メインコンテンツへスキップ
       

成年後見人と生活保護――申請の代理,世帯分離,資産の保有及び63条返還(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日

本記事は,成年被後見人の収入や資産では生活が成り立たないときに,成年後見人が生活保護をどう使い,受給中に何に気を付けるかを整理するものである。
素材は,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)61頁~69頁の「生活保護」の節と,37頁~38頁の市長申立ての手続費用の記述である。
基準日は令和8年9月19日である。
生活保護法等の条文は同日時点の現行条文をe-Gov法令検索で確認し,保護の基準の金額は厚生労働省の法令等データベースに収録された「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)と厚生労働省の公表資料で確認できたものだけを書いた。
本書の金額は2022年時点のものであり,その後に改定されているので,本書の数値はそのまま引用しない。
確認できなかった金額は数値を書かず,仕組みだけを説明する。

2 結論

①成年後見人は,成年被後見人の代理人として生活保護の申請をすることができる。
厚生労働省は,令和3年9月1日付けの事務連絡で「生活保護問答集」の問9-2を改め,令和3年10月1日から,成年後見人による申請を生活保護法7条に基づく有効な申請として扱っている。
ただし,被保佐人・被補助人の保佐人・補助人はこの取扱いの対象外である。
②申請に対する決定は原則14日以内,特別な理由があるときは30日以内であり,30日以内に通知がなければ却下されたものとみなすことができる(生活保護法24条5項・7項)。
③本人が長期入院・施設入所をしている場合,配偶者等の出身世帯と分けて本人だけに保護を適用する「世帯分離」が認められることがある。
④居住用不動産,保険,自動車,保護費のやりくりで貯めた預貯金は,一定の要件の下で保有したまま保護を受けられる。
保護費と年金を原資とする預貯金を収入認定した保護変更処分を違法とした秋田地裁平成5年4月23日判決と,学資保険の満期保険金の収入認定を違法とした最高裁平成16年3月16日判決がある。
⑤扶養照会は,「扶養義務の履行が期待できない」親族には行わないのが原則であり,令和3年2月の改正で,例えば10年程度の音信不通は著しい関係不良とみなしてよいとされた。
⑥保険金・賠償金・遺産等を受け取ったときは,収入認定又は生活保護法63条の返還の対象になるが,自立更生のために充てる額は控除され得る。
課長通知は,成年後見人等の申立てや報酬に必要な経費を,自立更生計画なしで収入認定から除く扱いを定めている。
⑦市長申立てで本人負担とされた手続費用は,財産目録の作成が終わるまで支払えず,本人に資力がなければ分割・猶予・免除の交渉と成年後見制度利用支援事業の利用を検討する。
⑧令和8年の民法改正の施行後は,成年後見は補助に一元化される。
生活保護法30条3項と81条も改正されるが,同法7条は変わらず,補助人による保護の申請を厚生労働省がどう扱うかは,基準日現在,公表されていない。

第2 生活保護の仕組みと最低生活費

1 保護の要件と世帯単位の原則

生活保護法4条1項は,「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と定める。
同条2項は,「民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。」と定める。
同法10条は,「保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し、これによりがたいときは、個人を単位として定めることができる。」と定めている。
保護の額は,厚生労働大臣の定める基準で計算した最低生活費から,年金等の収入を差し引いた差額である(同法8条1項)。
厚生労働省の「生活保護制度」のページも,「最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給」されると説明している。

2 8種類の扶助と給付の方法

生活保護法11条1項は,保護の種類を,生活扶助,教育扶助,住宅扶助,医療扶助,介護扶助,出産扶助,生業扶助及び葬祭扶助の8種類としている。
生活扶助と住宅扶助は金銭給付が原則であり(同法31条1項,33条1項),医療扶助は現物給付が原則である(同法34条1項)。
厚生労働省の上記ページは,医療扶助・介護扶助の費用は医療機関・介護事業者へ直接支払われ,本人負担はないと説明している。
また,介護保険料その他の被保護者が支払うべき費用であって政令で定めるものについては,保護の実施機関が本人に代わって支払うことができる(同法37条の2。いわゆる代理納付)。
成年後見人にとっては,代理納付を使えば,保護費の管理の手間と未払いの危険を減らすことができる。
本書61頁は,住宅扶助には家主への代理納付があると指摘している。

3 生活扶助の構造

(1) 第1類・第2類と級地

生活扶助の基準生活費は,年齢別の個人的経費である第1類と,世帯人員別の世帯共通経費である第2類からなり,地域は1級地の1から3級地の2までの6区分に分かれている(本書61頁~62頁)。
厚生労働省の「生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法(令和8年4月)」は,各世帯員の第1類基準額を合計して世帯人員に応じた逓減率を乗じ,第2類基準額を加え,さらに特例加算と経過的加算を加えるという算出方法を示している。
本書62頁の「基準額①×0.855」と「基準額②」の高い方を採る計算式は令和4年4月時点のものであり,上記の令和8年4月の算出方法には,このような二つの基準額を比べる方式は示されていないので,現在の計算には使えない。

(2) 令和5年10月以降の見直しと特例加算

社会保障審議会生活保護基準部会の資料によれば,令和5年10月から,検証結果を反映した基準に一人当たり月額1,000円を特例的に加算し,それでも従前の基準額を下回る世帯には従前の基準額を保障する措置がとられた。
令和7年10月からは特例加算が一人当たり月額1,500円に引き上げられ,令和8年10月からの1年間は2,500円とされた(第55回生活保護基準部会資料4)。
厚生労働省の法令等データベースに収録された現在の告示も,令和8年6月11日厚生労働省告示第245号(令和8年10月1日適用)による改正後の規定として,居宅等の基準生活費に「世帯人員一人につき月額2,500円」を加えると定めている。
他方,入院患者日用品費と介護施設入所者基本生活費の特例加算は月額1,000円のまま据え置かれている。
基準日(令和8年9月19日)時点で居宅の世帯に適用されている特例加算は1,500円であり,10月分から2,500円になる。

第55回生活保護基準部会資料4が示す令和7年度基準(令和7年10月~令和8年9月に適用される額)と令和8年度基準案(令和8年10月~令和9年9月に適用される額)の例は,次のとおりである(いずれも第1類・第2類と臨時的・特例的な措置に係る額)。

世帯類型・級地令和7年度令和8年度(案)
高齢単身(65歳)・1級地の176,880円76,880円
高齢単身(65歳)・2級地の172,490円73,490円
高齢単身(65歳)・3級地の267,850円68,850円
高齢単身(75歳)・1級地の171,900円71,900円
高齢単身(75歳)・2級地の166,390円67,390円
高齢単身(75歳)・3級地の262,400円63,400円

2級地の1と3級地の2では,特例加算の引上げ(1,500円から2,500円)に対応して月額1,000円増えている。
1級地の1で額が変わらないのは,従前の基準額を保障する措置が適用される額であるためと考えられる。

これは生活扶助だけの額であり,住宅扶助や障害者加算等は含まない。
本人の住所地の級地は,厚生労働省の「生活保護制度」のページに掲載されている級地の資料で確認する。

4 入院したときの入院患者日用品費

本人が病院又は診療所に1か月以上入院すると,居宅の基準生活費に代えて「入院患者日用品費」が算定される(告示別表第1第3章の1(2)ア)。
食事は医療機関の給食で賄われるので,支給額は居宅の場合より大幅に下がる。
現在の告示は,入院患者日用品費の基準額を「23,670円以内」とし,これに特例加算として月額1,000円を加え,冬季には地区別冬季加算額を加えることとしている(同(1)・(4))。
本書62頁の額(一律23,110円)は,その後の改定前の額である。
入院が長引くと年金収入が最低生活費を上回り,保護が停止・廃止されることもあるので,入院時には福祉事務所に届け出て,保護の程度の変更を確認する必要がある(生活保護法61条)。

5 冬季加算

厚生労働省の「生活保護制度」のページは,冬季加算について「10月から4月までのうち、地域に応じて5ヶ月から7ヶ月間」支給すると説明している。
告示の第2類の表では,Ⅰ区・Ⅱ区が10月から4月まで,Ⅲ区・Ⅳ区が11月から4月まで,Ⅴ区・Ⅵ区が11月から3月までであり,単身世帯の地区別冬季加算額はⅥ区の2,630円からⅠ区の12,780円までである。
本書63頁は「11月から3月又は4月まで」と書いているが,Ⅰ区・Ⅱ区の地域では10月から加算される。
入院患者日用品費を算定されている入院患者の冬季加算は,Ⅰ区・Ⅱ区で3,690円,Ⅲ区・Ⅳ区で2,160円,Ⅴ区・Ⅵ区で1,030円(いずれも11月から3月まで)である。

6 障害者加算

(1) 対象者と加算額

障害者加算は,身体障害者障害程度等級表の1級若しくは2級又は国民年金法施行令別表に定める1級に該当する障害のある者(告示のア)と,同等級表の3級又は同別表の2級に該当する障害のある者(告示のイ)に行われる。
いずれも,症状が固定している者,又は障害の原因となった傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた後1年6月を経過した者に限られる。
現在の告示の加算額(月額)は次のとおりである。

区分1級地2級地3級地
アに該当する在宅者27,460円25,540円23,620円
イに該当する在宅者18,300円17,020円15,750円

入院患者又は社会福祉施設若しくは介護施設の入所者は,アが22,850円,イが15,230円である。
厚生労働省の「生活扶助基準額の算出方法(令和8年4月)」も,在宅者の上記の額を掲げている。
本書63頁の額はこれより前の額である。

(2) 障害の程度の判定と精神障害者保健福祉手帳

障害の程度の判定は,原則として身体障害者手帳,国民年金証書,特別児童扶養手当受給証明書又は福祉手当認定通知書で行い,これらを所持していない者については,保護の実施機関の指定する医師の診断書その他障害の程度が確認できる書類に基づいて行う(局長通知第7の2(2)エ(ア)・(イ))。
課長通知の問(第7の65)は,精神障害者保健福祉手帳の交付年月日又は更新年月日が,障害の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過している場合に限り,同手帳を「障害の程度が確認できる書類」として扱い,手帳の1級を国民年金法施行令別表の1級,2級を同別表の2級と認定するとしている。
精神障害者保健福祉手帳の3級や障害厚生年金の3級は,それだけでは告示のア・イのいずれにも当たらないので,障害者加算の対象にならない(本書63頁も,年金が3級だと加算なしとなることに注意を促している)。
成年後見人が就任したときは,本人が手帳や年金証書を持っているかを確認し,加算が漏れていないかを保護決定通知書で点検するとよい。

(3) 他人介護料と家族介護料

介護人をつけるための費用を要する場合には,別に「75,820円の範囲内」で必要な額を算定する(告示別表第1第2章の2(5))。
同一世帯の者が介護する場合の家族介護料は13,890円である(同(4))。
特に重い障害があるときは,局長通知に基づいて他人介護料の特別基準を設定する余地があるが,その限度額は本書刊行後に改定されており,本記事では数値を書かない。

7 住宅扶助

(1) 限度額と特別基準

告示別表第3は,家賃・間代・地代等の基準額を1級地・2級地で月13,000円以内,3級地で8,000円以内としつつ,これを超えるときは都道府県・指定都市・中核市ごとに厚生労働大臣が別に定める額の範囲内の額とすると定めている。
実際に使われるのは,この「別に定める額」(世帯人員別の限度額)である。
局長通知第7の4(1)オは,世帯員の状況や地域の住宅事情によりやむを得ないと認められる家賃については,単身の限度額に,1人1.3,2人1.4,3人1.5,4人1.6,5人・6人1.7,7人以上1.8の率を乗じた特別基準額の範囲内で認定してよいとしている。
課長通知の問(第7の56)は,「やむを得ない」場合として,車椅子使用の障害者等で通常より広い居室を必要とする者がいる場合,老人等で従前からの生活状況からみて転居が困難と認められる場合等を挙げている。

(2) 高額家賃と転居指導

限度額を上回る家賃の住居に住んでいても,要保護状態にある以上は保護を受けられるが,住宅扶助は限度額までしか出ない(本書64頁)。
生活保護問答集の問7-97は,単身者が限度額より高いアパートに入居していても,まず限度額の範囲内で住宅扶助を認定し,「更に限度額を相当に上回る家賃のアパートに入居しており明らかに最低生活の維持に支障があると認められる場合」に法27条に基づく転居指導をすることも考えられるとしている(厚生労働省社会・援護局保護課の令和3年2月26日付け事務連絡の別添1に全文がある)。
生活保護法27条3項は,「第一項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。」と定めている。
転居を求められた場合,課長通知の問(第7の30)の2は「実施機関の指導に基づき、現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合」を敷金等の支給対象に挙げている。
同問は,入院患者が実施機関の指導に基づいて退院するに際し帰住する住居がない場合,高齢者若しくは身体障害者がいる場合であって設備構造が居住に適さないと認められる場合,高齢者・身体障害者等が扶養義務者の日常的介護を受けるためその近隣に転居する場合,適切な法定施設(グループホーム,有料老人ホーム,サービス付き高齢者向け住宅等)に入居する場合であってやむを得ない場合なども挙げている。

8 入院・入所中の住宅扶助の継続

単身者が入院・入所したとき,自宅の家賃を払い続けるかは,後見人が最初に判断を迫られる事柄である。
局長通知第7の4(1)エ(ア)は,単身の者が医療機関,介護老人保健施設,社会福祉施設等に入院入所している間も住宅費を支出しなければならない生活実態にある場合,入院入所後6か月以内に退院退所できる見込みのある場合に限り,6か月間を限度として住宅費を認定してよいとし,病状の変化等で6か月を超えることが明らかになっても,その時から3か月以内に確実に退院退所できる見込みがあれば,更に3か月を限度として認定してよいとしている。
退院の見込みについては主治医の意見を書面でもらい,福祉事務所と共有しておくとよい。
見込みが立たない場合は,住居の解約や家財の処分を検討することになるが,本人の自宅の賃貸借の解除は居住用不動産の処分として家庭裁判所の許可が必要である(民法859条の3。詳しくは成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可)。

第3 保護の申請と成年後見人

1 要否判定と開始時の手持金

世帯の最低生活費と,年金等の収入及び直ちに換金できる預貯金等を比べ,収入等が下回れば要保護となる(本書64頁)。
保護開始時に手元にある現金・預貯金については,課長通知の問(第10の10-2)が,保護の程度の決定に当たり認定すべき手持金を「当該世帯の最低生活費(医療扶助及び介護扶助を除く)の5割を超える額」としている。
本書64頁は,預貯金が最低生活費の半分以下になってから申請するのがよいとしている。
もっとも,後見人が支出するのは本人に必要な物に限られるから,申請前に預貯金を使うときも,本人の生活に必要な物の購入等であることを領収書で説明できるようにしておくべきである。

2 申請と14日・30日

生活保護法7条は,「保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。」と定める。
同法24条5項は,「第三項の通知は、申請のあつた日から十四日以内にしなければならない。ただし、扶養義務者の資産及び収入の状況の調査に日時を要する場合その他特別な理由がある場合には、これを三十日まで延ばすことができる。」と定める。
同条7項は,「保護の申請をしてから三十日以内に第三項の通知がないときは、申請者は、保護の実施機関が申請を却下したものとみなすことができる。」と定め,同条4項は決定の通知書に理由を付さなければならないとしている。
申請書を作成することができない特別の事情があるときは,申請書の提出を要しない(同条1項ただし書)。
次官通知第9は,「相談者の申請権を侵害しないことはもとより、申請権を侵害していると疑われるような行為も厳に慎むこと」としている。
相談だけで帰されることのないよう,後見人は,相談の場で申請の意思を明確に伝え,申請日を記録しておくべきである。

3 成年後見人による申請の代理

(1) 令和3年の問答集の改正

厚生労働省は,かつて,生活保護の申請は本人の意思に基づくことが大原則であるとして,「代理人による保護申請はなじまない」としていた(生活保護問答集の問9-2)。
厚生労働省社会・援護局保護課長の令和3年9月1日付け事務連絡「『生活保護問答集について』の一部改正について」は,この問答を改め,令和3年10月1日から適用した。
改正後の問9-2は,成年被後見人(被保佐人,被補助人は含まない)は「事理を弁識する能力を欠く常況にある」ことから保護申請に係る判断能力がないこと,成年後見人に代理権が付与されている「財産に関するすべての法律行為」には保護申請も含まれると解することができること等から,「成年後見人による保護申請については、法第7条に基づく有効なものとして取り扱うこととする」としている。
本書64頁も,この改正により成年後見人に限って保護申請の代理権を認める見解が示されたと紹介している。

(2) 本人の同意と使者

改正後の問9-2は,生活保護受給中は法27条に基づく指導・指示の可能性があるなど一定の行為制限を伴うことから,民法859条2項において準用する同法824条ただし書の趣旨に鑑み,「要保護者本人の同意があることが望ましい」としている。
同意は要件ではないが,後見人は,本人に分かる言葉で生活保護を使う理由と受給中の約束事を説明し,その反応を記録しておくのがよい。
また,本人が自らの意思で記載した申請書を代理人が持参した場合は,代理ではなく使者であり,申請は有効であるとされている。
保佐人・補助人が付いている本人については,本人が自ら申請し,保佐人・補助人がこれに同行し,又は使者として申請書を届けることになる。

(3) 急迫の場合と後見人がいない場合

問9-2は,要保護者本人に十分な意思能力がなく,急迫した状況にある場合には,実施機関が法25条により職権で保護を開始しなければならないことも確認している。
また,生活保護法81条は,被保護者が成年被後見人である場合に後見人の職務を行う者がないときは,保護の実施機関は速やかに後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならないと定めている。
市町村長申立ての仕組みと費用の助成は,成年後見制度利用支援事業とは―後見人報酬・申立費用の自治体助成を比較するで扱っている。

第4 世帯認定と世帯分離

1 同一世帯の原則

次官通知第1は,「同一の住居に居住し、生計を一にしている者は、原則として、同一世帯員として認定すること」としている。
局長通知第1の1(5)により,病気治療のため病院等に入院又は介護老人保健施設に入所している者は,居住を一にしていなくても同一世帯に属していると判断される。
したがって,本人が入院しても,原則としては自宅に残る配偶者等と同じ世帯として保護の要否が判断される。

2 入院・入所者の世帯分離

局長通知第1の2は,同一世帯と認定される者でも世帯分離してよい場合を列挙している。
成年後見の場面で使うことが多いのは次のものである。
①6か月以上の入院又は入所を要する患者等に対して出身世帯員のいずれもが生活保持義務関係にない場合(世帯分離を行わないとすれば,その世帯が要保護世帯となる場合に限る。同(5)ア)
②出身世帯に自己に対し生活保持義務関係にある者が属している長期入院患者等であって,入院又は入所期間がすでに1年を超え,かつ,引き続き長期間にわたり入院又は入所を要する場合(同上。同(5)イ)
③救護施設,養護老人ホーム,特別養護老人ホーム若しくは介護老人福祉施設,障害者支援施設又は児童福祉施設(障害児入所施設に限る。)の入所者と出身世帯員とを同一世帯として認定することが適当でない場合(同(8))
③のうち障害者支援施設は,重度の障害を有するため入所期間の長期化が見込まれるものに限られ,また,保護を受ける者と生活保持義務関係にある者とが分離されることとなる場合は,世帯分離を行わないとその世帯が要保護世帯となるときに限られる。
(5)と(6)は,出身世帯員と同一世帯として認定することが出身世帯員の自立助長を著しく阻害すると認められるときの規定である。

3 生活保持義務関係の範囲

局長通知第1の1(3)は,夫婦間又は親の未成熟の子(中学3年以下の子をいう。)に対する関係を「生活保持義務関係」と定義している。
本書65頁は未成熟子を「概ね15歳以下」と説明しているが,実施要領上は中学3年以下の子である。
子が成人した障害者で親と同居している場合は生活保持義務関係に当たらないから,①の要件で世帯分離が問題になり得る。

4 配偶者だけが保護を受ける場合

本書59頁及び91頁は,本人が施設に入所し配偶者が在宅で生活している場合に,世帯を分離して配偶者が生活保護を受ける方法も考えられるとしている。
本人の年金で本人の施設費を払うと在宅の配偶者の生活が成り立たないという場面であり,配偶者の側から見れば,本人が生活保持義務を負う相手として扶養の程度が問題になる。
配偶者が申請するのは配偶者自身であり,後見人は本人の収支と施設費の資料を提供して協力する立場である。

5 住宅扶助の世帯人員

課長通知の問(第7の52)は,世帯員が入院又は介護老人保健施設へ入所した場合で1年以内に退院が見込まれるときは,1年間に限り,その者も含めた人員によって住宅扶助の限度額を適用してよいとしている。
世帯分離した場合も同様であり,転居の準備等のためやむを得ないときは,世帯員の減少後6か月間を限度として減少前の世帯人員の限度額を適用してよいとされている。

第5 資産の活用と保有の容認

1 原則

生活保護法4条1項の「利用し得る資産」の活用が保護の要件であるから,資産は原則として売却等により生活費に充てることになる。
次官通知第3は,資産が現実に最低限度の生活維持のために活用されているもの等は保有を認めるとしている(本書65頁)。

2 居住用不動産

局長通知第3の2(1)は,当該世帯の居住の用に供される家屋について,「保有を認めること。ただし、処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められるものは、この限りでない。」としている。
その付属の宅地も同様であり(同1(1)ア),判断が困難なときはケース診断会議等で総合的に検討する(同5)。
課長通知の問(第3の15)は,ケース診断会議等に付する目安額の算定方法(最上位級地の3人世帯の生活扶助基準額に住宅扶助特別基準額を加えた値におおよそ10年を乗じ,地域事情等で補正する方法等)を示しているが,全国一律の金額は示していない。
本書65頁の「最低でも2000万円程度,最高(東京都)は3000万円を超える」という目安額は,現行の公式資料では確認できなかった。
ローン完済前の住宅を保有している場合は,保護費からローンの返済を行うことになるので,原則として保護を適用すべきでないとされている(課長通知の問(第3の14))。
本書65頁~66頁は,返済の繰延べが行われている場合や返済期間が短期でかつ返済額も少額である場合の例外を紹介している(生活保護問答集の問3-9)。

3 要保護世帯向け不動産担保型生活資金

局長通知第3は,要保護世帯向け不動産担保型生活資金(社会福祉協議会のいわゆるリバースモーゲージ)の利用が可能な居住用不動産については,その利用によって活用させるとしている。
課長通知の問(第3の21)は,利用が可能なのに利用を拒む場合は保護の受給要件を満たさないものとして,新規の申請は却下するとまでしている。
他方で,問(第3の22)は,貸付契約の成立をもって資産が具体的に活用可能になったと判断し,初回の貸付分が受けられる月の初日を資力発生日ととらえ,貸付日以前に支給された保護費については法63条による返還請求を行わないとしている。
利用の対象年齢や評価額等の要件は,本書66頁が紹介しているが,本記事では社会福祉協議会の要綱を確認していないので書かない。
成年後見人がこの貸付を利用するときは,本人の自宅に抵当権を設定することになるので,居住用不動産の処分として家庭裁判所の許可が必要である(民法859条の3)。

4 保険

課長通知の問(第3の11)は,保険の解約返戻金は資産として活用させるのが原則であるが,「返戻金が少額であり、かつ、保険料額が当該地域の一般世帯との均衡を失しない場合に限り、保護適用後保険金又は解約返戻金を受領した時点で法第63条を適用することを条件に解約させないで保護を適用して差しつかえない」としている。
本書66頁は,「少額」を最低生活費(医療扶助を除く)のおおむね3か月程度以下,保険料額の均衡を最低生活費の1割程度以下と説明している(生活保護問答集の問3-24)。
保有を認められた保険で後に保険金を受け取ると,開始時の解約返戻金相当額は63条返還の対象になるので,後見人は保険証券と開始時の返戻金額の資料を保管しておく必要がある。

5 自動車

課長通知の問(第3の12)は,障害者(児)が通院,通所及び通学のために自動車を必要とする場合について,①定期的に自動車が利用されることが明らかなこと,②公共交通機関の利用が著しく困難であり,送迎サービス等の活用も困難であるなど自動車によることが真にやむを得ないこと,③処分価値が小さく,又は構造上身体障害者用に改造してあるものであって,通院等に必要最小限のもの(排気量がおおむね2,000cc以下)であること,④維持費(ガソリン代を除く)が他からの援助や他施策の活用等により確実に賄われる見通しがあること,⑤障害者自身が運転する場合又は専ら通院等のために生計同一者若しくは常時介護者が運転する場合であることを満たせば,保有を認めてよいとしている。
成年被後見人が自ら運転することは通常考えにくく,家族が本人の通院のために運転する場面が中心になる。

6 保護費のやりくりによって生じた預貯金

(1) 課長通知の扱い

課長通知の問(第3の18)は,保護費のやりくりによって生じた預貯金等について,保護開始時に保有していたものでないこと及び不正な手段で蓄えたものでないことを確認し,「その使用目的が生活保護の趣旨目的に反しないと認められる場合については、活用すべき資産には当たらないものとして、保有を容認して差しつかえない」としている。
使用目的が保有の認められない物品の購入など趣旨目的に反すると認められる場合は,最低生活の維持のために活用すべき資産とみなし,状況に応じて収入認定や保護の停止・廃止を行うとしている。

(2) 裁判例

最高裁平成16年3月16日判決(平成11年(行ツ)第38号,民集58巻3号647頁)は,生活保護法の趣旨目的にかなった目的と態様で保護金品等を原資としてした貯蓄等は,同法4条1項の「資産」等に当たらないとし,子の高等学校修学費用に充てる目的で加入した学資保険の満期保険金について収入認定をして保護の額を減じた保護変更決定処分を違法とした。
秋田地裁平成5年4月23日判決(平成2年(行ウ)第1号)は,支給された生活保護費と障害年金を原資とする預貯金は同法4条1項の「利用し得る資産」及び8条1項の「金銭又は物品」に当たらず,これを収入と認定して生活扶助費を減額した保護変更処分は同法56条の「正当な理由」を欠き違法であるとした。
同判決は,預貯金の使途を限定する同法27条1項の指導指示を,重大かつ明白な違法があるとして無効としている。

(3) 施設入所中の本人の預貯金

施設に入所している本人は,日常の支出が少ないため,保護費や年金の残りが口座に積み上がりやすい。
本書66頁は,保有目的が抽象的でも累積預貯金は原則として保有が認められるとし,家電製品等の買換え費用や葬式代などの使途と金額を積み上げた上で,基準生活費のおおむね6か月分相当の額(東京都の運用事例集の問8-34)は保有が認められるべきであるとしている。
東京都福祉保健局生活福祉部保護課『生活保護運用事例集2017(令和3年6月改訂版)』の問8-34は,保護費を原資とする目的のない累積金について,「一定額」の目安を当該世帯の最低生活費の概ね6か月分相当の額としている。
その上で,直ちに収入認定するのではなく,まず最低限度の生活に欠ける部分を補い生活基盤を回復させるために使うよう指導助言し,必要に応じて自立更生計画書等で費消目的を定めることとし,それでもなお相当額の残余がある場合に活用し得る資産として認定するとしている。
入院・入所中の人については,同事例集の問8-33が,日用品費の累積金30万円を調整の基準とし,医療機関,介護施設及び保護施設以外の社会福祉施設へ入院入所中の人は累積金が100万円を超えていれば収入認定の上で保護を廃止するとしている。
ただし,同問は,累積金額の多寡だけで機械的に判断するのではなく,まず助言により生活基盤の回復や自立更生といった生活保護の趣旨目的に沿った使途に充てさせた上で適用すべきであるとしている。
これらは東京都内の実施機関の取扱いであり,他の自治体の運用は各福祉事務所に確認する必要がある。
後見人としては,定期報告の財産目録で残高が増えていくのを放置せず,本人の希望を聞いて使途を決め,それを福祉事務所に説明できるように記録しておくことが実際的である。
課長通知の問(第8の40)は,自立更生のための用途として,当該世帯員の死後事務を委任する経費(葬祭の委任に当てられる費用は葬祭扶助基準額)を掲げている(後記第8の3)。

第6 扶養義務者による扶養と扶養照会

1 扶養は保護の要件ではない

生活保護法4条2項は,扶養義務者の扶養を保護に「優先して行われる」ものとしている。
厚生労働省社会・援護局保護課の令和3年2月26日付け事務連絡「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」は,これは「保護の要件」とは異なる位置付けであり,実際に扶養義務者からの金銭的扶養が行われたときにこれを収入として取り扱うこと等を意味するもので,扶養義務者による扶養の可否等が保護の要否の判定に影響を及ぼすものではないとしている。
本書66頁も同じ理解を示している。

2 扶養照会を行わない場合

同事務連絡は,扶養照会は,扶養義務者の存否の確認,扶養の可能性の調査を経て「扶養義務の履行が期待できる」と判断される者に対して行うものであるとし,期待できない者の類型を次の3つに整理している。
①被保護者,社会福祉施設入所者,長期入院患者,主たる生計維持者ではない非稼働者,未成年者,概ね70歳以上の高齢者など
②要保護者の生活歴等から特別な事情があり明らかに扶養ができない者(借金を重ねている,相続をめぐり対立している,縁が切られているなどの著しい関係不良の場合等)
③扶養を求めることにより明らかに要保護者の自立を阻害することになると認められる者(夫の暴力から逃れてきた母子,虐待等の経緯がある者等)
②について,同事務連絡は,従前は「20年間音信不通である」ことを該当例としていたが,一定期間(例えば10年程度)音信不通であるなど交流が断絶している場合には著しい関係不良と判断してよいとし,正確な期間が判明しなくても,相当する期間音信不通であるとの申出があり,これを否定する明確な根拠がなければ該当するものと判断してよいとしている。
ただし,生活保持義務関係にある者(夫婦及び親の中学3年以下の子)については,関係機関等への照会(関係先調査)を行うとされている。
課長通知の問(第5の2)も,同じ趣旨の取扱いを定めている。

3 後見人の対応

本人の親族関係は,後見人が最もよく把握していることが多い。
後見人は,申請の際に,扶養義務者ごとに,年齢,本人との交流の有無と期間,関係不良の事情を整理して福祉事務所に伝え,照会が不要又は不適当である理由を書面で出しておくのがよい。
本書67頁も,扶養照会が望ましくない場合は,あらかじめその理由を記載した申出書を提出するのが有効であるとしている。

第7 保護費の支給と一時扶助

1 経常的な保護費

保護が開始されると,原則として,世帯の最低生活費から世帯の収入(年金,手当等)を差し引いた差額が毎月支給される(本書67頁)。
年金の支給月と保護費の算定の関係から,月によって振込額が変わることがあるので,後見人は保護決定通知書の収入充当額を確認しておく。

2 一時扶助

保護開始時や長期入院・入所後に退院・退所したときに,布団類,被服,炊事用具・食器等の家具什器,暖房器具,冷房器具が全くないか使用に堪えない場合には,局長通知第7の2(5)・(6)に基づいて特別基準の設定があったものとして一時扶助が支給され得る。
冷房器具は,熱中症予防が特に必要とされる者がいる場合に限られる。
入院を必要とする者が入院に際し寝巻等がない場合や,常時失禁状態にある患者が紙おむつ等を必要とする場合の扶助もある。
これらの限度額は本書67頁の額から改定されているが,本記事では現行の確定額を厚生労働省の公式資料で確認できなかったので書かない。
申請は事前に行い,現物給付が原則とされているので,購入前に福祉事務所と相談する必要がある。

3 転居費用と通院移送費

病院や施設から退院・退所するに際し帰住する住居がない場合など,課長通知の問(第7の30)の場合に当たれば,転居先の敷金等や引越し費用が支給され得る(前記第2の7(2))。
また,本書67頁は,通院のための交通費(通院移送費)が医療扶助として支給され得ること,傷病・障害の状態により電車・バス等の利用が著しく困難な場合にはタクシー代の支給も可能であることを指摘している(医療扶助運営要領第3の9)。
通院移送費の具体的な要件は,本記事では医療扶助運営要領の現行版を確認していない。

第8 収入認定と自立更生控除

1 届出義務

生活保護法61条は,「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。」と定める。
成年後見人が本人の財産を管理している場合,この届出を実際に行うのは後見人である。
届出を怠ると,後記第9の5のとおり,63条返還ではなく78条の徴収の対象となるおそれがある。

2 臨時的収入の控除

次官通知第8の3(2)エ(イ)は,不動産又は動産の処分による収入,保険金その他の臨時的収入(自立更生のために充てられる額を除く。)について,その額が世帯合算額8,000円(月額)を超える場合に,その超える額を収入として認定するとしている。

3 自立更生のために充てられる額

(1) 次官通知の定め

次官通知第8の3(3)は,収入として認定しないものとして,社会事業団体等から臨時的に恵与された慈善的性質の金銭,自立更生を目的として恵与される金銭のうち自立更生のためにあてられる額,災害等によって損害を受けたことにより臨時的に受ける補償金・保険金・見舞金のうち自立更生のためにあてられる額,保護の実施機関の指導又は指示により動産又は不動産を売却して得た金銭のうち自立更生のために当てられる額,死亡を支給事由として臨時的に受ける保険金のうち自立更生のために当てられる額等を掲げている。
本書68頁は,入院等による保険金や事故の賠償金等を受領した場合に,家電の買換え,車いすや介護用品の購入,自宅の改修等,本人の希望やニーズを聞き取った上で「自立更生計画」を作成し,実施機関と交渉する必要があるとしている。

(2) 成年後見の費用と死後事務の費用

課長通知の問(第8の40)は,自立更生のための用途に供される額の認定基準を定めている。
その(3)は,「成年後見人、保佐人、補助人の申立てや報酬のために必要な経費」を掲げ,この取扱いに当たっては自立更生計画の策定を要しないとしている。
この定めは本書には書かれていないが,後見人報酬の原資が乏しい被保護者にとって重要である。
また,厚生労働省が公表した令和5年4月施行分の実施要領には見当たらず,令和7年4月施行分の実施要領には掲げられている項目として,(2)のセに,「当該世帯員の死後事務を委任する経費」に当てられる場合は必要と認められる最小限度の額(葬祭の委任に当てられる費用は葬祭扶助基準額)が加わっている。
死後事務の委任については,死後事務委任契約の効力,内容及び作成時の注意点を参照されたい。

第9 63条返還

1 条文と趣旨

生活保護法63条は,「被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」と定める。
厚生労働省社会・援護局保護課長の平成24年7月23日付け通知(社援保発0723第1号)「生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて」は,資力があることを確認した際は,資力の発生時期に遡って63条に基づく費用返還を求めるとし,63条は,資力はあるが直ちに最低生活のために活用できない事情にある要保護者に保護を行い,資力が換金されるなど最低生活に充当できるようになった段階で既に支給した保護金品との調整を図るために返還を求めるものであると説明している。

2 収入認定か63条返還か

受給中に得た収入は,原則として収入認定されて翌月以降の保護費が減る。
これに対し,保護開始前又は受給中に発生していた「資力」が後に現実化した場合は,その資力の発生時点から後に受けた保護費の範囲内で63条返還の問題になる(本書68頁)。
本書68頁は,分水嶺は資力が発生した時期(権利の実現が客観的に確実性を有するに至った時期)であるとし,交通事故の賠償金について東京都の運用事例集を紹介している。
居住用でない不動産が売れた場合が典型である。

3 遺産分割と63条返還

本書68頁は,被相続人の死亡後に成年被後見人が生活保護を受け始め,その後に遺産分割協議が成立して遺産を取得した場合,遺産分割の効力は相続開始時に遡るので,被相続人死亡後に支給された保護費が63条返還の対象になるとしている。
民法909条は,「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」と定める。
成年後見人が本人の相続分を確保するために遺産分割に関与するときは,取得額の多くが返還に充てられる可能性を踏まえて,福祉事務所と早めに協議しておく必要がある。
相続人に判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割は,相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割で扱っている。

4 返還額の決定と自立更生のための控除

63条は,返還額を「保護の実施機関の定める額」としている。
本書68頁は,「保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合」には,当該世帯の自立に資する経費に充てられる金額について返還免除することができるとし(生活保護問答集の問13-5),通知の表現は厳格であるが裁判例上は柔軟に控除が認められているとして,自立更生計画書を立てて交渉する必要があるとしている。
上記平成24年通知も,63条に基づく費用返還は原則として全額を返還対象とするが,全額を返還対象とすることによって当該被保護世帯の自立が著しく阻害されると認められる場合は,一定の範囲の額を返還額から控除して差し支えないとしている。
控除できるものとして,盗難等の不可抗力により消失した額,保護の申請があれば支給が認められる範囲の一時的な経費に充てられた額,課長通知の問(第8の40)の認定基準に基づき実施機関が認めた額(事前の相談が原則),自立更生のためのやむを得ない用途に充てられ社会通念上容認される程度として実施機関が認めた額等を挙げている。
他方,浪費した額,贈与等により当該世帯以外のために充てられた額,保有が容認されない物品等の購入に充てられた額及び保護開始前の債務の弁済に充てられた額は,自立更生の範囲に含まれないとしている。
生活保護問答集の問13-5は市販の書籍に収録されたものであり,本記事では現行の文言を確認していない。

5 遡及して受給した年金

本書68頁~69頁は,保護受給後に年金の受給手続をして5年分の年金の遡及支給を受けた場合は63条返還の問題となり,上記平成24年通知により,遡及受給年金は全額返還が原則で,自立更生のための控除は慎重に考慮すべきであり,一般の場合より厳格に対応することが求められるとされたため全額返還請求されるが,同通知も真にやむを得ない理由により控除を認める場合があるが事前に保護の実施機関に相談することが必要としているので,事例に応じて控除を求めていくべきであるとしている。
同通知は,遡及して受給した年金収入については,定期的に支給される年金の全額が収入認定されることとの公平性を考慮して,一般の場合と同様の考え方で自立更生費等を控除するのではなく,厳格に対応することを求めている。
そして,保護の実施機関は,被保護世帯が年金の裁定請求を行うに当たり,資力の発生時点によっては63条返還が必要になること,返還額は原則として全額となること,真にやむを得ない理由により控除を認める場合があるが事前に相談することが必要であり,事後の相談は傷病や災害など本人の責めによらないやむを得ない事由がない限り認められないことを説明しておくこととしている。
また,資力の発生時点は年金受給権発生日であり,裁定請求日や年金受給日ではないことに留意するよう求めている。
本記事では,同通知の平成24年の発出時の本文で確認した。
その後の一部改正(平成26年,平成30年等)を反映した全文は,厚生労働省の公開資料では確認できなかった。
成年後見人が就任後に年金の未請求を発見して裁定請求する場面は珍しくないので,請求前に福祉事務所に相談し,遡及分の使途について事前に協議しておくことが重要である。

6 78条の徴収との違い

上記平成24年通知は,被保護者に不当に受給しようとする意思がなかったことが立証される場合で届出の遅れにやむを得ない理由があるときなどは63条の適用が妥当であるが,届出又は申告について指示に応じなかったとき,明らかに作為を加えたとき等は78条を適用するとしている。
生活保護法78条1項は,不正な手段により保護を受けた者から,費用の全部又は一部を徴収するほか,その額に100分の40を乗じて得た額以下の金額を徴収することができると定めている。
後見人が管理する本人の収入について届出が漏れた場合に,本人の不利益にならないよう,年金額の改定通知や臨時の入金は受け取った月のうちに届け出る習慣をつけておくべきである。

第10 市長申立ての手続費用の本人負担

1 家事事件手続法28条

家事事件手続法28条1項は,手続費用は「各自の負担とする」と定め,同条2項は,裁判所は,事情により,これを負担すべき者以外の者であって審判を受ける者となるべき者等に負担させることができると定めている。
本書37頁~38頁は,市長申立ての場合は手続費用を本人の負担とする審判がされることが多く,親族申立ての場合でも本人の負担とされることがあるので審判書で確認する必要があるとしている。
ここでいう手続費用は,申立手数料,送達費用,後見登記費用,鑑定料であり,診断書の取得費用等は含まれない(本書38頁)。
老人福祉法32条は,65歳以上の者について市町村長が後見開始等の審判の請求をすることができると定めている。

2 財産目録の作成前は支払えない

本書38頁は,市町村長申立ての場合,市町村は速やかに費用請求書を成年後見人に送付してくるが,財産目録作成完了までは支払をすることはできず(急迫の必要がある行為には当たらない。),本人の収支の状況が判明するまでは猶予してもらわざるを得ないとしている。
民法854条は,「後見人は、財産の目録の作成を終わるまでは、急迫の必要がある行為のみをする権限を有する。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。」と定め,財産目録は原則として1か月以内に作成しなければならない(同法853条1項)。
また,後見人は就職の初めに毎年支出すべき金額を予定しなければならない(同法861条1項)。

3 生活保護を受けている本人の場合

本人が負担できない財産状況であれば,分割弁済や期限の猶予,場合によっては免除してもらうなどの交渉をすることになる(本書38頁)。
多くの市町村は,成年後見制度利用支援事業により,生活保護受給者等について申立費用や後見人報酬を助成しているが,本書115頁は,生活保護を受けている者でも報酬付与審判で定められた報酬額を上回る預貯金がある場合には助成を受けられないことがあり,申請期限が設けられていることが多いとしている。
助成の要件は市町村ごとに異なるので,成年後見制度利用支援事業とは―後見人報酬・申立費用の自治体助成を比較するで確認されたい。
報酬額の目安は成年後見人等の報酬額の目安――大阪家裁の基準,令和7年全国実績及び申立手続で扱っている。
なお,本人が保険金や遺産を受け取った場合には,前記第8の3(2)のとおり,申立費用や報酬に必要な経費を収入認定から除く扱いがある。

4 大阪家裁の運用について

大阪家裁の成年後見の案内ページと後見人ハンドブックは,生活保護に固有の運用を示していない。
定期報告の書式の書き方は,令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方で扱っているので,保護の開始・変更・停止や63条返還があった期は,収支の変動の理由として報告書に記載しておくとよい。

第11 生活扶助基準の引下げを違法とした最高裁判決

最高裁令和7年6月27日第三小法廷判決は,2件の事件(令和5年(行ヒ)第397号,民集79巻4号1640頁[原審大阪高裁],令和6年(行ヒ)第170号[原審名古屋高裁])で同日に言い渡された。
いずれも,平成25年から平成27年にかけて行われた,物価変動率のみを直接の指標として基準生活費を一律に減ずることをその内容に含む生活扶助基準の改定は,判示の事情の下では,厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり,生活保護法3条,8条2項に違反して違法であるとした。
他方で,この改定につき国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできないとしている。
厚生労働省の「平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決への対応について」のページによれば,保護費の追加給付は原告・原告以外を区別せず一律に実施することとされ,令和8年2月20日付けで「平成二十五年八月から令和八年三月までの間の生活保護法による保護の基準の特例」(令和8年厚生労働省告示第43号)が公布され,3月1日から適用された。
同ページは,追加給付の対象者を,算定対象期間に基準生活費又は入院患者日用品費若しくは介護施設入所者基本生活費が算定された者(現在保護停止中の者及び保護廃止された者を含む。)とし,障害者加算(加算額の部分)等も対象に含めている。
現在保護を受給中の世帯には申出の手続なしで順次追加給付が行われるが,現在保護を受給していない世帯は,当時保護を受給していた自治体に申出をする必要がある。
成年後見人が管理する本人が,過去に保護を受けていて現在は受けていない場合には,申出が必要かどうかを,厚生労働省が開設した「最高裁判決を踏まえた保護費の追加給付相談センター」の案内や当時の自治体に確認する必要がある。

第12 令和8年改正後の変化

1 補助への一元化と代理権

民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の施行後は,後見・保佐が補助に一元化される。
改正後の民法11条1項は,家庭裁判所が「特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる」と定め,同条2項は,本人以外の者の請求による場合は本人の同意を要する(本人がその意思を表示することができない場合を除く。)としている。
改正後の民法10条は,精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にある者について特定補助人を付することができるとするが,特定補助人の権限は取消権の行使,意思表示の受領及び財産に関する保存行為に限られる(同条5項)。
したがって,改正後に補助人が生活保護の申請を代理するには,保護の申請を含む代理権付与の審判が必要になると考えられる。

2 生活保護法の改正

民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和8年法律第46号)は,生活保護法30条3項の「親権者又は後見人」を「親権者又は未成年後見人若しくは特定補助人」に改める。
また,同法81条を,「被保護者が未成年者又は特定補助人を付する処分の審判を受けた者である場合において、親権者及び未成年後見人の職務を行う者並びに特定補助人の職務を行う者がないときは、保護の実施機関は、速やかに、未成年後見人又は補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。」と改める。
同法7条(申請保護の原則)は改正されない。
これらの規定は,公布の日から2年6月を超えない範囲内で政令で定める日から施行される。

3 申請代理の扱いは未定

令和3年の問答集の改正は,成年被後見人が「事理を弁識する能力を欠く常況にある」こと及び成年後見人の包括的な代理権を根拠としていた。
改正後はこの二つの前提がなくなるため,補助人による保護申請を厚生労働省がどう扱うかは改めて示される必要があるが,基準日現在,厚生労働省の公表資料でその方針は確認できなかった。
施行日前に開始した後見・保佐は原則として従前の例によるとされているので,既に選任されている成年後見人は,施行後も当面は現在の取扱いによることになると考えられる。
改正の全体像は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。

4 市町村長申立て

改正後の老人福祉法32条は,市町村長が請求できる審判を「民法第七条第一項、第九条第一項、第十条第一項若しくは第三項又は第十一条第一項に規定する審判」と改めている。
市町村長が補助開始とあわせて代理権付与の審判を請求するときは,生活保護の申請や保護費の管理を代理権の範囲に含めるかを,申立ての段階で検討しておくことになる。

第13 本書(2023年)の記載と現在の違い

事項本書の記載現在(令和8年9月19日)根拠
生活扶助の計算令和4年4月以降の計算式令和5年10月に体系見直し,特例加算1,500円(10月から2,500円)告示,基準部会資料
入院患者日用品費23,110円23,670円以内+特例加算1,000円告示別表第1第3章
障害者加算(1級地・ア)26,810円27,460円告示別表第1第2章
他人介護料70,360円75,820円の範囲内告示別表第1第2章
冬季加算の期間11月から3月又は4月までⅠ区・Ⅱ区は10月から4月まで告示,厚労省ページ
未成熟子概ね15歳以下中学3年以下局長通知第1の1(3)
自立更生の用途記載なし後見等の申立て・報酬,死後事務委任の経費課長通知の問(第8の40)
基準引下げ訴訟記載なし令和7年6月27日最高裁判決,追加給付裁判所HP,厚労省

第14 出典・参考資料

1 法令

生活保護法(1条,4条,7条,8条,10条,11条,19条,24条,25条,27条,30条,31条,33条,34条,37条の2,56条,61条,63条,78条,81条) e-Gov法令検索
民法(853条,854条,859条,859条の3,861条,877条,909条。改正後の9条,10条,11条) e-Gov法令検索
家事事件手続法(28条) e-Gov法令検索
老人福祉法(32条) e-Gov法令検索

2 裁判例

最高裁平成16年3月16日判決(平成11年(行ツ)第38号,民集58巻3号647頁) 裁判所HP
秋田地裁平成5年4月23日判決(平成2年(行ウ)第1号) 裁判所HP
最高裁令和7年6月27日判決(令和5年(行ヒ)第397号,民集79巻4号1640頁) 裁判所HP
最高裁令和7年6月27日判決(令和6年(行ヒ)第170号) 裁判所HP

3 公的資料

生活保護法による保護の基準(昭和38年厚生省告示第158号。令和8年6月11日厚生労働省告示第245号による改正まで収録) 厚生労働省法令等データベース
厚生労働省「生活保護制度」 厚生労働省
厚生労働省「生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法(令和8年4月)」 厚生労働省
第55回社会保障審議会生活保護基準部会資料4「令和8年度生活扶助基準の見直しについて」(令和8年2月27日) 厚生労働省
第52回社会保障審議会生活保護基準部会資料3-1「令和5年度以降の生活扶助基準の見直しについて」(令和7年6月24日) 厚生労働省
厚生労働省「2026(令和8)年4月1日施行 生活保護実施要領等」(次官通知・局長通知・課長通知を収録) 厚生労働省
厚生労働省「2025(令和7)年4月1日施行 生活保護実施要領等」 厚生労働省
厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡「『生活保護問答集について』の一部改正について」(令和3年9月1日) 厚生労働省
厚生労働省社会・援護局保護課事務連絡「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」(令和3年2月26日) 厚生労働省
厚生労働省社会・援護局保護課事務連絡「現下の状況における、住宅扶助基準を上回る家賃の住居に居住する要保護者に対する転居に係る指導の取扱いについて」(令和3年2月26日) 厚生労働省
厚生労働省社会・援護局保護課長通知「生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて」(平成24年7月23日社援保発0723第1号。発出時の本文)
「生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて」(平成24年7月23日社援保発0723第1号)の改正案新旧対照表を収録した資料 厚生労働省
東京都福祉保健局生活福祉部保護課「生活保護運用事例集2017(令和3年6月改訂版)」問8-33,問8-34
厚生労働省「平成25年生活扶助基準改定に関する最高裁判決への対応について」 厚生労働省

4 文献

大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年)37頁~38頁,59頁,61頁~69頁,91頁,115頁

5 関連記事

成年後見制度利用支援事業とは―後見人報酬・申立費用の自治体助成を比較する
成年後見人等の報酬額の目安――大阪家裁の基準,令和7年全国実績及び申立手続
令和7年4月全国統一書式による後見等事務報告書・報酬付与申立事情説明書の書き方
成年後見人が本人の自宅を売却・賃貸・解約するときの居住用不動産処分許可(民法859条の3)
死後事務委任契約の効力,内容及び作成時の注意点
相続人に認知症・精神障害等で判断能力を欠く人がいる場合の遺産分割
令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備