第1 骨折の慰謝料を確認する順序
1 骨折名だけでは金額は決まらない
交通事故で骨折した場合の入通院慰謝料は,骨折した部位の名称だけで定額になるものではない。
傷害の内容と程度,必要かつ相当な入院・通院期間,手術,固定中の療養状況等を確認し,治療中の精神的苦痛を評価する。
本記事は赤い本2026年版と自賠責保険の支払基準を用いて,その確認順序を説明するものである。
以下の計算例は条件を仮定した例であり,実際の解決事例又は裁判所が認定した金額ではない。
| 最初に分ける項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 入通院慰謝料 | 治療中の苦痛。入通院期間と傷害・治療内容を確認する。 |
| 後遺障害慰謝料 | 症状固定後に残る障害について別に評価する。骨折したことだけでは等級は決まらない。 |
| 慰謝料以外の損害 | 治療費,通院交通費,付添費,休業損害,逸失利益等を項目別に確認する。 |
| 最終支払額 | 損害全体の評価後に,過失割合,既払金及び各給付の控除関係を確認する。 |
2 三つの基準と示談金を混同しない
自賠責保険の支払基準,任意保険会社の提示に用いられた基準及び裁判実務の目安は,それぞれ別に確認する。
赤い本の金額がそのまま全件の示談額になるわけではなく,任意保険会社の提示額も直ちに裁判上の評価と一致するとは限らない。
全体の早見表は交通事故の慰謝料相場と計算方法を,提示額の内訳は交通事故の示談案の確認方法を参照されたい。
第2 入通院期間を使った慰謝料の目安
1 赤い本の別表Ⅰを出発点にする
赤い本2026年版上巻218頁は,傷害慰謝料について原則として別表Ⅰを使うとしている。
他覚所見のないむち打ち症等に用いる別表Ⅱとは区別し,骨折については診断・画像・治療経過を確認した上で,別表Ⅰを出発点として検討する。
次表は,記載した期間全体が算定の基礎となる相当な治療期間であると仮定した金額である。
過失相殺,既払金,増減額の事情及び後遺障害分は反映していない。単位は万円である。
| 仮定した治療経過 | 別表Ⅰの目安 |
|---|---|
| 入院なし・通院1か月 | 28 |
| 入院なし・通院3か月 | 73 |
| 入院なし・通院6か月 | 116 |
| 入院1か月・その後の通院3か月 | 115 |
| 入院2か月・その後の通院4か月 | 165 |
2 入院分と通院分を単純に足さない
入院後に通院した場合は,別表Ⅰで入院月数と通院月数が交差する欄を用いる。
例えば入院1か月・通院3か月では115万円が目安であり,入院のみ1か月の53万円と通院のみ3か月の73万円を足した126万円ではない。
長期通院について,赤い本は症状,治療内容及び通院頻度を踏まえ,実通院日数の3.5倍程度を算定上の通院期間の目安とすることもあるとしている。
通院期間を常にその倍率へ置き換えるものではない。詳しくは通院日数が少ない場合の入通院慰謝料を参照されたい。
3 自賠責の1日4300円と限度額
令和2年4月1日以後に発生した事故に適用される自賠責の支払基準では,傷害慰謝料は1日4300円である。
対象日数は,傷害の態様,実治療日数その他を勘案し,治療期間の範囲内で定める。
例えば対象日数が60日と認定されると仮定すれば,4300円×60日=25万8000円となる。
この例は通院した回数を機械的に2倍にするという意味ではなく,対象日数の認定が先に必要である。
自賠責の傷害による損害の限度額120万円には,慰謝料だけでなく治療関係費,文書料及び休業損害等も含まれる。
入院・手術の治療費と慰謝料をそれぞれ120万円まで受け取れる制度ではない。
第3 手術・重い傷害・ギプス固定をどう評価するか
1 手術をしただけで一定額を上乗せするものではない
赤い本2026年版上巻218頁は,傷害の部位・程度によって別表Ⅰの金額を20~30%程度増額することや,生死が危ぶまれる状態の継続,麻酔なしの手術等の極度の苦痛,繰り返された手術等で別途増額を考慮することを示している。
これは個別事情の評価であり,「骨折なら30%」「手術1回ごとに何万円」という自動加算を定めたものではない。
手術記録,入退院の経過,疼痛への処置,治療上の制限及び生活への具体的な影響を対応させて検討する。
治療費としての手術料と,慰謝料の増額事情としての手術の苦痛も区別する必要がある。
2 ギプス期間を入院扱いするには療養の実態を確認する
同頁は,入院待機中の期間及びギプス固定中等で安静を要する自宅療養期間を,入院期間とみることがあるとしている。
したがって,ギプスを装着したという事実だけで,装着日数全てが当然に入院日数へ振り替わるわけではない。
固定部位・範囲,荷重や移動の制限,医師の安静指示,介助の内容及び実際の療養場所を確認する。
入院扱い,算定対象日数及び慰謝料の考慮事情の違いは,ギプス固定期間は入通院慰謝料でどう評価されるかで説明している。
第4 治療後も痛みや動かしにくさが残った場合
1 治療期間の慰謝料と後遺障害分を分ける
治療後の痛み,可動域の制限等については,症状固定の時期,診断,検査所見及び事故との因果関係を確認する。
骨折の診断又は画像があることだけで,残存症状について特定の後遺障害等級や金額が確定するものではない。
後遺障害慰謝料と,労働能力への影響を評価する逸失利益は別の損害項目である。
入通院慰謝料の早見表に,等級や就労への影響を確認しないまま両者を上乗せすることはできない。
2 医学資料の役割を分けて収集する
| 資料 | 確認する点 |
|---|---|
| 初診時の診療記録・画像 | 事故直後の症状,受傷部位,診断及び治療方針 |
| 手術・リハビリの記録 | 処置の内容と時期,治療経過及び指示された制限 |
| 固定期間の記録 | 固定の開始・終了,安静や介助の必要性 |
| 症状固定前後の記録 | 残存症状,検査結果,可動域等の測定条件及び経過 |
各資料は,受傷の確認,療養期間の評価及び残存障害の評価のどれに用いるかを明確にする。
具体的な所見の読み分けは,交通事故の入通院慰謝料に影響する他覚所見を参照されたい。
3 骨折した部位から詳しい資料を確認する
治療後の痛み、可動域、変形、短縮等は、骨折の部位と残った支障に応じて詳しく確認する。次のリンクは、部位だけで等級や金額を決める表ではない。
| 自分の状態 | 詳しい記事 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 手首の骨折後に動かしにくい | 橈骨遠位端骨折の後遺障害 | 可動域の測定、画像、診断書、仕事や家事の支障 |
| 大腿骨骨折後に歩行等の支障がある | 大腿骨骨折の慰謝料・逸失利益 | 短縮、痛み、人工骨頭等の状態と生活・仕事への影響 |
| 胸腰椎の圧迫骨折がある | 胸腰椎圧迫骨折の逸失利益 | 画像、変形、残る症状、具体的な作業への支障 |
画像上の所見、本人が訴える症状、測定した機能、仕事への支障は、それぞれが示す事実を分ける。追加検査や意見書の必要性は、現在ある資料で何が分かり、結論を左右する何が残っているかを確認してから検討する。
第5 示談前の確認事項とよくある質問
1 提示額のどこに争いがあるかを確認する
示談案では,①別表Ⅰ・Ⅱのどちらを使ったか,②入院・通院期間を何日又は何か月としたか,③固定や手術の事情をどう評価したか,④後遺障害分を含むか,⑤過失割合と既払金をどこで反映したかを確認する。
説明のない部分は,金額だけでなく計算の前提を文書で照会する。
保険会社による治療費の支払終了と,治療の必要性や症状固定は区別する。
支払終了後の受診と資料の残し方は,交通事故で治療費を打ち切られた場合の確認事項を参照されたい。
2 骨折なら慰謝料はいくらになるか
骨折名だけでは決まらない。
まず第2の条件付き早見表で相当な治療期間に対応する目安を確認し,次に第3の手術・固定等の事情と,第4の残存障害を別に検討する。
3 抜釘等の追加処置が予定されている場合に何を確認するか
追加処置の必要性・予定時期,その後の受診や就労制限,費用負担及び示談の清算範囲を,医師の説明と示談書の文言に即して確認する。
将来の処置が未確定なまま全損害を清算する案である場合は,何を確定し何を留保するかを確認してから合意する必要がある。
第6 出典と本記事の範囲
1 算定基準及び法令
①日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2026年版上巻218頁・219頁(原本PDF232頁・233頁)。別表Ⅰの使用方法,増額の考慮事情,自宅療養期間及び金額を確認した。
②金融庁・国土交通省自賠責保険の支払基準,第2及び令和2年4月1日適用に関する附則。
③国土交通省自賠責保険・共済の限度額と補償内容。
④民法695条,709条,710条及び722条(e-Gov法令検索の現在施行表示,2026年10月4日確認)。
2 計算例と個別事件の判断
本記事の計算例は,資料に記載された算定方法へ仮定した期間・対象日数を当てはめた説明である。
個々の骨折についての後遺障害等級,治療の必要性,増額率及び最終回収額を保証するものではなく,部位別の裁判例を横断して集計した相場でもない。
山中弁護士への事件のご依頼・ご相談は交通事故のお問い合わせから可能である。