第1 この記事が扱う対象と時点
1 意見書の要旨
経済産業省・中小企業庁は,令和8年9月16日付けの「『取引相場のない株式の評価』見直しに係る意見」において,国税庁の有識者会議で進められている非上場株式の相続税評価の見直しについて,影響の分析を尽くした丁寧な議論を求め,政府の政策の方向性に逆行する見直しとならないよう要望した。
意見書は,現在の見直し案が資産規模の大きい企業,収益性の高い企業及び子会社を保有する企業の評価額を大幅に増大させ,事業承継と成長投資を妨げるおそれがあるとし,これを「政府の政策の方向性に逆行するものであると言わざるを得ない」と述べている(意見書3頁)。
見直しに反対すると述べているのではなく,現行の評価方式の枠内でとり得る対応の検討と,業種や経営状況に応じた具体的な試算・検証を求める内容である。
2 意見書の作成名義と位置付け
意見書の作成名義は,経済産業省,中小企業庁,経済産業政策局及びイノベーション・環境局であり,本文は3頁である(中小企業庁ウェブサイト掲載のPDF)。
日付の令和8年9月16日は,国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第6回会議の開催日と同じである。
同会議の委員は研究者,日本商工会議所,日本税理士会連合会及び実務家から成り,中小企業庁は全国商工会連合会とともにオブザーバーとして参加している(国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」委員名簿)。
つまり,意見書は会議の委員の提出資料ではなく,会議の外から所管官庁が示した意見である。
意見書の構成は,前文(見直しの背景と税制改正要望),「(1)評価額の変動による事業承継への影響について,業種や経営状況等に応じた,個別具体的なケース別,類型別及びマクロでの分析・試算を示し,拙速ではなく丁寧に検証・議論すべき」及び「(2)国の政策的方向性に逆行するような見直しとならないこと」の三つに分かれる。
3 基準日と資料の範囲
この記事は,令和8年9月19日現在で公表されている資料に基づく。
有識者会議の資料は第6回まで,議事要旨は第5回まで公表されており,第6回の議事要旨は国税庁の会議ページで「作成中」とされている。
したがって,意見書が第6回会議でどのように扱われたか,委員や事務局がどう応じたかは,この記事の作成時点では確認できない。
有識者会議で議論されている見直しは,国税庁事務局のたたき台の段階であり,決定されたものではない。
第5回会議の当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」自身が,「評価水準・税負担の在り方等も含め,最終的には税制改正プロセスにおいて決定いただく」としている(骨子1頁)。
会議全体の経緯と論点は,親記事である取引相場のない株式の評価に関する有識者会議にまとめている。
第2 意見書が前提とする見直しの背景
1 意見書による背景の整理
意見書は,見直しの背景を二つに整理している。
第1は,会計検査院の令和5年度決算検査報告における指摘であり,意見書は,その趣旨を「類似業種比準方式では,特に規模の大きい企業ほど申告時の株式の評価額(対純資産価額)が相対的に低く算定される傾向があり,異なる規模区分間で株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとは言えない」旨の指摘として要約している。
第2は,「現行の評価体系が各種租税回避スキームの温床となっているとの国税庁の認識」である(いずれも意見書1頁)。
第2の点は,第4回会議で事務局が,見直しは現在の評価方法の枠組みが「各種租税回避スキームの温床」となっている状況を踏まえたものであり,「あくまで評価の適正化を目的としており,全体として相続税の増税を目的で行うものではない」と回答したことと対応する(第4回議事要旨2頁~3頁)。
2 会計検査院の指摘の読み方
意見書は,会計検査院の報告について,「異なる規模区分間の公平性に関する課題が指摘されているが,規模区分に応じて異なる評価方式を定めることや,現行の類似業種比準方式そのものが不適切であるとまでは指摘されていないものと認識している」と述べる(意見書1頁)。
この読み方を,会計検査院の報告の原文と照らし合わせる。
報告の所見は,各評価方式の間で評価額にかい離が生じていることにより,「類似業種比準価額を適用する割合がより高くなる規模の大きな区分の会社ほど評価額が相対的に低く算定されることになり,この状況は評価通達の改正等の影響により拡大したと思料される」とする。
その上で,「取引相場のない株式では各評価方式による評価額が同水準となることが必ずしも予定されていないことを考慮したとしてもなお」,異なる規模区分の株式を取得した者の間で「株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえないと思料される」と述べる。
結論は,国税庁において,公平性や社会経済の変化を考慮するなどして,「評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要である」というものである。
意見書の要約は,原文の「規模の大きな区分の会社ほど評価額が相対的に低く算定される」「公平性が必ずしも確保されているとはいえない」という部分とおおむね対応している。
また,所見が規模区分の廃止や類似業種比準方式の廃止を明示的に求めていないことも,原文から確認できる。
もっとも,所見は,かい離の拡大を「評価通達の改正等の影響」に帰し,見直しの方向を「様々な視点から」の検討に委ねているから,規模別の評価体系や類似業種比準方式を維持すべきとまで述べているわけでもない。
意見書の読み方は原文と矛盾しないが,原文から導かれる唯一の読み方ではなく,どこまで見直すかは報告の文言からは決まらないと考えられる。
なお,所見は,国税庁が,かい離を考慮して評価会社の規模区分を変えるための操作等により税負担の軽減を図る納税義務者が現に存在するとしていることにも触れている。
3 「過去10年間で14件」の出所
意見書は,「国税庁において恣意的な会社規模の変更による評価額圧縮等の租税回避スキームを過去10年間で14件確認したとされていることへの対処としても,まずは現行の評価方式の枠内でとりうる対応策から検討する余地がある」と述べる(意見書1頁)。
意見書自身は,この件数の出所を示していない。
有識者会議資料を検索すると,第1回資料15頁に,評価通達6項の適用件数を年分(事務年度)別に示した表がある。
同表では,平成27年から令和6年までの10年分の適用件数が合計27件(不動産13件・株式14件)とされており,同じ頁には,評価方式間のかい離が誘因となり「恣意的な会社規模の変化による評価額圧縮スキームが確認されている」との記載もある。
期間と件数が一致するから,意見書の「14件」はこの表の株式欄を指すものと考えられる。
ただし,同表が示しているのは評価通達6項を適用した件数であり,会社規模の変更によるスキームに限った件数でも,国税庁が把握したスキームの総数でもない。
この点について,事務局は第5回会議で,6項の適用件数は計27件(不動産13件・株式14件)であるが,全ての租税回避スキーム事案に6項を適用して対応できているわけではなく,「適用件数が少ないことをもって,通達を見直して対応すべき事案が少ないことを意味するものではない」と述べている(第5回議事要旨3頁)。
これに先立つ回答の中で事務局は,日本商工会議所が求めた「問題となっている制度部分や租税回避行為への限定的な見直し」について,「小手先の見直しでは対処できない状況になっている」との認識も示している(同2頁)。
意見書の「まずは現行の評価方式の枠内でとりうる対応策から検討する余地がある」という主張は,事務局が第5回会議で否定的な見解を示した論点と重なっている。
評価通達6項の適用をめぐる裁判例は,財産評価基本通達6項(総則6項)の適用で扱っている。
第3 令和9年度税制改正要望の文言
意見書は,令和9年度税制改正要望において,経済産業省・中小企業庁が「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し(相続税・贈与税)」として次の要望を出しており,意見書はこの要望に基づくものであると述べている(意見書1頁)。
「取引相場のない株式の評価は,株主の区分及び会社の規模等に応じて実態に即した評価をすることとされているが,今般の評価方式の見直しにあたっては,企業の成長や事業承継を阻害することがないよう,慎重な検討が必要である。見直しによる影響や事業者の懸念を踏まえ適切な措置となるように検討する。」
財務省ウェブサイトに掲載された令和9年度税制改正要望(経済産業省)の要望事項「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」(税目は「相続税・贈与税(財産評価基本通達)」)の「要望の内容」欄は,上記と同一の文言である(要望事項04-1頁)。
同じ要望書は,要望の措置の妥当性として,令和6年11月の会計検査院の指摘を踏まえて見直しの議論が行われているとしつつ,「多くの企業に影響を及ぼす可能性があり,企業の成長や事業承継を阻害することがないよう,見直しによる影響や事業者の懸念を踏まえ慎重な検討が必要」と記載している(04-3頁)。
税目は財産評価基本通達とされ,平年度の減収見込額の欄も「―」であるから,特定の措置の創設よりも,通達の見直しに対する慎重な検討を求める趣旨の要望と読める。
第4 意見書の二つの柱
1 影響の分析と丁寧な議論
(1) 後継者の現金納税負担
意見書は,財産評価基本通達が「事業承継時の後継者の負担に直結する」ものであるとし,相続や贈与で株式を引き継いだ経営者は,経営権を保持するために株式の保有を続ける必要があり,換金できない中で後継者個人に現金での納税負担が発生することに留意すべきであるとする(意見書2頁)。
評価額の急激な引上げは,現行の評価方式に依拠して計画的に準備してきた企業の予見可能性を害し,納税原資の確保のために事業に必要な資産や株式を売却せざるを得なくなる,さらには廃業に追い込まれるなど,事業承継に深刻な支障を来すおそれがあるという(同頁)。
(2) 子会社株式の評価の見直し案への懸念
意見書は,中堅企業・中小企業には,事業の多角化の中で国内外に子会社を保有する例や,地域の技術継承等のためにM&Aで会社を承継した例など,グループ形態で事業を運営する例が多いとし,子会社株式の評価方法の見直し案には「現行に比べ評価額が著しく増大する懸念がある」と述べる(意見書2頁)。
ここでいう見直し案は,第6回資料15頁が示した,グループ法人税制により税負担なく資産移転が可能な完全支配関係にある子会社の株式に限り,簿価によらず適正な価額に修正して親会社の評価額に反映させる案を指すと考えられる。
同頁は,持分法適用会社や連結対象子会社まで範囲を広げる案と比較した上で,完全支配関係にある子会社を「税法上の整合がある最低限の修正範囲」と位置付けている。
第5回会議では,日本商工会議所の委員提出意見書も,ホールディングス形態を租税回避スキームとして扱う方針に対し,多角化や技術伝承等に取り組む中小企業のグループ化を阻害する制約をかけるべきではないと述べていた(第5回委員提出意見書4頁)。
(3) 第6回試算は「全く不十分」
意見書は,「今回の見直しは税収増加を目的としたものではないと説明されているが」,大規模な見直しを行うのであれば拙速に結論を出すことは避けるべきであるとする(意見書2頁)。
その上で,第6回資料の評価水準の分析は「企業の規模別の中央値の指標を示しているのみのごく限定的なもの」であり,企業への影響の程度は「これだけでは全く不十分である」と述べる(同頁)。
そして,中堅・中小企業が約175万社(法人数)ある中で,どのような事業者にどの程度の負担増となるかを把握できるよう,業種や経営状況等に応じた具体的な試算・検証を広範に行い,十分な時間をかけて議論することを求めている(同頁)。
約175万社という数値について,意見書は出典を示していない。
第6回資料の試算は,令和2年分から令和5年分までの申告から無作為に抽出した評価会社のうち,類似業種比準価額及び純資産価額の両方を算出している1,378社を対象に,加算期間5年,還元率8%と仮定して残余利益方式の評価額を計算したものである(第6回資料9頁)。
示されているのは,全体・大会社・中会社・小会社の区分ごとの評価額の中央値と,しんしゃく率を0.7から1.0まで変えた場合の現行の申告評価額の中央値に対する増減(例えば大会社で50.3%増から114.7%増)であり(同頁),これに加えて,区分ごとに現行の申告評価額以下となる会社の割合も示されている(同資料10頁)。
他方,業種別の結果,増加額の分布,税額への影響は示されておらず,試算は完全子会社株式の修正等の個別調整を考慮していない(同資料9頁の注記)。
意見書の「規模別の中央値の指標を示しているのみ」という評価は,区分ごとの割合の表を除けば資料の内容と一致しており,子会社株式の修正の影響が試算に含まれていないことは,意見書の(2)の懸念と直接関係する。
試算の内容と読み方は,非上場株式の相続税評価は見直しでどれだけ上がるかで詳しく扱っている。
2 国の政策的方向性との関係
(1) 骨太方針2026の引用
意見書は,「経済財政運営と改革の基本方針2026(令和8年7月21日閣議決定)」から,「『強い経済』の実現には,『強い中堅・中小企業』が主役となって地域経済をけん引する必要がある」と「『稼ぐ力』の強化と賃上げの好循環を実現する」の二つの文言を引用し,中堅・中小企業の稼ぐ力の強化に向けた取組の支援が政府の政策方針であるとする(意見書2頁~3頁)。
内閣府が公表した同基本方針を確認すると,二つの文言は,第2章1.(3)「強い地域経済の構築」の「賃上げ環境整備」の項(11頁)にある。
原文は「牽引」と漢字で表記しており,意見書の「けん引」とは表記が異なるが,その他の文言は一致する。
なお,同基本方針の本文には,事業承継や非上場株式の評価に直接触れた記述は見当たらない。
(2) 懸念される二つの影響
意見書は,見直し案を「純資産額に直近5年程度の超過収益を上乗せして株式評価額とするもの」と要約した上で,次の二つの影響を懸念する(意見書3頁)。
①地域の中堅企業を含め,資産規模の大きい企業,収益性の高い企業,国内外に子会社を保有する企業は,評価額(納税負担)が大幅に増大し,納税資金を捻出するため株式や事業資産を第三者に売却せざるを得なくなり,あるいは設備投資等の成長投資に充てるべき資金調達枠を納税資金の確保に充てる可能性があり,さらには廃業に追い込まれる等,事業承継に支障を来すおそれがあること。
②企業の収益拡大が承継時の負担増に直結するため,企業経営者が収益拡大に向けた成長投資を抑制するおそれがあること。
意見書は,このように見直し案が経営者の投資マインドを減衰させるものであり,中堅・中小企業の「稼ぐ力」を強化し,地方も含めた賃上げを実現するという政府の政策の方向性に「逆行するものであると言わざるを得ない」と結論付けている(意見書3頁)。
見直し案の要約について見ると,第6回資料は,直前期末の純資産価額に1年目から5年目までの残余利益の現在価値を加え,その合計にしんしゃく率を乗じる算式を示しており(第6回資料7頁),意見書の要約はこれに対応する。
算式の構造は残余利益方式とはで扱っている。
(3) 「評価と負担は別」という考え方への反論
意見書は,会議の中で「『評価と負担』の問題は別であり,負担の問題は税制で対応すればよい」との考え方も示されているが,事業承継税制については,中堅企業は対象外であり,中小企業においても長期にわたり管理コストがかかる等により活用できる者は限られている実態を踏まえて検討する必要があるとする(意見書3頁)。
さらに,スタートアップについても,ストックオプション等を利用して人材確保を行っている場合,見直しの在り方によっては事業承継以外の政策分野にも影響を及ぼしかねない点に留意が必要であるとし(同頁),最後に,経済政策の方向性と逆行することや円滑な事業承継の停滞を招くようなこととならないよう「要望するものである」と結んでいる(同頁)。
事業承継税制の利用件数について,第3回会議では日本商工会議所から,特例措置は相続税と贈与税を併せて年間約1,200件ほどしか使われていないという数値が示されている(親記事第9の2参照)。
第5 有識者会議での議論との対応関係
1 国税庁事務局の立場
事務局は,第4回会議で,相続課税の枠組み全体としては円滑な事業承継の必要性は認識する一方で,「『評価』と『政策税制』は切り分けて議論せざるを得ない」と述べ,事業承継税制は中小企業庁の「中小企業の親族内承継に関する検討会」で検討されていると説明している(第4回議事要旨5頁)。
第5回会議では,日本商工会議所の委員提出意見書に対し,収益力の高い企業ほど価値が高くなるのは相続税法22条の「時価」として自然であるとした上で,政府の成長戦略に逆行するイメージになりかねないという指摘については,株式評価において「時価」を歪めて配慮するのではなく,「政策効果が測定され,適時必要な見直しが可能な政策税制において実現されるべきもの」と回答している(第5回議事要旨4頁)。
昭和58年度税制改正に関する答申についても,事務局は,同答申は円滑な事業承継の観点からの税制上の特別の措置を否定した上で,小会社の株式に収益性を加味する方向を示したものであると説明している(同2頁~3頁)。
委員の中にも,価値の等しいものを相続すれば負担が等しくなるようにし,特別に配慮すべき財産があれば法律で措置すべきであるとの意見や,政策税制での措置を否定するものではないが評価は経済的利益に相応すべきであるとの意見がある(同8頁)。
2 日本商工会議所の主張
日本商工会議所は,第5回会議の委員提出意見書で,一定の仮定の下で行った試算では評価額が現行方式の2倍から5倍近くに達し,相続税負担が数千万円から数億円規模で増加する事例も確認されたとし,評価水準の議論を抜きにして評価体系のみを先に決めるべきではないと主張した(第5回委員提出意見書2頁)。
同意見書は,新方式が政府の成長戦略である「強い経済の実現」「成長投資の拡大」に逆行したメッセージになりかねないとも述べ,まず問題となっている制度部分や租税回避行為への限定的な見直しを優先すべきであるとしている(同1頁~2頁)。
3 三者の主張の対比
意見書の主張の多くは,日本商工会議所が委員として述べてきた主張と重なり,事務局がすでに回答を示した論点でもある。
意見書に固有の要素は,①所管官庁として令和9年度税制改正要望に位置付けた上で意見を表明していること,②第6回資料の試算を「全く不十分」と評価し,業種別・類型別の試算を求めていること,③子会社を保有する中堅企業やスタートアップのストックオプションへの影響を挙げていること,④事業承継税制が中堅企業を対象としていないことを具体的に指摘していることにある。
| 論点 | 国税庁事務局 | 日本商工会議所 | 経済産業省・中小企業庁の意見書 |
|---|---|---|---|
| 見直しの目的 | 評価の適正化が目的であり増税目的ではない(第4回議事要旨2頁~3頁) | 中小企業の事業承継への配慮を欠いた見直しは看過し得ない(第5回委員提出意見書1頁) | 税収増加目的でないとの説明を前提に,拙速な結論を避けるよう求める(意見書2頁) |
| 現行方式の枠内の対応 | 限定的な見直しは「小手先」で対処できない(第5回議事要旨2頁) | 制度部分や租税回避行為への限定的な見直しを優先すべき(同意見書1頁) | 現行の評価方式の枠内でとりうる対応策から検討する余地がある(意見書1頁) |
| 事業承継への配慮 | 評価ではなく政策税制で実現すべき(第5回議事要旨4頁) | 評価と税負担の議論は一体(同意見書1頁) | 事業承継税制は中堅企業が対象外で,中小企業も活用できる者が限られる(意見書3頁) |
| 影響の試算 | 1,378社の規模別試算を提示(第6回資料9頁~10頁) | 評価額が現行の2倍から5倍近くになる事例(同意見書2頁) | 規模別の中央値のみで「全く不十分」,業種別等の試算を求める(意見書2頁) |
| 成長政策との関係 | 政策目的は政策税制で実現すべき(第5回議事要旨4頁) | 成長戦略に逆行したメッセージになりかねない(同意見書2頁) | 政府の政策の方向性に逆行する(意見書3頁) |
表の事務局欄は議事要旨の要旨記載に基づくものであり,第6回会議で事務局が意見書にどう応じたかは,第6回議事要旨の公表を待つ必要がある。
対立の核心は,事業承継への配慮を「評価」の段階で行うか「政策税制」の段階で行うかであり,意見書は,政策税制の側である事業承継税制の現状が中堅企業を含む受け皿として不十分であることを指摘して,評価の段階での慎重な検討を求めたものと読むことができる。
第6 今後の見通しと実務上の注意
1 評価水準は税制改正プロセスで決まる
骨子は,見直し内容のほか,評価水準・税負担の在り方等も含め,最終的には税制改正プロセスで決定されるとしている(骨子1頁)。
事務局も第4回会議で,財産評価基本通達について一定の影響が考えられる改正を行う場合には税制改正プロセスを経てきており,今回の見直しも同様の手続を経る必要があると述べ,今秋を目途に一定の方向性を示せるよう進めるとしていた(第4回議事要旨2頁・4頁)。
第6回資料は,還元率,純資産価額方式及び配当還元方式を第7回以降の論点としており,しんしゃく率も還元率の考え方と併せて次回以降に議論するとしている(第6回資料1頁・7頁)。
経済産業省・中小企業庁が同じ論点を税制改正要望に掲げたことで,評価の見直しは,有識者会議の内部の議論にとどまらず,令和9年度税制改正の過程で関係省庁の要望と並んで扱われる論点になったといえる。
見直し後の評価方法の適用時期は,令和8年9月19日現在,国税庁から公表されていない。
2 事業承継税制の特例措置の期限
実務上注意すべきは,法人版事業承継税制の特例措置の期限である。
租税特別措置法70条の7の5第1項は,特例の対象となる贈与を「平成三十年一月一日から令和九年十二月三十一日までの間の最初のこの項の規定の適用に係る贈与」等と定めている。
特例承継計画の提出期限は,中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則17条2項により令和9年9月30日までである。
現行の評価方法の下で特例措置を使った承継を行うかどうかは,見直しの帰すうを待たずに判断を迫られる場面がある。
期限の全体と注意点は,法人版事業承継税制の特例措置の期限で扱っている。
3 意見書を読むときの注意
意見書は所管官庁の意見であり,有識者会議の結論や国税庁の方針を変更したものではない。
「経済産業省が見直しに反対した」とまとめるのは正確でなく,意見書の文言は,丁寧な検証と議論を「要望する」,見直し案は政府の政策の方向性に「逆行するものであると言わざるを得ない」というものである。
同族会社の株主が見直しへの対応を検討する際は,現行の評価方法による評価額を把握した上で,見直し案の算式によった場合の概算と比較することが出発点になる。
現行の評価方式の全体像は遺産相続における非上場株式の評価方法で,類似業種比準方式の存廃をめぐる議論は類似業種比準方式は廃止されるのかで,意見書が触れる租税回避スキームの具体例は国税庁が例示した評価額圧縮スキーム8類型で扱っている。
第7 出典
1 法令
①租税特別措置法(昭和32年法律第26号)70条の7の5第1項(e-Gov法令検索)
②中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則(平成21年経済産業省令第22号)17条2項(e-Gov法令検索)
2 経済産業省・中小企業庁の資料
①経済産業省・中小企業庁・経済産業政策局・イノベーション・環境局「『取引相場のない株式の評価』見直しに係る意見」(令和8年9月16日)1頁~3頁
②財務省「令和9年度税制改正要望(経済産業省)」のうち「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」(要望事項04-1頁~04-4頁)
3 有識者会議の資料
①国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 委員名簿」
②国税庁「第1回資料」15頁
③国税庁「第4回議事要旨」2頁~5頁
④国税庁「第5回議事要旨」2頁~4頁・8頁
⑤日本商工会議所「第5回委員提出意見書」1頁~4頁
⑥国税庁「第5回当日机上配付資料「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」」1頁
⑦国税庁「第6回資料」1頁・7頁・9頁~10頁・15頁(第6回議事要旨は令和8年9月19日現在作成中)
4 その他の公的資料
①会計検査院「令和5年度決算検査報告」のうち「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」
②内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」(令和8年7月21日閣議決定)11頁