第1 使い続けるために分けて考える三つの対象
1 端末・回線・アカウント
被相続人の死亡後に法定相続人がスマホを使い続けるためには,①スマホ本体,②携帯電話回線と電話番号,③Apple Account,Google アカウント,LINE等のサービスアカウントを分けて処理する必要がある。
本記事は,令和8年9月10日現在の法令及び主要事業者の公表資料に基づき,相続放棄をしない方針と端末の取得者が固まった後,端末及び電話番号の継続利用へ進むための手順を中心に整理するものである。死亡直後の端末保全,推測入力・初期化の回避,回線の解約を含む初動は,被相続人のスマホに関して,死亡直後に遺族がすべきことを参照されたい。
結論として,端末が被相続人所有であれば遺産分割等により取得者を決め,携帯電話会社で契約承継を行い,端末ロック及び各サービスについて別個の死亡時手続を利用する。
電話番号を承継してSMSを受信できても,それだけで被相続人のアカウントへログインする権限を取得するわけではない。
2 最初に相続放棄の可能性を確認する
相続放棄または限定承認の可能性があるときは,初期化,売却,解約金の負担を伴う契約変更,私的利用の開始等を先に行わず,家庭裁判所への申述期限を確認する。
民法921条との関係は個別事情で変わるため,日常的な使用が常に単純承認になるとも,決してならないとも一律にはいえない。
実務上は,電源及び充電状態を保ちながら無用な操作を避け,契約名義,端末の所有関係,残債,共同相続人の意向を確認した後に進めるのが安全である。
相続放棄の期限及び手続については,相続放棄の手続を自分でする方法も参照されたい。
第2 スマホ本体を取得する方法
1 被相続人所有の端末
被相続人が所有していたスマホ本体は,原則として民法896条により相続財産に含まれる。
ただし,端末購入プログラムによる返却対象,貸与品,勤務先所有物等である場合は,被相続人の所有物であることを前提にしてはならない。
購入契約,分割払明細,端末のIMEI等を確認し,所有権,残債及び返却条件を記録する。
通信契約を承継できるかどうかと,端末本体を誰が取得するかは別の問題である。
2 共同相続人がいる場合
共同相続人がいる場合,遺産は民法898条により相続分に応じて共有となるため,一人の相続人が当然に端末を取得するわけではない。
遺言の内容を確認し,必要に応じて遺産分割協議で取得者を決め,端末名,電話番号,IMEI,残債の負担及びデータの取扱いを協議書または確認書に残すのが望ましい。
携帯電話会社に提出する戸籍等とは別に,相続人関係の整理が必要なときは,法定相続情報一覧図の作成方法が参考になる。
相続人間で争いがある場合は,私的利用や初期化を開始せず,端末を現状のまま保管するべきである。
第3 携帯電話回線と電話番号を承継する方法
1 携帯電話会社の承継手続
端末本体を相続しても,携帯電話回線の契約名義及び電話番号が自動的に相続人へ切り替わるわけではない。
契約者死亡による承継として携帯電話会社へ申し出て,死亡の事実,相続関係,承継者の本人確認及び支払方法を示す書類を提出する必要がある。
必要書類,申請窓口,承継できる親族の範囲,手数料,ポイントやメールアドレス等の付随サービスの扱いは事業者ごとに異なる。
手続をしない間も基本料金や端末代金等が発生し得るため,口座を止めるだけで放置せず,事業者へ速やかに連絡することが重要である。
2 主要事業者の手続の違い
| 事業者 | 主な窓口・方法 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| NTTドコモ・ahamo | NTTドコモは店頭,ahamoは郵送手続が中心である。 | 契約の承継とdアカウント,ポイント,決済等の扱いは分けて確認する。 |
| au・UQ mobile | 店頭で承継手続を行う。 | au ID等の付随サービスは承継対象とならないものがある。 |
| SoftBank | 店頭で承継または解約を申し出る。 | 何もしない限り料金が発生し,端末代金の分割残額も継続する旨が案内されている。 |
| 楽天モバイル | 郵送申請後に承継者がウェブ手続を行う。 | 原則として二親等以内,手数料3300円,目安約2週間であり,承継者本人の楽天IDが必要である。 |
民法上の法定相続人の範囲と,携帯電話会社が契約承継を認める親族の範囲は一致しないことがある。
表にないMVNO等も含め,承継希望者が事業者の基準を満たさない場合は,解約,新規契約,番号移行の可否を事業者へ個別に確認する必要がある。
第4 相続放棄とスマホの取扱い
1 三か月の熟慮期間
民法915条は,相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から三か月以内に,単純承認,限定承認または相続放棄を選ぶものとしている。
調査が終わらない場合は,裁判所の相続の承認又は放棄の期間の伸長により,家庭裁判所へ期間伸長を申し立てる方法がある。
端末の中に債務や継続課金の手掛かりがあるとしても,相続放棄の判断前に自由な利用へ移ることには慎重さが必要である。
まず請求書,契約者情報及び事業者の死亡時窓口など,端末操作を伴わない資料から確認するのが適切である。
2 継続使用と法定単純承認
民法921条1号は,相続人が相続財産の全部または一部を処分したときに法定単純承認となる旨を定める一方,保存行為等を除外している。
スマホの具体的な利用行為の評価は,保存行為か処分行為か,利用の目的及び態様,共同相続人との合意,端末の価値等に左右されるため,一律には断定できない。
相続放棄を検討している段階では,売却,初期化,長期間の私的使用その他の現状を大きく変える行為を避け,必要な保全措置に限定するべきである。
法定単純承認の条文,裁判例及び実務上の考慮要素については,相続の法定単純承認(民法921条)の実務を参照されたい。
第5 端末ロックとデータの処理
本節は,相続人がスマホを自分の端末として再利用するためのロック,初期化及び再設定を扱う。故人のデータを残すための申請順序や,初期化前の端末保全は,死亡直後の初動を扱う記事で整理している。
1 iPhone
Appleは,パスコードでロックされた端末をパスコードなしで解除できず,別のApple Accountで利用するには通常,消去及び復元が必要になると案内している。
アクティベーションロックが残る場合は,故人のApple Accountへのアクセスを申請する方法に従い,必要書類を提出して解除等を申請する。
故人が生前にデジタル遺産管理連絡先を設定していた場合は,デジタル遺産管理連絡先によるアクセスを利用できる。
もっとも,購入済みメディア,キーチェーン内の支払情報,パスワード及びパスキー等はアクセス対象外であるため,端末の所有権を取得したこととデータへアクセスできることを混同してはならない。
2 Android
Googleは,亡くなったユーザーのアカウントに関するリクエストにより,アカウント閉鎖または一定のデータ提供を検討する場合があるが,パスワードその他のログイン情報は提供しないとしている。
被相続人の認証情報を推測してログインするのではなく,Googleの専用手続を利用するべきである。
Android端末は,初期化後も従前のGoogle アカウントまたは画面ロック情報の入力を求める端末保護が働く場合がある。
したがって,Android端末保護の案内を確認せずに初期化すると,相続人が端末を再利用できなくなるおそれがある。
3 LINEその他のサービス
LINEの利用規約は,アカウントの利用権を譲渡または相続できないものとしており,LINEセーフティセンターは遺族からアカウント削除の依頼を受け付けるとしている。
端末または電話番号を承継しても,被相続人のLINEアカウントをそのまま引き継げるわけではない。
銀行,証券,電子マネー,SNS,クラウド及びサブスクリプションについても,各サービスの利用規約と死亡時手続を個別に確認する必要がある。
承継後の電話番号に届いたSMS認証コードは,そのサービスの相続手続を省略してよいことを意味しない。
第6 実際の作業順序
1 初期化前の保全
最初に,死亡直後の端末保全,操作記録及び推測入力の回避については,初期化前の対応を扱う記事を確認する。
その初動を終えた後,端末の所有権,残債及び返却条件を確認する。さらに,①相続放棄をしない方針,②端末取得者,③回線の承継可否,④初期化前に残すデータを確定してから,承継後の切替えへ進む。
端末内データを相続手続や紛争の証拠として利用する可能性がある場合は,誰がいつどの操作をしたかを記録し,原本端末の状態を保つ。
データの必要性と共同相続人や通信相手のプライバシーを区別し,必要範囲を超える閲覧を避けるべきである。
2 承継後の切替え
相続放棄をしない方針及び端末取得者が固まった後,携帯電話会社で回線と電話番号の承継を行い,承継者本人の支払方法へ切り替える。
その後,端末を消去して承継者本人のApple AccountまたはGoogle アカウントで設定するか,正規の死亡時手続により必要なデータを取得してから設定する。
不要なサブスクリプション,決済,保証及び有料オプションは,各サービスの死亡時窓口で解約する。
携帯電話会社の契約承継だけで全サービスの課金が止まるわけではないため,請求明細を数か月確認することが実務的である。
3 ロックを解除できない場合
端末ロックを正規の方法で解除できなくても,電話番号の承継まで不可能になるとは限らない。
携帯電話会社に契約承継とSIMまたはeSIMの再発行を相談し,相続人の別端末で回線を利用できるか確認する。
元の端末は,AppleまたはGoogleの手続,データの要否及び共同相続人との合意が整うまで保管する。
この方法により,端末内データへ無理にアクセスせず,電話番号の継続利用を先に確保できる場合がある。
第7 出典・参考資料
1 法令
e-Gov法令検索・民法の896条,898条,915条及び921条を,令和8年9月10日現在の条文として参照した。
本記事では,スマホ本体の相続,遺産共有,熟慮期間及び法定単純承認の説明に用いた。
2 裁判所・公的機関
裁判所・相続の承認又は放棄の期間の伸長を,三か月の熟慮期間及び期間伸長の手続の確認に用いた。
国民生活センター・デジタル遺品の処理をめぐるトラブルにご注意!及び同公表資料PDFを,端末ロック,継続課金及び事業者への連絡に関する消費者向け注意事項の確認に用いた。
3 携帯電話事業者
NTTドコモ,ahamo,au,UQ mobile,SoftBank及び楽天モバイルの契約者死亡時の公式案内を参照した。
手続要件及び料金は変更され得るため,申請時には各事業者の最新ページを再確認する必要がある。
4 プラットフォーム
Appleの故人のApple Accountへのアクセス及びデジタル遺産管理連絡先,Googleの亡くなったユーザーのアカウント及びAndroid端末保護を参照した。
LINEのセーフティセンター及び利用規約を,アカウントの死亡時取扱いの確認に用いた。