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契約書審査の進め方とチェックポイント―取引の把握,修正の優先順位及び締結前の確認(AI作成)

第1 契約書審査で何を判断するか

1 契約書の文言と取引の実態を合わせて読む

契約書審査は,契約案の誤字を直すだけでなく,予定する取引について,自社が何を約束し,どのような損失を負い,問題が起きた場合に何ができるかを判断する作業である。契約書レビュー,契約審査又はリーガルチェックと呼ばれる業務にも,このような確認が含まれる。ただし,各名称の業務範囲が一律に決まっているわけではないため,依頼時に成果物と確認範囲を合わせる必要がある。

本記事は,企業の経営者,総務兼任の担当者及び法務担当者が,事業者間の契約案を審査する際の共通手順を説明するものである。令和8年10月8日時点で確認した法令・公的資料と,松尾剛行『実務の落とし穴がわかる!契約書審査のゴールデンルール30』の実務上の着眼点を参照した。以下の確認票や優先順位は運用上の提案であり,すべての契約に共通する法定の書式ではない。

2 審査の結果として返すもの

担当者が受け取りたいのは,多数の赤字だけではない。①今回の取引で重要な問題,②結論の前提となる事実,③相手方へ求める修正,④修正が通らない場合の代案,⑤社内で受け入れるリスクと承認者を,契約案と対応させて示すことが必要である。

たとえば,中途解約の条項が双方に同じ内容で置かれていても,自社だけが設備投資をして回収に長期間を要する取引では,短い予告期間による終了の影響が異なる。文言の対称性と,取引上の負担の均衡を分けて確認する。

第2 依頼時にそろえる情報と資料

1 着手前に確認する依頼票

審査期限の直前まで本文を開かないと,必要な仕様書や担当者の回答が足りないことに気付くのが遅れる。依頼を受けた段階で,期限と資料の不足を確認する。急ぎの案件でも,何を未確認のまま返すかを明らかにする必要がある。

確認する情報具体的に聞くこと
事業目的と立場何を達成したいか。自社は発注者,受注者,提供者又は利用者のどれか
取引の範囲単発か継続取引か。今回と将来の金額,数量及び対象業務は何か
実行条件納期,人員,設備,情報及び外部サービスについて何が必要か
交渉状況既に合意した事項,変更できないと言われた事項及び譲れない条件は何か
期限と成果物回答期限と締結予定日。社内向けの評価,相手方向けの修正案のどこまでが必要か
権限と連絡先事実を答える担当者,条件を決める責任者及び不在時の代替者は誰か

2 契約書以外の文書も集める

基本契約,個別契約,注文書,申込書,見積書,提案書,仕様書,料金表,利用規約,秘密保持契約,過去の覚書及び交渉メールを集める。契約案から参照される文書は,名称だけでなく版と作成日を特定する。

同じ相手方との以前の契約がある場合も,その条項を今回へそのまま移さない。金額,役割,利用目的及び将来の反復使用が変わっていないかを確かめる。取引を説明する資料と,契約内容へ取り込まれた資料も区別する。

第3 取引全体と適用法を先に確認する

1 業務,金銭及び情報の流れを描く

条項を順に読む前に,誰が誰へ,何を,いつ,どのような条件で渡すかを整理する。自社が顧客へ負う義務と,委託先が自社へ負う義務に食い違いがあれば,中間にある自社へ負担が残る。秘密情報や成果物の利用権についても同様である。

契約の題名だけで法的な性質は決まらない。仕事の完成を約束する部分,継続的な業務を行う部分,サービスの機能を利用する部分及び知的財産の利用許諾を受ける部分を分ける。請負については民法632条,準委任については656条による委任規定の準用が出発点となるが,具体的な義務は合意内容も踏まえて検討する。

2 当事者の合意だけで解決できる問題か

民法521条は法令の制限内で契約内容を自由に決められることを定め,522条は,特別の定めがある場合を除き,契約成立に書面等の方式を要しないことを定める。このため,「契約書に書いていないから合意がない」「契約書に書いたから法律上問題がない」という判断はどちらも避ける。

取適法の対象取引では,発注内容等の明示,支払期日の設定及び取引記録の作成・保存等を確認する。基本契約の審査だけで,個別発注時の義務や実際の取引記録がすべて満たされるとは限らない。フリーランス法は対象となる当事者・取引と義務を別に判定する。相手方が中小企業又はフリーランスと呼ばれることだけでは,適用の結論を出せない。公取委の取適法の説明とフリーランス法の説明を,取引の事実へ照合する。

消費者,労働者,個人データ,許認可事業又は海外の当事者が関係する場合には,それぞれの規制を追加確認する。個別条項を直す前に,事業の実施自体や必要な手続に問題がないかを確認する必要がある。

第4 条項を横断して確認するチェックポイント

1 条項の有無と意味を確認する

雛形に載っている条項だけを読むと,欠けている条項を見落とす。次の表を取引の内容へ合わせ,必要のない項目にはその理由を残す。

項目関連付けて確認する事項
業務・仕様目的,対象外,成果物,別紙の版,未確定事項及び双方の協力
履行・検査納品,受領,検査,完了確認,不合格通知,修正及び支払の関係
対価・変更金額,追加費用,価格改定,税,立替費用及び承認権限
責任・保証契約不適合,損害賠償,上限,例外,補償,回収費用及び保険
情報・権利秘密情報,個人データ,既存技術,成果物,第三者の権利及び許容される利用
期間・終了自動更新,解約,解除,通知,既発注分,未払金,返還及び移行
共通事項当事者,定義,文書の優先関係,存続,準拠法,紛争解決及び署名権限

2 損害賠償は上限額だけを見ない

民法415条・416条の債務不履行による損害賠償の規律を出発点に,契約でどの責任を制限するかを確認する。「契約金額を上限」とする場合は,基本契約の累積額,問題となった個別契約の対価又は一定期間の利用料のどれを指すかを特定する。

保証,秘密保持,知財補償,回収費用等が別条項にあるときは,上限の対象となる請求を横断して読む。対象損害の制限,上限,例外及び他の救済との関係を別々に確認する。責任制限条項の有効性や第三者の請求への影響は,契約類型や個別事情によるため,一つの条項で全リスクが消えるとは説明しない。

3 基本契約は将来の取引も対象にする

今回の小さな注文では受け入れられる条件でも,大きな注文や別の製品に継続適用されれば影響が変わる。対象取引,将来の金額・種類,個別契約による例外,基本契約と個別契約の優先関係及び再審査の条件を確認する。

個人による保証が含まれる場合は,名称が「確約」等であっても約束の実質を検討する。保証契約の方式,個人根保証の極度額等は民法446条・465条の2を確認する。元本確定期日の5年・定めがない場合の3年という465条の3の規律は個人貸金等根保証契約についてのものであり,売掛金の個人根保証一般へ一律に広げない。

4 終了後に残す義務を一覧にする

存続条項は,残す条番号を並べるだけでは足りない。秘密保持,成果物の利用,未払金,返還・削除,監査,補償及び紛争解決について,誰が何をいつまで行うかを照合する。期間を定めた条項が,別の存続条項で無期限になっていないかも確認する。

第5 修正の優先順位と代案を決める

1 法律上の問題と交渉上の希望を分ける

すべての指摘を「必須修正」とすると,担当者が何を優先すべきか分からなくなる。法律上の禁止・方式等の問題,事業を成立させるための条件,負担配分の交渉及び表現の整備を分け,重要性と必要な対応を示す。

区分返答で示す内容
法令・手続の問題適用の前提,根拠,追加確認及び解消するまで進められない工程
事業上の重大な条件起きる場面,損失,修正案,代案及び決裁者
負担配分の交渉対価,双方の責任,実行可能性及び譲歩できる範囲
表現・整合の修正定義,参照条番号,別紙,期限及び変更に伴う連動箇所

2 修正できない場合も審査を終えない

相手方が変更を受け入れない場合でも,残るリスク,覚書等の可能性,取引範囲の縮小,前払額の抑制,保険,独立したバックアップ等を検討する。これらは,必要な同意や法律上の義務の代わりになるとは限らない。社内承認を受けても,相手方や第三者に対する責任が消えるわけではない。

代案を実行できず,重大なリスクを引き受けられない場合は,延期又は取引を見送る選択肢も示す。重要な条件を曖昧なまま契約した後に,運用で何とかすることを前提としない。

第6 修正理由と審査結果を返す

1 赤字とコメントの役割を分ける

条文には合意する権利義務を記載し,コメントには修正理由と確認事項を記載する。相手方に送るコメントだけに重要な条件を書き,条文へ反映しないまま締結しない。

コメントは,今回の取引事実,原案で問題が起きる場面,提案する修正及び相手方の利益を守る代案を短くつなぐ。社内向けには,法的評価だけでなく,交渉の優先順位,残るリスク,判断者及び再相談の条件を示す。社内の交渉限界や不利な事情を含むコメントを,そのまま相手方へ送らない。

2 審査結果票に残す事項

欄記載する内容
対象相手方,文書名,版,確認日及び担当者
問題条番号,関係する事実,起きる場面及び根拠
提案修正案,理由,優先順位及び拒否された場合の代案
判断採否,残るリスク,承認者及び承認条件
引継ぎ未確定の事実,実行担当,期限及び条件変更時の再審査

不明な事実を確認済みのように埋めない。暫定評価で返す場合は,何を確認すれば結論が変わるかを記載し,回答を待つ担当者と期限を決める。

第7 締結直前と締結後の確認

1 最終版全体を再確認する

交渉が終わったら,最後に変更した条項だけでなく,最終版を再確認する。定義を変更したときはその語を使う全箇所,条項を追加・削除したときは参照条番号と存続条項,仕様を変えたときは検査・報酬・納期・別紙を照合する。

署名対象ファイルが承認済みの版と一致するか,相手方の名称と署名者の権限,別紙の添付,空欄,コメント及び変更履歴の扱いも確認する。法令上又は合意上の特別な方式がある場合は,通常の署名手順だけで完了としない。

2 締結前確認票から運用へ引き継ぐ

①承認済み最終版と署名対象の一致,②別紙・規約の版,③権限・方式,④残存リスクの承認,⑤履行・通知・更新期限の担当,⑥原本と交渉記録の保管先を確認する。

契約書を保存して終了とはしない。検査,請求,支払,更新,解約通知及びデータ削除等を担当者へ渡す。担当者が異動した場合も,期限とその根拠へ戻れる記録を残す。AIを利用した審査でも,原文,採否理由及び確認資料をたどれるようにする。

第8 契約類型別の関連記事

契約書審査の目的別には,契約書を修正できないと言われたらで修正拒否への判断,契約書審査の修正コメントの書き方で交渉と最終確認,秘密保持契約(NDA)の審査ポイントで情報の授受・共有・終了後の義務を確認できる。

①製造委託の取引基本契約書を受注者側から審査するポイントは,受注者側の保証・賠償・相殺・終了を具体的に検討する。

②コンサル契約で提案書だけが残ったときは,業務範囲,検収,実行支援及び報酬精算を扱う。システム開発の仕様変更と追加費用では変更依頼と合意を分けて確認する。

③派遣先の契約書チェックポイントは受入企業の条件確認,契約書・通知・管理台帳の確認方法は文書と運用の照合を扱う。

④AIベンダーの倒産・支配権変更等に備える契約実務はサービス継続と出口を,AI契約書レビューの実機テストは導入前の評価を扱う。

⑤継続的取引を終了するときの確認事項は通知・精算・残る義務を確認するときに参照できる。

第9 出典・参考資料

①松尾剛行『実務の落とし穴がわかる!契約書審査のゴールデンルール30』(学陽書房,2024年10月17日初版),12頁~41頁,44頁~65頁,80頁~87頁,182頁~189頁。本記事の手順・確認票は同書の実務上の着眼点を参照して独自に構成した。同書の法令基準日は2024年9月であり,現在の法令と区別して使用した。

②e-Gov法令検索・民法(415条,416条,446条,465条の2・3,521条,522条,632条及び656条等)

③公正取引委員会・委託事業者の義務,フリーランス法特設サイト

④IPA・情報システム・モデル取引・契約書(第二版)(モデルの対象・目的と利用時の注意。個別条項が採用されていない契約へ当然に適用する資料ではない)