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数値限定発明の境界値を下回る製品は特許侵害か――「700以上」と699.91848判決,均等論及びサポート要件(AI作成)

第1 結論

特許請求の範囲が「分子量700以上」と定めているとき、測定値が699.91848の製品は、通常の数学的な丸め方では700と表示できるとしても、それだけで文言上「700以上」に含まれるわけではない。知的財産高等裁判所令和7年3月4日判決(令和6年(ネ)第10026号)は、700未満の数値を文言侵害に含めず、均等侵害についても第5要件を満たさないとして特許権侵害を否定した。

もっとも、境界値をわずかに下回れば常に非侵害になるわけでもない。①請求項の数値の意味、②明細書の測定方法・有効数字・実施例、③作用効果、④出願経過、⑤均等論の5要件、⑥サポート要件等の無効理由を、別々に検討する必要がある。

第2 「700以上」と699.91848が争われた判決

知財高裁令和7年3月4日判決は、紫外線吸収剤(UVA)の分子量を「700以上」とする構成要件について、被告製品のUVAの分子量が699.91848であった事案を扱った。

判決は、構成要件の「分子量700以上」は、その文言どおり700以上であることを求め、699.91848は700未満であるから文言充足を否定した。侵害判断で問題になるのは、商品のラベル表示又は便宜上の丸め値ではなく、請求項を明細書及び図面も参酌して解釈した結果と、採用すべき測定方法による対象製品の値である。

同判決は均等論も検討したが、第1要件及び第5要件を満たさないとして均等侵害を否定した。特に第5要件では、出願人が請求項に小数点以下を付けず「700以上」と記載したことなどから、700未満の構成を特許請求の範囲から客観的・外形的に除外したと評価した。

第3 文言侵害は数値の丸めでは決まらない

特許法70条1項は、特許発明の技術的範囲を特許請求の範囲の記載に基づいて定めるとし、同条2項は明細書及び図面を考慮して用語の意義を解釈すると定める。したがって、数値限定発明では少なくとも次を確認する。

①請求項が整数、少数又は範囲でどのように記載されているか。
②明細書が測定装置、試料調製、測定条件、誤差及び有効数字を定めているか。
③実施例・比較例が境界値をどのように扱っているか。
④出願経過で数値範囲を補正し、又は境界外の構成を区別したか。
⑤当業者が請求項の数値をどの精度で理解するか。

測定誤差があることと、請求項の境界値を丸めてよいことは同じではない。測定方法が複数あり結果が変わるときは、まずクレーム解釈として採用すべき測定方法を確定し、その方法による立証値が境界内かを判断する。

第4 均等論の第1要件・第2要件・第5要件

最高裁平成10年2月24日判決(ボールスプライン事件)は、文言上の相違があっても、①相違部分が本質的部分でないこと、②置換しても目的を達成し同一の作用効果を奏すること、③置換が対象製品の製造時等に容易想到であること、④対象製品等が出願時の公知技術と同一又は容易推考でないこと、⑤意識的除外等の特段の事情がないことという要件の下で均等侵害を認め得るとした。

699.91848判決では、作用効果との関係では、わずかに700を下回ることによって直ちに効果が失われるとは考えにくく、追試でも効果が確認されていたため、第2要件の議論は特許権者に有利になり得た。しかし、数値限定そのものが発明の本質的部分に関わると評価され、第1要件が否定された。

さらに、最高裁平成29年3月24日判決(マキサカルシトール事件)は、出願人が出願時に容易に想到できた同効材を請求項に記載しなかっただけで、直ちに第5要件の意識的除外になるものではないとした。他方、明細書等の記載から、請求項外の構成を客観的・外形的に除外したと見られる場合は特段の事情になり得る。699.91848判決は、整数の境界値の記載等を重視して700未満を客観的・外形的に除外したと評価した。

したがって、境界外の数値については、「効果が同じだから均等」というだけでは足りない。第1要件と第5要件を独立に検討し、明細書、補正書、意見書及び先行技術との差別化を確認する。

第5 サポート要件との関係

特許法36条6項1号のサポート要件は、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載した範囲を超えないことを求める。知財高裁大合議平成17年11月11日判決(偏光フィルム事件)は、当業者が明細書の記載及び出願時の技術常識から、請求項の範囲全体で発明の課題を解決できると認識できるかを基準とし、出願後の実験で明細書の記載不足を補うことは許されないとした。

数値範囲が広い場合、境界付近を含む範囲全体で作用効果を奏することを、実施例、比較例、理論的説明又は技術常識で裏付けられるかが問題になる。侵害訴訟で境界外の製品に均等論を主張する一方、無効論では請求項の広い範囲全体が明細書に支持されていると説明する必要があるため、両者の主張が矛盾しないよう整理する。

無効審判、審決取消訴訟及び侵害訴訟の関係は、特許無効を争う三つの手続―無効審判・審決取消訴訟・侵害訴訟の無効の抗弁(AI作成)で整理している。

第6 登録後・公報発行前の実施と損害賠償

特許権は設定登録によって発生するため、登録後の実施は、特許公報の発行前であっても侵害行為になり得る。特許法103条は、他人の特許権を侵害した者について過失を推定する。

東京地裁平成29年4月27日判決は、設定登録がされれば特許の内容を知り得る状態になること、登録から公報発行まで期間が生じることは法が予定していること、103条が公報発行を推定の要件としていないことから、公報発行前であることだけで過失の推定は覆らないとした。

もっとも、差止め、損害賠償、補償金請求及び不当利得は、権利発生時期、対象行為の時期、警告、故意・過失、売上げ、利益、因果関係等の要件が異なる。登録日、実施期間、公報発行日及び警告日を時系列で分ける。

第7 数値限定発明を検討する手順

①特許原簿、登録日、請求項及び訂正履歴を確定する。
②数値の単位、測定方法、試料条件及び有効数字を確定する。
③対象製品の同一ロット・複数ロットを適切な方法で測定し、元データを保存する。
④文言侵害と均等侵害を分け、均等論の5要件を一つずつ検討する。
⑤出願経過から、境界外の構成を除外した客観的・外形的事情を確認する。
⑥新規性・進歩性・サポート要件・実施可能要件等の無効理由を検討する。
⑦登録日、実施開始日、公報発行日、警告日及び販売数量を時系列化する。

測定結果の末尾だけを比較するのではなく、測定方法、クレーム解釈、均等論、無効論及び救済を順に分けることが重要である。

第8 出典・確認範囲

①e-Gov法令検索「特許法」36条、70条、100条、102条、103条及び104条の3。
②知財高裁令和7年3月4日判決(令和6年(ネ)第10026号)。
③最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決(平成6年(オ)第1083号、民集52巻1号113頁)。
④最高裁平成29年3月24日第二小法廷判決(平成28年(受)第1242号、民集71巻3号359頁)。
⑤知財高裁大合議平成17年11月11日判決(平成17年(行ケ)第10042号)。
⑥東京地裁平成29年4月27日判決。

確認日:令和8年9月28日。判例秘書による網羅検索は実施していない。個別事件では特許公報、包袋、測定規格及び対象製品の分析結果を追加確認する必要がある。