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下級裁判所裁判官指名諮問委員会で再任不適当とされた裁判官の数の推移(AIリライト)

第1 下級裁判所裁判官指名諮問委員会の概要

1 設置の経緯と根拠

下級裁判所の裁判官は,最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命し,その任期は10年であって再任されることができる(日本国憲法80条1項,裁判所法40条1項・3項)。この「最高裁判所の指名」の過程は,かつては最高裁判所の内部で完結しており,理由が明らかにされないまま再任が拒否されることがあった。昭和46年3月31日に最高裁判所が13期の宮本康昭裁判官を再任名簿から除外し,あわせて23期の司法修習生のうち裁判官志望者7名の不採用を決めたことは,その代表的な例である。日本弁護士連合会は,同年5月8日の臨時総会で「裁判官の再任拒否に関する決議」を採択し,宮本判事補と新任を拒否された7人のうち6人が青年法律家協会の会員であったことを指摘して,思想・信条・団体加入を理由とする再任拒否と考えざるを得ないとした。

下級裁判所裁判官指名諮問委員会は,司法制度改革の一環として,この指名の過程に裁判所外部の目を入れるために設けられた機関である。根拠となるのは下級裁判所裁判官指名諮問委員会規則(平成15年2月26日最高裁判所規則第6号)であり,同規則は平成15年5月1日から施行された。委員会は,最高裁判所の諮問に応じて,高等裁判所長官,判事及び判事補として任命されるべき者を裁判所法40条1項により指名することの適否等を審議し,指名候補者に関する情報を収集した上で,審議の結果に基づいて最高裁判所に意見を述べる(同規則2条)。

日本弁護士連合会は,規則の制定を受けた平成15年2月12日付けの会長声明において,最高裁判所が委員会の意見と異なる措置をとった場合には理由を委員会に説明しなければならないことなどにより「委員会の意見を事実上尊重する仕組み」が取られていると評価し,委員の過半数を法曹以外の学識経験者が占めること及び全国8か所に地域委員会が設置されたことの意義を述べている。

2 委員会及び地域委員会の組織

委員会は委員11人で組織され,委員は裁判官,検察官,弁護士及び学識経験のある者のうちから最高裁判所が任命する(規則5条・6条)。委員の任期は3年で,再任されることができ,非常勤である(同規則7条)。委員長は委員の互選により選任され,会議は委員の過半数の出席で成立し,議事は出席委員の過半数で決する(同規則8条・9条)。委員会は,所掌事務の遂行に必要があると認めるときは,指名候補者に対して説明を求め,又はその意見を聴くことができるほか,裁判所,検察庁,日本弁護士連合会,弁護士会その他の団体又は個人に対して資料の提出等の協力を依頼することができる(同規則10条・11条)。

委員会には地域委員会が置かれ,各高等裁判所の所在地,すなわち全国8か所に設けられる(規則12条)。地域委員会は,指名候補者に関する情報を収集して取りまとめ,必要な意見を付して委員会に報告する機関であり,地域委員5人で組織されるが,最高裁判所が必要と認める場合には10人まで増加することができる(同規則13条・14条)。委員会の庶務は最高裁判所事務総局総務局が処理し,地域委員会に係るものは各高等裁判所事務局総務課が処理する(同規則18条)。

議事要旨によれば,実際の審議は,委員会に先立って一部の委員による作業部会を開催し,地域委員会から送付された情報等を精査して「重点審議者」を選定した上で,委員会本体では作業部会の検討結果の報告を受けて答申を決める,という手順で行われている。9月の委員会で翌年上半期の指名候補者について地域委員会に情報収集を依頼し,12月の委員会で答申を出す,2月の委員会で同年下半期の候補者について情報収集を依頼し,7月の委員会で答申を出す,という年間の周期がほぼ固まっている。

3 諮問,答申及び指名の関係

最高裁判所は,下級裁判所裁判官として任命されるべき者として指名されることを希望した者については,指名することの適否を委員会に諮問しなければならない(規則3条1項)。ただし,判事を高等裁判所長官に指名する場合や,かつて下級裁判所裁判官として任命されたことがあり免官又は転官から経過した期間が短期であるなど諮問の必要性が低いものとして委員会が定める場合には,諮問を要しない(同条2項)。また,最高裁判所は,委員会に対して指名の適否についての意見を述べないものとされている(同条3項)。指名するか否かを決定したときは,最高裁判所はその結果を委員会に通知し,委員会が適当であるとした者を指名しなかったとき,又は適当ではないとした者を指名したときは,その決定の理由も委員会に通知しなければならない(同規則4条)。

ここで注意を要するのは,委員会が「指名することは適当でない」と答申したことと,最高裁判所がその候補者を指名しなかったこと,又はその候補者が現実に再任されなかったこととは,別の事柄だという点である。手続は,①最高裁判所による諮問,②委員会の審議及び答申,③最高裁判所による指名の決定,④最高裁判所が指名した者の名簿に基づく内閣の任命という4つの段階に分かれる。本人が②の答申前に判事再任願又は判事任命願を撤回すれば,その者は委員会の最終審議の対象から外れる。議事要旨には,「希望を撤回した1人を除く指名候補者181人」(第6回3頁),「117人のうち,1人が再任願いを取り下げた」(第45回2頁),「うち1人が願いを撤回したことにより,今回の審議対象から外れた」(第75回2頁,第80回2頁,第93回2頁,第109回2頁)といった記載が繰り返し現れる。

③の最高裁判所による指名及び④の内閣による任命についても,答申された人数と現実に再任されなかった人数を,議事要旨だけから一対一に対応させることはできない。第8回委員会(平成16年3月29日)の議事要旨17頁には,不適当とされた者に対する理由開示の在り方をめぐる質疑の中で,「最高裁判所で不再任とした2人については,そのうち1人から,理由を書面で欲しいという話があったが,それ以上の話はなかった」という説明が記録されている。他方,第6回委員会(平成15年12月2日)は,判事補から判事への任命候補者及び判事の再任候補者を合わせた181人のうち,6人について「指名することは適当でない」と答申した。同議事要旨は,この6人のうち判事再任候補者が何人で,判事補から判事への任命候補者が何人であったかを明らかにしていない。したがって,6人と2人の差から,残る4人が現実に再任されたと推論することはできず,後記第3の不適当人数を「再任を拒否された裁判官の人数」と読むこともできない。

なお,第1回から第125回までの議事要旨を通読しても,最高裁判所が委員会の答申と異なる決定をした旨の記載は見当たらない。もっとも,多くの回は「最高裁判所における審議結果が報告された」と記すのみでその内容を明らかにしていないから,このことをもって答申と異なる決定が一度もされていないと判断することはできない。

第2 裁判官の再任等に関する運用通達

裁判官の再任等に関する事務は,最高裁判所勤務の裁判官についても,下級裁判所勤務の裁判官についても,いずれも「裁判官の再任等に関する事務について」(平成16年6月17日付けの最高裁判所事務総局人事局長の通達)に基づいて運用されている。この2つは,題名及び日付が同じでありながら文書番号が異なる別個の通達であり,一方が最高裁判所勤務の裁判官を,他方が下級裁判所勤務の裁判官を対象としている。

再任の判断の基礎となる人事評価については,別に次の規則及び通達がある。①裁判官の人事評価に関する規則(平成16年1月7日最高裁判所規則第1号),②裁判官の人事評価に関する規則の運用について(平成16年3月26日付けの最高裁判所事務総長の依命通達),③裁判官の人事評価の実施等について(平成16年3月26日付けの最高裁判所人事局長通達),④裁判官に関する人事事務の資料の作成等について(平成16年5月31日付けの最高裁判所人事局長の依命通達)。判事の再任について委員会に提出される審査資料の中心は,これらに基づいて作成された10年分の人事評価と,所長等が作成する「再任(判事任命)希望者に関する報告書」である。

なお,現職裁判官全員について10年の任期満了日が記載された文書は存在しない(平成29年度(最情)答申第31号(平成29年9月11日答申))。各裁判官の再任予定日は,任官日から10年ごとに到来するものとして期別に推計するほかない。

第3 再任不適当とされた裁判官の数の推移

以下に掲げるのは,委員会の議事要旨に記録された「指名することは適当でない」との答申の対象人数である。審議対象人数は,各回において委員会が最終的に指名の適否を審議した人数である。当初の候補者のうち,判事再任願又は判事任命願の撤回のほか,高等裁判所長官への任命,出向又は死亡によって最終審議の対象から外れた者は含まれない。このため,審議対象人数は,当初の任官希望者数でも,現実に再任されなかった人数でもない。判事の任期は10年であるから,各回の対象は,10年前,20年前及び30年前に任官した各期の再任と,判事補として10年を経過して判事に任命される期の新任である。以下では後者を「新任」と表記する。

1 毎年1月及び4月の再任

前年12月に開催される委員会で答申が出される。

再任・新任の時期対象となる期審議対象不適当議事要旨
令和8年1月及び4月38期及び48期の再任並びに68期の新任82人0人令和7年12月5日(第123回)3頁
令和7年1月及び4月37期及び47期の再任並びに67期の新任83人2人令和6年12月6日(第117回)2頁
令和6年1月及び4月36期及び46期の再任並びに66期の新任79人0人令和5年12月4日(第112回)3頁
令和5年1月及び4月35期及び45期の再任並びに65期の新任82人1人令和4年12月2日(第106回)2頁
令和4年1月及び4月34期及び44期の再任並びに新64期の新任62人0人令和3年12月3日(第101回)2頁
令和3年1月及び4月33期及び43期の再任並びに新63期の新任87人2人令和2年12月4日(第96回)3頁
令和2年1月及び4月32期,42期及び52期の再任並びに新62期の新任137人4人令和元年12月6日(第91回)2頁
平成31年1月及び4月31期,41期及び51期の再任並びに新61期の新任126人1人平成30年12月7日(第86回)2頁
平成30年1月及び4月30期,40期及び50期の再任並びに新60期の新任154人1人平成29年12月1日(第81回)2頁
平成29年4月29期,39期及び49期の再任184人2人平成28年12月2日(第76回)3頁
平成28年4月28期,38期及び48期の再任121人2人平成27年12月4日(第71回)3頁
平成27年4月27期,37期及び47期の再任120人2人平成26年12月5日(第65回)3頁
平成26年4月26期,36期及び46期の再任122人2人平成25年12月9日(第60回)2頁及び3頁
平成25年4月25期,35期及び45期の再任117人4人平成24年12月10日(第55回)3頁
平成24年4月24期,34期及び44期の再任101人2人平成23年12月2日(第50回)3頁
平成23年4月23期,33期及び43期の再任116人2人平成22年12月3日(第45回)3頁
平成22年4月22期,32期及び42期の再任並びに52期の新任189人3人平成21年12月1日(第40回)3頁
平成21年4月21期,31期及び41期の再任並びに51期の新任166人4人平成20年12月5日(第35回)2頁及び3頁
平成20年4月20期,30期及び40期の再任並びに50期の新任205人3人平成19年12月7日(第30回)3頁
平成19年4月19期,29期及び39期の再任並びに49期の新任193人4人平成18年12月8日(第25回)4頁
平成18年4月18期,28期及び38期の再任並びに48期の新任189人4人平成17年12月9日(第19回)3頁及び4頁
平成17年4月17期,27期及び37期の再任並びに47期の新任179人4人平成16年12月3日(第13回)3頁
平成16年4月16期,26期及び36期の再任並びに46期の新任181人6人平成15年12月2日(第6回)3頁

2 毎年9月及び10月の再任

同年6月又は7月に開催される委員会で答申が出される。令和8年9月及び10月の再任に係る答申は,令和8年7月に開催される委員会で扱われるが,その議事要旨は令和8年8月16日現在で最高裁判所ウェブサイトに掲載されていない。

再任・新任の時期対象となる期審議対象不適当議事要旨
令和7年9月及び10月58期の再任を含む156人1人令和7年7月11日(第121回)2頁
令和6年9月及び10月57期の再任を含む159人1人令和6年7月5日(第115回)3頁
令和5年9月及び10月56期の再任を含む156人0人令和5年7月7日(第110回)2頁
令和4年9月及び10月55期の再任を含む151人0人令和4年7月4日(第104回)2頁
令和3年9月及び10月54期の再任を含む172人0人令和3年7月2日(第99回)2頁
令和2年9月及び10月53期の再任及び現行63期(任官時4人)の判事新任を含む149人0人令和2年7月3日(第94回)3頁
令和元年9月現行62期(任官時7人)の判事新任を含む88人0人令和元年7月5日(第89回)3頁
平成30年9月現行61期(任官時24人)の判事新任を含む71人0人平成30年7月6日(第84回)3頁
平成29年9月現行60期(任官時52人)の判事新任を含む69人0人平成29年7月7日(第79回)3頁
平成28年10月59期の判事新任104人0人平成28年7月6日(第74回)3頁
平成27年10月58期の判事新任107人0人平成27年7月3日(第69回)3頁
平成26年10月57期の判事新任102人1人平成26年6月27日(第63回)3頁
平成25年10月56期の判事新任94人1人平成25年7月8日(第58回)3頁
平成24年10月55期の判事新任90人2人平成24年7月5日(第53回)3頁
平成23年10月54期の判事新任97人2人平成23年7月8日(第48回)3頁
平成22年10月53期の判事新任75人0人平成22年7月2日(第43回)3頁
平成19年10月判事の再任2人1人平成19年6月29日(第28回)2頁
平成18年10月判事の再任1人0人平成18年7月7日(第22回)2頁

3 審議対象人数の増減と答申の傾向

第1項及び第2項を合計すると,平成16年4月から令和8年4月までの答申41回分で,審議対象は延べ4,918人,そのうち不適当とされたのは64人であり,割合は1.30%である。年ごとの不適当の人数は0人から6人の範囲に収まっており,最も多かったのは制度発足直後の平成16年4月の6人である。令和4年1月及び4月,令和6年1月及び4月のように,不適当が1人も出ない回も珍しくない。

令和3年上半期から令和8年上半期までの11回を合計すると,審議対象は1,269人,不適当は7人であり,不適当の割合は0.55%である。この集計も,判事の再任候補者だけでなく,判事補から判事への任命候補者を含む。

この期間に議事要旨で明示された願の撤回として,①令和5年上半期候補者83人のうち1人が判事再任願を撤回し,82人が審議対象となった(第106回議事要旨2頁),②令和5年下半期は,情報収集前に1人が願を撤回し(第109回議事要旨2頁),その後,候補者158人のうち1人が判事任命願を撤回し,1人が出向したため,156人が審議対象となった(第110回議事要旨2頁),③令和6年上半期候補者80人のうち1人が判事再任願を撤回し,79人が審議対象となった(第112回議事要旨2頁)ことが確認できる。答申前に審議対象から外れた者は,その回の適当又は不適当の人数のいずれにも含まれず,そのこと自体から再任又は判事任命の適否を推測することはできない。

審議対象人数が時期によって大きく変動しているのは,判事新任がどの時期に行われるかが期によって異なるためである。52期までは4月に任官していたため,その10年後の判事新任も4月期に行われ,1月及び4月期の審議対象は160人から200人を超える規模であった。これに対し,53期から59期までは10月任官であるから,その判事新任は10月期に回り,平成22年10月の53期の判事新任から第2項の系列が始まっている。平成23年4月の審議対象が116人に落ちているのは,この年の1月及び4月期が判事の再任だけで構成され,判事新任を含まなかったからである。令和2年9月及び10月以降に第2項の人数が149人から172人へ増えているのは,53期以降の期が再任の時期を迎え,判事新任と再任とが同じ秋期に重なるようになったことによる。

委員会が判断を留保した例もある。平成23年上半期の再任については,116人のうち113人を適当,2人を不適当とした上で,「1人については,指名することの適否について判断を留保し,次回以降の委員会で更に審議する」とされ(第45回3頁及び4頁),この1人は,その後に願いを撤回したことが報告されている(第46回1頁)。表の人数は答申の対象となった人数であるから,この留保された1人は不適当の数には含まれていない。

4 平成18年4月の再任と井上薫裁判官

平成17年12月9日の委員会は,平成18年4月の再任及び新任について,指名候補者189人のうち185人を適当,4人を不適当と答申した(第19回3頁及び4頁)。議事要旨は個人名を記載しないため,この4人が誰であるかを議事要旨から知ることはできない。もっとも,当時の報道によれば,井上薫裁判官(38期・横浜地裁判事)が再任不適当との通知を受けたことを自ら明らかにしており,同裁判官は平成18年に退官した。

井上薫裁判官は,「諸君!」2006年1月号に「あの「靖国傍論」判決批判の裁判官がクビ?我、「裁判干渉」を甘受せず」と題する記事を寄稿しており,同誌82頁には次の記載がある。

平成一六年一一月のある日、私は、横浜地裁の浅生重機所長から、「判決の理由が短いので改善せよ」と言われた。執務時間中所長室で二人きりの時のことである。

平成一七年七月一四日、所長面談の時、私は所長から「判決の理由を改善するように言ったのに改善しないので、来年の判事再任は無理である。第二の人生を考えておくように」と言われた。所長面談というのは、所長が裁判官の人事評価をするに先立ち、その裁判官としなければならないものとして制度化された面談であり、公式行事である。余人は立ち会わない。

委員会の審議資料の中心が所長等の作成する人事評価と報告書であることは前記第2のとおりであるから,所長面談で示された評価が翌年の答申に結び付く経路は,制度上は説明が付く。榊原秀訓南山大学教授は,指名諮問委員会について,裁判所が組織的に情報を収集していることによる内部情報の圧倒的優位性を特徴として挙げ,内部的に不適格の判定が予想される裁判官に対しては所長等の面談等の際に警告的なことが行われていることがうかがわれると指摘している。ただし,個々の答申の理由は公表されていないから,特定の面談と特定の答申との結び付きを公表資料から確認することはできない。

第4 新任判事補及び弁護士任官に関する答申との比較

委員会は,判事の再任及び新任のほかに,司法修習を終えた者からの新任判事補と,弁護士からの任官についても諮問を受けている。同じ委員会が同じ時期に審議しているにもかかわらず,不適当とされる割合は区分によって大きく異なる。

区分集計した範囲審議対象不適当割合
判事の再任及び新任平成16年4月~令和8年4月(41回)4,918人64人1.30%
新任判事補平成15年10月~令和8年4月(29回)2,183人59人2.70%
弁護士任官平成16年4月~令和8年4月(38期分)145人64人44.1%

新任判事補については,制度発足直後の平成15年10月に108人中8人,平成16年10月に115人中7人,平成17年10月に133人中9人,平成18年10月に123人中8人と,毎年相当数が不適当とされていた。もっとも,平成26年12月19日の答申(平成27年1月任官分)以降は0人の回が続き,近年は令和5年12月15日の83人中2人,令和7年4月11日の92人中2人といった水準である。

これに対し,弁護士任官候補者については,平成16年4月任官分から令和8年4月任官分までの38期分で,諮問145人のうち不適当が64人,割合は44.1%に達する。とりわけ平成22年10月,平成23年10月,平成24年10月,平成27年10月,平成28年10月,令和7年10月及び令和8年4月の各期は,諮問された候補者の全員が不適当と答申されている。期ごとの内訳と,答申と現実の任官者数との関係は,弁護士任官候補者に関する下級裁判所裁判官指名諮問委員会の答申状況で扱う。

この差について,榊原秀訓教授は,弁護士任官の不適格判定の割合が高いことを指摘した上で,弁護士任官適格者選考委員会の推薦における判断基準と指名諮問委員会の判断との間に相当程度のかい離があること,不適格判定の基礎となった資料の多くは裁判所側からの情報提供によるものと考えられること,そのために弁護士任官の推進に対する萎縮効果が生じているとされることを紹介している。同教授はまた,指名諮問委員会の設置以後にかえって新任拒否の数が増えたとされることについて,任官希望者が増加したことに加え,従前は最高裁判所が事実上の働きかけによって新任希望を撤回させていたのに対し,現在は司法研修所の教官も任官の適否を保障できないという立場をとるようになったため希望の撤回者が減ったことによる,との推測を紹介している。

第5 議事要旨から分かる委員会の運営

1 不適当とされた理由の開示

不適当とされた者に対して理由をどこまで開示するかは,制度発足の翌年に委員会自身が議論している。第8回委員会(平成16年3月29日)の議事要旨17頁から19頁によれば,能力・資質という理由だけでなくもう少し具体的な理由があってもよいのではないかという疑問が委員から示されたのに対し,健康状態のように明示できる場合はあるが,複合的な要素があるときには資質・能力という抽象的な理由にならざるを得ない,という説明がされている。不再任の結論自体は一致しても,その判断に至った要素については委員間で違いがあり,人格的な問題があるとした場合にどの面に問題があるのかは見方によって相当異なる,という趣旨の発言も記録されている。

任官の基準を公表すべきかについても同じ回で議論されており,予測可能性の観点から一定の基準を公表すべきではないかという意見に対し,成績は資質・能力の一つの表れとして重要な要素ではあるものの,足切り的なものであっても絶対的な基準として設定することは非常に困難であり,人物面を含めて総体的に判断せざるを得ない,という説明がされている。結論としては,裁判所内部だけで行ってきた事務に外部の有識者が加わる仕組みができたこと自体が透明性の向上に対する一つの回答である,という整理がされている。この回では,短期の弁護士任官を認めないという方針や,検察官からの3年間の任官との違いについても確認されている。

2 地域委員会における情報収集の方法

地域委員会が弁護士から情報を得る方法は,制度発足当初から繰り返し議論されてきた論点である。第6回委員会(平成15年12月2日)の議事要旨2頁及び3頁によれば,委員会は,各個人から地域委員会へ直接情報を提供してもらう方法を予定していたのに対し,いくつかの単位弁護士会や弁護士会連合会が,会員に対して指名候補者の評価に関するアンケート用紙を配布し,回答を取りまとめて地域委員会に提出する活動を行っていることが判明した。委員会は,組織体によって作成された情報や段階評価式のアンケート調査による情報の適格性に問題があるとして,委員長から地域委員会委員長宛てに注意を喚起する書簡を発出している。その後も,顕名により具体的な根拠事実を記載して提供された情報は一律に排除せず個別に適格性を判断する,段階評価の平均点や他の裁判官と比較した順位を摘示している部分は資料としない,という取扱いが積み重ねられてきた(第45回3頁)。

令和7年12月5日の委員会では,この情報収集の方法が拡充された。従来の書面による方法,すなわち各個人から各地域委員会の庶務を担当する高等裁判所事務局総務課長宛てに,指名候補者の指名の適否に関する具体的な事実並びに情報提供者の氏名及び所属を記載した書面を親展表示の上で郵送又は持参する方法に加え,同じ内容を記載した電磁的記録を,所定のパスワードを付したPDFファイルの形式で各地域委員会の庶務の電子メールアドレス宛てに送信する方法が認められることとなった。庶務から最高検察庁及び日本弁護士連合会に対し,各検察庁及び各弁護士会への周知が依頼されている(第123回3頁及び別紙)。

第6 関連記事

本記事は,不適当答申の件数推移並びに不適当答申,最高裁判所の不指名及び現実の再任拒否の区別に対象を絞る資料記事である。
出向から復帰する候補者の諮問省略及び情報収集は出向から復帰する裁判官の指名手続|諮問省略の条件・情報収集・判事/判事補への復帰で扱う。

制度全体の対象者,委員構成,審査手続及び答申後の任命は下級裁判所裁判官指名諮問委員会とは|対象者・委員構成・審査手続・答申後の任命を,再任候補者に関する外部情報の提出方法及び審議の流れは裁判官再任評価情報の提供方法及び指名諮問委員会の審議を参照されたい。委員会の委員及び地域委員の顔ぶれは下級裁判所裁判官指名諮問委員会委員名簿で,各期の再任がいつ到来するかは裁判官の再任の予定年月日,及び一斉採用年月日で,任期の満了によって現実に退官した裁判官は平成20年度以降,任期終了により退官した裁判官の一覧及び裁判官の退官情報で,それぞれ扱っている。裁判官の職務に関する情報を裁判所に伝える一般的な方法は,裁判官の職務に対する苦情申告方法で扱っている。

出典・参考資料

1 法令・規則

日本国憲法80条1項(e-Gov法令検索)
裁判所法(昭和22年法律第59号)40条1項・3項,42条1項(e-Gov法令検索)
下級裁判所裁判官指名諮問委員会規則(平成15年2月26日最高裁判所規則第6号)(裁判所)。同規則のPDF(最高裁判所)
④裁判官の再任等に関する事務について(平成16年6月17日付けの最高裁判所事務総局人事局長の通達。題名及び日付が同じで文書番号の異なる2通)
⑤裁判官の人事評価に関する規則(平成16年1月7日最高裁判所規則第1号)

2 公的資料

下級裁判所裁判官指名諮問委員会(最高裁判所)。第1回(平成15年6月9日)から第125回(令和8年4月10日)までの議事要旨。本文の各表からは,該当する回の議事要旨に直接リンクしている
下級裁判所裁判官指名諮問委員会の概要(最高裁判所)
下級裁判所裁判官指名諮問委員会 地域委員会 地域委員名簿(最高裁判所)
平成29年度(最情)答申第48号(平成29年12月1日答申)(最高裁判所)
⑤平成29年度(最情)答申第31号(平成29年9月11日答申)
日本弁護士連合会「裁判官の再任拒否に関する決議」(昭和46年5月8日臨時総会)
日本弁護士連合会「最高裁判所『下級裁判所裁判官指名諮問委員会規則』制定に関する会長声明」(平成15年2月12日)

3 文献

①榊原秀訓『行政裁量と行政的正義』(日本評論社,2023年)135頁~140頁
②宮本康昭・大出良知『再任拒否と司法改革 司法の危機から半世紀、いま司法は』(日本評論社,2021年)
③井上薫「あの「靖国傍論」判決批判の裁判官がクビ?我、「裁判干渉」を甘受せず」「諸君!」2006年1月号80頁~88頁
「裁判官4人再任拒否」(平成17年12月16日付けの個人ブログ記事。同年12月の答申に関する報道を引用したもの)