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国際裁判官協会(IAJ)とは―日本の加盟団体,最高裁判所の質問票回答(2013年~2025年)及び年次総会(AIリライト)

第1 国際裁判官協会(IAJ)とは

1 各国の裁判官団体で構成される国際団体である

国際裁判官協会(International Association of Judges,IAJ)は,各国の裁判官の団体を構成員とする国際団体である。
IAJの公式サイトは,同協会を1953年にオーストリアのザルツブルクで設立された,専門的かつ非政治的な国際組織と説明している。
構成員は個々の裁判官ではなく,中央理事会が加盟を承認した各国の裁判官団体であり,公式サイトの説明では,5大陸の93の団体又は代表グループが加盟している。

同協会の主な目的は,司法の独立を守ることである。
執行機関である中央理事会(Central Council)には各加盟団体から2人の代表が出ており,中央理事会は原則として毎年,開催国を変えて会合を開く。
同協会は,国際連合(国際労働機関と経済社会理事会)と欧州評議会で協議資格を持っている。
本記事は,2026年10月18日に確認したIAJの公式サイトと,本ブログに掲載した最高裁判所の開示文書に基づいて,同協会と日本との関係を説明する。

2 加盟団体は4つの地域グループに分かれる

加盟団体は,欧州(44か国),アフリカ(21か国),イベロアメリカ(19か国)及びアジア・北米・オセアニア(15か国)の4つの地域グループに分かれている。
2025年10月にアゼルバイジャンのバクーで開かれた中央理事会では,ブラジルの裁判官であるWalter Barone氏が,その後2年間の会長に選ばれた。

3 裁判所ではない

国際裁判官協会は裁判官の団体であり,裁判をする機関ではない。
国家間の紛争を裁判する国際司法裁判所(ICJ)や,個人の刑事責任を裁く国際刑事裁判所(ICC)とは,名称が似ていても別の存在である。
ICJとICCの違いは国際司法裁判所と国際刑事裁判所の違い―ICJ・ICCの当事者,管轄権と判断の効力で,それぞれの日本人裁判官は国際司法裁判所(ICJ)の日本人裁判官と所長―岩澤雄司所長・歴代の日本人判事・選出方法及び国際刑事裁判所(ICC)の日本人裁判官と所長―赤根智子氏・歴代判事・選出方法で説明している。

第2 日本との関係

1 日本は1958年に10番目の加盟国となった

IAJの公式サイトの加盟の年表によれば,日本は,1958年のパリでの会合で,設立時の6か国(オーストリア,ブラジル,フランス,ドイツ,イタリア及びルクセンブルク)に続く10番目の加盟国となった。
同サイトの加盟団体一覧には,日本の団体として「JAPAN (Nihon Saibankan Kyokai)」と記載されている。
この団体の規約,構成員及び事務局の所在は,公式サイトその他の公表資料では確認できなかった。

2 質問票への回答は最高裁判所事務総局秘書課が作成している

IAJの4つの研究委員会は,各国の団体から寄せられた報告をもとに共通の問題を比較して検討しており,その報告のための質問票が各国の団体に送られている。
日本からの回答について,最高裁判所は,対象文書を「国際裁判官協会(IAJ)からの質問票、及びこれに対する最高裁判所事務総局秘書課の回答書」と記載している(令和8年5月25日付けの司法行政文書不開示通知書)。
英語の回答書には,「Response of the JAPAN」という表題のものがある(2023年分)。

最高裁判所の「令和9年度概算要求書(説明資料)」の印刷頁21~22頁(PDF実頁23~24頁)には,国際裁判官協会等への分担金が掲げられている。
IAJ分は2650ユーロに積算用の為替換算率1ユーロ166円を乗じた43万9900円であり,千円単位の要求額は440千円,すなわち44万円である。
これは令和9年度の要求上の積算であり,その時点の市場為替レートや,支払済みの実績額を示すものではない。

同じ項目には,国際少年家庭裁判所裁判官協会及び国際司法研修機構の分担金も含まれており,3団体分の計672千円と,IAJだけの440千円を区別する必要がある。
IAJに関する費用が最高裁判所の概算要求に掲げられていることと,日本の加盟団体の内部組織・会員資格・意思決定の仕組みがどのようなものかは,別の確認事項である。

出典:令和9年度概算要求書(説明資料)・国際裁判官協会等分担金。

第3 研究委員会のテーマと最高裁判所の回答(2013年~2025年)

1 4つの研究委員会

IAJには4つの研究委員会があり,第1研究委員会は司法行政と裁判官の地位,第2研究委員会は民事法と民事手続,第3研究委員会は刑事法と刑事手続,第4研究委員会は公法と社会法を扱う。
各研究委員会は,中央理事会と同じ場所で毎年会合を開く。

2 年別のテーマと回答書

本ブログでは,最高裁判所への司法行政文書の開示の申出により入手した次の文書を掲載している。
テーマは,各文書の質問票の題名又は回答の内容による。

年研究委員会のテーマ掲載文書
2013年裁判官の独立(政治からの独立)2013年の回答書
2014年第1:法廷内のメディア(ソーシャルメディアを含む)と司法の独立2014年の回答書
2016年第1:司法制度における透明性・廉潔性の確保と汚職防止のベストプラクティス2016年の回答書
2017年第1:司法の独立と司法の質への脅威(業務量,資源及び予算)/第4:柔軟な雇用その他の新しい労働関係2017年の回答書
2019年ソーシャルメディア上の裁判官へのコメント,訴訟費用,法廷でのメディアの取材,職場のハラスメント等2019年の回答書
2020年第1:懲戒手続と司法の独立/第2:データ保護規則が民事訴訟に与える影響/第3:刑事法廷におけるコミュニケーション/第4:職場での不正行為と汚職2020年の質問票と回答書
2021年第1(事前質問票):コロナ禍における司法へのアクセス2021年の事前質問票と回答
2022年第1:懲戒手続と司法の独立/第2:民事訴訟におけるバーチャル裁判/第3:言論の自由に対する刑法による制約/第4:裁判官の職場と裁判官の独立性2022年の質問票と回答書(日本語訳)
2023年第1:リモートワークが司法の職場と司法運営に与える影響/第2:データ保護規則と民事訴訟における裁判官の仕事2023年の質問票と回答書
2024年第1:人工知能が司法に与える影響/第2:民事訴訟の書面が助けから妨げに変わるとき2024年の質問票と回答書
2025年第2:民事事件における本人訴訟の増加と司法運営への影響/第3:刑事司法における伝統的な手続の代替措置/第4:競業避止・忠実義務・守秘義務の規律の影響2025年の質問票と回答書

2013年分と2014年分は英語の回答書であり,2016年分,2017年分及び2023年分以降も英語の質問票と回答で構成されている。
2019年分は日本語の回答書であり,2020年分,2021年分及び2022年分は日本語訳の質問票と回答を含んでいる。

3 回答の主な内容

2019年分の回答書は,表現の自由が憲法で保障されていることから,ソーシャルメディア上の裁判官に対するコメントは,犯罪行為等に当たらない限り原則として尊重されるべきものと認識していると述べている。
そのうえで,個々の裁判を適正・迅速に行い,判決の公開などを通じて裁判官と司法制度を正確に理解してもらうことが,最善の対処方法の一つではないかとしている。

2020年分と2022年分の懲戒手続に関する回答は,裁判官の私生活での振る舞いも懲戒の対象となる一方,裁判官が出した判決の内容が懲戒手続の対象となることはなく,判決の内容について刑事責任を問われることもないと説明している。

2021年分の事前質問票への回答は,日本では新型コロナウイルス感染症の流行中も裁判所は閉鎖されなかったと述べている。
また,2020年2月から一部の地方裁判所本庁でウェブ会議による争点整理の運用が始まり,同年12月までに全国の地方裁判所本庁に広がったと説明している。
新型コロナウイルス感染症に関する最高裁判所の文書は,新型コロナウイルス感染症への対応に関する最高裁判所作成の文書にまとめている。

2023年分のデータ保護に関する回答は,日本の個人情報保護法が裁判所に適用されないことを前提に,各問いに答えている。

2024年分の人工知能に関する回答は,生成AIを利用していないこと,裁判官による生成AIの利用について詳しい検討はしていないこと,生成AIの利用を直接規制する規則はないことを述べている。
最高裁判所長官の記者会見での生成AIに関する発言は,最高裁判所長官の記者会見と談話―今崎長官の就任会見,憲法記念日会見及び生成AIに関する発言(令和6年~令和8年)で扱っている。

2025年分の本人訴訟に関する回答は,本人訴訟の当事者の数は増えていないと述べ,本人訴訟は不動産関係,貸金返還請求及び売買代金請求等の典型的な事件で多く見られると説明している。
同じ年の刑事司法に関する回答は,伝統的な手続の代替措置として,医療観察制度を挙げている。

第4 年次総会

IAJの公式サイトの開催地一覧によれば,近年の年次総会は次のとおりである。

回開催地期間
第62回ヌルスルタン(カザフスタン)2019年9月15日~19日
第63回ローマ(イタリア)からのオンライン会合2021年9月11日~12日
第64回テルアビブ(イスラエル)2022年9月18日~23日
第65回台北(台湾)2023年9月17日~21日
第66回ケープタウン(南アフリカ)2024年10月18日~23日
第67回バクー(アゼルバイジャン)2025年10月12日~17日
第68回リスボン(ポルトガル)2026年10月15日~21日

2020年分の質問票は,第63回総会をコスタリカのサンホセで開く前提で作られていたが,開催地一覧では,第63回は2021年のオンライン会合として記載されている。
2026年の第68回は,ポルトガルの裁判官組合(Associação sindical dos juízes portugueses)が主催する。

2025年のバクーでの年次総会については,台湾の裁判官6人が査証を取得できずに出席できなかったと報じられている。
報道によれば,中華民国法官(裁判官)協会は,IAJから,今後は会員が排除されることがないよう開催地を慎重に選ぶ旨の書簡を受けたと発表した。

2026年の研究委員会のテーマは,第1研究委員会が政治家による司法への攻撃と司法の独立,第2研究委員会が裁判外紛争解決(ADR),第3研究委員会が証拠の信用性と信頼性の評価,第4研究委員会が高齢化と年齢差別とされている。

第5 質問票と回答書の入手と保存

本ブログに掲載した質問票と回答書は,最高裁判所に対する司法行政文書の開示の申出により入手したものである。
2025年分の日本語訳については,令和7年12月20日付けの申出に対し,最高裁判所事務総長が,令和8年5月25日付けで「1の文書は、廃棄済みである。」として開示しないこととした(令和8年5月25日付けの司法行政文書不開示通知書)。
2025年分は,英語の質問票と回答書を上記第3の2の表に掲載している。

第6 関連動画

日本とドイツの裁判官を題材とする1999年制作の映画「日独裁判官物語」の動画が,個人のチャンネルによりYouTubeで公開されている。

第7 出典

①International Association of Judges「History」。設立,目的,加盟団体数,中央理事会,協議資格,研究委員会,地域グループ,2025年の会長選出,2026年のテーマと次回総会。
②International Association of Judges「Chronology of the admissions」。日本の加盟年と加盟の順序。
③International Association of Judges「Member Associations」。日本の加盟団体の表示。
④International Association of Judges「List of the places where the 67 IAJ annual meetings took place」。第62回から第67回までの開催地と期間。

⑤上記第3の2の表の各文書(最高裁判所の開示文書)及び第5の不開示通知書。
⑥フォーカス台湾「台湾の裁判官、アゼルバイジャンのビザ取得できず 国際裁判官協会の総会」(2025年10月27日)。