国際的な親子間の扶養料請求では,親権者,法定代理人,子の成年年齢及び扶養義務の準拠法を分けて考える必要がある。本記事は,扶養義務の準拠法に関する法律を中心に,令和8年9月28日現在の日本法を整理する。
第1 扶養は独立して準拠法を決める
親権等の親子間の法律関係は法の適用に関する通則法32条によるが,扶養義務については同法43条1項により同条の適用が除外され,特別法である「扶養義務の準拠法に関する法律」による。子の国籍法が成年年齢を16歳とすることや,一方の親が単独親権者であることだけで,扶養請求の準拠法と結論を決めることはできない。
第2 三段階の連結
扶養義務の準拠法に関する法律2条1項本文は,扶養権利者の常居所地法を第一順位とする。同法によって扶養を受けられないときは,当事者の共通本国法を第二順位とする。同項ただし書及び2項により,これらの法によっても扶養を受けられないときは日本法による。
この段階的連結は,第一順位の法を適用した結果が不利なら自由に次の法を選べる制度ではない。「扶養を受けることができない」場合に限って次順位へ進む。扶養の要件,権利者・義務者の範囲,程度,期間,変更・消滅等を各準拠法について確認する必要がある。
第3 成年年齢との関係
外国法が親の扶養義務を「未成年子」に限り,成年年齢を16歳と定める場合でも,16歳以上の子が扶養を受けられないと直ちに結論づけない。「未成年子」の該当性を扶養準拠法の実体要件として判断するのか,別個の先決問題として子の本国法等により判断するのかを検討する。前者の構成で扶養が認められなければ扶養法2条の次順位法を確認し,後者の構成なら別に定まる成年年齢と扶養準拠法上の要件を組み合わせて検討する。外国法が具体的な年齢を定めるのか,「未成年者」という概念を用いるのかも条文と解釈資料で確認する。
子の扶養請求権の存否,子のために権利を行使できる者,親権・法定代理権及び日本の裁判所での手続行為能力は,問題ごとに分けて確認する。扶養法6条は,扶養権利者のために権利を行使できる者の範囲等を扶養義務の準拠法に委ねる。親権等の親子間の法律関係には通則法32条が関わり,日本での申立ての方式や手続上の代理には日本の手続法も関わる。日本国籍を含む重国籍者の本国法を通則法によって決める場面では,同法38条1項ただし書も確認する。
第4 重国籍と共通本国法
扶養義務には通則法38条1項の国籍一本化規定をそのまま適用せず,扶養法にも同様の規定はない。扶養法2条1項ただし書の「当事者の共通本国法」は,両当事者が共通に国籍を有する国があればその国の法を指すと解される。これは同項ただし書の解釈であり,扶養法2条2項に重国籍者の特則があるわけではない。同条2項は,先順位の法によっても扶養を受けられない場合に日本法を適用する規定である。
例えば,子が日本国籍と甲国籍を有し,父が甲国籍だけを有する場合,共通本国法として甲国法が第二順位になり得る。子が日本国籍を含むため能力について日本法が本国法になることと,扶養の第二順位に甲国法が現れることは矛盾しない。問題ごとに適用法令が異なるためである。
第5 実務上の確認事項
①扶養権利者・義務者の国籍と重国籍の組合せ。
②権利者の常居所地。短期滞在先と生活の本拠を区別する。
③第一順位法で扶養を受けられるか。年齢だけでなく,教育中の子,障害のある成年子等の規律も調べる。
④共通本国法の有無と,重国籍者が共通に有する国籍。
⑤日本法に進む要件を満たすか。
⑥扶養法6条による権利行使者,親権・法定代理,利益相反,外国の親権・監護裁判の承認を分けて確認する。
⑦外国法の条文,判例,運用及び日本語訳を提出できる形で準備する。
請求・回収までの手順は、関連記事「国際養育費の請求と回収―準拠法・日本の裁判管轄・外国裁判の承認と強制執行」を参照されたい。
中国法が準拠法となる場合,最高人民法院の婚姻家庭編解釈(一)49条は,子の実際の必要,父母双方の負担能力及び現地の実際の生活水準から養育費を定め,固定収入がある場合の20~30%を一般的な基準とする。
この割合を機械的な定額とせず,支払終期,教育費・医療費,増額及び日中間の承認・執行も分けて確認する必要があるため,詳しくは中国の養育費(抚养费)の法制度―金額・支払終期・未払いと日中間の請求・執行を参照されたい。
扶養権利者である子の常居所がフィリピンにある場合,扶養義務の準拠法に関する法律2条1項本文により,まずフィリピン法による扶養請求の可否を検討する。
子又は親がフィリピン国籍であることだけで当然にフィリピン法が適用されるわけではなく,常居所を先に確定する。
フィリピン家族法194条・201条~203条は,養育費の費目,義務者の資力と権利者の必要に応じた金額,増減及び請求時期を定め,成年後の教育費も問題となるため,詳しくはフィリピン法の養育費―金額・請求時期・何歳まで・日比間の承認と執行を参照されたい。
例えば,イギリスの養育費のうちイングランド及びウェールズ法では,CMSの常居所要件とFamily Courtの権限を区別し,Children Act 1989 Schedule 1は定期金,一時金及び財産に関する命令を定める。
CMSと裁判所の対象年齢は同じではないため,詳しくはイギリスの養育費の法制度―CMSの計算・対象年齢・不払い・日本からの請求を参照されたい。
スコットランドでは,CMSの対象は原則16歳未満又は承認教育等を受ける20歳未満であるのに対し,alimentは18歳未満又は教育・職業訓練中の18歳以上25歳未満を含み得る。
この年齢差,CMSとsheriff courtの権限及び国外居住は,スコットランドの養育費の法制度―CMS・aliment・対象年齢・不払い・国外居住を参照されたい。
ドイツ法が準拠法となる場合は,BGB上の扶養請求権,デュッセルドルフ表の指針としての位置付け,成人後の教育・職業訓練及び父母双方の負担を確認する。
年齢や国籍だけで扶養の終期・金額を決めず,詳しくはドイツの養育費―デュッセルドルフ表2026・計算方法・何歳まで・不払い対応を参照されたい。
フランス法では,フランス民法371-2条により,父母の資力と子の必要から養育・教育への寄与を定め,子が成年になったことだけで義務は当然に終了しない。交互居住,司法省の参考算定表,ARIPA及び日仏間の回収を含む確認事項は,フランスの養育費法制―扶養義務,金額の決定・変更,執行力ある文書,ARIPA及び日仏間の承認・執行を参照されたい。
インド法を検討するときも,日本の裁判所が準拠法を選ぶ段階と,選ばれたインド法の内容を確定する段階を分ける。
インド法上の子の扶養は,BNSS144条,HAMA20条,HMA26条及びSMA38条等の適用範囲が当事者,婚姻及び手続により異なる。
詳しくはインドの養育費で整理している。
別の具体例として,イタリア法の金額算定・成年後の支払・特別費用・日伊間の執行は,イタリア法の養育費で整理している。
ニュージーランドでは,IRDのformula assessmentが双方の所得,子の年齢,監護割合及び他の扶養対象者等から金額を算定する。
しかし,日本の裁判所で親子間の扶養を請求する事件では,当事者の国籍だけからニュージーランド法を当然の準拠法とせず,扶養義務の準拠法に関する法律2条により,扶養権利者の常居所地法,共通本国法,日本法の順序を確認する。
詳しくはニュージーランド法の養育費を参照されたい。
例えば,シンガポール法では,Women’s Charter 1961の68条・69条により父母の扶養義務と裁判所の養育費命令が定められ,金額は子の必要,父母の資力,生活水準及び教育方法等から判断される。
原則は21歳までであるが,障害,フルタイムのNational Service,教育・職業訓練又は特別の事情があれば,21歳を超える命令が認められ得る。
詳しくはシンガポール法の養育費―金額,21歳まで,請求・執行と日本との関係を参照されたい。
養育費を請求する子がベトナムに常居所を有する場合,日本の扶養義務の準拠法に関する法律2条では,まずベトナム法が検討対象となる。
ベトナム婚姻家族法116条の金額要素,117条の支払方法,118条の終了原因及び日越間の承認・執行上の注意は,ベトナム法の養育費を参照されたい。
例えば,子の常居所がアイルランドにある場合,扶養法2条によりアイルランド法が第一順位となり得るが,親の国籍又は日本で申し立てたことだけで準拠法を決めない。
アイルランドでは令和8年に公式ガイドラインと計算ツールが公表されたものの,これらは全事件に適用される固定算式ではなく,裁判所は双方の資力,子の必要及び他の扶養義務を個別に判断するため,詳しくはアイルランド法の養育費―2026年ガイドライン・計算・未払いと日本からの請求を参照されたい。
第6 出典
①e-Gov法令検索「扶養義務の準拠法に関する法律」2条・6条。
②e-Gov法令検索「法の適用に関する通則法」32条,38条,43条。
③小出邦夫編著『一問一答 新しい国際私法』(商事法務,平成18年)135頁~140頁。
④東京高等裁判所平成18年10月30日決定(平成18年(ラ)第876号,判例時報1965号70頁。裁判所ウェブサイト未掲載)。同決定の書誌は専門誌索引で確認したが,本記事はその事案の結論を直接の根拠としていない。
⑤法務省「平成29年司法試験の採点実感(国際関係法・私法系)」。同年の別問題について,扶養法には通則法38条1項相当の規定がないことを明示する資料であり,令和8年司法試験の公式資料ではない。
⑥New Zealand Inland Revenue「Child support overview」及び「How formula assessments work」。
⑦アイルランドCourts Service「Child and spousal maintenance」及びLaw Reform CommissionのFamily Law (Maintenance of Spouses and Children) Act 1976改訂法令。
⑧アイルランド政府「Child Maintenance Guidelines for Ireland」及びChild Maintenance Calculator(いずれも令和8年10月16日確認)。