メインコンテンツへスキップ
       

裁判官再任評価情報の提供方法及び指名諮問委員会の審議(AIリライト)

第1 裁判官の再任と情報提供制度

1 裁判官の再任と指名諮問委員会

日本国憲法80条1項は,下級裁判所の裁判官の任期を10年とし,再任されることができると定めている。また,裁判所法40条1項は,下級裁判所の裁判官は最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命すると定めている。

下級裁判所裁判官指名諮問委員会は,最高裁判所の諮問に応じ,判事への任命候補者及び判事の再任候補者等について,指名の適否を審議して最高裁判所に答申する機関である。委員会の答申だけで任命又は不任命が決まるわけではなく,最高裁判所が指名するか否かを決定し,その名簿に基づいて内閣が任命する。

2 本記事における「再任評価情報」の意味

法令上,「裁判官再任評価情報」という名称の制度があるわけではない。本記事では,再任を希望する判事等について,地域委員会を通じて指名諮問委員会に提供される「指名候補者を指名することの適否に関する情報」を,便宜上「再任評価情報」と表記する。

もっとも,この情報提供は,毎年行われる裁判官の人事評価への外部情報提供とも,弁護士会が独自に実施する裁判官アンケートとも異なる。三つの仕組みを混同すると,提出先,提出時期,利用目的及び本人に対する手続の説明を誤ることになる。

区分主な目的主な受領・利用主体時期
指名諮問委員会への情報提供再任等の指名の適否の審議地域委員会及び中央の指名諮問委員会対象者の再任等の審議時期
年次人事評価への外部情報提供毎年の人事評価所属裁判所の長等の評価権者原則として毎年
弁護士会の独自アンケート弁護士会による意見把握等実施した弁護士会各弁護士会の定める時期

第2 中央委員会及び地域委員会の役割

1 中央委員会

下級裁判所裁判官指名諮問委員会規則2条及び3条によれば,最高裁判所は原則として任官希望者を指名することの適否を委員会に諮問し,委員会は指名候補者に関する情報を収集して審議し,最高裁判所に意見を述べる。最高裁判所は,諮問に際して,自らの適否の意見を委員会に述べないものとされている。

中央委員会は11人の委員で構成される。委員は,裁判官,検察官,弁護士及び学識経験者のうちから最高裁判所が任命する。

2 地域委員会

地域委員会は,東京,大阪,名古屋,広島,福岡,仙台,札幌及び高松の各高等裁判所所在地に置かれる。地域委員会は,指名候補者に関する情報を収集して取りまとめ,中央委員会に報告し,必要な意見を付することができる。

規則上,地域委員会は各5人で構成されるが,最高裁判所が必要と認める場合には10人まで増員できる。令和8年7月11日現在の地域委員名簿では,東京地域委員会が10人であり,他の7地域委員会が各5人である。

第3 提供すべき情報の内容

1 直接経験した具体的事実を記載すること

令和8年の情報提供依頼では,情報提供者が自ら体験した事実について,各人から地域委員会に対し,具体的内容をもって直接提供することが求められている。結論だけの評価ではなく,いつ,どの事件又は場面で,候補者が何を述べ,又はどのように対応したのかを,確認できる範囲で特定する必要がある。

裁判結果が自己の主張と異なったというだけでは,通常,裁判官としての資質・能力を示す情報にはならない。他方,判決書又は訴訟運営に現れた言動であっても,侮辱的な表現,著しく不適切な対応又は法令適用上の明白な問題が,裁判官の資質・能力に関係する具体的事実として現れている場合には,情報提供の対象となり得る。

2 氏名及び所属を記載すること

指名諮問委員会第123回議事要旨の別紙は,書面又は電磁的記録に,具体的事実とともに情報提供者の氏名及び所属を記載するものとしている。匿名の意見,情報源を検証できない伝聞又は抽象的な印象だけの記載は,情報の適格性及び重みを判断することが困難である。

したがって,情報提供者は,委員会に対して匿名で情報を提出する制度ではない。なお,氏名及び所属が指名候補者に常に開示されるのか,又は常に開示されないのかについては,公開されている規則及び直近の議事要旨から一律の取扱いを確認できないため,情報提供者が候補者から絶対に特定されないことを前提にすべきではない。

3 団体による取りまとめと連名提出の違い

福岡地域委員会第83回議事要旨に掲載された弁護士会宛ての依頼文書は,弁護士会が会員からの情報を取りまとめること及び段階評価式アンケートによって情報を収集することは相当でないという中央委員会の考え方を示している。各弁護士が,自ら体験した事実を,個人として地域委員会に直接提供するのが現在の基本的な方法である。

もっとも,団体が情報を集約して提出することと,複数の個人が同じ事実について連名で提出することは同じではない。第123回議事要旨では,同じ候補者について複数名が連名で提出した情報の適格性が認められ,審議資料に含められたことが記録されている。

第4 情報の提出方法及び期限

1 郵送又は持参による提出

書面を提出する場合,各個人から,対象地域委員会の庶務を担当する高等裁判所事務局総務課長に対し,郵送又は持参する。郵送の場合は親展表示をし,「地域委員会関係」と朱書きするものとされている。

書面の宛先は地域委員会地域委員長であり,送付先は当該高等裁判所事務局総務課長である。具体的な宛先及び受付期限は,対象となる回の依頼文書で確認する必要がある。

2 電子メールによる提出

令和7年12月5日の第123回会議で,従来の書面提出に加えて,電磁的記録による情報提供の枠組みが了承された。これを受け,福岡地域委員会第83回議事要旨に掲載された令和7年12月16日付け通知では,令和8年2月以降,所定のパスワードを設定したPDFファイルを電子メールに添付して提出する方法が追加されている。

電子メールアドレス及びパスワードは別途通知され,電子提出先は専ら弁護士又は検察官からの受信を想定している。これらを外部に公表しないよう求められているため,電子提出をする弁護士は,所属弁護士会からの最新の通知を確認すべきである。

3 受付期限

受付期限は固定日ではなく,候補者群ごとに設定される。例えば,福岡地域委員会が令和8年3月に発出した依頼文書では,令和8年10月から令和9年1月までの再任等を希望する候補者に関する情報の受付期限は令和8年5月19日とされ,地域委員会から中央委員会への報告期限は同年6月3日とされていた。

第123回会議では,報告期限後に地域委員会へ寄せられた情報を審議資料に含める取扱いがされた。しかし,これは締切後の提出が常に受理されることを意味しないため,最新の候補者名簿及び依頼文書を確認し,期限内に提出するのが原則である。

第5 委員会の審議と候補者の手続

1 外部情報は審議資料の一部であること

地域委員会から送付された外部情報だけで,指名の適否が機械的に決まるわけではない。公開された過去の議事要旨では,最高裁判所から提供された資料と地域委員会が収集した情報を併せて検討していることが確認でき,情報の件数が多いこと自体が結論を決めるものでもない。

指名諮問委員会第42回議事要旨に収録された平成22年当時の検討資料には,189人の候補者について139通の外部情報があったと記載されている。この数値は当時の一回の情報収集の結果であり,現在の平均値又は必要件数を示すものではない。

2 重点審議者

指名諮問委員会第73回議事要旨等の会議記録では,特に慎重な審議を要する候補者を「重点審議者」として検討する運用が確認できる。ただし,重点審議者は不適との結論を先取りする名称ではなく,重点審議者に選ばれれば当然に面接が実施されるというものでもない。

平成27年度の情報公開・個人情報保護審査委員会の答申第10号は,年度ごとの重点審議者数が分かる文書について,最高裁判所事務総局がそのような文書を作成しておらず,保有していないとする判断を妥当とした。これは,当該開示申出の対象文書が作成されていなかったという判断であり,重点審議者という運用自体が存在しないという意味ではない。

3 候補者からの説明又は意見

指名諮問委員会規則10条は,委員会が必要と認めるときは,指名候補者に必要な説明を求め,又は候補者の意見を聴くことができると定めている。規則は,すべての重点審議者に当然に面接の機会が与えられるとは定めていない。

日弁連は,平成17年2月7日付け申入書及び平成19年2月26日付け要望において,重点審議者等に面接,防御及び反証の機会を積極的に保障するよう求めた。これらは日弁連による制度改善の申入れであり,その要望内容と現行規則上当然に保障される手続とは区別する必要がある。

4 答申と最高裁判所の指名

委員会は審議結果を最高裁判所に答申する。最高裁判所が委員会の答申と異なる指名判断をした場合等には,規則4条により,その理由を委員会に通知することとされているが,これは候補者本人に対する理由開示を直接定めた規定ではない。

第6 直近及び過去の運用

1 令和7年12月の答申

第123回議事要旨によれば,令和8年上半期の判事補から判事への任命候補者及び判事の再任候補者について,地域委員会から送付された情報の中に,弁護士会又は弁護士会連合会を経由して提供された情報はなかった。他方,連名情報及び期限後に追加送付された情報は審議資料に含められた。

同回では,候補者82人について審議し,いずれも指名することが適当であると最高裁判所に答申した。これは令和7年12月5日の一回の答申結果であり,制度全体について不適答申がないことを意味しない。

2 段階評価式アンケートをめぐる過去の議論

大阪地域委員会第3回議事要旨では,具体的事実を伴わない五段階評価について,匿名性,主観性,検証困難性及び裁判官の独立への影響等が議論され,段階評価部分を適切な情報として扱わない取扱いが示された。他方,具体的な事例及び情報提供者名が記載された部分については,段階評価部分と分けて検討し得るとされた。

したがって,五段階評価という形式の回答が常に同じ扱いを受けると一般化するよりも,指名諮問制度では,顕名による直接経験の具体的事実が重視されると理解するのが正確である。

3 情報提供を件数で促すことの問題

指名諮問委員会第58回議事要旨は,平成25年に東京弁護士会の会員活動のインセンティブ制度が,裁判官評価情報を3件提出した会員に一定の評価を与える取扱いを含んでいたことを記録している。中央委員会がこの取扱いを問題とし,東京弁護士会が記事を訂正して謝罪するとともに,その取扱いを中止した経過も記録されている。

この事例は,情報提供の件数を増やすこと自体を目的にすると,情報の自発性及び質に疑問が生じ得ることを示している。現在の制度を利用する場合も,数を競うのではなく,候補者の資質・能力の判断に役立つ具体的事実を正確に記載することが重要である。

第7 年次人事評価への情報提供との違い

1 年次人事評価は別の制度であること

裁判官の人事評価に関する規則1条は,裁判官の公正な人事の基礎とし,裁判官の能力の主体的向上に資するため,判事,判事補及び簡易裁判所判事について人事評価を毎年行うと定めている。同規則3条2項は,評価権者が多面的かつ多角的な情報の把握に努め,裁判所外部からの情報にも配慮するものとしている。

年次人事評価への情報提供は,再任時期にある候補者だけを対象とするものではない。再任等の審議時期にない裁判官の職務遂行に関する情報を提供しようとする場合は,裁判官人事評価情報の提供で説明している年次評価の仕組み及び最新の提出先を確認する必要がある。

2 評価書の開示及び不服申出

年次人事評価では,評価を受けた裁判官は,申出により評価書の開示を受けることができ,評価書の記載内容について評価権者に不服を申し出ることができる。これに対し,指名諮問委員会への外部情報提供は,特定回の候補者の指名の適否を審議するための制度であり,候補者の説明又は意見は指名諮問委員会規則10条に基づいて取り扱われる。

第8 再任制度をめぐる人数資料

1 昭和46年の国会答弁

昭和46年5月21日の参議院法務委員会会議録では,最高裁判所側が,昭和32年に5人,昭和33年に1人,昭和34年に1人,昭和43年に1人,昭和44年に2人,昭和46年に1人が再任されなかった旨を答弁している。列挙された人数の合計は11人である。

同答弁では,個々の者が再任されなかった理由を明らかにしない立場も示されている。したがって,特定の者が再任されなかった原因については,後年の文献に複数の見解があるとしても,公表された理由として断定することはできない。

2 平成16年から平成26年までの不適答申

平成27年5月14日の参議院法務委員会会議録では,最高裁判所側が,指名諮問委員会が発足した後の平成16年から平成26年までに,再任又は判事への任命について不適との答申を受けた者は合計41人である旨を答弁している。

この41人には,判事の再任候補者だけでなく,判事補から判事への任命候補者も含まれる。そのため,全員を「再任拒否者」と表示するのは正確ではない。

不適答申等の人数については,裁判官の再任等が不適当であるとして不指名の答申を受けた人の数も参照されたい。

第9 情報提供時の実務上の確認事項

1 書面を作成するときの確認事項

情報提供書面には,少なくとも,①対象となる指名候補者,②情報提供者が直接経験した具体的事実,③その事実が生じた時期,事件又は場面,④指名の適否との関係,⑤情報提供者の氏名及び所属を記載する必要がある。事件番号,当事者名その他の情報を記載する場合は,指名の適否の判断に必要な範囲に限定し,プライバシー及び守秘義務にも配慮すべきである。

評価語を重ねるだけではなく,第三者が事実関係を検討できるよう,発言,対応及び前後の経過を区別して記載するのが望ましい。また,有利又は不利な情報のいずれであっても,推測,伝聞及び自身の評価を,直接経験した事実と混同しないことが重要である。

2 提出前に確認すべきこと

受付対象者,期限,提出先及び電子提出の方法は,審議回及び地域によって変わり得る。提出前に,所属弁護士会等から送付された最新の候補者名簿及び依頼文書を確認し,不明点がある場合は,対象地域委員会の庶務を担当する高等裁判所事務局総務課に照会すべきである。

指名諮問委員会の構成については,下級裁判所裁判官指名諮問委員会の委員名簿も参照されたい。

第10 出典・参考資料

1 法令及び最高裁判所規則

① 日本国憲法80条

② 裁判所法40条

③ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会規則

④ 裁判官の人事評価に関する規則

2 裁判所の公表資料

① 下級裁判所裁判官指名諮問委員会の概要及び開催状況

② 下級裁判所裁判官指名諮問委員会第123回議事要旨(令和7年12月5日)

③ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会福岡地域委員会第83回議事要旨(令和8年3月5日)

④ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会第42回議事要旨(平成22年2月23日)

⑤ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会大阪地域委員会第3回議事要旨(平成15年11月5日)

⑥ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会第58回議事要旨(平成25年7月8日)

⑦ 下級裁判所裁判官指名諮問委員会第73回議事要旨(平成28年2月19日)

⑧ 最高裁判所情報公開・個人情報保護審査委員会平成27年度(最情)答申第10号

⑨ 裁判官の人事評価制度

3 国会会議録及び日弁連資料

① 第65回国会参議院法務委員会第22号(昭和46年5月21日)

② 第189回国会参議院法務委員会第11号(平成27年5月14日)

③ 日弁連「下級裁判所裁判官指名諮問委員会における面接等に関する申入書」(平成17年2月7日)

④ 日弁連「下級裁判所裁判官指名諮問委員会における面接実施に関する要望」(平成19年2月26日)

4 文献

① 榊原秀訓『行政裁量と行政的正義』(日本評論社,令和5年)

② 森野俊彦『初心』(日本評論社,令和4年)313頁~323頁

③ 泉徳治『一歩前へ出る司法』(日本評論社,平成29年)47頁以下

④ 宮本康昭・大出良知『再任拒否と司法改革』(日本評論社,令和3年)25頁~29頁

⑤ 木佐茂男『司法改革と行政裁判』(日本評論社,令和8年)445頁~463頁

⑥ 東京弁護士会法友会編『弁護士業務における関係者の問題行動―対人トラブル対応の手引』(新日本法規出版,令和6年)263頁~266頁