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占有移転禁止の仮処分とは―建物明渡しの準備,相手方と執行期限(AI作成)

第1 占有移転禁止の仮処分の目的

1 将来の明渡しに備える手続

占有移転禁止の仮処分は,建物等の引渡し・明渡しを求める権利を保全するため,占有の移転を禁止し,執行官に保管と公示をさせる手続である(民事保全法25条の2第1項,62条)。
建物明渡しの訴訟中に別の者へ占有が移ると,本案の債務名義を用いて誰に執行できるかが問題となるため,早い段階で必要性を検討する。
民事保全全体の位置付け及び仮差押えとの違いは,仮差押えの総論を参照する。
本記事の法令・裁判所案内の確認日は令和8年10月8日である。

2 通常の債務者使用型では直ちに退去させない

通常の債務者使用型では,執行官の保管の下で債務者に建物の使用を許す。
そのため,相手方が現実の使用を続ける場合があり,命令の取得がそのまま即時の明渡しを意味するものではない。

執行官が保管するだけで誰にも使用を許さない方法や,債権者の使用を許す方法もあるが,現実の使用状況に与える影響が異なる。
どの方法を求めるかは,必要性や執行方法を踏まえて検討し,通常の占有移転禁止と明渡断行の仮処分を混同しないことが大切である。

民事保全の3類型と手続全体の比較は,民事保全とはで説明している。

第2 被保全権利と保全の必要性

1 明渡しを求める権利を確認する

賃貸借の終了を理由とする場合は,契約の成立・内容,賃料等の支払状況,催告・解除の経緯,通知の到達等を確認する。
所有権に基づく場合など,権利の根拠が異なれば説明する事実も異なる。
単に賃料が未払であるという記載だけで,契約の終了や明渡請求権の存在まで説明できるとは限らない。

2 占有移転によって執行が困難になる危険を示す

係争物に関する仮処分には,現状の変更により権利実行が不能又は著しく困難になるおそれが必要である(民事保全法23条1項)。
権利の存在とは別に,占有移転の危険を示す事情を整理する必要がある。
東京地裁の書式4は,建物明渡請求権と保全の必要性を別々に記載する例を示しているが,その例文をそのまま写すのではなく,実際の事情と資料を対応させる。

第3 相手方と対象建物の特定

1 契約名義と現実の占有者を照合する

申立てでは,契約書に書かれた名義人だけでなく,現地で誰がどの範囲を使用・管理しているかを確認することが重要である。
法人の店舗,転貸,別会社による使用などでは,契約の名義と占有の実態が一致しているかが問題になる。
表札・看板,郵便物,現地の状況,関係者から得た説明等を適法に確認し,確認日と根拠を記録する。

2 債務者を特定しない命令は特別の事情が必要である

係争物が不動産で,執行前に債務者を特定することが困難な特別の事情がある場合には,債務者を特定しない占有移転禁止の仮処分命令を発することができる(民事保全法25条の2)。
これは,通常の調査を省略してよいという制度ではない。
なぜ執行前の特定が困難なのかを検討し,その命令の執行により占有を解かれた者が債務者となる仕組みを踏まえて申し立てる必要がある。

第4 申立書と疎明資料の準備

1 申立ての趣旨と物件目録を整える

申立書には,保全する権利,求める占有移転禁止・保管・公示等の内容と理由を記載する。
建物の全部か一部かを含め,現場で執行の対象を区別できるように物件目録や必要な図面を整える。
東京地裁の書式4には,当事者目録と物件目録を含む記載例がある。

2 権利・必要性・占有を説明する資料を分ける

検討事項資料の例注意点
明渡請求権契約書,登記,支払記録,催告・解除通知,配達証明等通知の内容と到達,契約終了の根拠を確認する
占有の実態写真,図面,調査内容を記載した報告書等占有者,範囲,調査日を具体的に示す
保全の必要性相手方の応答,現状変更の危険を示す資料,陳述書等将来の明渡しが困難になる事情を説明する
執行の準備現場案内,使用状況,立入り・公示方法に関する情報等執行官室への相談に利用する

裁判所の添付書類や費用の案内と,権利・必要性を疎明する資料は,それぞれ確認する必要がある。
陳述書や報告書では,自ら確認した事実と推測を分け,抽象的な危険の記載だけにしないことが重要である。

第5 執行官への申立てと2週間の期限

1 命令の取得とは別に保全執行を申し立てる

占有移転禁止の仮処分は,裁判所の命令を得ただけでは執行官による保管・公示が完了しない。
目的物所在地を担当する執行官室に,別途保全執行を申し立て,正本,必要な資料,費用等を準備する。
東京地裁も,執行官が担当する保全執行について別途申立てが必要であり,発令前から相談した方がよい場合があると案内している。

2 申立期限だけではなく執行への着手を管理する

保全執行は,債権者に保全命令が送達された日から2週間を経過すると行えない(民事保全法43条2項)。
起算点は,債務者への送達日でも,単なる発令日でもなく,債権者への送達日である。
期間内に執行官室へ申立書を出すだけで足りると考えず,期間内の執行への着手に間に合うよう日程を調整する。

準備の順序としては,①発令前の執行官室への相談,②送達日の記録と期限確認,③正本・費用・現場資料の準備,④執行の申立てと日時調整,⑤実際の保管・公示の確認を行うことが考えられる。
現地で申立ての相手方の占有を認められないときなど,執行できない原因が生じた場合は,その理由を確認し,必要な対応を速やかに検討する。

第6 第三者への効力と本案訴訟

1 執行後の占有者に対する効力には条件がある

民事保全法62条は,執行を知って占有した者や,執行後にその事実を知らずに債務者の占有を承継した者について,本案の債務名義による引渡し・明渡しの執行を認めている。
執行後に占有した者は執行を知って占有したものと推定されるが,全ての第三者を無条件で排除できるという意味ではない。
同法63条は,債権者に対抗できる権原や,執行を知らず債務者の占有承継人でもないことなどを理由とする執行文付与への異議を定めている。

2 明渡しの実現には本案と執行の準備を続ける

仮処分は明渡請求権を最終的に確定するものではない。
本案の相手方・請求内容と仮処分の対象が対応するかを確認し,本案の債務名義を得た後の明渡しまで準備する必要がある。
建物所有者に収去を求める場面と,別の占有者に退去・明渡しを求める場面など,必要な請求が異なる場合にも注意する。

第7 出典・参考資料

①e-Gov法令検索・民事保全法(13条,23条,25条の2,43条,52条,62・63条)。
②東京地方裁判所書式4・占有移転禁止仮処分命令申立書,民事第9部の概要及びその他の手続(執行官への保全執行の申立てと執行期限の案内を含む。令和8年10月8日確認)。
③野村創『失敗事例でわかる!民事保全・執行のゴールデンルール30〈改訂版〉』(学陽書房,令和6年)第4章25・26・29(164頁~179頁,192頁~197頁)。通常の使用型,占有者の確認,執行期限及び本案との対応の検討の参考とした。