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配当還元方式の見直し案――少数株主の判定の3%基準,親族の範囲の縮小及び従業員持株会の固定価格評価(AI作成)

第1 配当還元方式の見直し案とは――この記事の対象と時点

国税庁は,取引相場のない株式(非上場株式)の相続税・贈与税の評価について,配当還元方式を廃止せずに「特別の例外的措置」として残した上で,適用される少数株主の範囲を絞り込む案を示している。
その柱は,①同族関係者の判定に用いる親族の範囲を配偶者,直系血族,兄弟姉妹及び1親等の姻族に狭めること,②議決権保有割合と株式保有割合を用いる3%基準に改めること,③前所有者と委任・代理契約を結んでいる者や一時的所有を目的とする者を除外すること,④計算を受取配当金と還元率によるものに簡素化することである。
あわせて,一定の要件を満たす従業員持株会の株式を固定価格で評価する案も示されている。

これらは,国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」で事務局が示したたたき台であり,通達改正が決まったものではない。
第5回会議(令和8年8月20日)の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」は,冒頭で「評価水準・税負担の在り方等も含め,最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」としている(骨子1頁)。
また,第6回資料1頁は,配当還元方式(少数株主)を第7回会議以降の想定論点に位置付けており,議論はまだ途中である。

この記事は,令和8年9月19日現在で公表されている第5回までの議事要旨と第6回までの会議資料に基づき,配当還元方式に関する見直し案を整理するものである。
第6回会議の議事要旨は,この記事の作成時点で公表されていない。
会議全体の経緯と論点は,親記事の取引相場のない株式の評価に関する有識者会議にまとめている。

第2 現行の配当還元方式

1 配当還元方式が適用される株主(財産評価基本通達188)

取引相場のない株式は,株主の区分に応じて,同族株主等が取得した株式は原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式等)で,それ以外の少数株主等が取得した株式は特例的評価方式である配当還元方式で評価される(第1回資料1頁)。
配当還元方式が適用される「同族株主以外の株主等が取得した株式」は,財産評価基本通達188が次の4つに分けて定めている。

区分会社の状況配当還元方式の対象となる株主
(1)同族株主のいる会社同族株主以外の株主
(2)中心的な同族株主のいる会社中心的な同族株主以外の同族株主で,株式取得後の議決権が5%未満の者(役員及び法定申告期限までに役員となる者を除く)
(3)同族株主のいない会社株主の1人及びその同族関係者の議決権の合計が15%未満である株主
(4)中心的な株主がおり,同族株主のいない会社議決権の合計が15%以上のグループに属するが,株式取得後の議決権が5%未満の者(役員等を除く)

ここでいう「同族株主」とは,株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が議決権総数の30%以上(最も多いグループの議決権が50%超である会社では50%超)である場合のその株主及び同族関係者をいう(通達188(1))。
「同族関係者」は,法人税法施行令4条の「特殊の関係のある個人又は法人」とされている(同)。
「中心的な同族株主」は,同族株主の1人並びにその配偶者,直系血族,兄弟姉妹及び1親等の姻族の有する議決権の合計数が25%以上である場合のその株主をいう(通達188(2))。

評価明細書(第1表の1)でどのように判定するかは,取引相場のない株式(出資)の評価明細書の書き方で解説している。
議決権の数え方は種類株式があると変わる(通達188-5)ので,無議決権株式等がある会社については種類株式の相続税評価も参照されたい。

2 配当還元価額の算式(財産評価基本通達188-2)

財産評価基本通達188-2は,配当還元価額を次の算式で計算すると定めている。

(その株式に係る年配当金額)÷10%×(その株式の1株当たりの資本金等の額)÷50円

「年配当金額」は,通達183(1)の1株当たりの配当金額,すなわち直前期末以前2年間の剰余金の配当金額(将来毎期継続することが予想できない特別配当・記念配当等を除く。)の合計額の2分の1を,資本金等の額を50円で除した株数で割った金額である(通達183(1))。
そして,通達188-2は,年配当金額が「2円50銭未満のもの及び無配のものにあっては2円50銭とする」と定め,算定した金額が原則的評価方式による価額を超える場合は原則的評価方式の価額によるとしている。
同項の注は,年配当金額が「1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額」であるため,1株当たりの資本金等の額の50円に対する倍数を乗じることに留意するよう求めている。

たとえば,1株当たりの資本金等の額が500円(50円の10倍)で,資本金等の額50円当たりの年配当金額が5円であれば,配当還元価額は5円÷10%×10=500円となる。
無配であれば年配当金額は2円50銭とされ,2円50銭÷10%×10=250円となる(本記事の試算)。

3 還元率10%と2円50銭の意味

還元率10%は,昭和39年の通達制定当時の金利水準に安全率等を考慮して定められたものである(第1回資料5頁)。
2円50銭の下限について,第5回会議では,額面制度があった頃の額面50円の5%に当たるものと思われるとの委員の発言がある(第5回議事要旨10頁)。
第1回資料2頁の改正経緯の表にも,券面額に年平均配当率(下限5%)を乗じて10%で除す算式と,資本金50円当たりの年平均配当金額(下限2円50銭)を10%で除す算式が掲げられている。

配当還元方式の趣旨について,第5回の骨子は,「当面,配当を受領するということ以外に直接の経済的利益を享受することがないという実態を考慮した特別の例外的措置」と説明している(骨子10頁)。
第4回資料28頁は,この表現を税務訴訟の裁判例からの抜粋として掲げている。
単に配当を期待するにとどまるという実質のほか,評価手続の簡便性も考慮して,本来の評価方式に代えて配当還元方式を用いるという整理である(第4回資料13頁)。

従業員持株会の株式の譲渡価格と配当還元価額の関係など,現行の実務上の扱いは従業員持株会における株式譲渡価格の税務上の取扱いで扱っている。

第3 配当還元方式の見直しが検討される理由

1 会計検査院が指摘した還元率10%

(1) 還元率が金利水準に比べて高いおそれ

会計検査院は,令和5年度決算検査報告の特定検査「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」で,配当還元方式の還元率10%が通達制定以降見直されておらず,「近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となっているおそれがある」と指摘した。
同報告によれば,配当還元方式による申告800件で評価されていた延べ889社のうち,評価明細書で所要の項目を確認できた延べ857社の評価額は計27億0754万余円であり,延べ533社(62.1%)が配当を分配していた。
延べ857社の1株当たりの評価額の中央値は500円であった。

(2) 還元率を5%にしても大部分は原則的評価以下

同報告は,延べ857社のうち評価明細書に原則的評価方式の評価額も記載されていた延べ246社について,配当金額が一定であるとの条件で仮の還元率による評価額を試算している。
配当還元方式による評価額が原則的評価方式による評価額を超えない会社は,還元率が9%の場合に延べ242社(98.3%),7%の場合に延べ234社(95.1%),5%の場合に延べ225社(91.4%)であった。
また,延べ857社の評価額計は,還元率を9%とすると計30億0838万余円,5%とすると計54億1509万余円となり,還元率10%の場合と比べて3億0083万余円から27億0754万余円の範囲で増加するとされている。
還元率を半分にすれば評価額はちょうど2倍になるから,5%の場合の増加額が申告評価額の合計と同額になるのは算式どおりである(本記事の検算)。

2 市場平均収益率から見た還元率

他方,第3回会議で櫻井久勝委員は,市場平均の投資収益率が直近10年で9.05%,直近20年で5.58%となることを示し,会計検査院は還元率10%が高すぎると指摘していたと思うが,「直近10年で見れば,それほど高くはないのではないか」と述べている(第3回議事要旨6頁)。
還元率の水準は,無リスク利子率を基準にするか,株式投資の期待収益率を基準にするかで評価が分かれ得る問題であり,会計検査院の前提にも留保が付された形である。
第6回資料1頁は,還元率を一律とすることの是非や上場と非上場の差を,配当還元方式とは別の論点(還元率)として第7回以降に検討するとしている。

3 株主構成の操作による評価額の圧縮

国税庁の関心は,還元率の水準よりも,配当還元方式が本来の対象を超えて使われていることに向いている。
第5回資料7頁は,「株主構成や議決権割合を操作することで,配当還元方式のみを適用し,評価額を90%以上圧縮するスキームも可能」とし,株主構成の操作では「企業価値の総額から最大で約98%もの評価額圧縮を行う事例も存在」するとしている。
同頁は,株主構成の操作,無議決権株式を用いた世代間譲渡,一時的な第三者への株式譲渡を濫用の例に挙げ,従業員持株会等により固定価格で買い取る株式を活用して支配株主の株価を引き下げるスキームにも触れている。

第4回資料の別添には,孫を「中心的な同族株主以外の同族株主」として作出して配当還元価額で贈与する事例や,資産管理会社の株主構成をどのグループも議決権の15%以上を持たないよう設計して全株式を配当還元方式で評価させる事例などが掲げられている(第4回資料33頁・37頁)。
これらの事例の具体的な仕組みは,国税庁が例示した評価額圧縮スキーム8類型で扱う。
第5回資料5頁は,こうした「特例的評価方式の趣旨を逸脱した濫用」を踏まえ,配当還元方式を「特別の例外措置として適用の範囲等を見直した上で存置」する方向を示し,今後の検討事項として,適用すべき株主の範囲・基準,固定価格の従業員持株会株式との関係,最低配当2.5円とする計算方法の見直し,適用を受ける株主と受けない株主の評価額のかい離への対応の4点を挙げている。

第4 配当還元方式の見直し案の内容

骨子10頁は,配当還元方式の見直しの課題として,親族の範囲の縮小,煩雑な判定の見直し,議決権保有割合と株式保有割合による判定,委任・代理契約のある者と一時的所有目的の者の除外及び計算過程の簡略化を挙げている。
以下では,これらを1~4で整理し,骨子の項目ではないが関連する最低配当2円50銭をめぐる意見を5で併せて見る。

1 同族関係者の「親族」の範囲の縮小

(1) 現行の親族の範囲

現行の同族関係者は,法人税法施行令4条を引用して判定されている。
法人税法施行令4条1項は,特殊の関係のある個人として,①株主等の親族,②事実上婚姻関係と同様の事情にある者,③個人である株主等の使用人,④株主等から受ける金銭その他の資産によって生計を維持している者,⑤②から④までの者と生計を一にするこれらの者の親族を掲げている。
ここでいう「親族」は民法の親族であり,民法725条は,「六親等内の血族」,「配偶者」及び「三親等内の姻族」を親族と定めている。
したがって,現行では,いとこ(4親等の血族)やその子(5親等の血族),配偶者の兄弟姉妹(2親等の姻族)なども同族関係者として1つのグループに数えられる。

(2) 見直し案

骨子10頁は,近年は親族との関係が希薄な場合もあり,「実際に交流も利害関係もない遠縁の親族まで1つのグループとして扱われることへの批判も見受けられる」として,「親族」の範囲を「配偶者,直系血族,兄弟姉妹,1親等の姻族」に狭めてはどうかとしている。
この範囲は,現行の通達188(2)が「中心的な同族株主」の判定に用いている範囲と同じである。
案どおりであれば,おじ・おば,甥・姪,いとこ,兄弟姉妹の配偶者,配偶者の兄弟姉妹などは,同族関係者のグループから外れることになる(本記事の読み方)。
子の配偶者は1親等の姻族,孫は直系血族であるから,引き続き含まれる。

2 3%基準――議決権保有割合と株式保有割合を用いる判定

(1) 見直し案と平成15年改正の経緯

骨子10頁は,インカムアプローチに基づく企業価値の総額に基づくプロラタ価値(持分比例の価値)で評価する体系へ移行することを踏まえ,議決権保有割合による判定から「議決権保有割合と株式保有割合を用いる判定(いずれかの割合が3%未満)」に変更してはどうかとしている。
同頁の注は,平成13年・14年の旧商法改正で単元株制度が創設され,種類株式ごとに単元を定めることが認められて,株式の数と議決権の数が必ずしも一致しなくなったことを受け,平成15年の通達改正で議決権割合による判定にしたと説明している。
あわせて,同族株主の有無,中心的な同族株主の有無,同族株主グループの有無などの「煩雑な判定の見直し」も課題に挙げられている。

第4回会議では,委員から,平成15年の通達改正によって無議決権株式を使った手法が使われるようになったので,そこを元に戻せばよいのではないかとの意見が出ている(第4回議事要旨22頁)。
第5回会議でも,配当還元方式を用いたスキームには,議決権割合と持株割合で判定していたものを議決権割合のみで判定することとした平成15年の通達改正を元に戻せばよいとの意見がある(第5回議事要旨10頁)。

(2) 3%という数値と会計帳簿閲覧請求権

3%という数値について,第5回会議では,配当還元方式でしか評価できない一部の少数株主だけに適用するよう基準となる持株比率を低くするのであれば,株主の帳簿閲覧請求権の3%が一つの目安になるのではないか,帳簿閲覧請求権を行使して必要な帳簿を閲覧すれば残余利益方式を適用して評価できるのではないかとの意見が出ている(第5回議事要旨10頁)。
これに対しては,帳簿閲覧請求権では法人税の申告書の閲覧までは担保されていないのではないかとの意見もある(同頁)。

会社法433条1項は,総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主「又は」発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3以上の数の株式を有する株主に,会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧・謄写の請求を認めている。
議決権と株式数のどちらか一方で3%以上を持てば請求できるという構造である。

(3) 「いずれかの割合が3%未満」の読み方

骨子の「いずれかの割合が3%未満」という文言は,議決権保有割合と株式保有割合のどちらか一方が3%未満であれば足りるとも,両方が3%未満である場合に限るとも読める余地がある。
しかし,どちらか一方で足りるとすれば,無議決権株式を大量に持つ者も議決権保有割合が3%未満であることを理由に配当還元方式を使えることになり,無議決権株式を用いたスキームへの対応という見直しの目的と合わない。
会社法433条1項の構造とも合わせて考えると,議決権と株式のいずれか一方でも3%以上を持つ者は配当還元方式の対象外とする趣旨と考えられる(本記事の読み方)。
もっとも,資料の文言からは確定できず,現行の5%・15%・30%といった基準との関係も含めて,今後の具体案で確かめる必要がある。

3 委任・代理契約のある者と一時的所有目的の者の除外

骨子10頁は,前所有者(原則的評価方式の適用を受けていた者)との間に委任・代理契約を締結している者と,一時的所有を目的として取得した者を,配当還元方式の適用対象から除外してはどうかとしている。
理由として,前者は,残余利益方式による計算に必要な帳簿等を前所有者と共用するなどして評価することが可能と考えられること,後者は,「当面,配当を受領するということ以外に直接の経済的利益を享受することがない」とは考えられないことが挙げられている(同頁)。
後者は,同族関係にない第三者を一時的に介在させて配当還元価額で株式を売却する類型への対応と読める。

4 計算方法の簡素化

骨子10頁は,法人税申告書等を用いることなく,受取配当金と還元率により計算する方法へ見直してはどうかとしている。
現行の配当還元価額は,直前期末の資本金等の額を50円で除した株数を用いて1株当たりの配当金額を計算するため,法人税申告書の別表等から資本金等の額を確認する必要がある(第4回資料13頁は,「評価額の算出のために,法人税の申告書が必要となる」としている)。
少数株主が評価会社の法人税申告書を入手できない場合もあると考えられ(第5回議事要旨10頁の委員意見参照),受け取った配当金を基にする計算は,少数株主の事務負担を軽くする方向の見直しと考えられる。

骨子11頁の全体像の図では,見直し後の配当還元方式の算式は,1株当たりの年平均配当額を残余利益方式と同じ還元率で除す形で示されており,現行の還元率10%,資本金等の額を50円とする換算及び2円50銭の下限は,図中の算式に表れていない(親記事の整理による)。
還元率が残余利益方式と共通になり,仮にそれが8%であれば,同じ配当額に対する評価額は現行の10%の場合の1.25倍,5%であれば2倍となる(本記事の試算)。
もっとも,還元率の値は示されておらず,これは算式の性質を示すための仮定にすぎない。

5 最低配当2円50銭と還元率をめぐる意見

第4回資料13頁は,委員の意見として,無配当の場合に1株当たりの配当額を2円50銭とする取扱いについて,「資本金が巨額でも低い株価が算出される」問題があるのではないかとの指摘を整理している。
第5回資料5頁も,「額面制度が廃止されていることを踏まえ,最低配当2.5円とする計算方法をどのように見直すべきか」を今後の検討事項に挙げている。
第5回会議では,2円50銭を何らかの経済的価値がある株式の最低限のリターンと考えるならば,その割合として,残余利益方式における還元率等を基準とすることが考えられるのではないかとの意見が出ている(第5回議事要旨10頁)。
下限をどう定めるかは,無配の会社の少数株主の評価額を直接左右するが,現時点で国税庁の具体案は示されていない。

このほか,第5回資料5頁には,配当還元方式の見直しは従業員持株会との関係や税制適格ストックオプションにも影響が及ぶことを考慮する必要があるとの意見が紹介されている。

第5 従業員持株会の株式の固定価格評価

1 第6回資料が示した案

(1) 背景

第6回資料16頁は,非上場の中小企業で従業員の福利厚生を目的に従業員持株会を設置するケースが一定数存在し,持株会による株式の取得・精算は固定価格(1株●円等)で行われることが多いが,固定価格が通達上の評価額と異なる場合にはトラブルとなるおそれがあるとしている(第3回会議より)。
固定価格が評価額より著しく低い場合は給与課税の可能性,高い場合は従業員の不利益という問題である(同頁)。

(2) 固定価格による評価と一定の要件

その上で,同頁は,固定価格の従業員持株会の株式は,「一定の要件」を満たす場合,その固定価格により評価するとの方向を示している。
要件として例示されているのは,①従業員持株会を通じて保有する株であること,②持株会の規約又は約款等において持株会株式の価額等が定められていること,③持株会からの退会時は固定価格での買取りにより株式の持出しはできないことであり,末尾に「など」とあるから,要件はまだ例示の段階である(同頁)。

(3) 持株会株式以外の株式の評価

固定価格で持株会株式を評価する場合,それ以外の株式は,プロラタ価値の考えから,①算定した企業価値の総額から「固定価格×従業員持株会株式の数」を控除し,②株式保有割合の計算では発行済株式数から持株会株式の数を差し引いた株数で除すことにより評価する(同頁)。
算式にすると,1株当たりの評価額=(企業価値総額-固定価格×持株会株式数)÷(発行済株式数-持株会株式数等)となる。

固定価格が企業価値に比べて低いと,持株会株式に割り当てられる価値が小さくなる分,オーナー側の株式に割り当てられる価値が大きくなる。
第5回資料7頁が指摘した「固定価格で買取る株式を活用することで,支配株主の株価を引き下げるスキーム」は,この控除方式によって効果を失うことになると考えられる。

2 参考とされた最高裁平成21年2月17日判決

第6回資料28頁は,固定価格による従業員持株会の取扱いが争われた裁判例として,最高裁平成21年2月17日第三小法廷判決(平成20年(受)第1207号,集民230号117頁)を参考に掲げている。
裁判所ホームページによれば,同判決の判示事項は,「株式会社の従業員がいわゆる持株会から譲り受けた株式を個人的理由により売却する必要が生じたときは持株会が額面額でこれを買い戻す旨の当該従業員と持株会との間の合意が有効とされた事例」である(結果は上告棄却)。

第6回資料28頁の抜粋によれば,同判決は,日刊新聞の発行を目的とする非公開会社の社員株主制度の下で,従業員が株式譲渡ルールの内容を認識した上で自由意思により額面額で株式を買い受け,ルールに従う旨を合意したことなどを指摘し,その合意は会社法107条及び127条に反せず,公序良俗にも反しないから有効であると判断している。
第5回会議では,固定価格株式という取扱い自体が会社法上認められるかについて議論があったとの意見が出ており(第5回議事要旨10頁),第6回資料はこの判決を示すことで,固定価格の合意の私法上の有効性を前提にする立場をとったものと考えられる。
もっとも,同判決は私法上の合意の効力を判断したものであり,相続税法上の時価を判断したものではない。

第6 配当還元方式の見直しの実務への影響

以下は,見直し案が現在の内容のまま採用された場合を仮定した本記事の評価である。

1 少数株主の相続・贈与

3%基準が導入されると,現在は配当還元方式で評価されている株主のうち,議決権又は株式の3%以上を持つ者は,原則的評価方式(案では残余利益方式)で評価されることになり得る。
現行の通達188(2)・(4)の5%未満や(3)の15%未満の基準で配当還元方式を使っている株主は,影響を受ける可能性がある。
原則的評価方式による評価額の水準がどう変わるかは,非上場株式の相続税評価は見直しでどれだけ上がるかで扱い,残余利益方式の算式は残余利益方式とはで解説している。

2 親族の範囲の縮小は評価額を下げる方向にも働く

親族の範囲の縮小は,配当還元方式の対象を狭める3%基準とは逆に,対象を広げる方向にも働き得る。
現行では,いとこや甥・姪が同族株主のグループに数えられ,原則的評価方式で評価されていることがある。
案どおりであれば,こうした遠縁の親族は同族関係者から外れ,3%未満の保有であれば配当還元方式の対象となる可能性がある(本記事の読み方)。
逆に,グループから遠縁の親族が抜けることで,オーナー家のグループの議決権割合が下がり,同族株主の判定そのものが変わる会社も出てくると考えられる。
株主名簿に親族が多数並ぶ会社では,案が具体化した段階で,誰がどのグループに属するかを引き直してみる価値がある。

3 現行のスキームへの依拠

無議決権株式を用いて配当還元方式の株主を作り出す手法,株主構成を分散させる手法及び第三者を一時的に介在させる手法は,3%基準と一時的所有目的の者の除外が採用されれば効果を失う。
見直しの適用時期や経過措置は第6回資料までに示されておらず,こうした手法を今後の相続対策の前提にするのは避けるのが無難である。
資産管理会社の株主構成を操作する類型については,資産管理会社の株式評価の見直し案も参照されたい。

4 従業員持株会の規約の点検

固定価格評価の要件が例示のとおりとなれば,持株会の規約又は約款に株式の価額(又はその決め方)が定められているか,退会時に固定価格で買い取り,株式の持出しを認めない仕組みになっているかが問われることになる。
持株会を置く会社では,規約の現状を確認しておくことが考えられる。
要件はまだ例示段階であるから,規約の改定は具体案の公表を待って行うのが妥当と考えられる。

第7 関連記事

配当還元方式の現行の計算手順は取引相場のない株式(出資)の評価明細書の書き方で,従業員持株会の譲渡価格の税務は従業員持株会における株式譲渡価格の税務上の取扱いで扱っている。
無議決権株式等がある場合の議決権の判定は種類株式の相続税評価を,会議全体の経緯は親記事の取引相場のない株式の評価に関する有識者会議を参照されたい。

第8 出典

1 法令・通達

①財産評価基本通達188・188-2・188-5(国税庁
②財産評価基本通達183(国税庁
③法人税法施行令(昭和40年政令第97号)4条(e-Gov法令検索
④民法(明治29年法律第89号)725条(e-Gov法令検索
⑤会社法(平成17年法律第86号)433条(e-Gov法令検索

2 裁判例

①最高裁判所第三小法廷平成21年2月17日判決(平成20年(受)第1207号,集民230号117頁,裁判所ウェブサイト

3 有識者会議の資料

①国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)資料」令和8年4月20日(国税庁
②国税庁「第3回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 議事要旨」(国税庁
③国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第4回)資料」令和8年7月3日(国税庁
④国税庁「第4回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 議事要旨」(国税庁
⑤国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)資料」令和8年8月20日(国税庁
⑥国税庁「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」第5回当日机上配付資料(国税庁
⑦国税庁「第5回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 議事要旨」(国税庁
⑧国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第6回)資料」令和8年9月16日(国税庁

4 公的資料

①会計検査院「令和5年度決算検査報告」第4章第2節第4「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」(会計検査院

5 関連記事

取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(骨子11頁の全体像の図の整理を含む)