第1 結論
ギプス,装具又は術後管理による固定期間が長いほど可動域制限が生じやすいという一般的な関係はある。しかし,「固定が何週間を超えれば回復しない」,又は「固定解除から何か月で症状固定になる」という人に共通する境界はない。
人を対象とした臨床研究では,早期運動又は早期荷重が短期の可動域及び機能回復を速める傷病がある一方,長期には差が縮小する傷病もある。また,すでに生じた外傷後拘縮が,装具療法開始後6か月から12か月にわたり改善した研究もある。
したがって,固定期間は重要な事情であるが,それだけで回復可能性又は症状固定時期を決めることはできない。
症状固定を検討するときは,①傷病と固定の目的,②骨・靱帯その他の組織の安定性,③自動・他動可動域の経時変化,④実施済みの治療と反応,⑤医学上一般に認められた治療の残存選択肢,⑥改善が継続しているか停滞しているかを個別に確認する必要がある。
本記事は,令和8年10月9日までに確認できた人対象の臨床研究及び診療指針を基礎として,固定期間,可動域制限の回復可能性及び症状固定の関係を整理するものである。
第2 固定期間だけで回復限界を決められない理由
1 同じ「固定」でも内容が異なる
固定には,関節をギプスでほぼ動かさない管理,着脱可能な装具を用いて運動時だけ外す管理,荷重は禁止するが関節運動は許す管理,内固定術によって骨片を安定させて早期運動を可能にする管理などがある。
「4週間固定」と記載されていても,固定範囲,関節肢位,着脱の可否,荷重制限,許可された運動及び実際の活動量が異なれば,関節や筋への影響も異なる。
また,固定される理由も,骨折の転位防止,靱帯又は腱の修復部位の保護,術創の保護,疼痛の軽減など様々である。
早く動かすことが有利な研究結果があっても,個別の骨折又は修復組織が不安定な時期に運動を開始してよいという意味ではない。
2 発生リスクと不可逆性は別の問題である
不動が長くなるほど,筋力低下,浮腫,疼痛に伴う防御的な筋収縮,関節包・靱帯・筋その他の軟部組織の変化が重なり,可動域制限が生じ得る。
しかし,固定によって可動域制限が生じたことと,その制限が治療によって今後改善しないことは同じではない。
沖田実編『関節可動域制限 第2版』が紹介する完全固定実験の多くは動物を対象とする。これらは不動に伴う組織変化を理解する資料にはなるが,実験動物の完全固定期間を,そのまま人の回復限界又は症状固定時期へ置き換えることはできない。
3 集団の平均と個人の予後は区別する
臨床研究は,特定の傷病,手術又は固定法を受けた集団について平均的な効果を比較するものである。
同じ研究内でも,年齢,骨折型,軟部組織損傷,疼痛,神経障害,糖尿病等の併存症,喫煙,治療参加度及び合併症によって経過は異なり得る。
そのため,研究で「早期運動群の回復が速かった」という結果は,早期運動の臨床的意義を示すが,後から診る一人の患者について「長く固定したから永久に治らない」,又は「平均的には改善するから症状固定ではない」と直ちに判断する根拠にはならない。
第3 固定期間と早期運動に関する人対象の臨床研究
1 単純性肘関節脱臼
成人100人を対象とした多施設無作為化比較試験では,整復後すぐに自動運動を始めた群と3週間ギプス固定した群を比較した。
早期運動群は6週時点の屈伸可動域が広く,仕事への復帰も早かったが,1年時点の上肢機能には実質的な差が認められなかった。
この結果は,単純性肘関節脱臼では長い固定を避けることが短期回復に有利となり得ることを示す。他方で,1年時点には群間差が縮小しているため,3週間固定したことだけから永久的な可動域制限を推定することもできない。
2 転位のない又は軽度の橈骨遠位端骨折
令和7年に公表された成人402人の多施設研究は,整復を要しない転位のない又は軽度の橈骨遠位端骨折について,1週間のギプス固定後に段階的な運動を始める群と,3週間から5週間固定する通常治療群を比較した。
6週時点の患者立脚型手関節評価に臨床的に重要な差はなく,疼痛,満足度,再転位及び手術率にも有意差はなかった。
この研究は,対象を安定した特定の骨折に限定すれば,短い固定でも安全に治療できる可能性を示す。ただし,整復後も不安定な骨折,関節内骨折又は手術後の管理へそのまま広げることはできない。
3 足関節骨折術後
令和6年の英国23施設による無作為化比較試験は,手術を受けた成人561人を,術後2週から疼痛に応じて荷重する群と,さらに4週間荷重しない群に分けた。
術後4か月の足関節機能について早期荷重は遅延荷重に劣らず,平均値は早期荷重群の方が良好であり,合併症率に統計学的な差はなかった。
同じく令和6年の成人157人の無作為化試験では,足関節骨折の内固定術後2週から段階的な自宅運動等を行う群は,6週までギプス固定する群より12週及び24週の機能回復が速かったが,52週には差が収束した。
令和7年の英国8施設・成人243人の試験では,術後2週からギプス又は着脱可能なブーツを用い,両群に早期荷重を促したところ,全体の機能成績に差はなく,一部の可動域はブーツ群で良好であったものの,軽微なものを含む合併症はブーツ群で多かった。
さらに,令和8年の成人52人の無作為化試験は,術後2週から保護下荷重及び理学療法を始めた群で,6週まで非荷重とした群より復職及び可動域回復が速かったと報告した。ただし,単施設の小規模研究であり,著者らも大規模研究による確認が必要としている。
これらの研究は,安定した内固定後には早期荷重又は早期運動が回復を促す場合があることを示す一方,傷病,固定法,運動と荷重の組合せ及び評価時期によって結果が異なることも示している。
第4 固定解除後又は拘縮成立後にも改善することがある
1 外傷後肘関節拘縮の装具療法
外傷後肘関節拘縮の成人66人を対象とした無作為化比較試験では,静的漸進装具と動的装具のいずれを用いた群でも,装具療法開始後3か月,6か月及び12か月と可動域が改善した。
屈伸可動域の平均改善は,3か月で約28度から29度,6か月で約39度から40度,12か月で約47度から49度であった。
この研究は,すでに「外傷後拘縮」と診断され,標準的な運動だけでは十分な改善が得られなかった患者でも,その後6か月から12か月にわたり改善し得ることを示す。
令和7年に公表された外傷後又は術後肘関節拘縮の人対象コホート研究も,静的漸進装具の開始から3か月で可動域が改善したと報告しているが,年齢等により治療反応は異なっていた。
2 足関節骨折のギプス固定後
足関節骨折のギプス固定後に底屈拘縮が生じた成人150人を追跡した研究では,固定解除後3か月間に足関節の柔軟性は改善したものの,正常値への回復は未完了であった。
固定解除時に可動域が悪いこと又は3か月で正常に戻らないことは,それだけでは回復の終了を意味しない。
もっとも,同じ成人150人を対象とした無作為化比較試験では,運動療法に短時間又は長時間の受動的ストレッチを追加しても,運動療法だけの場合を上回る効果は認められなかった。
回復可能性が残ることと,どの治療でも有効であることは別である。
第5 診療指針が示す考え方
1 外傷後リハビリテーションに関する指針
英国の外傷後リハビリテーション診療指針は,外科チームが荷重制限の理由,範囲及び期間を早期に記録し,可能になり次第,荷重運動,筋力訓練及び可動域訓練を開始することを勧めている。
運動の頻度及び負荷量は個人の必要と目標に応じて決めるべきであり,全ての障害へ共通する固定期間又は訓練期間を示してはいない。
また,同指針は,装具又は副子の使用を定期的に見直し,機能喪失や将来の合併症につながる肢位を避けること,影響を受けた関節には他動,自動介助又は自動の可動域訓練を行うことを勧めている。
2 足関節捻挫に関する指針
令和3年の足関節外側靱帯捻挫の診療指針は,急性期に外部支持を用いながら段階的に荷重することを強く勧め,重症例で固定が必要な場合もおおむね受傷後10日までとしている。
ただし,これは足関節外側靱帯捻挫に関する推奨であり,骨折,腱縫合又は別の関節へ一律に適用する数字ではない。
3 日本の診療指針
日本理学療法士協会の「理学療法ガイドライン第2版」は,傷病ごとに,大腿骨近位部骨折術後の早期荷重運動,橈骨遠位端骨折固定中の手関節以外の可動域訓練,手指屈筋腱損傷後の早期運動等を別々の臨床課題として扱っている。
日本整形外科学会の一般向け説明も,膝関節捻挫の保存治療では長期ギプス固定をできるだけ避け,装具等を用いて早期から運動する機能的治療が主体であると説明する。
これらの資料も,早期運動の可否は傷病,修復組織及び安定性によって異なるという考え方を採っており,固定期間だけから人の回復限界を定めていない。
第6 回復可能性と症状固定は同じ問題ではない
1 労災保険における症状固定
厚生労働省は,労災保険における「治ゆ」,すなわち症状固定を,健康時の状態に完全に回復した場合だけでなく,症状が安定し,医学上一般に認められた医療を行っても医療効果が期待できなくなった状態と説明している。
したがって,可動域制限が残っていること自体は,症状固定を妨げない。
反対に,固定解除後であること,骨癒合が得られたこと,又は一定期間が経過したことだけで,直ちに症状固定になるわけでもない。
標準的な治療により実質的な改善がなお期待できるなら,その治療の内容,予定期間及び見込まれる効果を確認する必要がある。
2 将来の変化と医療効果を区別する
症状固定後も,加齢,日常活動,訓練の継続その他の要因によって症状又は可動域が多少変化することはあり得る。
労災保険の定義が問題とするのは,将来に一切の変化が起こらないかではなく,医学上一般に認められた医療による回復・改善を期待できる状態かである。
そのため,「1年後まで平均的な改善が報告されている」という研究だけで,すべての患者の症状固定を1年間待つべきであるとはいえない。
他方で,測定値がなお継続的に改善し,具体的な治療計画と治療反応が記録されている患者について,固定解除から一定月数が経ったという理由だけで改善可能性を否定することもできない。
3 症状固定時期を検討する六つの資料
症状固定時期は,少なくとも次の資料を時系列で確認して検討する。
①受傷部位,骨折型,脱臼,靱帯・腱・神経損傷及び合併症
②ギプス・装具の範囲,肢位,着脱の可否,荷重制限及び実際の固定期間
③骨癒合,関節の安定性,変形,異所性骨化及び内固定材の状態
④自動・他動可動域,疼痛,腫脹,筋力及び日常生活動作の経時変化
⑤理学療法,作業療法,装具療法,手術その他の治療内容,実施量及び反応
⑥主治医又はリハビリテーション担当者が見込む治療目標,期間及び改善幅
第7 後遺障害認定との関係
1 測定時期と経過記録
可動域制限による後遺障害を検討するときは,症状固定時の他動値及び自動値を確認するとともに,固定中,固定解除直後,リハビリテーション中及び症状固定前後の測定値を並べる。
一回の測定値だけでは,固定的な器質的制限,疼痛や防御的筋収縮による変動及び測定条件の違いを区別しにくい。
測定記録には,患側・健側,測定肢位,代償運動,疼痛,測定者及び使用した測定法の版を残す必要がある。
関節可動域の測定方法と後遺障害等級の基準は,関連記事で詳しく説明している。
2 改善可能性を理由に等級を否定するとき
廃用性の機能障害については,将来における障害の程度の軽減を考慮して等級を認定する取扱いがある。
しかし,「固定期間が短い」,「若い」又は「リハビリテーションを続ければよい」という抽象的な理由だけで,現に残る可動域制限の改善可能性を判断するのは適切ではない。
改善可能性を問題にするなら,対象傷病に適用できる治療,開始時期,禁忌,期待される改善幅,これまでの反応及び測定値の推移を具体化する必要がある。
反対に,長い固定期間だけを根拠に不可逆的な拘縮と断定することもできない。
第8 この記事から導けないこと
本記事で参照した研究は,単純性肘関節脱臼,橈骨遠位端骨折,足関節骨折又は外傷後肘関節拘縮等の特定の対象を扱う。
肩関節,股関節,膝関節,手指その他の傷病について,同じ固定期間又は同じ回復曲線を保証するものではない。
また,群平均の差は,一人の患者の治療方法,症状固定日又は後遺障害等級を直接決めない。
個別事案では,診療記録,画像,手術記録,リハビリテーション記録,装具記録及び経時的な可動域測定を優先する。
第9 関連記事
可動域制限の後遺障害―8級・10級・12級,他動値・健側比較と認定されない理由(AI作成)では,関節機能障害の数値基準,主要運動,参考運動及び測定方法を説明している。
可動域制限が後遺障害として認定されない理由―痛み・筋収縮・拘縮・強直の違い(AI作成)では,角度が悪くても認定されない主な理由を整理している。
拘縮と可動域制限の違い――裁判例,行政通達及び医学の見地から(AI作成)では,拘縮,強直,疼痛及び筋収縮の区別を説明している。
固定期間は,固定方法及び固定中の治療内容と一体で確認します。
同じ期間でも,完全固定か着脱式装具か,許可された可動域・荷重,実際の訓練内容,手術による固定性,感染・血栓・神経障害・CRPS・異所性骨化等の合併症によって回復経過は異なります。症状固定時期を検討するときは,主治医の指示,リハビリテーション記録及び可動域の時系列を照合します。
残存する制限の原因と対応資料は,可動域制限の原因と後遺障害―画像・筋力・神経所見から立証資料を選ぶ(AI作成)を参照してください。
第10 出典・参考資料
1 行政資料・診療指針
①厚生労働省「2-2 療養費はいつまでもらえるのですか。」,令和8年10月9日閲覧。
②NICE「Rehabilitation after traumatic injury(NG211)」,令和4年1月公表,令和8年10月9日閲覧。
③Academy of Orthopaedic Physical Therapy, Lateral Ankle Ligament Sprains: Clinical Practice Guidelines Revision 2021,令和8年10月9日閲覧。
④Mindsガイドラインライブラリ「理学療法ガイドライン第2版」,令和3年発行,令和8年10月9日閲覧。
⑤日本整形外科学会「膝関節捻挫」,令和8年10月9日閲覧。
2 人対象の臨床研究
①Iordens GITI et al., Early mobilisation versus plaster immobilisation of simple elbow dislocations: results of the FuncSiE multicentre randomised clinical trial, Br J Sports Med. 2017;51:531-538, PMID 26175020.
②de Bruijn MAN et al., Cast-OFF 2: One Week Versus 3-5 Weeks of Plaster Cast Immobilization for Non- or Minimally Displaced Distal Radius Fractures, J Orthop Trauma. 2025;39:82-89, PMID 39471276.
③Bretherton CP et al., Early versus delayed weight-bearing following operatively treated ankle fracture (WAX), Lancet. 2024;403:2787-2797, PMID 38848738.
④Matthews PA et al., Early Motion and Directed Exercise following ankle fracture fixation: a pragmatic randomized controlled trial, Bone Joint J. 2024;106-B:949-956, PMID 39216862.
⑤Martin R et al., The Ankle Recovery Trial: cast versus removable boot for early mobilization after ankle fracture fixation, Bone Jt Open. 2025;6:1416-1424, PMID 41207325.
⑥Mollaabbasi M et al., Impact of Weight-Bearing and Early Mobilization in Patients After Internal Fixation of Unstable Ankle Fractures, JB JS Open Access. 2026;11:e25.00086, PMID 41947925.
⑦Lindenhovius ALC et al., A prospective randomized controlled trial of dynamic versus static progressive elbow splinting for posttraumatic elbow stiffness, J Bone Joint Surg Am. 2012;94:694-700, PMID 22517385.
⑧Nightingale EJ et al., Passive dorsiflexion flexibility after cast immobilization for ankle fracture, Clin Orthop Relat Res. 2007;456:65-69, PMID 17179787.
⑨Moseley AM et al., Passive stretching does not enhance outcomes in patients with plantarflexion contracture after cast immobilization for ankle fracture, Arch Phys Med Rehabil. 2005;86:1118-1126, PMID 15954049.
3 文献
①沖田実編『関節可動域制限 第2版―病態の理解と治療の考え方』(三輪書店,2013年)第1章,第2章及び第3章。