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自ら招いた反撃と正当防衛―先行暴行と反撃の程度を確認する実務の手順(AI作成)

先に暴行をした者が、相手の反撃を受けてさらに攻撃した場合、直前に攻撃を受けたという事実だけで正当防衛を判断することはできない。先行暴行から反撃までのつながりと、双方の攻撃の程度を確認する必要がある。本記事は、公開された最高裁決定を基に、供述・映像・診療記録を整理する手順を示す。

第1 この記事の対象と結論

刑法36条1項は、急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為を罰しないと定める。防衛の程度を超えた行為については、同条2項により、情状に応じて刑を減軽し、又は免除することができる。

最高裁平成20年5月20日決定は、被告人の先行暴行に触発された直後の近接した場所での反撃が、一連一体の事態であり、その反撃が先行暴行の程度を大きく超えないなどの事情の下で、何らかの反撃が正当とされる状況を否定した。

「先に手を出したから常に正当防衛が成立しない」という無限定な規則を示したものではない。実務では、先行行為の不正性、反撃を招いた関係、時間・場所の連続性、攻撃の程度の変化を分けて検討する。

また、侵害を予期していた場合の急迫性と、自分の不正行為で現実に反撃を招いた場合とは、確認すべき事実が異なる。最高裁平成29年4月26日決定の侵害予期の判断を、一つの事情だけで当てはめないことが重要である。

第2 最高裁平成20年5月20日決定の判断

1 決定が判断した場面

最高裁平成20年5月20日第二小法廷決定(平成18年(あ)第2618号・刑集62巻6号1786頁)は、先に相手を殴って立ち去った被告人が、追い付いた相手から攻撃され、その後に警棒で相手を殴って傷害を負わせた場面を扱った。

最高裁は、相手の攻撃が被告人の先行暴行によって触発されたものであること、直後の近接した場所での一連一体の事態であること、相手の攻撃が先行暴行の程度を大きく超えるものではないことなどを重視し、正当防衛の成立を否定した原判断の結論を維持した。

2 判断の位置を取り違えない

決定は、被告人の反撃手段が強過ぎたという理由だけで処理したものではない。そもそも被告人が何らかの反撃行為に出ることを正当とされる状況にあったかを検討している。

したがって、先行暴行で招いた反撃について、まず防衛状況があると決め、その後の手段の相当性だけを検討するのでは足りない。反対に、先行行為があるというだけで、相手の攻撃の質や程度を調べずに防衛状況を否定することもできない。

相手の反撃が先行暴行の程度を大きく超えた場合や、時間・場所が離れ、事態の連続性が変わった場合には、同決定と区別できる事情を具体的に示した上で、刑法36条の各要件を改めて検討する。それだけで正当防衛が成立するという意味ではない。

第3 侵害を予期した場合との違い

1 予期だけで急迫性を否定しない

最高裁平成29年4月26日第二小法廷決定(平成28年(あ)第307号・刑集71巻4号275頁)は、侵害を予期していたことから直ちに急迫性が失われるとはせず、対抗行為に先行する事情を含む行為全般の状況から判断するとした。

同決定が挙げる事情には、従前の関係、予期した侵害の内容と程度、回避の容易性、現場へ出向く必要性、現場にとどまる相当性、凶器の準備、実際の侵害と予期した侵害の違い、侵害に臨んだ状況と意思内容がある。積極的な加害意思はその判断に関係するが、それだけを唯一の判断事項としてはならない。

2 先行行為と認識を別々に整理する

平成20年決定については、先行する不正行為が相手の攻撃を触発した関係と、連続性・攻撃の程度を確認する。平成29年決定については、侵害を予期していた者が、どのような先行事情の下で対抗行為に臨んだかを確認する。

二つの検討は重なる場合があるが、事前に侵害を予期したことと、自ら相手を攻撃してその反撃を招いたことは同じ事実ではない。供述を「喧嘩を予想していた」という一文にまとめず、予期の内容、実際にした行為、相手の反応を別欄に置くと、判断に必要な事実を残しやすい。

第4 弁護実務で確認する事実と証拠

1 行為を時系列で分ける

①最初の接触・発言、②先行する暴行、③相手の追跡・反撃、④問題となる対抗行為、⑤侵害が止んだ時点を分ける。各場面について、行為者、手段、対象、強度、位置、時刻を整理する。

映像の一場面だけから「攻撃を受けていた」と判断すると、それを触発した先行行為が抜けることがある。反対に、最初の暴行だけを取り出すと、その後に攻撃の程度が変化した事情を見落とす。前後を含む元の映像を保存し、切り出した映像と区別する。

2 連続性と攻撃の程度を確認する

時間間隔と移動距離だけでなく、追跡が続いていたか、いったん退避・離脱できたか、別の対立に変わったかを確認する。反撃が先行暴行に触発されたという評価を、単に「その後に起きた」という時系列だけで決めない。

攻撃の程度については、素手か凶器か、攻撃した部位、回数、力、人数、負傷の内容を対応させる。負傷結果の大小だけでなく、攻撃時の危険性と手段の変化を確認する。相手の反撃が先行暴行を大きく超えたとの主張をする場合は、その変化を裏付ける映像、目撃供述、診療記録等を特定する。

3 認識と客観的状況を分ける

行為者が何を見聞きし、何を予期していたかと、実際にどのような侵害があったかを分ける。供述の評価では、行為後の説明と当時のメッセージ・発言を照合する。

他人を助けた者や後から現場に加わった者がいる場合には、先行者の事情をその者へ一括して移さず、各人の到着時刻、視認範囲、先行事情の認識を確認する。第三者防衛や共犯の詳しい検討は、共同正犯・幇助犯と正当防衛―急迫性・防衛意思を関与者ごとに判断する方法で整理している。

以上は判旨を踏まえた証拠整理の提案であり、特定の証拠をそろえれば正当防衛が認められるという基準ではない。

第5 緊急避難への引用で注意すること

平成20年決定が直接判断したのは、刑法36条の正当防衛である。刑法37条の緊急避難や、逃走のために無関係の第三者の財物を使う行為を直接判断した決定ではない。

令和4年司法試験の出題の趣旨(PDF18〜19頁)は、自招危難による緊急避難について、同決定の考え方を参考にし、要保護性の観点から検討する構成を示している。同時に、異なる理論構成も挙げている。

そこで同決定を緊急避難の検討に引用する場合は、正当防衛について直接示した判断と、その理由を別の制度へ及ぼす論証を区別する。現在の危難、やむを得ずにした行為、害の程度の均衡といった刑法37条の要件も、それぞれ確認する必要がある。

「最高裁が自招危難の緊急避難を一律に否定した」と説明するのは、同決定の射程を超える。試験の公式資料が示す検討方法も、それ自体が最高裁の判旨になるわけではない。

第6 関連記事

①共同正犯・幇助犯と正当防衛―急迫性・防衛意思を関与者ごとに判断する方法
②令和4年司法試験刑事系科目第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した48項目と5段階の重み付け

第7 出典と確認範囲

①e-Gov法令検索「刑法」36条・37条・38条。令和8年10月8日に現行施行版を確認した。
②最高裁平成20年5月20日第二小法廷決定。裁判所公表全文のPDF1〜2頁を確認した。
③最高裁平成29年4月26日第二小法廷決定。裁判所公表全文のPDF1〜3頁を確認した。
④法務省「令和4年司法試験論文式試験問題出題の趣旨」。本記事で扱う自招危難の説明はPDF18〜19頁で確認した。試験での検討構成を示す資料として参照し、判決原文による法理の確認と区別した。

本記事は公開資料から一般的な確認事項を整理したものである。個別事件では、先行行為の適法性、相手の攻撃の変化、行為者ごとの認識及び反撃手段を、証拠に即して検討する必要がある。