メインコンテンツへスキップ
       

遺言書の執行とは―見つけた後の検認,遺言執行者,財産別の手続及び執行できない場合(AI作成)

第1 遺言書の執行で最初に確認すること

1 遺言書の執行とは

遺言書の執行とは,遺言者の死亡によって効力を生じた遺言の内容を読み取り,必要な調査,通知,財産管理,名義変更,換価及び分配を行って,遺言が定めた法律関係を現実のものにすることである。
遺言書を発見したからといって,直ちに預貯金を払い戻したり,不動産を処分したりしてよいわけではない。
遺言書の方式,検認の要否,後の遺言の有無,遺言条項の法的性質,遺言執行者の有無及び権限を順番に確認する必要がある。

本記事は,令和8年10月9日現在の民法,裁判所及び法務省等の公開資料に基づき,相続人,受遺者及び遺言執行者が遺言書を見つけた後に確認する一般的な順序を整理するものである。
個別の遺言では,文言,作成年月日,財産の現状及び関係者によって結論が変わる。

2 遺言書があっても全ての手続を遺言執行者が行うとは限らない

遺言で遺言執行者が指定されていても,その権限は遺言の内容を実現するために必要な範囲に限られる(民法1012条)。
反対に,遺言執行者の指定がなくても,遺言の内容によっては受益者が自ら名義変更等を進められる場合がある。

したがって,「遺言書があるか」「遺言執行者がいるか」だけでは足りず,個々の条項が,特定財産承継遺言,特定遺贈,包括遺贈,相続分の指定,遺産分割方法の指定,清算型の条項その他のどれに当たるかを確認することが出発点となる。

第2 遺言書を探し,原本又は証明書を確保する

1 自宅,公証役場及び法務局を分けて調べる

自宅等で保管された自筆証書遺言のほかに,公正証書遺言又は法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言が存在することがある。
自宅で見つかった遺言だけを最終の遺言と決めつけず,公証役場及び法務局の制度も確認する。

日本公証人連合会の説明によれば,平成元年以降に作成された遺言公正証書については,遺言の効力発生後,相続人等の利害関係人が全国の公証役場で遺言検索を申し出ることができる。
法務局保管の遺言については,相続人,受遺者,遺言執行者等が遺言書保管事実証明書又は遺言書情報証明書を請求できる(法務省「証明書について」)。

2 複数の遺言があるときは作成日と抵触関係を確認する

後の遺言が前の遺言と抵触するときは,抵触する部分について前の遺言を撤回したものとみなされる(民法1023条1項)。
もっとも,作成日が新しい遺言が前の遺言の全てを当然に消すわけではない。
財産ごと,条項ごとに両立するかを確認し,両立する部分は併存し得る。

遺言後の生前処分その他の法律行為が遺言と抵触する場合も,抵触する部分について撤回が問題となる(民法1023条2項)。
遺言書と一緒に,売買契約書,贈与契約書,登記事項証明書,通帳及び証券残高等を確認する必要がある。

第3 家庭裁判所の検認が必要かを確認する

1 自宅等で保管された自筆証書遺言は原則として検認が必要である

遺言書の保管者は,相続の開始を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して,検認を請求しなければならず,保管者がない場合に遺言書を発見した相続人も同様である(民法1004条1項)。
封印のある遺言書は,家庭裁判所で相続人等の立会いの下に開封する(同条3項)。
自宅で封を開けたり,書込みをしたりせず,発見時の状態を保つことが重要である。

裁判所の検認案内は,検認について,相続人に遺言の存在及び内容を知らせ,検認時点の形状,訂正等の状態,日付及び署名等を明確にして偽造・変造を防ぐための手続であると説明している。
検認は,遺言の有効・無効を判断する手続ではない。

2 公正証書遺言と法務局保管の遺言は検認が不要である

公正証書遺言には検認を要しない。
また,法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した遺言書も検認を要しない(法務省「遺言書保管制度とは」)。

検認の要否と遺言の有効性は別問題である。
検認が不要な公正証書遺言であっても,遺言能力,口授その他の要件が争われることはあり得るし,検認を終えた自筆証書遺言が当然に有効になるわけでもない。

第4 遺言の種類と執行対象を確定する

1 文言だけでなく遺言書全体から法的性質を判断する

「相続させる」「遺贈する」「任せる」「託す」「換価して分配する」等の文言によって,必要な手続と権限は異なる。
不明確な文言は,特定の語だけを取り出すのではなく,遺言書の全記載との関係,作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況を踏まえて解釈する。

最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決(昭和55年(オ)第973号,集民138号277頁)は,遺言の解釈では文言を形式的に判断するだけでなく,遺言者の真意を探究すべきであるとした。
ただし,遺言書に現れていない事情を用いて,明確な記載から離れた内容を自由に作り出せるという意味ではない。

2 遺言執行者の権限は執行対象となる財産に限られる

遺言執行者は,遺言の内容を実現するため,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法1012条1項)。
遺言執行者がその権限内で遺言執行者であることを示してした行為は,相続人に対して直接に効力を生ずる(民法1015条)。

しかし,遺言執行者の権限が常に遺産全部に及ぶわけではない。
遺言に記載のない財産,遺言の対象外となった財産又は遺言執行者に処理権限が与えられていない事項を区別しなければならない。

第5 遺言執行者の就任,選任及び初動

1 指定された遺言執行者は就任意思を明らかにする

遺言執行者に指定された者は,就職を承諾するか辞退するかを判断する。
就職を承諾したときは,直ちに任務を開始し,遅滞なく遺言の内容を相続人に通知する(民法1007条)。

初動では,遺言書及び戸籍関係書類を確認し,相続人,受遺者,対象財産,債務及び他の遺言の有無を整理する。
金融機関等へ死亡及び遺言執行者就任を通知し,財産の散逸を防ぐ必要がある場合もある。

2 遺言執行者がいないときは家庭裁判所へ選任を申し立てられる

遺言によって遺言執行者が指定されていないとき,又は指定された者が死亡し,辞退するなどして遺言執行者がいなくなったときは,利害関係人の申立てにより家庭裁判所が遺言執行者を選任できる(民法1010条)。

裁判所の案内によれば,申立人は相続人,遺言者の債権者又は受遺者等の利害関係人であり,申立先は遺言者の最後の住所地の家庭裁判所である。
費用は遺言書1通につき収入印紙800円分及び連絡用郵便切手である。

遺言執行者の選任が常に必要というわけではないが,遺贈の履行,換価分配,認知又は推定相続人の廃除等,遺言の内容を実現するために執行者が必要な場面では,選任を検討する。

3 財産目録を作成し,管理経過を記録する

遺言執行者は,遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならない(民法1011条)。
対象財産の残高,評価時点,取得した資料及び遺言執行の対象か否かを記録する。

任務中は,自己の財産と相続財産を混同せず,入出金,名義変更,換価及び分配の根拠資料を保存する。
完了時には,処理の経過と結果を説明できる状態にする。

第6 財産ごとの執行手続

1 不動産

不動産については,遺言条項が特定財産承継遺言か遺贈か,受益者が相続人か相続人以外か,遺言執行者がいるかによって登記の申請構造が異なる。
まず最新の登記事項証明書を取得し,遺言書記載の所在,地番,家屋番号,持分及び権利関係と一致するかを確認する。

遺言作成後に分筆,合筆,建替え,底地取得,共有持分の変動又は売却があった場合は,登記記録と契約資料を時系列で照合する。
遺言の目的物が別の権利又は代金に変わったからといって,旧条項が新しい財産へ当然に及ぶとは限らない。

2 預貯金

預貯金では,金融機関,支店,口座の特定,死亡時残高,遺言後の口座解約・統合及び入出金を確認する。
遺言執行者は,遺言の対象と自らの権限を示す書類,戸籍,印鑑証明書その他金融機関所定の書類を整える。

特定財産承継遺言の目的が預貯金債権であるとき,遺言執行者は,対抗要件具備に必要な行為のほか,払戻しの請求及び契約の解約の申入れをすることができる。
ただし,解約の申入れはその預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限られ,遺言者が遺言で別段の意思を表示したときはその意思に従う(民法1014条2項~4項)。
金融機関の内部手続と民法上の権限は分けて確認する。

3 株式,投資信託その他の有価証券

有価証券では,口座開設先,保有銘柄,数量,取得費資料,配当金等を調べる。
遺言が現物承継を命じるのか,売却して代金を分配するのかを確定し,証券会社所定の移管・換価経路を確認する。

換価分配の場合は,売却時期,注文方法,手数料,税務資料及び分配可能額を記録する。
詳しくは,遺言執行者が相続株式・有価証券を売却して分配する際の実務上の問題点を参照されたい。

4 保険金,年金その他の契約上の給付

死亡保険金や年金等は,受取人指定及び契約内容によって,遺産に含まれるか,受取人固有の権利となるかが異なる。
遺言書に記載があるという理由だけで,遺言執行者が当然に全てを受領・分配できるとは限らない。

保険証券,約款,受取人指定,年金規約及び請求先の所定書類を確認し,遺言の対象となる財産と契約上の給付を区別する。

第7 相続人による処分,妨害及び情報請求への対応

1 相続人は遺言の執行を妨げる行為をすることができない

遺言執行者がある場合,相続人は,相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(民法1013条1項)。
同項に違反した行為は原則として無効であるが,善意の第三者に対抗できない場合があるため,妨害行為を発見したときは放置しない。

遺言執行者は,登記,口座凍結等の必要な保全を検討し,誰がいつ何を処分したかを資料で確定する。
詳しくは,遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点を参照されたい。

2 通知,財産目録及び報告を分けて行う

相続人への遺言内容の通知,財産目録の交付及び執行経過の報告は,目的が異なる。
一度連絡しただけで全てを済ませず,執行対象,調査中の事項,完了した行為,未処理の事項及び分配計算を段階ごとに示す。

遺言執行者が長期間何もせず,報告もしない場合,利害関係人は解任を家庭裁判所に請求できることがある(民法1019条1項)。
必要があれば,解任審判が効力を生ずるまでの職務執行停止又は職務代行者選任の保全処分も検討対象となる。

第8 遺言書どおりに執行できない場合

1 遺言の有効性又は文言の解釈が争われている場合

方式不備,偽造又は遺言能力の欠如が具体的な資料を伴って主張された場合,遺言執行者はその主張を無視して機械的に執行すべきではない。
他方,異議が出たというだけで無期限に全てを停止するのも相当でない。

遺言書,医療・介護資料,筆跡資料,公証人・証人関係資料及び作成経緯を確認し,争われている部分と争われていない部分,原状回復の難しさ及び保全の必要性を分けて判断する。
解釈が複数あり,利害関係人の見解が一致しない場合は,遺言執行者の解釈と根拠を示し,訴訟又は保全処分の要否を検討する。

2 受益者が先に死亡し,放棄し,又は資格を失った場合

受遺者が遺言者より先に死亡したときは,原則として遺贈は効力を生じない(民法994条1項)。
「相続させる」旨の遺言についても,最高裁平成23年2月22日第三小法廷判決(平成21年(受)第1260号,民集65巻2号699頁)は,受益者である推定相続人が遺言者より先に死亡した場合,代襲者等に相続させる意思を認めるべき特段の事情がない限り,その条項は効力を生じないとした。

先死亡,同時死亡,相続放棄,遺贈放棄,相続欠格及び廃除は,法的効果が同じではない。
予備的な受益者を定めた条項があるか,その発動条件が当該事実を含むかを確認する。
詳しくは,予備的遺言を参照されたい。

3 目的財産がなくなり,又は性質が変わった場合

遺言で特定された不動産が売却され,預貯金口座が解約され,株式が換価され,又は借地権と所有権が混同するなど,作成時の財産と死亡時の財産が一致しないことがある。
この場合,元の条項が失効するか,代金,移転先口座又は新しい権利に及ぶかを,条項の文言,残余財産条項,他の条項及び生前処分の内容から判断する。

同種の価値が残っているというだけで,代替財産への効力を当然に認めない。
他方,名称や番号が変わっただけで実質的に同一の財産である場合まで,直ちに条項が失効したと決めつけない。

4 遺言執行者が就任できず,又は途中で職務を行えなくなった場合

指定された遺言執行者が先に死亡し,就職を辞退し,判断能力を失い,又は正当な事由により辞任した場合,遺言執行者が不存在となることがある。
遺言で予備的な遺言執行者又は指定を委託された第三者が定められているかを確認し,いなければ利害関係人による家庭裁判所への選任申立てを検討する。

任務懈怠又は利益相反等が問題となる場合は,単に別の者が事実上代行するのではなく,解任,職務執行停止,職務代行者選任及び後任選任の法的手続を整理する。

5 負担付遺贈の負担が履行されない場合

負担付遺贈では,受遺者が負担した目的の価額を超えない限度で負担を履行する責任を負う(民法1002条1項)。
受遺者が負担を履行しないときは,相続人が相当の期間を定めて履行を催告し,なお履行がない場合に遺言の取消しを家庭裁判所へ請求できる(民法1027条)。

遺言執行者が独自の判断で遺贈を取り消したことにしたり,分配先を変更したりすることはできない。
負担の内容,履行期限,履行状況及び取消請求権者を確認する。

第9 分配,費用,税務及び任務終了

1 費用と報酬を区別する

遺言の執行に関する費用は相続財産の負担となるが,これによって遺留分を減ずることはできない(民法1021条)。
登記費用,換価費用,送金費用,税金,債務,葬儀費用,遺言執行者報酬は法的性質が同じではないため,遺言の文言と根拠を確認せずに一括控除しない。

遺言執行者の報酬は,遺言に定めがあればその定めによる。
定めがない場合は,家庭裁判所が相続財産の状況その他の事情によって定めることができる(民法1018条1項)。

2 最終分配前に未処理事項を確認する

現金を分配する前に,未収金,未払費用,税務申告に必要な資料,係争中の事項,受遺者の放棄及び送金先を確認する。
分配後に原状回復することが難しい場合は,争いの範囲に応じた留保又は保全を検討する。

任務終了時には,財産ごとの処理,収支,控除費用,報酬,分配額及び残務を記載した報告書を作成する。
原資料,取引明細,登記事項証明書及び送金記録を対応させて保存する。

第10 遺言書執行の確認順序

①遺言者の死亡と相続人を戸籍で確認する。
②自宅,公証役場及び法務局を調べ,存在する遺言を収集する。
③遺言書の方式,原本又は証明書及び検認の要否を確認する。
④複数の遺言,死因贈与及び生前処分の有無を確認する。
⑤各条項を特定財産承継遺言,遺贈,換価分配等に分類する。
⑥遺言執行者の指定,就職意思,予備的指定及び家庭裁判所選任の要否を確認する。
⑦対象財産の現状と遺言作成時からの変動を資料で確定する。
⑧相続人への通知,財産目録,保全,名義変更又は換価を順に行う。
⑨先死亡,放棄,目的物の不存在,無効主張,解釈争いその他の阻害事由を処理する。
⑩費用,報酬,税務資料及び留保額を確認して分配し,任務終了報告をする。

第11 関連記事

①相続させる遺言と特定財産承継遺言
②「任せる」「託す」と書かれた遺言は有効か
③遺言執行者が指定されている場合の相続人の注意点
④弁護士が遺言執行者に就任した後の預貯金・国債・年金保険の手続
⑤公正証書遺言と異なる口約束は遺言の効力に影響するか
⑥借地権付き建物の遺言と底地取得

第12 出典

1 法令及び公的資料

①e-Gov法令検索「民法」(985条,994条,1002条,1004条,1006条~1015条,1018条,1019条,1021条~1024条,1027条)
②裁判所「遺言書の検認」
③裁判所「遺言執行者の選任」
④法務省「自筆証書遺言書保管制度とは」及び「証明書について」
⑤日本公証人連合会「遺言」

2 裁判例

①最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決(昭和55年(オ)第973号,集民138号277頁)
②最高裁平成23年2月22日第三小法廷判決(平成21年(受)第1260号,民集65巻2号699頁)

3 実務書

①第一東京弁護士会司法研究委員会編『履行困難な遺言執行の実務―遺言作成後の事情変更,解釈の難しい遺言への対応』(日本加除出版,2023年)1頁~6頁,40頁~67頁,83頁~184頁,185頁~266頁,267頁~275頁
同書は,遺言執行者の使命,遺言文言・目的財産の特定,受益者の先死亡や放棄,目的財産の変動,遺言執行者の不在・解任,負担付遺贈及び執行実務の確認事項を検討する二次資料として参照した。