAが名義書換料を払い,令和5年12月に損失を出して譲渡した事案である。Cは月二,三回趣味で,Aは毎月一回程度利用し,Aには値上がり及び節税への関心もある。名義書換料を無視する60条の読み方と,給与所得からの損失控除の可否・趣旨を分けて検討する。
試験実施日は令和6年7月10日であるが,本問は令和6年1月1日現在施行の法令を用い,租税特別措置法を除くと指定する。この指定を優先する。設問2は回収の法律関係を問うもので,訴訟類型を列挙する問題ではない。設問1の適否は設問2では違法という仮定に切り替える。
第4 評価項目と重み
1 設問1――学資金と源泉徴収
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 所得税法183条1項を源泉徴収の判断の出発点に置く。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問1〕 「183条第1項)を把握し、その要」 | 10頁〔設問1〕 「第183条第1項であり、特に所得税法」 |
| 2 | 常勤医師としての継続勤務に対する免除益を給与所得と評価する。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問1〕 「給与等(所得税法第28条第1項)の支」 | 10頁〔設問1〕 「従属的・非独立的な就労の対価と言える」 |
| 3 | 返還免除による経済的利益を給付の対象として把握する。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問1〕 「債務免除に係る経済的利益が給与等」 | 10頁〔設問1〕 「債務の免除による経済的利益の供与を、」 |
| 4 | 免除益について所得税法9条1項15号の非課税を検討する。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問1〕 「第9条第1項第15号)の検討を経なけ」 | 10頁〔設問1〕 「非課税とされる学資金(所得税法第9条」 |
| 5 | 全額を授業料に充当した貸与型奨学金の免除を学資の給付と同視する。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問1〕 「学資金として非課税扱いを受けうるか(」(間接) | 10頁〔設問1〕 「全額が授業料に充当された貸与型の」 |
| 6 | 給与その他対価の性質を有する学資は原則として非課税の対象外であると読む。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問1〕 「括弧書きが重なり読みづらいが、租税法」(間接) | 10頁〔設問1〕 「給与その他対価の性質を有するもの」は」 |
| 7 | 内側の括弧により,通常給与への加算給付を除外の例外として読む。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問1〕 「括弧書きが重なり読みづらいが、租税法」 | 10頁〔設問1〕 「通常の給与に加算して受けるもの」で、」 |
| 8 | 使用人本人への給付が役員等の列挙項目に当たらないことを当てはめる。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問1〕 「要件を充足するかを考える必要がある。」(間接) | 10頁〔設問1〕 「同号に列挙された項目」 |
| 9 | 非課税の免除益が183条1項の徴収対象の給与等に当たらないと接続する。 〔必須〕 | 3 | 記載なし | 10頁〔設問1〕 「非課税所得だから」 |
| 10 | 勤務条件による利益を,対価性がないというだけで一時所得としない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 10頁〔設問1〕 「対価性を狭く解し、問題文の債務免除に」 |
| 11 | 賞与該当性や186条の検討を本論の中心にしない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 10頁〔設問1〕 「第186条参照)に専ら焦点を当てて論」 |
2 設問2――誤徴収額の回収
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 12 | Bの源泉徴収義務とAの申告納税義務が別個であると説明する。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問2〕 「別個に存在するというべきであるから、」 | 10頁〔設問2〕 「別個に存在し、国と源泉徴収義務者」 |
| 13 | 国・BとB・Aの法律関係をそれぞれ分ける。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問2〕 「国とB法人の法律関係(B法人の納税義」 | 10頁〔設問2〕 「国と源泉徴収義務者(B法人)の法律関」 |
| 14 | Bが国税通則法56条に基づき国に誤納金の還付を請求できると説明する。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問2〕 「法的根拠と共に問うている。最判平成4」(間接) | 11頁〔設問2〕 「国税通則法第56条の「過誤納金」とし」 |
| 15 | 源泉納付には納税申告書がないため,Bによる更正の請求を認めない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 11頁〔設問2〕 「納税申告書(国税通則法第2条第6号)」 |
| 16 | 本件でBの回収根拠を56条に代えて専ら民法の不当利得としない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 11頁〔設問2〕 「敢えて民法を根拠にすべき事情は見出せ」 |
| 17 | Aが確定申告の税額控除で誤徴収額を国から直接回収できないと説明する。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問2〕 「確定申告で申告納税額から誤納金相」 | 11頁〔設問2〕 「過大徴収税額の控除を通じ、国との間で」 |
| 18 | 所得税法120条1項4号を,正当に徴収された又はされるべき税額に限定して解釈する。 〔高評価〕 | 5 | 27頁〔設問2〕 「判例はあるものの、その規範を踏まえた」(間接) | 11頁〔設問2〕 「第120条第1項第4号)の解釈に言及」 |
| 19 | AがBに対して未払給与の一部債務不履行による支払を請求できると説明する。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問2〕 「法的根拠と共に問うている。最判平成4」(間接) | 11頁〔設問2〕 「債務不履行を主張し得る。」 |
| 20 | Aの給与請求はBが国から還付を受ける前にもできると説明する。 〔高評価〕 | 3 | 記載なし | 11頁〔設問2〕 「国から還付を受けるまでもなく給与未払」 |
| 21 | 回収する対象を免除益300万円自体と取り違えない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 11頁〔設問2〕 「債務免除益自体であると誤解したもの、」 |
| 22 | 源泉徴収の適否を繰り返すだけで,回収の主張への解答を済ませない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 11頁〔設問2〕 「重ねて主張するものや、取り戻す対象」 |
| 23 | 年末調整の精算可否だけを論じて確定申告との関係を置き換えない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 11頁〔設問2〕 「年末調整による精算の可否を論じるもの」 |
| 24 | 設問が求めない訴訟類型の列挙に分量を割かない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 10頁〔設問2〕 「訴訟類型を解答させることは意図されて」 |
3 設問3――機械の減価償却
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 25 | 機械乙と法人税法2条23号・施行令13条3号の減価償却資産を対応させる。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問3〕 「減価償却資産該当性やその「取得」、あ」 | 11頁〔設問3〕 「第13条第3号)に該当することを指摘」 |
| 26 | 会計上の減価償却費を法人税法22条3項2号の費用として出発する。 〔必須〕 | 3 | 記載なし | 11頁〔設問3〕 「第22条第3項第2号の費用に該当する」 |
| 27 | 減価償却に係る別段の定めとして法人税法31条1項を適用する。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問3〕 「第31条第1項では、損金経理要件を通」 | 11頁〔設問3〕 「第31条第1項)を巡る解釈適用上」 |
| 28 | 本件の会計計上が損金経理要件を満たすことを確認する。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問3〕 「損金経理要件を通じて会社法会計と」(間接) | 11頁〔設問3〕 「損金経理要件を満たし、不具合が続き引」 |
| 29 | 年度末に有する・取得するという要件を,引渡しや所有権移転の私法評価と結び付ける。 〔高評価〕 | 5 | 27頁〔設問3〕 「私法上の評価を踏まえてその充足の有無」 | 11頁〔設問3〕 「所有権移転や引渡があった時に初めて満」 |
| 30 | 令和元年末の試運転・不具合と翌年1月末の検収を,要件充足時期へ当てはめる。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問3〕 「基礎となる取引に係る私法上の評価を踏」(間接) | 11頁〔設問3〕 「不具合が続き引渡と所有権移転が未」 |
| 31 | 会計上の費用計上から,公正処理基準だけで同年度の損金算入を肯定しない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 11頁〔設問3〕 「直ちに公正処理基準に依拠し、会社法」 |
| 32 | 会社法会計と法人税所得計算を二重計上と誤解して算入を否定しない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 11頁〔設問3〕 「二重計上で認められない旨を指摘する答」 |
| 33 | 令和2年に算入されると述べるだけで,令和元年の可否への解答を済ませない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 11頁〔設問3〕 「令和2年事業年度の損金に算入されると」 |
| 34 | 事業供用を否定する構成では,現実の生産使用との整合と資産該当性否定の効果を説明する。 〔許容分岐〕 別構成を採用した場合のみ(本答案は非採用) | 3 | 27頁〔設問3〕 「減価償却資産該当性やその「取得」、あ」(間接) | 11頁〔設問3〕 「論旨に一貫性があれば、このような筋の」 |
| 35 | 減価償却費を原価と構成する場合は,会計計上と公正処理基準に整合する理由を述べる。 〔許容分岐〕 別構成を採用した場合のみ(本答案は非採用) | 3 | 記載なし | 12頁〔設問3〕 「原価(法人税法第23条第1項第1」 |
| 36 | 所得税法と法人税法の条文を混同しない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 12頁〔設問3〕 「所得税法と法人税法を混同するものや、」 |
4 設問4――相続と名義書換料
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 37 | 丙会員権を資産と評価し,第三者への譲渡損失が譲渡所得上のものと確認する。 〔高評価〕 | 5 | 27頁〔設問4〕 「譲渡所得の計算に係る基礎と、相続税と」(間接) | 12頁〔設問4〕 「ゴルフ会員権が資産に該当し、その譲渡」 |
| 38 | 所得税法38条1項の取得費に取得付随費用が含まれると説明する。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問4〕 「付随費用」 | 12頁〔設問4〕 「付随費用を含む)に変容が生じるのかを」 |
| 39 | 所得税法60条1項1号の所有継続擬制と取得費の引継ぎを問題にする。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問4〕 「第60条第1項第1号の文言と趣旨」 | 12頁〔設問4〕 「第60条第1項第1号)に関連し、相続」 |
| 40 | 60条の趣旨を相続時の増加益課税の繰延べと説明する。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問4〕 「課税の繰延べにあり、その譲渡に際し、」 | 12頁〔設問4〕 「条文の趣旨」 |
| 41 | 相続前後の増加益の合計を超えて所得を把握しないという趣旨から付随費用を控除する。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問4〕 「各増加益を合わせたものを超えて所得と」 | 12頁〔設問4〕 「判例に則して精緻に検討できていた」 |
| 42 | 名義書換料を取得付随費用へ当てはめ,無視する解釈を否定する。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問4〕 「名義書替料が取得費(所得税法第38条」 | 12頁〔設問4〕 「相続人の手元で生じる付随費用の扱」 |
| 43 | 判例・趣旨を考慮せず,Aの字義的解釈をそのまま採用しない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 12頁〔設問4〕 「字義どおりの解釈を単に受け入れて逆の」 |
| 44 | 名義書換料を譲渡費用と構成する場合は,取得費に当たらない理由を先に説明する。 〔許容分岐〕 別構成を採用した場合のみ(本答案は非採用) | 3 | 記載なし | 12頁〔設問4〕 「取得費に当たらない旨の説明を経なけれ」 |
| 45 | 取得費の解釈への回答を,設問5の損益通算の可否に置き換えない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 12頁〔設問4〕 「設問5の解答との重複ないし混乱が見ら」 |
| 46 | 事案の分析だけで終えず,Aの解釈に問題があるかの判断を示す。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 12頁〔設問4〕 「結論が不明の答案や、損益通算に関する」 |
5 設問5――ゴルフ会員権の損益通算
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 47 | 丙会員権の損失が譲渡所得に係るものであり,69条1項では原則通算対象と確認する。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問5〕 「第69条第1項から、問題文の譲渡」 | 12頁〔設問5〕 「譲渡所得上の損失に当たることの確認を」 |
| 48 | 69条2項から62条1項・施行令178条1項2号へ条文連鎖をたどる。 〔必須〕 | 5 | 27頁〔設問5〕 「第62条第1項・同法施行令第178条」 | 12頁〔設問5〕 「第178条第1項第」2号)に」 |
| 49 | 消費支出の性格又は帰属所得の非課税との見合いから,損失を担税力の減殺要素にしない理由を示す。 〔高評価〕 | 5 | 27頁〔設問5〕 「その趣旨を理解した上で導ける力が試」(間接) | 12頁〔設問5〕 「消費支出としての性格に照らし、あ」 |
| 50 | 主として趣味・娯楽等の目的で所有する資産という要件を解釈する。 〔必須〕 | 4 | 27頁〔設問5〕 「主として趣味、娯楽・・の目的で所有す」 | 12頁〔設問5〕 「主として趣味、娯楽(中略)の目的で所」 |
| 51 | 複合目的の主目的を判断する客観的要素と,それを重視する理由を示す。 〔高評価〕 | 5 | 27頁〔設問5〕 「公平な税務執行の要請から、客観的要素」 | 13頁〔設問5〕 「どのような要素に着目して主たる所有目」 |
| 52 | Aの値上がり・節税への関心と,優先利用権・毎月の利用を比較して当てはめる。 〔高評価〕 | 5 | 27頁〔設問5〕 「客観的要素を重視した当てはめが意」(間接) | 13頁〔設問5〕 「客観的な事実を黙過してよいと考えるな」 |
| 53 | 所有継続擬制との関係で,相続前のCの所有目的を考慮する余地を検討する。 〔高評価〕 発展的視点(全答案の必須ではない) | 3 | 記載なし | 13頁〔設問5〕 「相続前の所有目的」 |
| 54 | Aの値上がり期待だけから,客観的利用を無視して投資目的と判定しない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 13頁〔設問5〕 「値上がり期待という主観に単純に導かれ」 |
| 55 | 生活に通常必要でない資産と認定しながら通算できると結論付けない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 13頁〔設問5〕 「矛盾を含む答案も散見された。いま1つ」 |
| 56 | 給与所得が損失の発生源でないことを理由に,通算の相手にもなれないと誤解しない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 13頁〔設問5〕 「損失の通算相手とはなりえない旨述べて」 |
6 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 57 | 抽象的な規範と具体的な事実との対応を明示する。 〔高評価〕 | 3 | 26頁〔答案全体〕 「事案に適切に当てはめる」 | 14頁〔答案全体〕 「課税要件事実を抽出」 |
| 58 | 自明な事柄への冗長な説明で,問われる事項の論述を圧迫しない。 〔負例〕 | 2 | 記載なし | 14頁〔答案全体〕 「本末転倒である。時間制限の中で、何が」 |
| 59 | 判読でき,文意を読み取れる表現で答案を記述する。 〔高評価〕 | 1 | 記載なし | 14頁〔答案全体〕 「文意を読み取れる程度には丁寧な筆記」 |
7 設問2の補充的な許容分岐
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 60 | 設問2で判例と異なる見解を採る場合は,判例の規範を踏まえて説得的に理由を展開する。 〔許容分岐〕 設問2で判例と異なる見解を採用する場合のみ(本答案は非採用) | 3 | 27頁〔設問2〕 「判例とは異なる見解」 | 記載なし |
8 重みの分布
重み1が1項目,2が19項目,3が9項目,4が13項目,5が18項目であり,合計60項目である。重みの合計は1+2×19+3×9+4×13+5×18=208である。分岐・負例・一般的な指摘も含めた分布であり,これを全答案に累積的に要求するものではない。
重み5の18項目は次のとおりである。
番号1:所得税法183条1項を源泉徴収の判断の出発点に置く。 源泉徴収の適否を問う答案の直接根拠であり,骨格。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号4:免除益について所得税法9条1項15号の非課税を検討する。 学資金非課税該当性が本設問の検討中心。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号7:内側の括弧により,通常給与への加算給付を除外の例外として読む。 二重括弧の読みと当てはめが良好・優秀の分かれ目。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号8:使用人本人への給付が役員等の列挙項目に当たらないことを当てはめる。 列挙除外項目に当たらない要件の当てはめが非課税判断の骨格。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号12:Bの源泉徴収義務とAの申告納税義務が別個であると説明する。 源泉と申告の別個独立性が回収方法の骨格。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号13:国・BとB・Aの法律関係をそれぞれ分ける。 国・支払者・受給者の関係の分離が回収先判断の骨格。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号17:Aが確定申告の税額控除で誤徴収額を国から直接回収できないと説明する。 誤源泉額を確定申告で直接回収できないことが判例の中核。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号18:所得税法120条1項4号を,正当に徴収された又はされるべき税額に限定して解釈する。 120条1項4号の解釈を示す答案を実感が優秀と評価。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号19:AがBに対して未払給与の一部債務不履行による支払を請求できると説明する。 Aの給与債務不履行請求が回収の直接主ルート。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号27:減価償却に係る別段の定めとして法人税法31条1項を適用する。 別段の31条を落とすと会計との関係を誤る骨格。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号29:年度末に有する・取得するという要件を,引渡しや所有権移転の私法評価と結び付ける。 年度末保有・取得と私法評価の接続を実感が優秀と評価。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号37:丙会員権を資産と評価し,第三者への譲渡損失が譲渡所得上のものと確認する。 資産・譲渡所得上の損失を明示することを実感が優秀の入口とする。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号39:所得税法60条1項1号の所有継続擬制と取得費の引継ぎを問題にする。 60条所有継続擬制が取得費問題の骨格。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号41:相続前後の増加益の合計を超えて所得を把握しないという趣旨から付随費用を控除する。 相続前後の増加益合計を超える把握を否定することが取得費認容の中核。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号48:69条2項から62条1項・施行令178条1項2号へ条文連鎖をたどる。 69条・62条・令178の連鎖が損益通算制限の骨格。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号49:消費支出の性格又は帰属所得の非課税との見合いから,損失を担税力の減殺要素にしない理由を示す。 制限趣旨の指摘を実感が概して良好以上と評価。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号51:複合目的の主目的を判断する客観的要素と,それを重視する理由を示す。 複合目的を客観要素から理由付きで判定することが優秀への分かれ目。 適用条件:本問の当該設問に適用。
番号52:Aの値上がり・節税への関心と,優先利用権・毎月の利用を比較して当てはめる。 主観・客観事実を比較した当てはめが優秀への分かれ目。 適用条件:本問の当該設問に適用。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
問題文の指定する令和6年1月1日施行法令を用い,後年の制度変更を遡及させない。答案は「1→(1)」の順に設問を分け,問題提起・規範・当てはめ・結論を基本とする。字数は改行を除き,見出し・句読点・末尾の「以上」を含む2,293字である。最高裁判決の「参照」は同じ条文解釈を相続事案へ用いる趣旨であり,補足意見を法廷意見と同一視していない。
2 答案
1 設問1
(1) 源泉徴収義務は給与等の支払に生じる(所得税法183条1項)。返還免除による債務の消滅は300万円の経済的利益であり,収入を構成する(36条1・2項)。AはB法人の病院で常勤医師として5年間勤務したことにより免除を受けたから,非独立的労務の対価として給与所得に当たる(28条1項)。
(2) しかし,9条1項15号は学資に充てるため給付される金品を非課税とする。貸与金を学資に充てた後の返還免除も,学資の負担を免れる点で学資金の給付と同様である。甲奨学金は全額授業料に充当されており,免除益はこれに該当する。
給与その他対価の性質を有するものは原則として除外されるが,括弧内は,給与所得者が使用者から通常の給与に加算して受けるもので,イからニの役員・親族等に係る場合に該当しないものを,この除外から更に除く。Aは使用人本人であり,通常の給与に加えて免除益を受け,列挙された場合に当たらない。したがって300万円は非課税であり,183条1項の徴収対象となる給与等に当たらない。B法人によるその部分の源泉徴収は所得税法に従っていない。
2 設問2
(1) 源泉所得税の納税義務は支払時に成立し,特別の手続なく税額が確定する(国税通則法15条2項2号・3項2号)。B法人の源泉徴収・納付義務とAの申告所得税の納税義務は別個独立であり,源泉徴収に関して国と直接の法律関係に立つのはB法人である。
よってB法人は,徴収義務がないのに納付した過誤納金につき,国に対し還付を請求できる(同法56条1項)。自動確定方式なので,自己の申告を訂正する更正の請求によるものではない。
(2) Aは,B法人に対し,法律上許されない天引きによる給与債務の一部不履行として,徴収税額相当額の支払を請求でき,B法人が国から還付を受けるのを待つ必要はない。A自身が源泉所得税の過誤納金を国に直接請求することはできない。
また,確定申告で控除する「源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額」(所得税法120条1項4号)は正当に徴収されるべき額に限る。誤徴収額を税額控除して還付を受けることはできない(最判平成4年2月18日)。令和2年分の申告で免除益を給与収入に含めたなら,非課税所得を除外し,誤徴収額の控除も除いて正当税額を計算する。その結果,納付税額が過大又は還付額が過少であれば,Aは法定申告期限から5年以内に更正の請求をすることができる(国税通則法23条1項1・3号)。これは申告所得税の是正であり,B法人への請求とは区別される。
3 設問3
(1) 本件の会計計上は損金経理要件を満たすが,当然に損金となるわけではない。減価償却費は法人税法22条3項2号の費用であり,同条4項の公正処理基準には別段の定めが優先し,減価償却については31条1項が,年度末に有する減価償却資産につき,損金経理額のうち償却限度額までの算入を認める。2条23号・同法施行令13条3号により機械装置が対象となるが,事業の用に供していないものは除かれる。
(2) 「有する」ためには,所有権等を法律上取得するか,これと同視できる事情が必要である。使用による費用配分・投下資本回収という制度趣旨からも,事実上の使用だけでは足りない。乙の所有権移転と引渡しは検収時と合意され,それは令和2年1月末日である。令和元年末には不具合の修理・調整を要する試運転段階であり,完成した乙の取得も,取得に同視できる状態もない。生産に使用したことだけでこの要件を満たさず,完成部分の個別引渡しも認められない。したがって令和元年事業年度には全部・一部とも損金算入できない。
4 設問4
(1) 丙会員権は優先利用権,預託金返還請求権及び会費納入義務が一体となる契約上の地位で,第三者への譲渡は資産の譲渡に当たる(所得税法33条1項)。損失は総収入金額から取得費と譲渡費用を控除して計算する(同条3項)。取得費には取得代金だけでなく付随費用も含む(38条1項)。
(2) 単純承認による相続では60条1項1号によりAが引き続き所有したとみなされ,Cの取得費と取得時期を引き継ぐ。文言上は中間の相続とその費用を無視するようにも読める。しかし同項の趣旨は,相続時に顕在化しない増加益への課税を繰り延べ,譲渡時にC・Aの保有期間の増加益を合わせて清算することにある。Aの取得付随費用を無視すれば,その増加益を超えて課税することになる。名義書換料は会員権取得に必要な付随費用だから,Cの取得費に加算する(最判平成17年2月1日参照)。Aの解釈には問題がある。
5 設問5
譲渡所得の損失は原則として他の所得と通算できる(69条1項)。しかし生活に通常必要でない資産に係る損失は,政令所定の例外を除き生じなかったものとみなす(同条2項・62条1項)。消費支出に当たる損失は,担税力を減殺するものとして扱うのが適切でないためである。
同法施行令178条1項2号は主として趣味・娯楽等の目的で所有する資産を含む。主目的は所有者の動機だけでなく,公平な税務執行のため,資産の内容と現実の利用等の客観的事情から判断すべきである。丙会員権は優先利用権等が一体となる地位で,Aも毎月利用している。値上がりや節税への関心が強いとしても,娯楽目的の所有と評価する。60条1項の所有継続擬制の趣旨に照らし,相続前の利用も考慮する余地があり,Cの月二,三回の趣味利用もこの評価を補強する。同令200条1項の例外は競走馬の損失であり,丙会員権には適用されない。したがって給与所得から控除できない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
設問1は番号1~9,設問2は12~20,設問3は25~30,設問4は37~42,設問5は47~53に対応する。各設問で条文の適用から効果・請求先まで閉じ,負例を回避した。34・35・44・60の別構成は採用していない。
(2) 設問1――所得分類と非課税を順に検討する
番号1・4・7・8が骨格である。勤務の対価だから給与所得に当たることと,その利益が非課税になることは両立する。9条1項15号の外側の括弧は対価性のある学資を除外し,内側は通常給与への加算で列挙項目に当たらない学資をその除外から更に除く。全額授業料,使用人本人,通常給与への加算という事実を各要件に対応させる。非課税とした後に183条1項の徴収対象外へ接続するのが番号9である。
(3) 設問2――二つの回収関係と申告を分ける
番号12・13・17~19が骨格である。最判平成4年2月18日の法廷意見に従い,国とBの源泉徴収関係とBとAの給与関係を分離する。Bは国税通則法56条,Aは給与債務の一部不履行による請求であり,AはBの還付を待たない(20)。所得税法120条1項4号は正当に徴収されるべき額に限られるため,誤徴収額を確定申告で国から回収できない。番号60は判例と異なる見解の許容であり,判例の規範を踏まえた説得的な理由付けを要する。
答案の更正の請求への言及は,非課税所得を申告収入へ誤って含めた場合の申告所得税の是正という補足である。源泉税の誤徴収額を更正の請求で回収するという意味ではなく,公式資料から独立した加点項目を追加したものでもない。
(4) 設問3――会計処理と税法の別段の定めを区別する
番号27・29が骨格である。会計計上と損金経理を押さえた後,31条の年度末に有する資産という要件を引渡し・所有権移転と結び付ける。試運転と翌年の検収を時系列に置き,物理的使用だけでは取得にならないと説明する。東京地判平成30年3月6日の裁判所の理由部分を参照し,単なる当事者主張との帰属を区別した。
番号34の事業供用否定は,現実の生産使用との整合を説明する場合の別構成である。番号35の原価構成も,会計計上との整合に理由を要する。採点実感12頁の原価に関する条文番号には誤記とみられる箇所があるが,原価の規定は法人税法22条3項1号である。答案は費用として同項2号を用いる。
(5) 設問4――所有継続擬制の趣旨から付随費用を読む
番号37・39・41が骨格である。譲渡所得と取得費の入口を示し,60条の所有継続擬制を課税繰延べの仕組みとして読む。最判平成17年2月1日は贈与事案であるが,贈与・相続を同じ条項で扱う課税繰延べの趣旨は参考となる。CとAの保有期間の増加益を超えて課税しないため,必要な名義書換料も取得費に加える。番号44の譲渡費用構成を採るなら,まず取得費該当性を否定する理由を示す必要がある。
(6) 設問5――主観的動機と客観的利用を比較する
番号48・49・51・52が骨格である。69条2項の例外を62条1項・施行令178条1項2号へ接続し,消費支出の損失を担税力の減殺要素にしない趣旨を示す。値上がり・節税への関心だけで判断せず,優先利用権等が一体となる会員権の内容と毎月の利用を比較する。公平な税務執行を理由に客観的要素を重視する。番号53の相続前の目的は考慮する余地の検討であり,Cの趣味目的がAへ法律上当然に移転するとの断定ではない。
(7) 答案の限界と扱わなかった事項
字数の制約から,別構成の論証や設問外の訴訟類型は展開していない。番号53は補助的に触れた。学資金の対象要件,取得・所有の評価,損益通算に関する判例の適用は,問題文の事実を前提とする。各評価項目と重みは公式資料の記載から独自に整理したものであり,完成答案に公式の満点が保証されるわけではない。
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本問から得られる現在の実務上の確認事項は,勤務条件付き奨学金・従業員の学費の非課税と返還免除及び相続したゴルフ会員権の取得費・名義書換料・損益通算で整理している。試験の当時法と現在の制度を区別し,使用者との関係,資金の使途,費用の資料及び適用年分を確認するための案内である。
関連記事は論点又は答案の検討方法を比較するための案内であり,後年の記事を本問の当時法又は公式要求の根拠にはしていない。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省・令和6年司法試験の問題:選択科目の問題PDF,租税法第2問は10~11頁。
②法務省・令和6年司法試験の論文式試験問題の出題の趣旨:出題の趣旨PDF,本問は26頁後半~27頁。
③法務省・令和6年司法試験の採点実感等に関する意見:選択科目の採点実感PDF,本問は10~13頁,科目総論・共通の指摘は5頁の冒頭及び13~14頁。
2 法令
①所得税法〔令和6年1月1日施行版〕:9・28・33・36・38・60・62・69・120・183条等。
②法人税法〔令和6年1月1日に施行されていた版〕:2・22・31条等。
③国税通則法〔令和6年1月1日施行版〕:15・23・56条等。
④所得税法施行令〔令和6年1月1日に施行されていた版〕:178・200条。
⑤法人税法施行令〔令和6年1月1日施行版〕:13条。
⑥国税庁・令和2年版源泉徴収のあらまし〔給与所得の源泉徴収事務〕:PDF8頁の学資金の説明。
3 裁判例
①最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決〔原文〕:全3頁。源泉徴収関係と申告所得税関係の別個性,正当な源泉徴収税額の控除,給与請求。
②最高裁昭和45年12月24日第一小法廷判決〔原文〕:全9頁。源泉納税義務の自動確定等。
③東京地裁平成30年3月6日判決〔国税庁掲載原文〕:1頁の事案及び11~14頁の裁判所の理由・結論。
④最高裁平成17年2月1日第三小法廷判決〔原文〕:全5頁。贈与取得に係るゴルフ会員権の名義書換料と取得費。
4 確認状態
確認は令和8年10月10日に行った。公式PDFは全頁の抽出文字数を測定し,文字数0の頁はなかった。問題本文は対象頁の画像とも照合した。出題の趣旨及び採点実感は本問と科目共通の関連範囲を用いた。原文を直接読んだ法令・判決と,公式資料が言及するだけの裁判例を区別する。
公式資料で示された名古屋高裁平成4年10月29日,東京高裁平成30年9月5日,東京地裁平成10年2月24日及び仙台高裁平成13年4月24日の各裁判例については,原判決の直接確認をしていない。その原判決の射程は未確認であり,本記事は公式資料の説明と,上記で直接確認した法令・原判決を根拠とする。現在の国税庁案内や後年の改正を本問の法状態に置き換えていない。