別件判決又は先行訴訟の準備書面を現在の訴訟で使うときは,①確定判決の主文に生じる既判力,②先行訴訟でされた主張又は判断という訴訟経過,③記載内容が真実かという証拠評価,④現在の訴訟における裁判上の自白を区別する必要がある。本記事では,判決書,準備書面,上申書及び陳述書を後訴で利用する前に確認すべき記録と,証拠説明書の立証趣旨の書き方を整理する。
第1 判決主文と判決理由中の認定の違い
判決書は,主文と理由から成る。主文は,当事者の請求について,認容,棄却又は訴えの却下等の結論を示す部分である。理由は,その結論に至った事実認定及び法律判断を示す。
民事訴訟法114条1項は,「確定判決は,主文に包含するものに限り,既判力を有する。」と定めている。したがって,前訴判決の理由中にある個々の事実認定又は法律判断が,その記載だけで一律に後訴を拘束するわけではない。
もっとも,どの権利又は法律関係について判断されたかを確定するには,主文だけでなく,請求の趣旨,請求原因及び判決理由を読み,前訴の訴訟物と基準時を特定する必要がある。「理由に書いてあるから既判力がない」と短絡することも,「前の判決が認定したから後の裁判所も従う」と短絡することもできない。
判決理由だけを不服として控訴できるかという別の問題は,全部勝訴した当事者に民事控訴の利益はあるか――判決理由だけを争える場合と争えない場合で説明している。
第2 理由中の判断に既判力が生じる範囲と相殺の例外
既判力が生じるのは,原則として,前訴の口頭弁論終結時を基準として主文に包含された訴訟物についての判断である。後訴が前訴と同じ訴訟物を対象とするとき,又は前訴の判断を先決関係として覆すことになるときは,既判力との抵触を検討する。
判決理由中の判断については,民事訴訟法114条2項が明文の例外を置いている。同項は,「相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は,相殺をもって対抗した額について既判力を有する。」と定めている。
例えば,被告が反対債権を自働債権として相殺を主張し,裁判所がその成立又は不成立を判断した場合は,相殺に供された額の範囲で,その理由中判断にも既判力が生じる。相殺の抗弁に関する整理は,相殺の抗弁に関するメモ書きで説明している。
このほか,既判力の範囲外であっても,前訴で十分に争われた事項を後訴で蒸し返すことが信義則に反すると評価される場合がある。これは114条の既判力そのものとは別の問題であるため,前訴と後訴の当事者,請求,争点,審理の程度及び訴訟経過を個別に確認する。
第3 別件判決が後訴で証拠として持つ意味
別件判決の理由中の認定に既判力がない場合でも,判決書を後訴で書証として提出することはできる。後訴の裁判所は,民事訴訟法247条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して,自由な心証により事実を判断する。
別件判決書から直接分かるのは,まず,別の裁判所が,特定の当事者及び請求について,記載された主文及び理由の判断をしたという事実である。判決が確定していれば,確定した主文の範囲では既判力の問題が加わる。未確定判決であれば,その時点の判決が存在することは示せても,確定判決としての既判力は生じていない。
他方,判決理由に認定された基礎事実が後訴でも真実であるかは,別の問題である。前訴で用いられた証拠,争点,認否,反対尋問の有無及び当事者の範囲が後訴と異なることがある。後訴の裁判所は別件判決書の証拠価値を評価するが,理由中認定だけを切り出して現在の争点が当然に証明されたものとして扱うべきではない。
特に,別件判決が一方当事者の準備書面又は陳述書を引用している場合は,その文書が実際に提出又は取調べされたのか,単に当事者の主張として摘示されたのかを,前訴記録で区別する。
第4 先行訴訟の準備書面・上申書・陳述書の扱い
準備書面は,当事者の主張又は認否を記載する書面である。上申書は,用途が一定せず,進行に関する連絡,事情説明又は実質的な主張を含むことがある。陳述書は,作成者の体験又は認識を供述内容として記載し,書証として提出されることが多い。
前訴の準備書面又は上申書を後訴で利用するときは,前訴でその書面が提出され,期日においてどのように扱われたかを確認する。裁判所へ送ったファイルが手元にあることと,正式に提出され,主張として陳述され,又は証拠として取り調べられたことは同じではない。
陳述書については,作成者,作成時期,作成経緯,署名又は押印,添付資料との関係及び尋問の有無を確認する。前訴で反対尋問を経た供述と,尋問を経ていない陳述書の記載とでは,後訴で評価するときの前提が異なる。
準備書面等が後訴で裁判上の自白になるか,自分の先行書面を提出するときにどこを確認するかは,和解のために出した試算書は後の訴訟で不利に使われるかでも説明している。
第5 「その主張をした事実」と「主張内容が真実であること」の区別
先行訴訟の書面を後訴で提出するときは,立証対象を少なくとも次の三層に分ける。
①その主張又は判断がされた事実
前訴の準備書面に特定の記載があること,又は別件判決が特定の判断をしたことを,訴訟経過として示す。
②記載内容が真実であること
前訴の書面に「代金を支払った」と書かれていても,その記載だけで支払の事実が当然に真実になるわけではない。作成者の立場,記載の具体性,客観的資料との整合性及び反対記載の有無を検討する。
③現在の訴訟での推認
前訴と後訴で説明が異なることから,供述の信用性又は事実経過について一定の推認を求めることがある。この場合も,前提事情の変更,主位的・予備的主張の別,仮定計算又は単なる誤記でないかを確認する。
「前訴でそう主張した」という事実を立証する場合と,「前訴の主張どおりの事実が存在した」と立証する場合とでは,必要な補充証拠が異なる。証拠説明書と準備書面の双方で,どの層を利用するのかを明示する。
第6 裁判上の自白と単なる不利益陳述の区別
民事訴訟法179条は,「裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は,証明することを要しない。」と定めている。裁判上の自白は,当該訴訟の口頭弁論又は弁論準備手続で,相手方が主張する自己に不利益な主要事実を認める陳述をした場合に問題となる。
前訴での自白は,その前訴における審理上の効果である。前訴の準備書面を後訴へ書証として提出しただけで,後訴における179条の裁判上の自白へ変わるものではない。
もっとも,後訴の準備書面で前訴の記載を自ら現在の主張として引用し,又は相手方の主張を争わない場合は,後訴における陳述又は民事訴訟法159条の擬制自白が問題となり得る。そのため,「前の書面に書いたこと」と「現在の訴訟で認否又は主張として陳述したこと」を分けて記録する。
また,当事者が自分に不利な事情を述べても,それが主要事実ではなく間接事実,補助事実,法律上の評価又は計算上の意見であれば,そのまま裁判上の自白になるとは限らない。ただし,自白でなくても,口頭弁論の全趣旨又は証拠評価の材料にはなり得る。
第7 後訴で引用する前に確認する記録
別件記録を引用する前に,次の事項を一覧表にする。
①提出 文書の最終版,提出日,提出者,提出先,事件番号及び受付の有無を確認する。草案又は送信前のファイルを混同しない。
②陳述又は取調べ 準備書面が期日で陳述されたか,陳述書等が号証として申し出られ,採用され,実際に取り調べられたかを,証拠目録及び期日調書で確認する。
③撤回・訂正 後の準備書面又は期日で,当該主張が撤回,訂正又は釈明されていないかを確認する。一つの文書だけを切り出さず,その後の経過まで追う。
④判決への反映 判決書の当事者の主張欄,裁判所の認定欄及び判断欄を分け,どこに記載されたものかを特定する。当事者の主張を摘示しただけの部分を,裁判所の認定と読み違えない。
⑤確定 控訴,上告,取下げ等の経過及び判決確定の有無を確認する。確定の有無が必要な場面では,判決書だけでなく確定証明書又は事件記録で確認する。
⑥記録の同一性 頁数,枝番号,別紙及び添付資料を含め,引用する文書が前訴記録のものと同一かを確認する。抄本を使う場合は,省略した範囲を明らかにし,全文を手元に置く。
事件記録の閲覧・謄写は,令和8年5月21日以降に開始した事件かどうかによって,電磁的記録と非電磁的記録で手続が異なる。具体的な申請方法は,記録を保管する裁判所の案内を確認する。
第8 証拠説明書の立証趣旨の記載例
裁判所の証拠説明書記載要領は,立証趣旨について,提出する証拠によりどのような事実を立証するのかを具体的に記載するよう求めている。別件記録では,文書の標目だけでなく,該当頁と利用目的を示す。
| 利用目的 | 標目の例 | 立証趣旨の例 |
|---|---|---|
| 先行主張の存在 | 前訴準備書面写し | 前訴準備書面5頁において,被告が契約締結日を令和○年○月○日と主張した事実 |
| 理由中認定の存在 | 別件判決書正本 | 別件判決12頁において,裁判所が令和○年○月○日の送金を認定した事実 |
| 記載内容の真実性 | 前訴陳述書写し | 同陳述書3頁記載の日時に,作成者が対象物を受領した事実 |
| 説明の変遷 | 前訴準備書面写し | 前訴準備書面5頁の説明と本件準備書面3頁の説明が異なる事実 |
| 既判力の前提 | 別件判決書正本・確定証明書 | 前訴判決の主文の内容及び同判決が確定した事実 |
立証趣旨は,証拠価値を先取りして「当方の主張が正しいこと」と書く欄ではない。判決書のどの頁のどの部分を,何のために使うのかを明確にする。一般的な記載方法は,証拠説明書の書き方―民事訴訟の書証と立証趣旨の実務で説明している。
第9 先行主張と現在の主張が異なる場合の説明方法
先行主張と現在の主張が異なるときは,前の記載を隠すのではなく,次の順序で説明する。
①前訴書面の標目,提出日,頁及び該当記載を正確に特定する。
②その記載が,主位的主張,予備的主張,仮定計算,和解のための譲歩,事実の認否又は法律上の評価のどれであったかを示す。
③前訴当時の前提資料及び未確認事項を示す。本人の説明だけに基づいたのか,客観的資料を確認済みであったのかを区別する。
④その後に判明した新しい資料,訂正した誤記又は法的整理の変更を示し,変更理由を具体化する。
⑤現在採用する事実及び法的主張を明示し,前訴のどの部分を維持し,どの部分を変更するのかを一覧にする。
説明の変更自体が直ちに虚偽を意味するわけではない。しかし,変更理由を示さずに結論だけを変えると,信用性の問題として評価されやすい。前訴書面の全文,前後の準備書面及び裏付け資料を確認し,変遷の経過を開示する方が,後訴の争点を明確にできる。
第10 まとめ
別件判決又は先行訴訟の書面を後訴で使うときは,既判力,裁判上の自白及び証拠価値を同じ言葉で処理しない。確定判決の既判力は原則として主文に包含するものに限られ,相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断には,対抗額の範囲で例外がある。
理由中認定,準備書面,上申書及び陳述書は,後訴で書証となり得るが,「その主張又は判断がされた事実」と「記載内容が真実であること」と「現在の訴訟での推認」を分ける。引用前に,提出,陳述又は取調べ,撤回・訂正,判決への反映及び確定の有無を記録で確認し,証拠説明書には該当頁と利用目的を記載する。
第11 出典・関連記事
①e-Gov法令検索「民事訴訟法」(114条,159条,179条,219条,247条)