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取引先・下請先が持つ設計図面等の文書提出命令―技術の秘密,保護に値する秘密の比較衡量,第三者の審尋・一部提出・インカメラ手続(AI作成)

第1 この記事の対象と要点

1 想定する場面

本記事は,製品の欠陥や工事の不具合をめぐる民事訴訟で,一方の当事者が,訴訟の当事者ではない取引先・下請先(第三者)が持つ設計図面,作業工程表,製造記録等の提出を求めて,文書提出命令を申し立てる場面を扱う。
申立てを受けた第三者の側は,自社の製造技術が相手方や同業者に知られることを避けるため,「技術の秘密」に当たるとして提出を拒むことを考える。
申立人の側は,欠陥の原因を明らかにするためにその文書が必要だと主張する。

本記事は,令和8年9月29日時点の民事訴訟法と,裁判所ウェブサイトで判決全文を確認した最高裁判例に基づいて,第三者が提出を拒めるのはどのような場合か,双方が何を主張すべきか,秘密を守るためにどのような手続があるかを整理する。

2 要点

問題結論主な根拠
第三者に提出を命じられるか民事訴訟法220条4号の除外事由に当たらなければ命じられる。命じる前に第三者を審尋する民事訴訟法220条4号・223条2項
「技術の秘密」とは何か公開されると技術の社会的価値が下落し,これによる活動が困難になるもの最高裁平成12年3月10日決定
技術の秘密に当たれば必ず拒めるか拒めるのは保護に値する秘密に限られ,秘密の側の不利益と裁判の側の必要性を比較衡量して判断する最高裁平成18年10月3日決定,最高裁平成20年11月25日決定
所持者は何を主張すべきか情報の種類,性質及び開示による不利益の具体的内容最高裁平成12年3月10日決定
秘密を守る手続一部を除く提出命令,裁判所だけが文書を見る手続(インカメラ手続)民事訴訟法223条1項後段・6項
第三者が命令に従わないとき20万円以下の過料民事訴訟法225条1項

第2 第三者に対する文書提出命令の仕組み

1 提出義務の根拠

民事訴訟法220条は,文書の所持者が提出を拒むことができない場合を定める。
同条1号~3号は,当事者が訴訟で引用した文書,挙証者が引渡し又は閲覧を求めることができる文書,挙証者の利益のために作成され又は挙証者と所持者との間の法律関係について作成された文書を挙げる。
同条4号は,それら以外の文書についても,イ~ホに掲げる文書のいずれにも該当しないときは,所持者は提出を拒むことができないとする(一般的な提出義務)。

設計図面や作業工程表のように,所持者が自社の業務のために作った文書は,1号~3号に当たらないことが多く,4号が提出義務の根拠になる。
その場合,4号ハの「第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で,黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に当たるかが争点になる。
民事訴訟法197条1項3号は,証人が「技術又は職業の秘密に関する事項」について尋問を受ける場合に証言を拒めると定めており,文書提出命令でもこの基準が使われる。

2 申立ての方式

文書提出命令の申立ては,文書の表示,文書の趣旨,文書の所持者,証明すべき事実及び文書の提出義務の原因を明らかにしてしなければならない(民事訴訟法221条1項)。
4号を根拠とする申立ては,書証の申出を文書提出命令の申立てによってする必要がある場合でなければすることができない(同条2項)。
文書の表示や趣旨を明らかにすることが著しく困難なときは,所持者がその文書を識別できる事項を明らかにすれば足り,裁判所に対し,所持者にそれらの事項を明らかにするよう求めることを申し出ることができる(民事訴訟法222条1項)。

3 第三者の審尋と不服申立て

裁判所は,第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には,その第三者を審尋しなければならない(民事訴訟法223条2項)。
取引先・下請先は,この審尋で,提出を拒む理由を具体的に述べる機会を与えられる。

文書提出命令の申立てについての決定に対しては,即時抗告をすることができる(民事訴訟法223条7項)。
第三者が文書提出命令に従わないときは,裁判所は,決定で,20万円以下の過料に処する(民事訴訟法225条1項)。
当事者が命令に従わないときに,文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができるとする規定(民事訴訟法224条)は,当事者に関するものであり,第三者には適用されない。

第3 「技術の秘密」に当たるか

1 定義

最高裁判所第一小法廷平成12年3月10日決定(平成11年(許)第20号,民集54巻3号1073頁)は,民事訴訟法197条1項3号の「技術又は職業の秘密」とは,その事項が公開されると,当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうとした。

2 具体的な主張が必要であること

同決定の事案では,文書の所持者が,文書が公表されると機器のメーカーが著しい不利益を受けると主張していた。
最高裁は,文書にメーカーの技術上の情報が記載されているとしても,所持者は情報の種類,性質及び開示することによる不利益の具体的内容を主張しておらず,原決定もこれらを具体的に認定していないから,技術上の情報が記載されていることから直ちに「技術又は職業の秘密」を記載した文書に当たるということはできないとした。

取引先・下請先が技術の秘密を理由に提出を拒むときは,「当社のノウハウが含まれる」と述べるだけでは足りない。
どの工程のどのような情報が記載されているか,その情報がどのように管理されてきたか,公開されるとどの製品の製造・販売にどのような影響が生ずるかを,具体的に主張する必要がある。

第4 保護に値する秘密かの比較衡量

1 最高裁平成18年10月3日決定

最高裁判所第三小法廷平成18年10月3日決定(平成18年(許)第19号,民集60巻8号2647頁)は,報道関係者の取材源の秘密について,ある秘密が職業の秘密に当たる場合でも,そのことから直ちに証言拒絶が認められるものではなく,そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められるとした。
そして,保護に値する秘密であるかどうかは,秘密の公表によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せられるとした。

取材源の秘密については,当該報道の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該取材の態様,将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,その持つ社会的な意義・価値,当該民事事件において当該証言を必要とする程度,代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきであるとした。

2 最高裁平成20年11月25日決定

最高裁判所第三小法廷平成20年11月25日決定(平成20年(許)第18号,民集62巻10号2507頁)は,文書提出命令について,対象文書に職業の秘密に当たる情報が記載されていても,所持者が提出を拒絶できるのは,その秘密が保護に値する秘密に当たる場合に限られるとした。
そして,保護に値する秘密であるかどうかは,その情報の内容,性質,その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容,程度等と,当該民事事件の内容,性質,当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸事情を比較衡量して決すべきであるとした。

同決定の事案では,金融機関が顧客の財務状況等を分析・評価した情報について,職業の秘密には当たるとしつつ,顧客が民事再生手続開始決定を受けており開示による不利益は小さいこと,文書が紛争発生前に作成されたもので証拠価値が高く,これに代わる中立的・客観的な証拠の存在がうかがわれないことから,保護に値する秘密には当たらないとして,提出を命じた。

3 技術の秘密への当てはめ

平成18年決定・平成20年決定は,いずれも職業の秘密に関するものである。
もっとも,民事訴訟法197条1項3号は技術の秘密と職業の秘密を同列に規定しており,秘密を守る利益と真実発見・裁判の公正との調整が必要である点も変わらないから,技術の秘密についても同じ比較衡量によって判断されると考えられる。

4 最高裁平成19年12月11日決定

最高裁判所第三小法廷平成19年12月11日決定(平成19年(許)第23号,民集61巻9号3364頁)は,金融機関が訴訟外の第三者として顧客の取引履歴の開示を求められた事案で,金融機関の守秘義務は個々の顧客との関係で認められるにすぎず,顧客自身が当事者として開示義務を負う場合には,金融機関は顧客情報について職業の秘密として保護に値する独自の利益を有する場合は別として,職業の秘密を理由に提出を拒めないとした。
取引先・下請先が,当事者(発注者等)の情報だけを預かっているにすぎない文書については,同じ考え方から,自社の独自の利益があるかが問われることになる。

第5 所持者(取引先・下請先)の側が主張すべき事情

比較衡量の各要素について,取引先・下請先の側は,次のような事情を具体的に主張することが考えられる。

要素所持者に有利な事情の例
情報の内容・性質自社の独自技術による工程であること,部外秘として管理していること,主力製品の製造工程と共通する部分が多いこと
開示による不利益提出先の当事者が同じ業界の製造業者であり,技術が競合他社に知られること,訴訟に必要な部分だけを切り離して出すことができないこと,自社は紛争の当事者でないこと
事件の内容・性質当事者間の代金をめぐる私的な紛争であり,公益性が高くないこと
証拠として必要とする程度争点との関連が間接的であること,他の証拠(目的物の鑑定,修理業者の証言等)で争点を判断できること

特に,証拠としての必要性については,争点が何かを具体的に確かめることが重要である。
例えば,発注者が元請の請負人に契約不適合責任を追及している事件では,請負人は,下請先に任せた工程を含めて仕事全体について責任を負うのが通常である。
そうすると,欠陥の原因が下請先の工程にあるか元請の工程にあるかは,契約不適合の有無や請負人の責任の成否に直接には影響しないことがあり,その場合は,下請先の設計図面を提出させる必要性は低いと主張することができる。

第6 申立人の側が主張すべき事情

申立人の側は,逆に,次のような事情を主張することになる。
①その文書が争点を直接立証するものであり,代わりになる証拠がないこと。
②その文書が紛争発生前に作成されたもので,客観的な内容を持つこと(平成20年決定参照)。
③所持者が主張する不利益が抽象的であり,情報の種類や開示による不利益の具体的内容が示されていないこと(平成12年決定参照)。
④秘密に当たる部分があっても,それ以外の部分の提出で足りること。

第7 秘密を守るための手続

1 一部を除いた提出命令

裁判所は,文書に取り調べる必要がないと認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは,その部分を除いて,提出を命ずることができる(民事訴訟法223条1項後段)。
所持者は,秘密に当たる部分を特定して,その部分を除くよう求めることができる。
他方,文書の大部分が秘密に当たり,一部を除いても技術の内容が推知される場合には,その旨を具体的に主張することになる。

2 インカメラ手続

裁判所は,文書が民事訴訟法220条4号イ~ニのいずれかに該当するかどうかの判断をするため必要があると認めるときは,文書の所持者にその提示をさせることができ,この場合,何人も,その提示された文書の開示を求めることができない(民事訴訟法223条6項)。
裁判所だけが文書を見て,技術の秘密に当たるか,どの部分が秘密かを判断する手続であり,所持者にとっては,具体的な不利益を裁判所に理解してもらう機会にもなる。

3 閲覧等の制限の限界

民事訴訟法92条1項は,訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密が記載され,又は記録されていることにつき疎明があった場合に,当事者の申立てにより,その部分の閲覧等の請求をすることができる者を当事者に限ることができると定める(同項2号)。
もっとも,この制限は,第三者による閲覧等を制限するものであり,相手方当事者の閲覧を妨げるものではない。
また,同号は「当事者が保有する営業秘密」を対象としているから,訴訟の当事者ではない取引先・下請先の秘密が当然に対象になるとは読めない。
取引先・下請先としては,閲覧等の制限があるから提出しても問題がない,とは考えない方がよい。

第8 弁護士が写しを持っている場合

取引先・下請先が,当事者の訴訟代理人弁護士に,参考資料として設計図面等の写しを任意に渡していることがある。
この写しについては,民事訴訟法197条1項2号の「弁護士…が職務上知り得た事実で黙秘すべきもの」が記載された文書(民事訴訟法220条4号ハ)に当たるかが問題になる。

最高裁判所第二小法廷平成16年11月26日決定(平成16年(許)第14号,民集58巻8号2393頁)は,「黙秘すべきもの」とは,一般に知られていない事実のうち,弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいうとした。
同決定は,第4の比較衡量のように,その事件での証拠の必要性との比較を判断の式として示していない。
弁護士等の職業は,他人の秘密を打ち明けられることを前提に成り立っており,その秘密が事件ごとの必要性によって開示されるかどうかが決まるのでは,依頼者は秘密を託せなくなるからだと考えられる。

もっとも,依頼者以外の第三者(取引先・下請先)の秘密がこの規定でどこまで保護されるかや,黙秘の義務の免除(民事訴訟法197条2項)を誰がするのかは,判例上明らかでない。
原本を持つ取引先・下請先に対しては,第3・第4の比較衡量による文書提出命令の途が残ることにも注意が必要である。
この問題を素材とした司法試験の問題の検討は,令和8年度司法試験民事系第3問の模範解答と予想される評価項目で行っている。

第9 関連記事

文書提出命令の手続全体は,文書提出命令で整理している。
文書提出命令に関する最高裁判例の一覧は,文書提出命令に関する最高裁判例で整理している。
弁護士の証言拒絶権と守秘義務は,弁護士の守秘義務で整理している。
相手方・第三者の資料を集める方法の比較は,民事訴訟で相手方・第三者の資料を集める方法で整理している。

第10 出典

1 法令

①民事訴訟法92条・197条・220条~225条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

①最高裁判所第一小法廷平成12年3月10日決定(平成11年(許)第20号,民集54巻3号1073頁)
②最高裁判所第二小法廷平成16年11月26日決定(平成16年(許)第14号,民集58巻8号2393頁)
③最高裁判所第三小法廷平成18年10月3日決定(平成18年(許)第19号,民集60巻8号2647頁)
④最高裁判所第三小法廷平成19年12月11日決定(平成19年(許)第23号,民集61巻9号3364頁)
⑤最高裁判所第三小法廷平成20年11月25日決定(平成20年(許)第18号,民集62巻10号2507頁)

3 確認状態

条文は,e-Gov法令APIで令和8年9月28日時点を指定して取得した条文(民事訴訟法は令和8年6月24日施行の版)で確認した。
裁判例は,いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,本記事で用いた判示を確認した。
第4の3(技術の秘密への当てはめ),第5の表の事情の例,第8の2号の趣旨の説明は,文献では確認しておらず,本記事の整理である。