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イギリスの養育費の法制度―CMSの計算・対象年齢・不払い・日本からの請求(イングランド及びウェールズ)(AI作成)

第1 結論―本記事の「イギリス」はイングランド及びウェールズである

イギリスは,イングランド,ウェールズ,スコットランド及び北アイルランドから成り,家族法の制度は法域ごとに異なる。
本記事でいう「イギリスの養育費」は,特に断らない限りイングランド及びウェールズのchild maintenanceを指す。
スコットランドのCMSとalimentは,スコットランドの養育費の法制度―CMS・aliment・対象年齢・不払い・国外居住で整理し,北アイルランドは本記事の対象としない。

本記事は,個別事件で必要となる制度の選択,管轄,算定要素,命令の種類及び承認・執行の要件を中心に説明する。

通常の定期養育費は,行政機関であるChild Maintenance Service(CMS)が支払親の週額総所得等から算定する。
全国一律の月額相場はなく,対象となる子の人数,他の子,年金拠出及びshared careの泊数等によって金額が変わる。

CMSによる養育費と親子交流は別の問題であり,子に会っていないことだけで養育費の負担がなくなるものではない。
支払がない場合は,CMSが給与・年金・給付又は銀行口座から徴収し,必要に応じて裁判所のliability orderを取得する制度がある。

ただし,日本に住む監護親と子がイギリス国外にいる場合は,通常,CMSへ新規申請できない。
高所得者の追加給付,住居,一時金,日英間の承認・執行は,CMSとは別にFamily Court又は各国の手続を検討する必要がある。

法律上の論点要点主に確認する制度
通常の養育費額固定額ではなく,支払親の週額総所得と子の人数等から計算するCMS
支払終期原則16歳未満,承認された教育・訓練中は20歳未満までがCMSの対象となり得るCMS・Family Court
親子交流との関係親子交流と養育費は別であり,原則として負担は残るCMS・私的合意
不払い時の回収給与等・銀行口座からの徴収,liability order等があり得るCMS・裁判所
日本からの請求・回収CMSを利用できないことがあるため,居住地,既存判断及び財産所在地から経路を分けるCMS・Family Court・各国の承認執行法

第2 イギリスの養育費はいくらか

1 固定の月額ではない

GOV.UKの計算案内によれば,CMSはHM Revenue and Customs(HMRC)の情報等から支払親の年間総所得を把握し,週額へ換算する。
その上で,所得帯,養育費の対象となる子の人数,同居して扶養する他の子,年金拠出及びshared care等を考慮する。

そのため,「イギリスの養育費は毎月いくら」という単一の相場はない。
CMSの計算は週額を基礎とするため,日本の家庭裁判所の養育費算定表による月額とそのまま比較しない。

2 週額総所得200ポンド以上の基本的な割合

令和8年10月16日現在,調整後の週額総所得が200ポンド以上800ポンド以下の場合,対象となる子が1人なら12%,2人なら16%,3人以上なら19%が出発点となる。
週額総所得が800ポンドを超え3000ポンド以下の場合,最初の800ポンドには上記割合を用い,800ポンドを超える部分には,子が1人なら9%,2人なら12%,3人以上なら15%を用いる。

対象となる子の人数週額200~800ポンドの部分週額800ポンド超~3000ポンドの部分
1人12%9%
2人16%12%
3人以上19%15%

週額総所得が200ポンド未満の場合は,nil rate,flat rate又はreduced rateが問題となり,単純な上表の割合だけでは決まらない。
週額総所得が3000ポンドを超える場合は,CMSの計算に加えて,受領親が裁判所へ追加の養育費を求めることを検討する。

3 計算例

他の子,年金拠出及びshared careによる調整がないものとして,支払親の週額総所得が600ポンドで対象となる子が1人なら,出発点は週72ポンド(600ポンドの12%)である。
同じ前提で,週額総所得が1200ポンドで対象となる子が1人なら,最初の800ポンドについて週96ポンド,残る400ポンドについて週36ポンドとなり,合計は週132ポンドである。

これは説明のための単純例であり,実際のCMS calculationはHMRC所得,他の子,年金拠出,variation及びshared care等により変わり得る。
GOV.UKのchild maintenance calculatorも概算の確認に利用できるが,正式なCMSの決定そのものではない。

4 shared careでいくら減るか

支払親の家で対象となる子が年間52泊以上する場合,shared careとしてCMSの週額が減ることがある。
令和8年10月16日現在,年間52~103泊は7分の1,104~155泊は7分の2,156~174泊は7分の3の減額が基本となり,175泊以上は50%に加えて週7ポンドを減額する取扱いが示されている。

泊数はcourt order又は父母の合意を基礎に確認される。
年間52泊以上であることには合意しているが正確な泊数に合意できない場合,CMSは52泊として扱うことがある。

第3 イギリスの養育費は何歳までか

1 CMSは原則16歳未満である

GOV.UKのCMS利用資格によれば,対象となる子は原則として16歳未満である。
承認された教育又は訓練に在籍している場合は,20歳未満まで対象となり得る。

GOV.UKの終了時期の案内によれば,養育費は,対象となる教育・訓練を終えた時又は20歳になった時のうち早い方で終了する。
大学の学位課程等のadvanced educationや雇用契約の一部として行う課程は,CMS上のapproved education or trainingに当たらないことがある。

2 Family Courtの命令はCMSと終期が同じとは限らない

Children Act 1989 Schedule 1 paragraph 3では,裁判所の定期金給付は原則として子が17歳に達するまでであるが,裁判所は事情に応じて18歳まで継続させることができる。
18歳を超える期間も,教育・職業訓練中である場合又は特別の事情がある場合には命令の対象となり得る。

したがって,「16歳」「18歳」「20歳」という数字は別々の制度に現れる。
子の年齢だけでなく,利用する制度,教育・訓練の内容,障害又は疾病及び既存命令の終期を確認する必要がある。

第4 子どもに会えなくても養育費を払うのか

GOV.UKのCMS案内は,child maintenanceを子の生活費に関する取決めとし,子に会うための取決めは別に行うと説明している。
父母は,子に会っていない場合でも,子を養育する費用について責任を負う。

したがって,親子交流が実施されないことだけを理由に,支払親が養育費を一方的に停止することは避けるべきである。
反対に,養育費が支払われないことだけを理由に親子交流を一方的に止めることも,養育費とは別の問題として検討する。

もっとも,子が支払親の家に宿泊する日数はshared careとして金額に影響し得る。
親子交流の権利義務と,実際の宿泊日数によるCMSの金額調整を混同しないことが重要である。

第5 日本に住む親はCMSを利用できるか

Child Support Act 1991 section 44は,原則として,主たる監護者,支払親及び対象となる子が英国に常居所を有しない限り,CMSによる計算を行えないとする。
住所,国籍,在留資格及び常居所は同じ概念ではないため,転居日,住居,就労,納税,学校,医療及び家族の生活実態を時系列で確認する。

GOV.UKの国外居住者向け案内によれば,子と主たる監護者が英国外に住む場合はCMSへ新規申請できない。
支払親が英国外に住む場合も,英国政府,軍,NHS,英国で登録された会社等の一定の組織で働く場合を除き,通常はCMSへ新規申請できない。

CMSを利用できない場合でも,養育費請求自体が当然に消滅するわけではない。
私的合意,Family Courtその他の裁判所手続,日本の家庭裁判所の手続又は既存判断の承認・執行のうち,どの経路を利用できるかを別に確認する。

第6 養育費を払わない場合にCMSはどう回収するか

GOV.UKの未払養育費の案内によれば,Direct Payでは,CMSはその方式のまま強制的な回収措置を行わない。
支払遅滞がある場合,受領親はCollect and Payへの変更を申し出ることを検討する。

Collect and Payでは,CMSは支払親の給与,年金又は給付から控除し,銀行・building society等の口座から直接徴収することができる。
必要に応じて裁判所からliability orderを得て,財産への執行等へ進むことがある。

この回収制度は,CMSの権限があることを前提とする。
支払親の給与・預金が日本にある場合又は日本の裁判だけが存在する場合に,英国のCMS手続が日本の財産へそのまま及ぶとは扱わない。

1 CMSは国が養育費を立て替える制度か

CMSの徴収・送金と,公費による立替えは別である。
英国政府の支払方法の案内(https://www.gov.uk/child-maintenance-service/payments)は,CMSが額を計算して父母間で支払うDirect Payと,CMSが徴収・送金するCollect and Payを区別している。

Collect and Payの支払統計は,一部でも支払った人と全額を支払った人を分けて読む必要がある。
統計の対象地域はGreat Britainであり,本記事の法制度の説明範囲であるイングランド及びウェールズとも区別する。
詳しくは養育費の受給率と未払い率及び養育費法制の国際比較を参照されたい。

第7 CMSとFamily Courtはどう使い分けるか

通常の定期養育費についてCMSの権限がある場合,Child Support Act 1991 section 8はFamily Courtによるperiodical paymentsの命令を制限する。
他方,CMSの最高額計算がされている高所得者事案のtop-up order,一定の教育費,障害費用,一時金及び財産に関する命令等には裁判所の権限が残る。

検討対象主な制度最初に確認する事項
通常の定期養育費CMS三者の常居所,所得,子の人数,shared care
高所得者の追加分Family Courtのtop-up orderCMSの最高額計算,週額総所得3000ポンド超の部分
一時金・住居・担保付給付Children Act 1989 Schedule 1裁判所の管轄,子の必要,父母の資力,既存合意・命令
外国判断の回収条約,各国の承認・執行法判断国,執行国,判断の種類,送達・確定・給付部分

第8 Children Act 1989 Schedule 1による一時金・住居等

Children Act 1989 Schedule 1は,子のためのperiodical payments,secured periodical payments,lump sum,財産のsettlement及びtransferを命じる枠組みを定める。
定期金だけでなく,住居取得・維持,教育費,障害に伴う特別費用及び具体的な一時支出が問題となる場合に,利用可能な命令を分けて検討する。

裁判所は,父母の所得・資力・財産,現在及び予見可能な義務,子の経済的必要,障害及び教育状況等の法定考慮要素を総合する。
CMSを利用できないことから直ちにSchedule 1の国際管轄が生じるわけではないため,裁判所の管轄と申立ての根拠を別に確認する。

第9 高所得者と資産をどう扱うか

James v Seymour(2023年・EWHC 844 (Fam))は,高所得者向けのAdjusted Formula Methodを,裁判官が採否を決められる緩やかな出発点と位置付けた。
同判決は,変更申立てでは既存の命令を物価調整した額が適切な出発点となると述べており,新規算定と変更申立てを同じ式で処理しない。

Galbraith-Marten v De Renée(2023年・EWFC 253)も,算定式を法定考慮要素に代わる拘束的な基準として扱わない姿勢を示す。
CMSでは,通常の所得計算とは別に,所得の流用,非労働所得及び資産についてvariationが問題となり得る。

PB v Secretary of State for Work and Pensions(2026年・UKUT 61 (AAC))は,資産variationの法定8%率に関する従前判例Cartを維持し,相当性の判断により低い率を用いる余地を残した。
資産があることだけから8%相当額が必ず所得に加算される,又は直ちにFamily Courtへ移るとは説明できない。

第10 既存合意と命令を変更できるか

書面による養育費合意があっても,後の事情変更,CMSの権限及び裁判所による変更可能性を別に確認する。
合意書,consent order,CMS calculation及び私的な送金約束は効力と執行方法が異なるため,文書名だけでなく,作成主体,給付内容,変更条項及び強制執行可能性を原文で読む。

CMSの利用資格案内によれば,裁判所が承認したconsent orderが1年未満である場合はCMSを利用できない。
1年を経過した場合も,既存命令,未払額及び新たなCMS calculationの関係を確認してから手続を選ぶ。

第11 日本とイギリスの間で請求・回収する場合

英国政府は,国外に住む親との養育費について,REMO対象国か,判断がどこで作成されたか,相手方がどこに住むかにより手続が異なると案内している。
2007年ハーグ扶養条約の締約国一覧では,令和8年10月16日現在,英国は締約国として掲載される一方,日本は掲載されていない。
そのため,日英間で同条約の中央当局ルートが当然に使えるとは扱わない。

英国のcourt orderを日本で使う場合は,日本の家事事件手続法79条の2,民事訴訟法118条及び民事執行法24条による承認・執行を検討する。
日本の調停調書,審判又は判決を英国で使う場合は,英国側の承認・執行手続を確認する。

CMSの行政判断とFamily Courtのorderを同一に扱わず,判断主体,確定性,給付部分,送達・防御の機会,未払額及び翻訳をそろえる。
どの国で判断を得るかだけでなく,支払親の給与,預金,不動産その他の財産がどの国にあるかを確認することが重要である。

第12 一括払いと日本の税務

日本の贈与税では,扶養義務者から生活費又は教育費に充てるために取得した財産のうち通常必要と認められるものは,原則として非課税である。
もっとも,国税庁No.4405は,数年間分の生活費を一括して受け取り,実際の生活費に充てられず預貯金等となった部分には贈与税がかかると説明する。

一括払いであることだけで直ちに課税と決めず,算定根拠,対象期間,子の年齢・教育,管理方法,実際の支出及び未使用残高を記録する。
当事者が国外に居住する場合は,国税庁No.4432を手掛かりに,贈与者・受贈者の住所等と財産の所在から日本の課税範囲を別に確認する。

第13 受任時の確認順序

① 子,主たる監護者及び支払親の国籍,domicile,住所,居所及び常居所の変遷を時系列にする。
② 離婚,監護,CMS calculation,court order,合意書及び支払記録を文書ごとに分ける。
③ 新規算定,既存命令の変更,未払分の回収又は一時金・住居の確保のどれを求めるかを決める。
④ CMSの常居所要件,国外勤務例外,対象年齢及び週額総所得3000ポンドの上限を確認する。
⑤ Family Courtを利用する場合は,根拠条文,国際管轄,法定考慮要素及び求める命令の種類を特定する。
⑥ 日本又は英国で外国判断を使う場合は,判断の種類,確定・送達資料,翻訳,未払額及び執行対象財産をそろえる。
⑦ 一括払い又は資産移転を含むときは,英国法上の給付原因と日本の税法上の評価を分けて税理士と確認する。

第14 関連記事と出典

日本の国際裁判管轄,扶養準拠法及び外国判断の承認・執行の全体像は,国際養育費の請求と回収を参照されたい。
日本の養育費算定表との違いは,養育費算定表の見方,計算方法及び法定養育費との違いを参照されたい。
日本国内の不払いへの回収手段は,養育費を払わない場合の回収方法を参照されたい。
扶養義務の準拠法の段階的連結は,国際扶養の準拠法で整理している。
離婚,財産分与,慰謝料及び子の事項を請求単位に分ける方法は,国際離婚の手続選択と日本の国際裁判管轄・準拠法を参照されたい。
一括払いを含む日本の税務は,離婚時の財産分与と税金で扱っている。

本記事は,令和8年10月16日現在の法令,英国政府資料,英国の公開裁判例,HCCH締約国表及び国税庁資料を基礎とする。
CMSの行政判断を日本で承認・執行できるか,日本の家事判断を英国で執行する具体的経路及び個別事件の国際管轄は,判断の種類と事実関係に応じて追加確認を要する。

主な外部資料のURLは次のとおりである。

① GOV.UK「Child Maintenance Service」 https://www.gov.uk/child-maintenance-service
② GOV.UK「How child maintenance is worked out」 https://www.gov.uk/how-child-maintenance-is-worked-out
③ GOV.UK「Eligibility」 https://www.gov.uk/child-maintenance-service/eligibility
④ GOV.UK「When child maintenance stops」 https://www.gov.uk/child-maintenance-service/when-child-maintenance-stops
⑤ GOV.UK「Unpaid child maintenance」 https://www.gov.uk/unpaid-child-maintenance/if-youre-owed-child-maintenance
⑥ Child Support Act 1991 sections 8, 44 https://www.legislation.gov.uk/ukpga/1991/48/section/8 https://www.legislation.gov.uk/ukpga/1991/48/section/44
⑦ Children Act 1989 Schedule 1 https://www.legislation.gov.uk/ukpga/1989/41/schedule/1
⑧ HCCH「2007 Child Support Convention status table」 https://www.hcch.net/en/instruments/conventions/status-table/?cid=131