第1 この記事の対象と結論
本記事は,山中弁護士ブログに掲載する裁判官の経歴記事,異動記事,一覧及び検索可能なデータベースについて,個人情報保護法57条の報道・著述目的の適用除外と,苦情・訂正・削除等の申出への対応を整理するものである。
基準日は令和8年9月16日である。
結論として,文章によって事実を伝え又は分析する記事と,氏名・期・生年月日・在職庁等を構造化して表示する一覧又はデータベースとを,同じ理由で一括して適用除外と断定するべきではない。
個人情報保護法57条は主体と取扱目的に着目する一方,個人情報保護委員会の通則ガイドラインは,名簿等のようにデータの羅列にすぎないものは「著述」に該当しないとしているためである。
もっとも,一覧又はデータベースが記事の取材・検証・検索・文脈理解を支える編集上の機能を持つこともある。
各画面の目的,内容,表現,更新方法及び記事との関係を確認し,報道,著述,単なる名簿その他の機能を画面又は処理ごとに評価する必要がある。
第2 個人情報保護法57条の内容
1 主体と目的の組合せで判断する
個人情報保護法57条1項は,個人情報取扱事業者等又は個人関連情報取扱事業者のうち,報道機関が報道目的で取り扱う場合及び著述を業として行う者が著述目的で取り扱う場合等について,同法第4章を適用しないと定める。
同条2項の「報道」は,不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることをいい,これに基づいて意見又は見解を述べることを含む。
したがって,ウェブサイト運営者であること又は公開情報を扱うことだけで当然に適用除外となるわけではない。
誰が,どの情報を,何の目的で,どの画面又は作業に用いるかを確認する必要がある。
2 著述と名簿の違い
個人情報保護委員会の通則ガイドラインは,「著述」について,文芸作品,文芸批評,評論のほか,学術書,実用書等の人間の知的活動の成果といえるものを書き表すことを含むと説明する。
他方で,名簿等のようにデータの羅列にすぎないものは「著述」に該当しないとしている。
裁判官の経歴を時系列で説明し,異動の意味又は制度的背景を記述する記事は,単なるデータ列挙とは異なる。
これに対し,氏名,期,生年月日又は勤務先を一定の項目で並べるだけの画面については,「著述」の該当性を当然の前提にしない方が安全である。
3 適用除外でも残る努力義務
個人情報保護法57条3項は,同条1項各号の主体に対し,個人データ等の安全管理,個人情報等の取扱いに関する苦情処理その他の適正な取扱いを確保するために必要な措置を自ら講じ,その内容を公表するよう努めることを求める。
適用除外を理由として苦情,訂正資料又は事情説明を一律に受け付けない運用は,同項の趣旨と整合しにくい。
同法179条の個人情報データベース等不正提供罪は,57条1項各号の主体にも適用されることが通則ガイドラインに明記されている。
また,個人情報保護法上の適用除外は,名誉,プライバシー,肖像,著作権,守秘義務又は個別法上の責任まで一括して消滅させるものではない。
4 情報提供者への委員会権限の制限
個人情報保護委員会のFAQは,報道機関に報道目的で個人データを提供する行為等について,その行為に関する限り,委員会が情報提供者に対して報告徴収,勧告,命令等の権限を行使しないことを,個人情報保護法149条2項に基づく仕組みとして説明している。
これは,情報提供に関係する全ての法的責任が免除されるという規定ではない。
「行政当局から個人情報保護法違反に問われない」と一般化せず,個人情報保護委員会の権限不行使の対象と範囲を正確に示すべきである。
第3 本ブログの情報を四つに分ける
1 経歴記事及び人事記事
個々の裁判官の任官,異動,担当,退官後の公表経歴その他の事実を出典とともに説明する記事は,報道又は著述の性質を持ち得る。
事実と評価を分け,裁判所,官報,国会,会議資料,情報公開文書その他の出典を記録する。
裁判官の固有名を挙げる記事では,その裁判官名から既存の経歴記事へリンクし,読者が文脈と更新状況を確認できるようにする。
2 一覧及び検索データベース
勤務地別,修習期別,生年月日順その他の一覧及び検索データベースは,記事発見,異動確認及び制度理解に役立つ。
しかし,表示がデータの羅列にとどまる場合は,それ自体を「著述」と断定しない。
データベースについては,収録目的,項目,取得元,更新日,誤りの訂正方法,記事との接続及び公開の必要性を別に記録する。
検索・並替え機能を備えることだけで,報道・著述目的が否定又は肯定されるわけではない。
3 取材資料及び未公開の作業記録
公開記事を作るための取材資料,出典台帳,照合記録及び未公開メモは,公開画面とは別の安全管理が必要である。
アクセス権限,保存場所,持出し,委託先,削除及び事故対応を定める。
4 閲覧者及び相談者の情報
アクセスログ,Cookie,問い合わせフォーム,法律相談及び連絡先の情報は,裁判官経歴記事の報道・著述目的とは別の取扱いである。
サイト閲覧・相談に関する個人情報について,57条の適用除外を当然に広げてはならない。
第4 公開情報と正確性
裁判所,官報,国会,公文書又は本人の公表資料に載った情報であっても,取得元が公開されているという理由だけで,目的,正確性,更新,保存期間及び再公表の影響を検討しなくてよいわけではない。
特に,古い役職,誤記,同姓同名,異動の反映漏れ及び出典のリンク切れは,経歴理解を誤らせる。
公開前には,氏名,期,任官日,異動日,勤務先及び出典の対応を確認する。
訂正時には,単に現在の表示を直すだけでなく,いつ,どの出典に基づいて,何を直したかを内部記録へ残す。
第5 苦情,訂正及び削除等の申出
1 申出を受け付ける
法定の開示等請求が適用されるか否かと,事実誤認,出典違い,事情変更,危険又は過大な影響に関する申出を受け付けることは別問題である。
本ブログは,適用除外の主張を維持する場合でも,57条3項の趣旨に沿って苦情及び訂正資料を受け付け,内容を確認する仕組みを公表するのが相当である。
申出時に求める情報は,対象URL,対象箇所,求める対応,理由及び裏付資料を基本とし,本人確認は必要性と危険に応じて最小限にする。
運転免許証等を求める場合は,必要な部分以外のマスキング,安全な送信方法,利用目的,閲覧者及び確認後の削除時期を案内する。
2 判断要素
対応を検討する際は,①情報の真実性・正確性,②出典の確実性,③現在性,④公務又は制度との関係,⑤公開目的,⑥項目の必要性,⑦本人及び関係者への具体的影響,⑧訂正,注記,検索除外,表示範囲の限定又は削除という代替手段,⑨報道・著述への影響及び⑩同種案件との整合性を確認する。
最高裁平成29年1月31日第三小法廷決定(平成28年(許)第45号,民集71巻1号63頁)は,検索結果の削除について,公表されない法的利益と検索結果を提供する理由に関する諸事情を比較衡量し,前者が優越することが明らかな場合を問題とした。
最高裁令和4年6月24日第二小法廷判決(令和2年(受)第1442号)は,Twitter上の逮捕歴投稿の削除について,同サービスの性質等を踏まえた比較衡量を行った。
これらは,裁判官経歴データベース又は個人情報保護法57条の適用範囲を直接判断した判例ではない。
インターネット上の情報を継続表示する利益と公表されない利益が,媒体,情報の性質,時の経過及び被害等を踏まえて個別に検討されることを示す参照例である。
3 回答と記録
受付日,対象URL,申出内容,確認した出典,判断,実施した措置及び回答日を記録する。
直ちに結論を出せない場合は,受付と確認中であることを連絡し,公開継続による危険が大きいときは暫定非表示又は検索制限も検討する。
申出者へは,個人情報保護法上の請求該当性だけでなく,事実確認の結果と実施した措置を可能な範囲で説明する。
取材源,第三者の権利,安全又は不正利用防止のため説明できない部分は,その理由を区別する。
第6 安全管理及び公表する措置
本ブログで公表する措置として,少なくとも次を明示することが考えられる。
①公開情報及び公的資料を基本とする出典基準
②氏名,期,異動日等の照合及び更新手順
③取材資料,出典台帳及び管理画面のアクセス制御
④苦情・訂正・削除等の申出窓口
⑤申出時の本人確認情報の最小化及び削除
⑥訂正,注記,非表示,検索制限及び削除の検討手順
⑦事故時の停止,保全,影響確認及び連絡
⑧法令,ガイドライン及びサイト機能変更時の見直し
プライバシーポリシーには概要と窓口を置き,本記事に判断枠組み及び具体的措置を置くと,閲覧者が一回程度の操作で到達しやすい。
第7 現在のプライバシーポリシーとの関係
本記事の公表に当たっては,現行プライバシーポリシーの「裁判官等の経歴に関する記事及びデータベースは全て57条により第4章の適用外であり,開示・訂正等の対象とならない」と読める断定を改める必要がある。
記事,データベース及び相談者・閲覧者情報を分け,法的評価を画面・目的ごとに行うこと,法的義務の有無とは別に苦情・訂正資料を受け付けることを明記する。
また,最高裁昭和57年3月12日第二小法廷判決(昭和53年(オ)第69号,民集36巻3号329頁)は,裁判官の裁判行為について国家賠償責任が生じる場合を判示したものであり,個人情報の安全管理又は苦情処理の根拠ではない。
同判決をプライバシーポリシーの安全管理・苦情処理と結び付ける記載は削除するのが相当である。
第8 判例秘書を含む調査状況
個人情報保護法57条及び149条2項の説明は,e-Gov法令検索,個人情報保護委員会の通則ガイドライン及びFAQを一次資料として確認した。
上記3件の最高裁判例は,裁判所HP掲載の判決又は決定本文を確認した。
判例秘書については,本記事作成時に「裁判官経歴データベース」と個人情報保護法57条を直接結び付けたテーマ専用の網羅検索を実施していない。
したがって,直接判例が存在しないとは断定せず,具体的な紛争又は請求類型が生じた場合に追加検索する。
第9 出典
①e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
②個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
③個人情報保護委員会FAQ「個人情報保護法の適用除外とはどのような制度ですか」 https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q11-5/
④最高裁平成29年1月31日第三小法廷決定(平成28年(許)第45号,民集71巻1号63頁) https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/086482_hanrei.pdf
⑤最高裁令和4年6月24日第二小法廷判決(令和2年(受)第1442号) https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-91265.pdf
⑥最高裁昭和57年3月12日第二小法廷判決(昭和53年(オ)第69号,民集36巻3号329頁) https://www.courts.go.jp/hanrei/54239/detail2/index.html