第1 AIエージェント用パソコンの結論
AIエージェントを利用するだけであれば,WindowsとMacのいずれも選択できる。
令和8年9月15日現在,主要なAIエージェントは両方のOSに対応しているため,普段使う業務ソフト,開発対象及びローカルAIの利用方法から選ぶのが合理的である。
Word,PDF,スキャナその他の既存のWindows環境をそのまま自動化するならWindowsが適している。
iPhone又はMac向けアプリを開発するならMacが必要となり,ローカルAIを重視するならNVIDIA製GPUとApple siliconのどちらに対応するソフトを使うかが分岐点となる。
第2 OSより先に決める三つの条件
1 エージェントに操作させる対象
クラウド側のAIモデルが同じでも,エージェントが読み書きするファイル,実行するコマンド及び操作するアプリは手元のパソコンに依存する。
既存の業務を自動化する場合は,その業務が現在安定して動いているOSを維持する方が,移行時の互換性確認を減らせる。
2 Apple向けアプリを開発するか
AppleのXcodeは対応するmacOS上で動作し,iOS,iPadOS,macOS,watchOS及びvisionOS向けのSDKとSimulatorを提供している。
これらのアプリをAIエージェントにビルド又は検証させることが主目的であれば,Macを選ぶ理由は明確である。
3 AIをクラウドと手元のどちらで動かすか
ChatGPT等のクラウド型サービスを中心に使う場合は,モデルの計算能力よりもブラウザ,Office及び多数の資料を同時に扱えるメモリが重要となる。
大規模言語モデルを手元で動かす場合は,モデルの容量,量子化方式,メモリ又はVRAM,SSD容量及び利用するライブラリへの対応を先に確認する必要がある。
第3 Windowsが適する場合
1 既存の業務環境を維持する場合
Microsoft OfficeはWindowsとMacの双方で提供されているが,既存のアドイン,マクロ,フォント,印刷設定,スキャナ及び業務ソフトまで同一に動作するとは限らない。
Windows中心の環境で蓄積した文書と周辺機器をAIエージェントに操作させる場合は,Windowsを継続する方が移行リスクを抑えやすい。
関連する既存記事として,IT関係のメモ書きがある。
2 Linuxの開発ツールを併用する場合
Windows Subsystem for Linux(WSL)を使えば,Windows上でLinuxディストリビューション,Bash及びLinux用ツールを利用できる。
WindowsではUnix系の開発環境を使えないという説明は,現在のWSLを考慮すると正確でない。
3 NVIDIA製GPUを利用する場合
NVIDIAのCUDAを前提とするAIソフトを使う場合は,対応するNVIDIA製GPUを搭載したWindowsが有力な選択肢となる。
Docker Desktopも,Windows,WSL 2及びNVIDIA製GPUの組合せによるGPU利用を案内している。
第4 Macが適する場合
1 Apple向け開発を行う場合
XcodeによるApple向けアプリのビルド,Simulatorによる確認及び実機デバッグを継続的に行うなら,Macを選ぶのが直接的である。
Windows専用ソフトも必要な場合は,別のWindows端末,クラウドPC又は仮想化を追加する必要がないかも確認することになる。
2 Apple siliconでローカルAIを動かす場合
Apple siliconはCPUとGPUが同じメモリプールへ直接アクセスするユニファイドメモリ構成を採用しており,AppleのMLXはこの構成を利用するよう設計されている。
MLX又はMetalに最適化されたローカルAIを簡潔な構成で試すことが目的なら,Apple silicon搭載Macが候補となる。
3 macOSの環境を既に使っている場合
日常のファイル,ショートカット及びアプリがMacを中心に構成されているなら,AIエージェントのためだけにWindowsへ移行する必要は乏しい。
エージェントを使えるOSを探すのではなく,エージェントに操作させたい環境を維持するという順序で考える方がよい。
第5 ローカルAIではハードウェアを比較する
1 WindowsとMacの双方で動くソフト
例えばOllamaはWindows 10以降に対応し,macOSではApple MシリーズのCPU及びGPUを利用できる。
ローカルAIを実行できるかという一点だけでは,WindowsとMacのいずれか一方には決まらない。
2 NVIDIA製GPUとApple siliconの違い
CUDA対応ソフト,交換可能なGPU及びGPU対応コンテナを重視する場合は,NVIDIA製GPUを搭載したWindowsが候補となる。
MLX又はMetalへの対応,大容量のユニファイドメモリ及び一体型の構成を重視する場合は,Apple silicon搭載Macが候補となる。
3 保存容量
OllamaのmacOS向け公式資料は,ローカルモデルの保存に数十GBから数百GBの追加容量が必要となる場合があると説明している。
ローカルAIを使う端末では,OSとアプリが動くだけの容量ではなく,モデル本体,作業用データ及び更新前後の退避領域を含めてSSDを選ぶ必要がある。
第6 AIエージェントの安全性はOSだけでは決まらない
1 権限とネットワークの管理
AIエージェントにファイル,コマンド,ブラウザ及び外部ネットワークへの広い権限を与えるほど,誤操作と情報流出の影響範囲は広がる。
OpenAIのCodexも,サンドボックス,承認方針及びネットワークアクセスを別々に管理する仕組みを採用しており,Windows又はMacを選んだだけで安全になるわけではない。
AIエージェントと権限管理の関係については,OpenAIの「AI暴走」と700のAIエージェントでも説明している。
2 業務ごとに作業範囲を限定する
機密情報を扱う場合は,業務ごとに作業フォルダを限定し,変更履歴を残し,外部送信又は公開の直前に人が確認できる状態にすることが考えられる。
ウェブページ又は取得資料に含まれる命令文をそのまま信頼せず,調査資料と実行すべき指示を分離することも検討対象となる。
第7 購入時の選び方
1 クラウド型AIを中心に使う構成
クラウド型AIエージェント,ブラウザ,Office及び多数の資料を同時に開く用途では,本記事ではメモリ32GB以上とSSD 1TB以上を実務上の目安とする。
これはベンダーの最低動作要件ではなく,複数の作業を並行させるための推奨値である。
Claude Code又はCodexの利用時にパソコンが固まる原因,メモリ8GB・16GB・32GB・64GBの違い及び確認手順については,Claude Code・Codexでパソコンがフリーズする原因-メモリ8GB・16GB・32GB・64GBの違い(AI作成)で説明している。
2 ローカルAIを中心に使う構成
ローカルAIを頻繁に使う場合は,先に利用するモデルとソフトを決め,Windowsでは必要なVRAMを持つNVIDIA製GPUを,Macでは必要なユニファイドメモリを持つApple siliconを選ぶことになる。
複数のモデル又は仮想環境を同時に動かす用途では,64GB以上のメモリも比較対象となる。
3 迷う場合の結論
現在の業務がWindows中心ならWindowsを継続し,Mac中心ならMacを継続するのが基本となる。
Macを追加するのはApple向け開発又はApple silicon固有のローカルAI用途が具体化したとき,NVIDIA製GPUを追加するのはCUDA対応ソフトを本格的に利用すると決めたときで足りる。
4 Officeのライセンスと購入時の記録
パソコンにOfficeが最初から入っている場合でも,Officeのライセンスの種類によって,再インストールが必要になったときに求められるものが異なる。
令和8年9月29日に確認したマイクロソフトの案内によれば,小売店やオンラインストアで購入したOfficeは,Microsoftアカウントでサインインしてプロダクトキーを入力するとそのアカウントに関連付けられ,個人向けとしてパソコンに最初から入っていたOfficeを再インストールするときも,関連付けられたMicrosoftアカウントが必要とされる。
他方で,日本で企業向けに販売された「Office プレインストール済み PC (企業向け)」のOfficeは,ライセンス認証に個人用のMicrosoftアカウントを必要としないとされている。
このうちプロダクトキーのカードが付属するもの(マイクロソフトによれば2023年まで企業向けに販売された。)では,そのプロダクトキーは「デバイス ベースのライセンス キー」としてMicrosoftアカウントにリンクされず,2022年からは,カードに代えてMicrosoft Storeのデジタル製品が付属している。
そのため,パソコンを購入するときは,次の事項を販売店又は保守業者から書面で受け取り,保管しておくとよい。
①Officeの製品名,版及び種類(個人向けの買い切り版,企業向けのプレインストール版又はMicrosoft 365等のサブスクリプションの別)
②ライセンスの手掛かり(関連付けたMicrosoftアカウント,又はプロダクトキーのカード若しくはMicrosoft Storeのデジタル製品の所在)
③そのアカウントを誰が作成し,回復用の連絡先が誰に届く設定になっているか
④機種名,製造番号,購入日及び納品書
また,Office 2016及びOffice 2019のサポートは令和7年10月14日に終了しているので,中古のパソコン等を購入するときは,入っているOfficeの版も確かめる。
ライセンス認証が外れたときの確認手順は,クイック実行更新サポート(KB5002907)でOffice 2016・2019が「ライセンスのない製品」になったとき―購入時のMicrosoftアカウントの探し方,プロダクトキー及び試用版の扱い(AI作成)で説明している。
第8 出典・参考資料
1 AIエージェント及びOSの公式資料
①OpenAI「ChatGPT desktop app」
https://learn.chatgpt.com/docs/app
②OpenAI「Agent approvals & security」
https://learn.chatgpt.com/docs/agent-approvals-security
③Anthropic「Advanced setup」
https://code.claude.com/docs/en/getting-started
④Microsoft「How to install Linux on Windows with WSL」
https://learn.microsoft.com/en-us/windows/wsl/install
⑤Apple「SDK and system requirements-Xcode」
https://developer.apple.com/xcode/system-requirements
2 ローカルAI及びGPUの公式資料
①NVIDIA「CUDA Installation Guide for Microsoft Windows」
https://docs.nvidia.com/cuda/cuda-installation-guide-microsoft-windows/
②Docker「GPU support in Docker Desktop for Windows」
https://docs.docker.com/desktop/features/gpu/
③MLX Contributors「Build and Install」
https://ml-explore.github.io/mlx/build/html/install.html
④MLX Contributors「Unified Memory」
https://ml-explore.github.io/mlx/build/html/usage/unified_memory.html
⑤Ollama「Download Ollama on Windows」
https://ollama.com/download/windows
⑥Ollama「macOS」
https://docs.ollama.com/macos
3 業務ソフト及びWindows互換性の公式資料
①Microsoft「Office suites for individuals and families」
https://support.microsoft.com/en-us/office/system-requirements/office-suites-for-individuals-and-families
②Microsoft「Options for using Windows 11 with Mac computers with Apple M1, M2, and M3 chips」
https://support.microsoft.com/en-us/windows/experience/platform-variants/options-for-using-windows-11-with-mac-computers-with-apple-m1-m2-and-m3-chips
③Microsoft「Office 2021、Office 2019、または Office 2016 をダウンロードしてインストールまたは再インストールする」
https://support.microsoft.com/ja-jp/office/lifecycle/officeinstall/download-and-install-or-reinstall-office-2021-office-2019-or-office-2016
④Microsoft「Office がプレインストールされた PC に Office を再インストールする (企業向け)」
https://support.microsoft.com/ja-jp/office/lifecycle/reinstall-office-in-your-office-pre-installed-pc-for-corporate
⑤Microsoft「Office 2016 と Office 2019 のサポート終了」
https://support.microsoft.com/ja-jp/office/system-requirements/end-of-support-for-office-2016-and-office-2019