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執行官―職務,権限,監督,採用選考及び最高裁判例(AIリライト)

第1 執行官の地位と制度の概要

1 各地方裁判所に置かれる裁判所職員

執行官は,各地方裁判所に置かれ,裁判の執行,裁判所が発する文書の送達その他の事務を行う裁判所職員である(裁判所法62条執行官法1条)。国家公務員法2条3項13号が「裁判官及びその他の裁判所職員」を特別職としているため,執行官も特別職の国家公務員に当たる。

裁判所の「執行官」は,執行官の代表的な仕事として,建物明渡し,動産の差押え・売却,子の引渡し,不動産競売における現況調査及び裁判関係文書の送達を挙げている。執行官の職務は強制執行だけに限られず,執行官法8条には,保全執行,破産財産の封印,拒絶証書の作成その他の事務も列挙されている。

2 独立した司法機関と地方裁判所の監督

執行官は,一人一人が独立した司法機関として,個別事件では自己の判断と責任により権限を行使する。債権者から申立てを受けて職務を行う場合でも,債権者の代理人又は使用人になるわけではなく,法令に従って執行処分を行う国家機関である。

他方,執行官は,所属する地方裁判所の司法行政上の監督を受ける。この監督は,記録・帳簿・金銭の管理,事務処理,服務等を適正に保つためのものであり,個別事件において執行官が行うべき法的判断を,債権者又は裁判所職員の指示に従属させる趣旨ではない。令和8年7月版の執行官採用選考リーフレットも,執行官が一人一人独立した司法機関として職務を行うことを説明している。

3 手数料制と国庫補助

執行官は,国から通常の給与を受けるのではなく,職務の種類に応じて法定の手数料を受け,職務の執行に要する費用の支払又は償還を受ける(裁判所法62条4項,執行官法7条)。手数料及び費用の額は,執行官の手数料及び費用に関する規則が定めており,申立人は,原則として概算額の予納を求められる。

もっとも,手数料だけで収入の全てが無条件に決まるわけではない。執行官法21条は,1年間の手数料収入が政令所定額に達しないときは,国庫が不足額を支給すると定め,執行官国庫補助基準額令1条は,行政職俸給表(一)5級1号俸の俸給月額の12倍を補助基準額とする。このため,執行官の収入制度を「完全歩合制」と説明するのは正確でない。

第2 執行官の主な職務

1 建物明渡し及び動産執行

不動産の引渡し又は明渡しの強制執行は,執行官が債務者の占有を解き,債権者に占有を取得させる方法で行う(民事執行法168条1項)。建物内に残された動産は,債務者等に引き渡し,引渡しができない場合には執行官が保管し,法定の手続により売却することがある。執行の現場には,原則として債権者又はその代理人の出頭が必要である。

動産執行は,執行官が目的物を差し押さえることにより開始し,差押物を売却した代金等を債権の弁済に充てる手続である(民事執行法122条)。ここでいう動産には,宝石・貴金属等だけでなく,登記できない土地の定着物,一定の未収穫天然果実及び裏書が禁止されていない有価証券も含まれるが,生活又は仕事に不可欠な物等については差押禁止の規定がある。

2 不動産競売の現況調査

不動産の強制競売又は担保不動産競売では,執行裁判所が執行官に対し,不動産の形状,占有関係その他の現況を調査するよう命じる(民事執行法57条)。執行官は,不動産への立入り,占有者等への質問,文書の提示要求,市町村に対する固定資産税関係資料の写しの請求,電気・ガス・水道等の供給事業者に対する報告要求等を行い,調査結果を現況調査報告書にまとめる。

現況調査報告書は,評価書及び物件明細書とともに,不動産競売への参加を検討する者が確認する重要資料である。ただし,現況調査報告書の記載だけで,物件に関する全ての実体上の権利関係が確定するわけではない。

3 裁判関係文書の送達

執行官は,民事訴訟その他の裁判手続における文書の送達も担当する。執行官法8条1項1号は文書の送達を手数料の対象となる事務として掲げており,当事者の住所等で送達を実施し,その結果を裁判所へ報告する。

4 子の引渡し

子の引渡しの強制執行には,執行裁判所が執行官に引渡しを実施させる直接的な方法と,債務者に金銭の支払を命じて履行を促す間接強制がある(民事執行法174条)。直接的な方法は,間接強制の決定が確定してから2週間を経過した場合,間接強制をしても履行の見込みがない場合又は子の急迫した危険を防止する必要がある場合のいずれかに限って申し立てることができる。

執行官は,債務者を説得するほか,住居等への立入り,子の捜索,債権者と子との面会等を行うことができる。もっとも,子に対して威力を用いることはできず,子以外の者に対する威力の使用も,子の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある場合には許されない(民事執行法175条8項)。裁判所の「子の引渡しの強制執行の手続」は,申立要件,債権者又は代理人の出頭及び執行場所に関する取扱いを説明している。

5 その他の法定職務

執行官法8条が掲げる事務には,差押え・仮差押え,動産の売却その他の換価,物の引渡し,保全処分,不動産の内覧,破産財産の封印,拒絶証書の作成等がある。個々の職務の要件と手続は,民事執行法,民事保全法,破産法その他の根拠法令によって異なるため,「裁判の結論を強制的に実現する仕事」だけでは執行官の職務範囲を言い尽くせない。

第3 職務執行の権限と手続上の制約

1 威力の使用及び警察上の援助

執行官は,職務の執行に際して抵抗を受けるときは,その抵抗を排除するために威力を用い,又は警察上の援助を求めることができる(民事執行法6条1項)。これは任意の履行を求める権限にとどまらず,国家の執行権を現場で実現するための権限である。

もっとも,威力の使用は抵抗を排除するために必要な範囲に限られる。特に子の引渡しでは,前記のとおり,子に対する威力の使用が明文で禁止されている。

2 住居への立入り,休日・夜間の執行及び身分証明書

現況調査及び建物明渡し等のため,執行官は不動産に立ち入り,必要があるときは閉鎖した戸を開くための処分を行うことができる(民事執行法57条3項,168条4項)。ただし,日曜日その他の一般の休日又は午後7時から翌日の午前7時までの間に人の住居へ立ち入るには,原則として執行裁判所の許可を受け,許可を証する文書を提示しなければならない(同法8条)。

また,執行官は,職務を行う場合に身分証明書を携帯し,利害関係人から請求されたときは提示しなければならない(同法9条)。強制力を伴う権限と,執行裁判所の許可,文書の提示及び不服申立てという手続上の制約が組み合わされている。

3 執行異議

執行官の執行処分又はその遅怠に対しては,執行裁判所に執行異議を申し立てることができる(民事執行法11条1項)。また,申立てにより取り扱う執行官の処分,手数料・費用の計算又は遅怠についても,特別の定めがない限り,執行異議の例による(執行官法5条)。

執行異議が対象とするのは,執行処分の方法,手続又は遅怠等である。債務名義に表示された請求権の不存在又は消滅,第三者の所有権その他の実体上の権利を主張する場合には,請求異議の訴え又は第三者異議の訴え等,別の手続が必要になることがある。

第4 執行官採用選考試験

1 現行の選考資格

裁判所の現行の「執行官採用選考試験案内」によれば,選考資格は,法律に関する実務を経験した年数が通算して10年以上である者である。ただし,日本国籍を有しない者及び国家公務員法38条の欠格事由に該当する者は除かれる。

法律実務の例には,行政職俸給表(一),税務職俸給表又は公安職俸給表(一)若しくは(二)の適用を受ける国家公務員としての実務,弁護士・弁理士・司法書士・不動産鑑定士としての実務,銀行・長期信用銀行・信用金庫・労働金庫・信用協同組合における実務等がある。これら以外の経歴は,執行官採用選考委員会が個別に審査する。

旧制度では一定の職務級にあった公務員等を独立の資格区分とする時期があったが,現在の案内に「行政職俸給表(一)の5級以上であること」という独立の要件はない。

2 試験方法

第一次試験は筆記試験であり,多肢選択式は憲法,執行官法,民法,民事訴訟法,民事執行法,民事保全法及び刑法から20問が出題され,試験時間は1時間である。論文式は民法,民事訴訟法及び民事執行法から3問が出題され,試験時間は3時間である。

第二次試験は個別面接であり,人物,適性及び執行官に必要な専門的能力が審査される。一定の公務員歴又は法曹資格等を有する者については,選考区分に応じて筆記試験の一部又は全部が免除される場合があるため,応募年度の受験案内を確認する必要がある。

3 実施庁及び日程

執行官は欠員に応じて採用されるため,募集する地方裁判所,採用予定人員及び日程は年度ごとに異なる。裁判所は,「執行官採用選考試験実施庁」に実施庁を掲載し,A選考の結果等によりB選考又は追加の選考を実施することがある。

過去の募集庁,応募者数,合格者数等については,本ブログの「執行官の採用選考実施結果」に掲載している。

第5 執行官の監督,総括執行官及び職務の代行

1 監督官及び監督補佐官

執行官規則4条は,地方裁判所が,裁判官会議を構成する裁判官の中から監督官を指名しなければならず,所属する裁判所職員の中から監督補佐官を指名できると定める。平成6年12月20日付け最高裁判所事務総長通達によれば,監督官は地方裁判所長,所長代行者,執行事件を担当する部の事務を総括する裁判官,支部長等から,監督補佐官は事務局長,会計課長,支部の庶務課長,民事首席書記官,執行事件を担当する部の主任書記官等から指名される。

監督官及びその命を受けた監督補佐官は,執行官の記録・帳簿・保管金品の調査,職務執行現場の監察,報告の要求,事務の取扱い又は行状に関する注意等を行うことができる(執行官規則5条)。本ブログには,「執行官等に関する事務について」及び「執行官事務の査察について」を掲載している。

2 総括執行官

地方裁判所には1人の総括執行官が置かれ,所属する執行官の一般執務を指導監督する(執行官規則5条の2)。平成6年通達は,原則として,任命後5年以上であり,執行官の職務及び組織運営に関する識見を有する執行官の中から任命するとしている。地方裁判所は,所属する執行官から総括執行官の事務を補佐する者を指名することができる。

3 裁判所書記官による職務の代行

地方裁判所は,執行官の事故その他の理由により必要があるときは,裁判所書記官に執行官の職務の全部又は一部を行わせることができる(執行官法20条,執行官規則6条)。この場合,裁判所書記官は,法令に基づいて執行官の職務を代行する。

第6 執行官の職務に関する最高裁判例

1 代替執行と国家賠償法上の公務員

最高裁昭和41年9月22日第一小法廷判決は,旧法下の執行吏が授権決定に基づいて行う代替執行について,国家の強制執行権を実現する行為であり,国家賠償法1条1項の「公権力の行使に当る公務員」の職務に当たるとした。同判決は,立木収去の事案において,債権者及び執行吏に移植の適期まで執行を延期する義務はなく,仮植等をしなかったことも当該事情の下では違法でないと判断した。

2 不動産の現況調査における注意義務

最高裁平成9年7月15日第三小法廷判決は,執行官が通常行うべき調査方法を採らず,又は調査結果の十分な評価・検討を怠るなど,調査及び判断の過程が合理性を欠き,その結果,現況調査報告書と不動産の実際の状況との間に看過し難い相違が生じた場合には,不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務に違反するとした。同判決の事案では,町役場職員の案内の正確性を質問等により検討せず,登記所備付地図の写しと現地の状況との照合も十分に行わなかったことから,注意義務違反が認められた。

3 現況調査を利用した競売入札妨害

最高裁平成18年12月13日第三小法廷決定は,現況調査に訪れた執行官に虚偽の事実を述べ,内容虚偽の契約書類を提出した行為が,平成23年法律第74号による改正前の刑法96条の3第1項にいう偽計を用いた「公の競売又は入札の公正を害すべき行為」に当たり,虚偽の陳述等に基づく競売手続が進行する限り,刑事訴訟法253条1項の「犯罪行為が終つた時」には至らないとした。

現行刑法では,偽計又は威力を用いて強制執行における売却の公正を害すべき行為は,刑法96条の4の強制執行関係売却妨害罪に当たる。前記決定は改正前の条文を適用した判例であり,現在の条番号と混同してはならない。

4 期間入札における執行官の判断の誤り

最高裁平成22年8月25日第一小法廷決定は,入札書を入れた封筒に記載された事件番号が添付書類の事件番号と一致しなくても,開札期日を特定できるときは入札を無効とすることができないとした。執行官が最高額の入札を誤って無効と判断して他の者を最高価買受申出人とした場合,執行裁判所はその者に対する売却を不許可とし,当初の入札までの手続を前提として開札期日等を改めて定め,執行官が最高価買受申出人を定め直すべきであると判断した。

最高裁平成26年11月4日第三小法廷決定は,外国法人による最高額の入札が代表者資格証明書を提出していないため無効であり,売却不許可決定が確定した事案について,当初の入札までの手続を前提に再度の開札期日を開き,次順位の入札人を最高価買受申出人とした執行裁判所の判断に違法はないとした。両決定は,執行官の誤りがあっても,既に適法に行われた入札までの手続を当然に全てやり直すものではないことを示している。

第7 制度の沿革と民事執行手続のデジタル化

1 執行吏から執行官への制度改正

現行の執行官法は,昭和41年法律第111号として昭和41年7月1日に公布され,同年12月31日に施行された。同法は,従前の執行吏を執行官に改め,執達吏規則及び執達吏手数料規則を廃止した。

第51回国会参議院法務委員会第26号では,執行吏制度の近代化,職務内容の明確化,役場制度の廃止,裁判所による監督の強化等が法案の趣旨として説明された。他方,国から通常の俸給を支給する制度には移行せず,手数料制と国庫補助を組み合わせる仕組みが維持された。

2 民事執行手続のデジタル化

令和5年法律第53号は,民事執行,民事保全,倒産及び非訟事件等について,オンライン申立て,電子的な事件記録及びウェブ会議等を可能にするための規定を整備した。法務省「民事執行手続等のデジタル化」によれば,施行時期が複数に分かれており,全面施行は公布の日から5年以内の政令で定める日とされている。

したがって,2026年8月時点で,将来施行される全ての規定が既に利用できるわけではない。申立方法及び提出書類は,執行の種類と時点に応じて,裁判所の「執行官に提出する書式等」及び各地方裁判所の最新案内を確認する必要がある。

第8 執行官に関する資料及び関連記事

1 規則,通達及び事務連絡

裁判所ウェブサイトには,現行の執行官規則執行官の手数料及び費用に関する規則並びに民事事件関係通達等の一覧が掲載されている。手数料額,記録・帳簿の取扱い及び現況調査手数料の加算等を確認するときは,改正年月日を含めて現行資料を確認する必要がある。

本ブログには,①執行官等に関する事務について(平成6年12月20日付け最高裁判所事務総長通達),②執行官の手数料の配分等に関する規約(平成11年6月2日承認),③平成29年10月27日付け司法行政文書不開示通知書,④執行官事務の査察について(平成6年12月20日付け最高裁判所民事局長・経理局長通達)を掲載している。

また,⑤執行官が取り扱う事件における秘匿制度の留意点について(令和5年2月15日付け最高裁判所民事局第一課長事務連絡),⑥執行官の事務に関する記録及び帳簿の作成及び保管並びに現況調査の手数料の加算の基準について(令和5年2月10日付け最高裁判所事務総長依命通達),⑦執行官の事件の記録の表紙及び帳簿等の記載要領並びに事件の処理について(令和5年2月10日付け最高裁判所民事局長通達)も掲載している。

2 関連記事

執行官の配置状況は,本ブログの「執行官数の推移」に掲載している。採用選考の年度別結果は,「執行官の採用選考実施結果」に掲載している。

出典・参考資料

1 法令及び規則

裁判所法62条,64条及び65条

国家公務員法2条3項13号

執行官法1条~21条

執行官国庫補助基準額令

民事執行法6条,8条,9条,11条,57条,122条,168条,174条及び175条

国家賠償法1条

刑法96条の4

⑧ 最高裁判所「執行官規則

⑨ 最高裁判所「執行官の手数料及び費用に関する規則」(令和8年7月1日現在)

2 裁判例

最高裁昭和41年9月22日第一小法廷判決・昭和39年(オ)第128号・民集20巻7号1367頁

最高裁平成9年7月15日第三小法廷判決・平成6年(オ)第548号・民集51巻6号2645頁

最高裁平成18年12月13日第三小法廷決定・平成17年(あ)第1153号・刑集60巻10号857頁

最高裁平成22年8月25日第一小法廷決定・平成22年(許)第2号・民集64巻5号1482頁

最高裁平成26年11月4日第三小法廷決定・平成26年(許)第15号

3 公的資料及び歴史資料

① 最高裁判所「執行官

② 最高裁判所「執行官採用選考試験案内」及び「執行官採用選考試験のお知らせ(令和8年7月版)

③ 第51回国会参議院法務委員会第26号(昭和41年6月21日)「執行官法案

④ 衆議院「執行官法(昭和41年法律第111号)

⑤ 法務省「民事執行手続等のデジタル化

4 文献

最高裁判所事務総局民事局監修『執行官提要・第五版』(法曹会,平成20年)1頁~25頁(PDF17頁~41頁),327頁(PDF343頁)及び475頁~491頁(PDF491頁~507頁)