第1 出向からの復帰における指名手続の全体像
1 本記事が扱う出向復帰
本記事が扱うのは,最高裁判所の公表資料で「出向からの復帰候補者」と呼ばれ,裁判所へ戻る際に判事又は判事補として任命される者である。
出向中の身分や出向期間を判事任命資格へ通算できるかという問題ではなく,復帰時の指名手続,指名諮問委員会への諮問を要しない条件及び審議に用いる情報を対象とする。
出向中の身分及び勤務先については,行政機関等への出向裁判官―身分,勤務先,人数及び判検交流との関係(AIリライト)参照。
判事任命資格を得る時期については,出向経験のある判事補が判事になるタイミング(AIリライト)参照。
2 諮問,指名及び任命は別の段階であること
日本国憲法80条1項及び裁判所法40条1項によれば,判事及び判事補は,最高裁判所が指名した者の名簿に基づいて内閣が任命する。
下級裁判所裁判官指名諮問委員会規則3条1項は,任官希望者について,最高裁判所が指名の適否を委員会へ諮問することを原則としている。
したがって,通常は,①委員会への諮問及び答申,②最高裁判所の指名,③内閣の任命という順序になる。
同規則3条2項により省略できるのは①の諮問であり,②の指名又は③の任命ではない。
委員会の対象者,構成及び一般的な審査手続については,下級裁判所裁判官指名諮問委員会とは|対象者・委員構成・審査手続・答申後の任命(AI作成)参照。
第2 出向復帰時の諮問を要しない「3年以下」の条件
1 免官又は転官から3年以下であること
同委員会規則3条2項2号は,過去に下級裁判所裁判官として任命された者について,免官又は転官からの期間が短いなど,諮問の必要性が低いものとして委員会が定める場合には,最高裁判所が諮問をしなくてもよいと定めている。
この条文だけでは「短い期間」が何年かは分からない。
第3回委員会が定めた「最高裁判所が指名の適否を委員会に諮問することを要しない場合」は,①過去に判事又は判事補として任命されたことがあり,②免官又は転官から経過した期間が3年以下であり,③判事又は判事補に指名する場合を,諮問不要とした。
議事要旨では「出向期間が3年以下」と記載される例もあるが,委員会決定の正式な基準は,出向先の種類や出向期間の呼称ではなく,免官又は転官から経過した期間である。
2 判事補であった者を判事に指名する場合は除かれること
同委員会決定は,免官又は転官の時に判事補であった者を判事に指名する場合を,3年以下の諮問省略から明示的に除外している。
そのため,判事補として出向した者が出向中に判事の任命資格を得て,復帰時に判事として指名される場合は,出向期間が3年以下であっても委員会への諮問を要する。
判事の任命資格は裁判所法42条が定めており,資格取得時期によって復帰時の官が分かれることがある。
出向期間中の在職年数を判事任命資格へ通算できるかについては,前掲の「出向経験のある判事補が判事になるタイミング」参照。
このただし書は,「かつて裁判官であったから復帰時の諮問は常に不要である」という理解が正確でないことを示す。
復帰時の官が判事か判事補かを確認しなければ,諮問の要否を判定できない。
3 3年をわずかに超える場合
第3回委員会議事要旨では,免官又は転官から3年をわずかに超えた者も諮問対象になるのかという質問に対し,例外を「3年以下」とした上で,若干超えた場合には持ち回り審議など審議方法の簡略化を求める説明がされた。
委員会は,3年以下という線引きを変更せず,二つの諮問不要事由を決定した。
したがって,3年を超えた場合には,出向復帰に関するこの例外は適用されない。
持ち回り審議等は制度創設時の議論で示された対応案であり,3年を超えた者について諮問自体を不要とする根拠ではない。
第3 判事又は判事補として復帰する場合の手続分岐
1 復帰時の官と諮問の要否
出向復帰時の主な分岐は,次のとおりである。
3年を超える場合は上記の諮問省略事由が使えず,3年以下でも判事補から判事へ移る場合はただし書により諮問を要する。
| 免官又は転官時の官 | 復帰時に指名される官 | 経過期間 | 出向復帰時の委員会への諮問 |
|---|---|---|---|
| 判事 | 判事 | 3年以下 | 委員会決定により不要 |
| 判事補 | 判事補 | 3年以下 | 委員会決定により不要 |
| 判事補 | 判事 | 3年以下 | ただし書により必要 |
| 判事又は判事補 | 判事又は判事補 | 3年超 | この諮問省略事由は適用されない |
この表は,委員会規則3条2項2号を具体化した委員会決定による整理である。
判事を高等裁判所長官に指名する場合など,別の諮問不要事由は対象としていない。
2 出向復帰と判事任命が別に扱われる場合
出向復帰候補者としての諮問と,判事への任命に関する諮問は,公表議事要旨では別の任命類型として扱われている。
このため,出向復帰候補者としての諮問が省略されても,復帰と同時又は復帰後の判事任命について委員会が審議することがある。
第37回委員会議事要旨は,出向期間が3年以下であるため出向復帰候補者としては諮問対象にならなかった6人について,平成21年4月に判事任命資格を得ることから,判事として指名することの適否を審議したと記録している。
これは,「出向復帰時の諮問省略」と「判事への任命に関する諮問」を分けて確認すべきことを示す公表例である。
第4 出向復帰候補者について委員会が確認する資料
1 候補者の略歴及び出向先から得た執務状況等
諮問対象となった出向復帰候補者について,公表された議事要旨は,候補者の略歴と,出向先から得た候補者の執務状況等を基に審議したと記載している。
この記載は,第15回委員会議事要旨から,第118回委員会議事要旨及び第124回委員会議事要旨まで確認できる。
出向先から得る執務状況等は,裁判所での裁判事務ではなく,出向中の勤務状況を審議へ反映させる資料である。
ただし,今回確認した公表資料には,その統一様式,具体的な評価項目,作成者又は保存期間は記載されていない。
2 判事補から判事へ復帰する場合の資料補充
第15回委員会議事要旨は,判事補から出向し,復帰時に判事として指名される候補者について,通常の判事補から判事への任命候補者と比べて審議資料等に不均衡があるのではないかという議論を記録している。
同委員会は,復帰までの時間的制約等を踏まえ,審議に当たって人事局長の口頭説明などで資料を補充する工夫を相当とした。
これは,出向先からの資料だけで常に十分であるとしたものではない。
もっとも,どの候補者について,どの資料がどの程度補充されたかは,議事要旨からは分からない。
3 答申で判事と判事補が分かれること
第15回委員会議事要旨では,出向中の12人について,2人は判事補として,そのほかは判事として指名することが適当であると答申された。
第37回委員会議事要旨でも,出向中の10人について,3人を判事補として,そのほかを判事として指名することが適当とされた。
近時の第118回委員会議事要旨は,令和7年4月期の13人を「判事又は判事補」に任命されるべき者として審議したと記載する一方,第124回委員会議事要旨は,令和8年4月期の13人全員を判事に任命されるべき者として審議したと記載している。
どちらの官で復帰するかは各期で一様ではなく,個別の任命資格と諮問内容を確認する必要がある。
第5 弁護士等からの外部情報を収集する地域
1 出向先資料と地域委員会による外部情報の違い
出向先から得る執務状況等と,地域委員会が弁護士又は検察官等から収集する情報は,収集経路が異なる。
出向復帰候補者の審議について,議事要旨に出向先資料の記載があるからといって,地域委員会による外部情報収集の有無まで一律に判定することはできない。
同委員会規則2条2号は候補者情報の収集を委員会の所掌事務とし,同規則11条は裁判所,検察庁,日本弁護士連合会,弁護士会その他の団体又は個人への協力依頼を認め,同規則13条は地域委員会による情報収集及び報告を定めている。
ただし,これらの規定は,すべての任命類型について同じ収集先と方法を一律に定めたものではない。
一方,出向中に諮問を受け,裁判所への復帰後ほどなく判事任命資格を得る者については,判事任命に関する外部情報をどの地域で集めるかが公表資料に記録されている。
この場面は,出向復帰そのものの審議ではなく,判事補から判事への任命に関する情報収集である。
2 出向直前の勤務庁を所管する地域委員会
第42回委員会議事要旨は,4月に出向から判事補へ復帰し,同年10月に判事任命資格を得る候補者について,諮問時には出向中で現任庁がないため,出向直前の勤務庁を所管する地域委員会へ周知依頼等をすることを相当とした。
復帰庁を所管する地域委員会については,情報受付の締切りまでの勤務実績が乏しく,適切な情報が寄せられる可能性が極めて乏しいため,周知依頼等をしないこととされた。
東京地域委員会第28回議事要旨は,この方針を受け,出向直前の所属庁に対応する検察庁及び弁護士会に情報収集を依頼したことを記録している。
第118回及び第124回の各委員会議事要旨にも,出向直前の勤務庁を所管する地域委員会へ依頼し,復帰庁側には依頼しないという同じ取扱いが記載されている。
3 一般的な情報提供制度と同一視しないこと
通常の判事任命・再任候補者については,候補者の現任庁に対応する検察庁及び弁護士会へ名簿を提供し,検察官又は弁護士が自ら体験した具体的事実を地域委員会へ直接提供する方法が用いられている。
詳しくは,裁判官再任評価情報の提供方法及び指名諮問委員会の審議(AIリライト)参照。
出向中又は復帰直後の候補者には,通常どおり参照できる現任庁での勤務実績がないことがある。
そのため,出向直前の地域を利用する取扱いが示されているが,すべての出向復帰候補者について,毎回同じ範囲の外部情報収集が実施されたとまでは公表資料から確認できない。
第6 公表された審議例
公表資料から確認できる主な例は,次のとおりである。
各回の候補者数は,諮問を受けて審議された者の数であり,諮問を要しない者を含む全復帰者数ではない。
| 委員会 | 復帰時期・対象 | 公表資料から確認できること |
|---|---|---|
| 第15回 | 平成17年4月期 | 12人を審議し,2人は判事補,そのほかは判事として指名適当と答申した。判事補から判事へ復帰する者の資料補充も議論された。 |
| 第37回 | 平成21年4月期 | 10人を審議した。別の6人は出向期間3年以下のため復帰候補者としては諮問対象外であったが,判事任命資格を得るため判事指名を別に審議した。 |
| 第42回 | 平成22年4月・7月期 | 復帰後に判事任命資格を得る者について,出向直前の地域で外部情報を収集する方針を確認した。復帰候補者8人のうち2人は判事補,そのほかは判事として指名適当と答申した。 |
| 第118回 | 令和7年4月期 | 13人を判事又は判事補に任命されるべき者として審議し,全員を指名適当と答申した。令和8年1月に判事任命資格を得る者の情報収集地域も決定した。 |
| 第122回 | 令和7年10月期 | 出向中の1人を略歴及び出向先から得た執務状況等に基づいて審議し,判事として指名適当と答申した。 |
| 第124回 | 令和8年4月期 | 出向中の13人を審議し,全員を判事として指名適当と答申した。令和9年1月に判事任命資格を得る者の情報収集地域も決定した。 |
この一覧からは,出向復帰候補者の審議が4月期だけでなく,7月期又は10月期に行われた例も確認できる。
一方,各議事要旨は個々の候補者名及び個別の判断理由を公表しておらず,人数だけから個人を特定し,又は任命結果を推測することはできない。
第125回委員会議事要旨は,第124回委員会による令和8年4月期の出向復帰候補者についての答申を最高裁判所へ報告し,最高裁判所における審議結果の報告を受けたと記載している。
ただし,個々の指名結果及び内閣による任命の内訳は同議事要旨に記載されていない。
第7 公表資料を読む際の注意点
1 通常の候補者名簿に氏名がない場合
通常の判事任命・再任候補者に関する情報提供用の名簿に氏名がないことだけでは,出向復帰に関する手続全体が省略されたとは判断できない。
考えられる場面には,①免官又は転官から3年以下で復帰時の諮問を要しない場合,②出向復帰候補者として通常の判事任命・再任とは別の議題で諮問された場合,③判事補として復帰した後に判事任命について別に諮問される場合がある。
また,諮問不要の場合でも,最高裁判所の指名と内閣の任命は必要である。
名簿にないことは,出向先からの執務状況資料又は最高裁判所内部の人事上の確認が存在しないことの根拠にもならない。
2 公表資料から確認できない範囲
令和8年8月24日現在の公表資料からは,諮問不要とされた候補者の氏名,人数,適用類型及び最高裁判所内部で用いられた個別資料を,年ごとに網羅して確認することはできない。
出向先から得る「執務状況等」の作成者,様式及び評価項目も公表されていない。
最高裁判所の開催状況ページには,同日現在,第125回委員会までの議事要旨が掲載されている。
第125回議事要旨は第124回の出向復帰候補者に関する事後報告を記載するが,諮問不要事由の適用人数を一覧で示す資料ではない。
したがって,公表資料から確認できるのは,規則及び委員会決定が定める分岐と,議事要旨に明記された個別の運用例までである。
公表されていない情報収集の有無又は候補者ごとの審査内容を,議事要旨の沈黙から確定することはできない。
第8 関連記事
本記事は,出向から復帰する候補者に固有の手続を扱う各論である。
通常の再任・新任に関する不適当答申件数と再任拒否との区別は下級裁判所裁判官指名諮問委員会で再任不適当とされた裁判官の数の推移,委員及び地域委員の時点別名簿は下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員名簿,各期の通常の再任時期は裁判官の再任の予定年月日,及び一斉採用年月日で扱う。
制度全体は,次の関連記事の総論記事を参照されたい。
①下級裁判所裁判官指名諮問委員会とは|対象者・委員構成・審査手続・答申後の任命(AI作成)
②出向経験のある判事補が判事になるタイミング(AIリライト)
③行政機関等への出向裁判官―身分,勤務先,人数及び判検交流との関係(AIリライト)
④裁判官再任評価情報の提供方法及び指名諮問委員会の審議(AIリライト)
出典・参考資料
1 法令・最高裁判所規則
①日本国憲法80条1項(e-Gov法令検索)
②裁判所法(昭和22年法律第59号)40条1項・42条(e-Gov法令検索)
③下級裁判所裁判官指名諮問委員会規則(平成15年最高裁判所規則第6号)2条・3条・11条~13条(最高裁判所)
2 委員会決定・議事要旨
①下級裁判所裁判官指名諮問委員会「最高裁判所が指名の適否を委員会に諮問することを要しない場合」(平成15年7月14日決定,PDF1頁)
②下級裁判所裁判官指名諮問委員会(第3回)議事要旨(平成15年7月14日,PDF13頁~14頁)
③下級裁判所裁判官指名諮問委員会(第15回)議事要旨(平成17年2月9日,PDF2頁~3頁)
④下級裁判所裁判官指名諮問委員会(第37回)議事要旨(平成21年2月20日,PDF2頁)
⑤下級裁判所裁判官指名諮問委員会(第42回)議事要旨(平成22年2月23日,PDF2頁~3頁)
⑥東京地域委員会(第28回)議事要旨(平成22年3月11日,PDF2頁~3頁)
⑦下級裁判所裁判官指名諮問委員会(第118回)議事要旨(令和7年2月17日,PDF2頁~3頁)
⑧下級裁判所裁判官指名諮問委員会(第122回)議事要旨(令和7年9月5日,PDF2頁~3頁)
⑨下級裁判所裁判官指名諮問委員会(第124回)議事要旨(令和8年2月16日,PDF2頁~3頁)
⑩下級裁判所裁判官指名諮問委員会(第125回)議事要旨(令和8年4月10日,PDF1頁)
⑪下級裁判所裁判官指名諮問委員会の開催状況(最高裁判所,令和8年8月24日確認)