第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,成年後見人が家庭裁判所の審判を得て成年被後見人宛ての郵便物等を自分の事務所に配達してもらう「回送嘱託」(民法860条の2)と,受け取った郵便物等の開披・交付・閲覧(民法860条の3)について,要件,手続,大阪家庭裁判所での申立ての方法,役所等への送付先の届出との使い分け,任務終了後の郵便物の扱い,保佐人・補助人との違い及び令和8年改正後の姿を整理するものである。
基準日は令和8年9月19日であり,法令は同日にe-Gov法令検索で確認した現行条文による。
素材として,大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年。以下「本書」という。)35頁~36頁,42頁,46頁,48頁,137頁及び162頁を用いた。
本書は2023年時点の記述であるから,現在の法令・書式・費用は,裁判所ウェブサイト,法務省ウェブサイト及びe-Govで確かめた範囲で書き,確かめられなかった点はその旨を示す。
2 結論
①郵便局への転居届(郵便法35条)は本人が住所又は居所を移したときに本人の新しい居場所へ転送する制度であり,成年後見人の事務所へ転送させることはできない。成年後見人が本人宛ての郵便物を直接受け取るには,家庭裁判所の回送嘱託の審判が必要である。
②回送嘱託は,成年後見人が任意の方法では本人宛ての郵便物等の存在と内容を把握できず,後見事務に支障が生ずる場合に限って認められる。施設や親族の協力で郵便物を受け取れる場合は認められない。
③嘱託の期間は6か月を超えることができず(民法860条の2第2項),変更の審判で伸長することもできない(同条3項ただし書)。再度の申立ては可能であるが,前回の期間内に財産・収支の状況を把握できなかった具体的事情を示す必要がある。
④成年後見人は受け取った郵便物等を開いて見ることができるが,後見事務に関しないものは速やかに本人に交付しなければならず,本人は閲覧を求めることができる(民法860条の3)。
⑤大阪家裁での申立ては,後見ポータルサイトの全国共通の申立書に,収入印紙800円分,郵便料(郵便切手なら1,440円分,現金・電子納付なら2,000円),本人の陳述書又は上申書と陳述聴取状況報告書等を添えて行う。
⑥回送嘱託は保佐人・補助人・任意後見人には認められていない。令和8年改正後は,法定後見が補助に一元化され,回送嘱託は「特定補助人」だけが利用できる制度(改正後の民法876条の16・876条の17)になる。特定補助人でない補助人は,代理権の範囲内での送付先変更の届出等,回送嘱託以外の方法で郵便物を把握することになる。
第2 制度の概要
1 平成28年改正で新設された制度
回送嘱託と開披の規定は,成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号)によって新設された。
同法は平成28年4月13日に公布され,附則が「この法律は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行する。」と定めていることから,平成28年10月13日に施行された(法務省「「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が平成28年10月13日に施行されました。」)。
同じ法律で,成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限(民法873条の2)も新設されている。
死後事務については成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること-民法873条の2の死後事務と事務管理で扱っている。
法務省の上記Q&Aは,新設の理由として,本人宛ての郵便物等には株式の配当通知,外貨預金の入出金明細,クレジットカードの利用明細等の財産に関するものが含まれ,成年後見人が同居の親族以外の者である場合に,本人が郵便物を自ら管理できないと財産管理に支障を来すおそれがあるとの指摘があったことを挙げている。
同時に,期間を制限するなど,本人の通信の秘密(憲法21条2項後段)に一定の配慮をしたと説明している。
憲法21条2項は,「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」と定めている。
本書35頁も,回送嘱託は通信の秘密に対する制約であるため期間は原則として6か月であると説明している。
2 条文
民法860条の2第1項は,「家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第三項に規定する信書便物(次条において「郵便物等」という。)を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。」と定める。
同条2項は「前項に規定する嘱託の期間は、六箇月を超えることができない。」と定める。
同条3項は,審判の後に事情の変更を生じたときは,成年被後見人,成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で,嘱託を取り消し,又は変更することができるとし,ただし書で「その変更の審判においては、同項の規定による審判において定められた期間を伸長することができない。」と定める。
同条4項は「成年後見人の任務が終了したときは、家庭裁判所は、第一項に規定する嘱託を取り消さなければならない。」と定める。
3 郵便局への転居届との違い
郵便法35条は,「郵便物(郵便約款の定めるものを除く。)は、その受取人がその住所又は居所を変更した場合においてその受取人から郵便約款の定めるところによりその後の住所又は居所を届け出ているときは、その届出の日から一年内に限り、これをその届出に係る住所又は居所に転送する。」と定める。
つまり,転居届による転送は,受取人本人が住所又は居所を移した場合に,本人の新しい居場所へ届けるための制度である。
日本郵便のQ&Aも,入院中の親族に代わって転送を受けたいという質問に対し,転送することはできず,郵便物等を受け取る者が住んでいない所に転居届を出すことはできないと回答している。
本書35頁も,転送届は本人の居所に転送するようにするものであり,成年後見人に転送することは認められていないとしている。
なお,本人が病院に入院している間については,日本郵便のQ&Aは,転居届を出せば病院に郵便物等を転送するとしている。
本人が施設に入所し,又は長期入院した場合は,まず本人の居場所への転居届で郵便物を施設・病院に集め,施設等の協力を得て成年後見人が受け取るという方法を検討することになる。
この方法で郵便物を把握できるのであれば,後記第3の2のとおり,回送嘱託の必要性は認められにくい。
4 対象となる郵便物等
対象は,郵便物と,民間事業者による信書の送達に関する法律2条3項の信書便物である。
同項は,「この法律において「信書便物」とは、信書便の役務により送達される信書(その包装及びその包装に封入される信書以外の物を含む。)をいう。」と定める。
法務省の上記Q&Aは,物品の送付に利用される「ゆうパック」等は「郵便物」に該当しないため,転送の対象に含まれないとしている。
申立書の様式も,日本郵便株式会社に対する郵便物の回送嘱託と,信書便事業者に対する信書便物の回送嘱託を分けて記載する形になっている。
第3 回送嘱託が認められる場合
1 「必要があると認めるとき」
条文上の要件は,成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると家庭裁判所が認めることである。
本書35頁は,独居で郵便物の保管に不安がある場合や,同居の親族が郵便物を隠匿し,本人の財産を引き渡さない場合など,成年後見人が本人の財産を正確に把握し,適切な財産管理を行うために,成年後見人が直接郵便物を受け取る必要がある場合を挙げている。
2 任意の方法で把握できる場合は認められない
裁判所ウェブサイトの手続案内「成年被後見人に宛てた郵便物等の配達(回送)の嘱託」は,この申立ては,成年後見人が任意の方法によっては成年被後見人宛ての郵便物等の存在及び内容を把握できず,そのことによって後見事務の遂行に支障が生ずるような場合に限って認められるもので,郵便物の受取りや成年後見人への郵便物の引渡しについて施設や親族の協力を得られるような場合には認められないと説明している。
したがって,申立ての前に,施設の職員に郵便物を保管して引き渡してもらえないか,親族に引渡しの協力を頼めないかを確かめ,その結果を記録しておく必要がある。
協力を求めて断られた経過は,そのまま申立書の「具体的事情」の記載になる。
3 申立書の三つの類型
後見ポータルサイトに掲載されている全国共通の申立書(成年被後見人に宛てた郵便物等の回送嘱託申立書)は,申立ての理由を次の三つに分けてチェックさせる形になっている。
①成年後見人に選任されてから1年以内における初回申立て
②成年後見人に選任されてから1年以上経過した後における初回申立て
③再度の申立て
①については,本人が自宅に独居している場合,施設に入所している場合,親族と同居している場合のそれぞれについて,本人が自ら郵便物等を管理することができず,かつ,これを管理することができる親族・施設・同居の親族から成年後見人への引渡しについての協力を得られないという選択肢が用意されている。
②については,これまでの財産・収支の管理と把握について生じていた支障に関する具体的事情を書くことになる。
③については,前回の回送期間内に財産・収支の状況を把握できなかった具体的事情を書くことになる。
いずれの類型でも,最後に「具体的事情」の欄に事実を具体的に書く。
記入例2(選任から1年以上経過した後の初回申立て)は,それまで協力していた同居の親族が入院し,別の親族が本人を引き取った後,郵便物の引渡しに協力しなくなったという事情の変化を具体的事情としている。
このように,選任直後でない申立てでは,「なぜ今になって必要になったのか」を書くことが求められていると読める。
4 6か月の上限と再度の申立て
嘱託の期間は6か月を超えることができない(民法860条の2第2項)。
法務省の上記Q&Aは,財産に関する郵便物等は一定期間ごと(例えば1か月に1回)に郵送される場合が多く,おおむね数か月間に郵送された郵便物等を調査すれば財産関係に関する郵便物等の存在をおおむね把握できると考えられることから,6か月を超えない期間に限定したと説明している。
同Q&Aは,当初の期間満了後に再度の申立てをすることはできるが,その場合には,当初の期間のみでは財産関係を十分に把握できなかったことについてやむを得ない事由があることを示す必要があると考えられるとしている。
本書35頁も,再度の申立ても可能であるが必要性の要件は厳しくなるとしている。
全国共通の書式の記入例3(再度の申立て)は,回送された郵便物を精査したが,預貯金通帳の入出金の記載に照らして債権・債務の状況が判然としないものが複数残っていることを,調査結果を添付して説明する形になっている。
5 申立ての時期
一度の審判で得られる期間は最長6か月であり,期間の伸長もできないから,いつ申し立てるかが重要になる。
本書35頁は,財産に関する郵便物等が送付される可能性がある時期(証券会社からの取引残高報告書が送付される時期など)を考慮して申し立てるのが有効であるとしている。
例えば,固定資産税の納税通知書,年金の振込通知,株式の配当通知,保険会社からの契約内容のお知らせのように,年に一度又は数回しか届かない書類がある場合は,それらが届く時期が期間内に入るように申立ての時期を選ぶことになる。
第4 申立ての手続
1 申立人と申立先
申立人は成年後見人である(民法860条の2第1項)。
申立先は,後見開始の審判をした家庭裁判所(抗告裁判所が後見開始の裁判をした場合は第一審の家庭裁判所)である(家事事件手続法117条2項)。
この審判事件は,家事事件手続法別表第一の十二の二の項(「成年被後見人に宛てた郵便物等の配達の嘱託及びその嘱託の取消し又は変更」,根拠規定は民法860条の2第1項,3項及び4項)に当たる。
成年被後見人は,この審判事件において,法定代理人によらずに自ら手続行為をすることができる(家事事件手続法118条8号)。
2 本人の陳述の聴取
(1) 法律上の要件
家事事件手続法120条1項6号は,成年被後見人に宛てた郵便物等の配達の嘱託の審判をする場合には,成年被後見人の陳述を聴かなければならないと定めている。
ただし,同項ただし書により,本人の心身の障害によりその陳述を聴くことができないときは,この限りでない。
(2) 大阪家裁の書式
大阪家裁の成年後見のページは,回送嘱託の申立てに必要なものとして,陳述聴取状況報告書と,陳述書又は上申書を挙げ,どちらを出すかは「本人の陳述聴取の流れ」で確認するよう求めている。
陳述聴取状況報告書(書式3-3)は,成年後見人が本人と面談し,自分が成年後見人であること,後見事務の必要から本人宛ての郵便物が後見人宛てに転送されること,転送の期間は長くとも6箇月であること,後見人が受け取った郵便物は用済み後速やかに本人のもとに返還されることを説明した上で,本人の反応を記載する様式である。
本人の陳述があったときは陳述書(書式3-2)を作成する。
陳述書は,郵便局などが本人宛ての手紙やはがきなどを長くとも6箇月の間成年後見人に配達することについて,「了解します」「反対します」「特に意見はありません」「家庭裁判所に一任します」等から選ぶ様式で,漢字にふりがなが付されている。
本人と意思疎通ができないとき,又は本人が何も話さず,無関係な話をしたときは,その事情を上申書に記載する。
本人に説明する機会は,回送された郵便物を後で本人に返し,閲覧させるという民法860条の3の仕組みを本人に伝える機会でもある。
3 大阪家裁での必要書類と費用
大阪家裁の成年後見のページ(令和8年9月19日確認)は,回送嘱託の申立てに必要なものとして次のものを挙げている。
①後見ポータルサイトにある申立書
②収入印紙800円分
③郵便料
④申立人(成年後見人)及び成年被後見人の住民票(マイナンバーの記載のないもの。既に裁判所に提出しており,その後変更がない場合は不要)
⑤成年被後見人の居所であることの裏付資料(居所が住民票上の住所と異なり,かつ,裁判所に提出されていない場合)
⑥陳述聴取状況報告書
⑦陳述書又は上申書
⑧成年後見監督人の同意書(成年後見監督人が選任されている場合)
郵便料について,大阪家裁の「郵便切手及び予納金一覧(令和8年8月3日~)」は,回送嘱託の申立てについて,郵便切手で納める場合は1,440円(500円×2枚,110円×4枚),現金・電子納付の場合は2,000円とし,郵便切手の場合は嘱託先が1か所増えるごとに110円切手1枚を追加するとしている。
回送嘱託の取消し・変更の申立ても,同じ一覧で郵便切手1,440円,現金・電子納付2,000円とされている。
全国共通の申立書の添付書類欄には,住民票,必要性に関する報告書,財産管理後見人の同意書,成年後見監督人の同意書の欄がある。
財産管理後見人の同意書は,成年後見人が数人いて事務を分掌している場合(民法859条の2第1項)を想定した欄と考えられる。
4 集配郵便局の特定
回送の嘱託は,回送元を管轄する集配郵便局等に書面を送付して行うため,申立書の別添に集配郵便局等の所在地と名称を1か所につき1枚ずつ記載する。
大阪家裁の成年後見のページは,嘱託先の集配郵便局等の名称や所在地が誤っていると,回送の手続が遅れるほか追加の郵便切手が必要になるとして,必ず確認の上で正確に記載するよう求めている。
本人の住所と居所が異なり,いずれにも郵便物が届く可能性がある場合は,申立ての趣旨で住所と居所の両方にチェックし,それぞれを管轄する集配郵便局等を記載することになる。
本人の住所地を管轄する集配郵便局は,最寄りの郵便局と一致しないことがあるので,日本郵便に確認してから記載するのが確実である。
5 審判の効力と不服申立て
回送嘱託の審判に対しては,成年被後見人及びその親族が即時抗告をすることができる(家事事件手続法123条1項8号)。
即時抗告をすることができる審判は,確定しなければその効力を生じない(家事事件手続法74条2項ただし書)。
成年被後見人には,回送嘱託の審判を告知ではなく通知する(家事事件手続法122条1項2号)。
告知を受ける者でない者の即時抗告期間は,申立人が審判の告知を受けた日から2週間である(家事事件手続法86条1項,2項)。
信書の送達の事業を行う者には審判を告知することを要せず,審判が効力を生じた時に通知しなければならない(家事事件手続法122条2項)。
本書35頁も,認容審判が確定した場合,家庭裁判所から日本郵便(集配郵便局)等に対して通知されるとしている。
そのため,審判が出てから実際に郵便物が回送されてくるまでには,確定までの期間と通知の期間がかかることを見込んでおく。
申立てを却下する審判に対しては,申立人が即時抗告をすることができる(家事事件手続法123条1項10号)。
なお,抗告裁判所は,信書の送達の事業を行う者の陳述を聴くことを要しない(家事事件手続法123条の2)。
第5 回送された郵便物等の扱い
1 開いて見ることができる
民法860条の3第1項は,「成年後見人は、成年被後見人に宛てた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができる。」と定める。
刑法133条は「正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者は、一年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。」と定めているが,成年後見人の開披は民法860条の3第1項に基づくものである。
この規定は「受け取ったときは」と定めており,回送嘱託によって受け取った場合に限定していない。
本書48頁も,本人宛ての郵便物のうち後見事務に関するものは成年後見人が開披する権限があるとしている。
したがって,施設や親族から引き渡された郵便物についても,成年後見人は同項に基づいて開いて見ることができると考えられる。
2 事務に関しないものは速やかに交付する
民法860条の3第2項は,「成年後見人は、その受け取った前項の郵便物等で成年後見人の事務に関しないものは、速やかに成年被後見人に交付しなければならない。」と定める。
法務省の上記Q&Aは,この交付には郵送を含むとしている。
例えば,本人宛ての私信,趣味の団体からの案内,友人からの年賀状のようなものは,後見事務に関しないものとして,速やかに本人に届けることになる。
財産や契約に関する郵便物であっても,成年後見人が内容を確認して必要な対応を終えた後は,原本を記録として保管するか,写しを取って本人に渡すかを,事案に応じて判断する。
本書35頁は,後見事務に必要なものは成年後見人において保管することができるとしている。
3 本人の閲覧請求
民法860条の3第3項は,「成年被後見人は、成年後見人に対し、成年後見人が受け取った第一項の郵便物等(前項の規定により成年被後見人に交付されたものを除く。)の閲覧を求めることができる。」と定める。
本書35頁は,本人には閲覧請求権があるので,郵便物等が届いていることを本人に知らせておくべきであるとしている。
大阪家裁の陳述聴取状況報告書が,後見人が受け取った郵便物は用済み後速やかに本人のもとに返還されることを説明項目にしているのも,この仕組みを前提にしたものと考えられる。
4 受領の記録
回送期間中は,受領日,差出人,内容の要旨,対応(保管・交付・閲覧),本人への交付日を一覧にしておくと,本人からの閲覧請求にも,家庭裁判所への報告にも,再度の申立ての説明にも使える。
全国共通の書式の記入例3が,再度の申立てに当たって調査結果を別添する形になっているのは,このような記録が前提になっているからと考えられる。
回送によって判明した預貯金,証券口座,保険契約等は,財産目録に反映させる。
第6 変更と取消し
1 事情変更による取消し・変更
審判の後に事情の変更を生じたときは,成年被後見人,成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で,嘱託を取り消し,又は変更することができる(民法860条の2第3項本文)。
ただし,変更の審判で期間を伸長することはできない(同項ただし書)。
全国共通の取消し・変更の申立書は,変更の内容として,回送期間の終期の短縮,回送を受ける成年後見人の交代,本人の住所・居所の変更に伴う嘱託対象の変更,嘱託対象の追加,一部の嘱託の取り止め,成年後見人の住所(事務所)の変更に伴う回送先の変更を選択肢として挙げている。
取消し又は変更の審判は成年後見人に告知しなければならず(家事事件手続法122条3項3号),成年後見人は取消し又は変更の審判に対して即時抗告をすることができる(同法123条1項9号)。
取消し又は変更の審判も,効力を生じた時に信書の送達の事業を行う者に通知される(同法122条2項)。
2 転居したときは変更の申立てが必要
法務省の上記Q&Aは,郵便転送の開始後に成年後見人又は成年被後見人が転居した場合には,成年後見人は家庭裁判所に嘱託の変更の審判を申し立てる必要があるとし,申立てを怠った場合には善管注意義務違反となり,解任事由(民法846条)に該当する場合があるとしている。
例えば,回送期間中に本人が自宅から施設に移った場合や,成年後見人が事務所を移転した場合は,速やかに変更の申立てをする。
全国共通の取消し・変更の申立書の記入例は,本人が成年後見人である親族の自宅に転居して同居することになり,回送の必要がなくなったとして取消しを求める例である。
解任の場面は成年後見人の解任理由で扱っている。
3 任務終了のときは必ず取り消される
成年後見人の任務が終了したときは,家庭裁判所は嘱託を取り消さなければならない(民法860条の2第4項)。
本人が死亡したとき,成年後見人が辞任し,又は解任されたとき,後見開始の審判が取り消されたときがこれに当たる。
成年後見人が交代する場合,新しい成年後見人は,前任者の回送嘱託をそのまま引き継ぐのではなく,必要があれば改めて自ら申し立てることになると考えられる。
本人が死亡したときは,家庭裁判所に死亡を速やかに連絡し,嘱託が取り消されるまでの間に届いた郵便物は,後記第8のとおり相続人への引継ぎの対象として扱う。
第7 回送嘱託と組み合わせる送付先の届出
1 役所への送付先変更の届出
回送嘱託は最長6か月の手段であるから,恒常的に必要な書類は,発送元に送付先を成年後見人の事務所に変更してもらう方法で確保するのが基本である。
本書48頁は,役所から送付される書類には後見事務に関するものが多く,本人に届いてから成年後見人が預かるよりも直接送付してもらうほうが速やかに対応できるとして,介護保険,生活保護,健康保険,障害福祉,固定資産税を担当する課等に,それぞれ送付先変更を届け出るとしている。
届出に当たっては登記事項証明書の写しを添付し,自治体によってはウェブサイトに所定の用紙があり郵送で手続ができるので,事前に電話で確認するとよいとしている。
本書35頁は,主な届出先として,年金事務所(日本年金機構),介護保険課,健康保険・後期高齢者医療課,障害福祉課,市民税課,固定資産税課(不動産を保有している場合など),福祉事務所(生活保護の場合)を挙げ,届出をしておくことで更新手続が必要な場合なども書類が送付され,手続の失念を防止することにもなるとしている。
本書46頁は,年金については「年金受給権者通知書等送付先・受取機関・口座名義変更申出書」を日本年金機構のウェブサイトから入手し,登記事項証明書(原本)又は審判書謄本及び審判確定証明書を添付して,住所地を管轄する年金事務所へ郵送又は持参するとしている(書式名と添付書類は本書2023年時点の記載であり,現行の様式は日本年金機構で確認されたい)。
本人のマイナンバーカードや資格確認書の更新に関する書類の扱いは,成年後見人のマイナンバーカード管理-電子証明書の更新・期限切れ・資格確認書で扱っている。
2 年間計画表
本書48頁は,成年後見人は就任後,どのような書類がどの役所のどの課からいつごろ送られるのかを把握し,年間計画表を作成しておくと便利であり,送付先変更の届出をしてあるのに誤って本人の住所に送付された場合でも,年間計画表で時期に応じて確認しておけば安心であるとしている。
回送嘱託の期間中に届いた郵便物は,この年間計画表を作る材料にもなる。
回送期間中に発送元と送付先を洗い出し,期間が終わる前に必要な発送元へ送付先変更を届け出ておけば,期間満了後に再度の申立てをしなくても済むことが多い。
3 財産調査の手がかり
本書42頁は,本人名義の預貯金口座の存在が不明である場合の照会の手がかりとして,本人からの聴取,本人の居住地(施設入所している場合は元々の自宅所在地も含む。)の最寄りの金融機関への照会を挙げるとともに,本人に届く郵便物等も手がかりとなるので,これを確認し,本人が郵便物を管理できていない場合には回送嘱託の申立てを活用することも考えられるとしている。
財産目録は1か月以内に調製しなければならず(民法853条1項。家庭裁判所で伸長することができる。),本書36頁はこの1か月を審判確定後1か月以内と説明しているが,回送嘱託は審判の確定を待ってから始まるから,初回の財産目録の提出期限までに回送の結果を反映させることは難しいことが多い。
その場合は,判明している範囲で財産目録を作成し,回送によって判明した財産を後で追加報告するか,財産目録の調製期間の伸長を申し立てることになる。
第8 任務終了後の郵便物
本書137頁は,成年後見人が金融機関や行政機関等に郵便物の送付先を成年後見人宛てとする届出をしていた場合,任務が終了した後も,それを知らない相手先はそのまま成年後見人宛てに郵便物を送ってくるとしている。
本人死亡の場合に,これを把握できる行政機関が相続人宛てに変更することもあるが,そのまま成年後見人に送付されることも多いとしている。
その場合,届いた郵便物を相続人等にその都度郵送するなどして引き渡すことでもよいが,長期にわたることもあり,保管や送付の費用と手間を考えれば,送付先を届け出た相手先に対して,任務が終了したため今後の送付は不要である旨を連絡する方法もあるとしている。
送付先の届出書類と同じ書面の中に送付先の変更や停止の欄が用意されていることもある。
次の送付先を指定しなければならない書式では,基本的には本人の住所地でよいが,任務を終了した成年後見人としては指定できないので,空白のまま提出するしかないだろうとしている。
したがって,就任時に送付先変更を届け出た先を一覧にしておくことは,任務終了時の後始末のためにも必要である。
任務終了後の財産の引継ぎや死後事務については,前記の死後事務の記事で扱っている。
第9 保佐人・補助人・任意後見人の場合(現行法)
1 回送嘱託は準用されていない
民法876条の5第2項は,保佐の事務について「第六百四十四条、第八百五十九条の二、第八百五十九条の三、第八百六十一条第二項、第八百六十二条及び第八百六十三条の規定」を準用しているが,民法860条の2と860条の3は含まれていない。
補助の事務について準用規定を置く民法876条の10第1項も同様である。
法務省の上記Q&Aも,改正法の規定は成年後見のみを対象としており,保佐,補助,任意後見及び未成年後見には適用されないとしている。
任意後見契約に関する法律にも,郵便物の回送に関する規定はない。
本書162頁も,回送嘱託の規定は保佐事務に準用されず(民法876条の5第2項),保佐人の事務所への郵便物等の回送は認められないとしている。
2 代理権の範囲内での送付先変更
本書162頁は,保佐人は,代理権を付与された法律行為の範囲内で,役所や事業所へ届け出て,介護保険証や健康保険証等の送付先変更の手続を取ることができるにとどまるとしている。
本書35頁も,社会保険関係の送付先の届出について,成年後見人のほか「代理権の内容によっては保佐人、補助人も含む」としている。
したがって,保佐人・補助人は,代理権付与の審判の申立ての段階で,年金,介護保険,医療保険,税その他の手続のうち本人の生活に必要なものが代理権の対象に含まれるかを確かめておくことが,郵便物を把握するための前提になる。
また,民法860条の3の開披の権限も保佐人・補助人には準用されていないから,本記事では,保佐人・補助人が本人宛ての封書を開くのは,本人の了解を得た場合に限るべきであると考える。
保佐人・補助人の権限の全体像は,保佐人・補助人の権限と実務で扱っている。
第10 令和8年改正後
1 回送嘱託は特定補助人だけの制度になる
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号。令和8年6月24日公布)は,法定後見を補助に一元化し,後見と保佐を廃止する。
その成年後見部分は,公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行され,基準日現在は未施行である。
改正の全体像は令和8年成年後見制度改正と関係法律61本の整備で扱っている。
改正後は,精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にある者について,家庭裁判所が「特定補助人を付する旨の審判」をすることができる(改正後の民法10条1項)。
特定補助人は,取消権の行使,本人に対する意思表示の受領,本人の財産に関する保存行為をする権限を有する(同条5項)。
法務省の新旧対照条文とe-Gov法令検索の未施行版で確かめたところ,改正後の民法876条の16は,現行の民法860条の2とほぼ同じ文言で,「特定補助人による郵便物等の管理」として,家庭裁判所が,特定補助人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは,特定補助人の請求により,信書の送達の事業を行う者に対し,期間を定めて,特定補助人を付する旨の審判を受けた者に宛てた郵便物等を特定補助人に配達すべき旨を嘱託することができると定めている。
同条2項は嘱託の期間を6箇月以内とし,3項は事情変更による取消し・変更(期間の伸長はできない。)を,4項は特定補助人の任務終了時の必要的取消しを定めている。
取消し・変更を請求できる者は,本人,特定補助人又は補助監督人である(同条3項)。
改正後の民法876条の17は,現行の民法860条の3と同じく,特定補助人の開披,事務に関しないものの速やかな交付,本人の閲覧請求を定めている。
以上から,改正後は,回送嘱託と開披の権限を持つのは特定補助人に限られ,同意権や代理権を付与されただけの補助人には認められない。
2 家事事件手続法の対応規定
改正後の家事事件手続法(e-Gov法令検索の未施行版で確認)では,この審判事件は別表第一の二十三の項(「特定補助人を付する処分の審判を受けた者に宛てた郵便物等の配達の嘱託及びその嘱託の取消し又は変更」,根拠規定は民法876条の16第1項,第3項及び第4項)となる。
本人の手続行為能力は118条16号,本人の陳述聴取は120条1項15号,信書の送達の事業を行う者への通知は122条3項,本人への通知は122条4項4号,取消し・変更の審判の特定補助人への告知は122条1項12号,即時抗告は123条1項13号から15号まで,抗告審での事業者の陳述聴取の例外は124条に置かれる。
即時抗告権者は,嘱託の審判について本人及びその親族,取消し又は変更の審判について特定補助人,却下の審判について申立人であり,現行法と同じ構造である。
3 施行日前に開始した後見の扱い
令和8年法律第45号附則2条1項は,施行日前に後見開始の審判がされた場合における成年被後見人並びにその成年後見人及び成年後見監督人に関する民法の規定の適用については,附則に特別の定めがある場合を除き,なお従前の例によると定めている。
したがって,施行日前に開始した後見については,施行日後も,現行の民法860条の2・860条の3に基づいて回送嘱託を申し立て,開披をすることになると考えられる。
ただし,同条2項・3項により,解任については改正後の民法876条の5が,本人の意向の尊重等については改正後の民法876条の11が適用される。
家事事件手続法の側の経過措置の細部は,本記事では確認していないので,施行日前後に申し立てる場合は家庭裁判所に確認されたい。
施行日前に開始した補助は,施行日以後,改正後の補助開始の審判とみなされる(附則4条1項)から,現行法と同じく回送嘱託は利用できない。
4 特定補助人でない補助人が郵便物を把握する方法
改正後は,本人の判断能力が事理弁識能力を欠く常況に至っていない限り特定補助人を付することはできないから,多くの補助人は回送嘱託を使えない。
本記事では,特定補助人でない補助人が郵便物を把握する方法として,次のものが考えられると整理する。
①代理権の範囲内で,年金,介護保険,医療保険,税,福祉サービス等の発送元に対し,送付先を補助人の事務所とする変更を届け出る(本書162頁の保佐人についての記述と同じ考え方である。)。
②本人に判断能力がある範囲で,本人自身から発送元に送付先の変更を届け出てもらい,又は本人の同意を得て補助人が届出を代行する。
③本人が入院・入所した場合は,本人の居所への転居届(郵便法35条)により郵便物を病院・施設に集め,本人の了解を得て職員から補助人に引き渡してもらう。
④本人と定期的に面会し,本人と一緒に郵便物を開いて確認する。
⑤金融機関,証券会社,保険会社には,代理権の範囲内で補助人の届出を行い,取引報告書等の送付先について各社の取扱いを確認する。
いずれも本人の意思の尊重(改正後の民法876条の11)を前提とするものであり,本人宛ての封書を本人の了解なく開くことは,開披の権限を定めた規定がない以上,避けるべきである。
本人の判断能力が低下して郵便物の管理ができなくなり,任意の方法では財産の把握ができない状態になったときは,特定補助人を付する旨の審判の請求(改正後の民法10条1項2号により補助人も請求できる。)を検討することになる。
第11 本書刊行後に変わった点と大阪家裁の運用
1 申立書は全国共通の書式になった
本書35頁は,申立書は大阪家庭裁判所後見サイトからダウンロードできるとしている。
基準日現在,大阪家裁の成年後見のページは,申立書については「後見ポータルサイト」にあるものを使うよう案内し,陳述聴取状況報告書,陳述書,上申書及び成年後見監督人の同意書(回送嘱託用)を大阪家裁独自の書式として掲載している。
後見ポータルサイトの申立書は,選任後1年以内の初回申立て,選任後1年以上経過した後の初回申立て,再度の申立ての三つの記入例を示している。
2 郵便料
回送嘱託の郵便料は,前記第4の3のとおり,大阪家裁の一覧(令和8年8月3日~)で郵便切手1,440円,現金・電子納付2,000円とされている。
郵便料は裁判所ごとに異なり,改定されることもあるので,申立ての直前に申立先の家庭裁判所の一覧で確認する。
裁判所ウェブサイトの手続案内は,郵便料を保管金として納付することができ,インターネットバンキングやATMからの電子納付も可能であると案内している。
3 確認できなかった事項
回送嘱託の審理期間,認容率,大阪家裁で申立てが却下される典型例については,公式資料で確認できなかった。
大阪家裁の運用の全体像は,大阪家裁後見センター――組織の位置付け,沿革及び独自の運用実務で扱っている。
第12 出典・参考資料
1 法令
民法(10条(令和8年改正後),846条,853条,859条の2,860条の2,860条の3,873条の2,876条の5,876条の10,876条の16・876条の17(令和8年改正後)) e-Gov法令検索
家事事件手続法(74条,86条,117条,118条,120条,122条,123条,123条の2,別表第一の十二の二の項。令和8年改正後の118条,120条,122条,123条,124条,別表第一の二十三の項) e-Gov法令検索
郵便法(35条) e-Gov法令検索
民間事業者による信書の送達に関する法律(2条3項) e-Gov法令検索
日本国憲法(21条2項) e-Gov法令検索
刑法(133条) e-Gov法令検索
成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成28年法律第27号)附則 e-Gov法令検索(民法の改正履歴)
民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)附則1条~4条 e-Gov法令検索(民法の未施行版)
法務省「民法等の一部を改正する法律 新旧対照条文」 法務省
2 公的資料
法務省「「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が平成28年10月13日に施行されました。」 法務省
裁判所「成年被後見人に宛てた郵便物等の配達(回送)の嘱託」 裁判所
裁判所「成年被後見人に宛てた郵便物等の配達(回送)の嘱託の取消し・変更」 裁判所
裁判所「成年被後見人に宛てた郵便物等の配達(回送)嘱託申立書」(申立書及び記入例1~3) 裁判所
裁判所「成年被後見人に宛てた郵便物等の配達(回送)嘱託の取消し・変更申立書」(申立書及び記入例) 裁判所
大阪家庭裁判所「成年後見」(回送嘱託の申立て及び取消し・変更の申立て) 裁判所
大阪家庭裁判所「陳述聴取状況報告書」(書式3-3) 裁判所
大阪家庭裁判所「陳述書」(書式3-2) 裁判所
大阪家庭裁判所「同意書(回送嘱託用)」(書式2) 裁判所
大阪家庭裁判所「本人の陳述聴取の流れ」(書式1) 裁判所
大阪家庭裁判所本庁・管内支部「郵便切手及び予納金一覧(令和8年8月3日~)」 裁判所
日本郵便「入院中の親族に代わり転送を受けたい」 日本郵便
日本郵便「入院中だけ病院へ転送したい」 日本郵便
3 文献
大阪弁護士会高齢者・障害者総合支援センター編『【全訂版】成年後見人の実務2023』(大阪弁護士協同組合,2023年)35頁~36頁,42頁,46頁,48頁,137頁,162頁
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